サイドストーリー

エース(2nd Story)


ここ最近、アリーナを順調に上がってくるレイヴンがいる。

そのペースは常人から見れば「驚異的」な速さだろう。

私にとっては「常識的」な速さに過ぎないがな。

早く私のところに来い…そして、

お前がいかに弱いかを教えてやる…!



ドーム上の密室で繰り広げられる「競技」

それは、この荒廃した世界の住人の楽しみの一つ。

私はその「競技」の「参加者」だ。

そしてもうすぐやってくる新しい「参加者」…。

哀れな奴だ。

こいつもきっと、自分が強いと勘違いしているだけだ。

そう。

BBのように。

フン…どうせ戦い方もわからないただのカスなのだろう?



「…へぇ、あんたがあの最強と呼ばれたBBを倒した奴か?」

「最強?ハッ…あんなクズが?」

「まあそれはいいとして、さっさとおっぱじめようぜ。」

「…死にたいなら、早く始めろ。」

「はいはいそれじゃ、お言葉に甘えてッ!!」



奴はそう言うとACの右手武器から、光弾を発射した。

…当たるはずがない。こいつはバカか?

私はそれを上に跳んでかわした。

と同時に宙高く舞い上がり。チェインガンを構え、地上めがけて乱射した。

タタタタタタタタタタタタタタ…!

チュンチュンチュンチュンチュンチュン…!!

奴の動きは俊敏かつ冷静だ…。チェインガンの弾全てを

上下左右移動でかわしている。



「フフフフ…そうでなくては…!」



私の心臓は高鳴ってくる。

わかる。

自分でも。

はっきりと。

感じられる。

鼓動。

高鳴り。

興奮。

…狂気。



「ッハハハハハ…!もっとかわせ!私を楽しませてくれ!!」



チェインガンの乱射は止まらない。

相手がかわすたびに、弾が床に当たる音を聞くたびに湧き上がる、興奮。

それは次第に姿を変えていき、やがて狂い始める。

時折飛んでくる、エネルギーライフルの弾。

かわすたびに感じる、喜び。

時に当たり、そして伝わる振動。

それは、自分を発狂させるに十分だった。



「ふははははははははは!!いいぞ!いいぞ!!」



もはや「自我」など、どうでもよかった。

ダメージなど、何ともなかった。

自分が熱くなるたびに、「それ」は自分から離れていく。

崩れていく自分。

遠くなる自我。

それが、快感だった。




宙を舞い、チェインガンを乱射する姿を見て、

俺は恐怖せずにはいられなかった。



「何なんだよアイツは…!?怖いぞ、ホントに!」



上を見ながら相手を捕捉しつつ、乱射される弾をよける。

そして、スキあらばエネルギーライフルを撃ち込む。

冷静な判断と、集中力を常にフル回転させている。



「こりゃあ、精神力との勝負だな…!」



意外と弾は当たってくれる。だが今は

「当てる事」より「当たらない事」のほうが大事だ…!



「あ〜もう!!イヤになるなこりゃ!!」



いつまでこんな忙しい動作をしなけりゃならないんだ、クソッ!!




弾が切れた。

チェインガンのほとんどが、かわされた。

頭にきたりはしない。

むしろ、喜ばしい。

私と対等に渡り合えるのか?

…ありえない。

ただすべてかわしただけ。

それだけだ。

まだ、ショーは始まったばかり。

これからだ。

私は武器をグレネードに変えた。

宙で構え、狙いを定める。

その時、ビームが飛んできた。

私はかわせず、当たった。

たかが一発だ。問題はないだろう。

そう思ったときだった。

突然警告音が鳴り響く。

ピーッ!ピーッ!ピーッ!ピーッ!

…アーマー強度低下?危険状態!?

そんなバカな!

私はふとAP表示のモニターを見る。

「0863」

赤字で、そう書いてあるのが読み取れた。

焦る……はずがない。

むしろ、喜ばしい。

高鳴る心臓の鼓動を、また感じる…。

一種の快感。

震え上がる、自分。

湧き上がる、狂気。



「……ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」



私はグレネードを撃った。

何発も、何発も。

既に床には、敵がいないことも知らずに。




「…ありゃあ完全にイッちまってるな…。」



俺は既にエースの真下に移動している。

そこから見上げると、わけのわからない方向にグレネードを乱射しているヤツがいる。



「本当に何やってんだよ…あれじゃまるで…まるで、ただの狂ったバカじゃねえか…!!」



俺はブーストで空を飛び、後ろに回り込みながら相手との距離を近づける。

そして、密着した。

こいつは俺が後ろにいるとも知らずに、相変わらず乱射してやがる。

機体からは火花も散ってるし…。



「おいおい…こいつホントにアリーナトップかよ。」



呆れた声で、俺は呟く。

ま、別にそんな事どうでもいいけど。

…むしろ好都合だな。

俺は自分のACの左手から青白い光を出した。



「さっさと我に返れよ、このMOONLIGHTでよぉ!!」



左手を横に大きく、力強く、思い切り振った。

すると目の前のACは、爆発しながら床へ落ちていった。




気が付くと、私のACは倒れこんでいた。

モニターには、相手のACが立って私を見ている姿が映っている。

…負けた?

いや、そんなはずはない。

まだ戦いは始まったばかりで…。

ふと、数字が目に入った。

「0000」

赤字で、そう書いてあるのが読み取れた。

待て、この数字が示すものは何だ?

……まさか、本当に…?



「おーい?生きてるかー?」



どこからか、そんな声が届いた。

相手の声?



「俺の勝ちだよー…って、聞いてんのかー!?」



…嘘だ。

嘘だ。

嘘だ。

嘘だ!

嘘だ!!!



「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



断末魔のような叫びが、俺の耳に響いた。



「嘘だあぁぁぁぁ!!嘘なんだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「っつ…!痛えな、こりゃ……耳に…響く……うるせー!!」

「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「………!」




俺はコイツが何だか哀れな存在に思えた。

怒りも、呆れも通り越した感じだった。

…俺はコイツが何だか、人間の末路のようだ。

本当は、自分が一番力に溺れていた。

こいつは、それに気付かなかった。

他人を見下す事しか出来ない、もっとも弱い「イキモノ」。

人間の本性のカタマリ。

世界で一番弱い、もっとも人間らしい「イキモノ」。

それが、コイツのような気がした。



「私が、私が負けるはずないんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッハッハッハ…、  ヒャァーッハッハッハッハッハッハッハッハッハァ!!」

作者:アーヴァニックさん