サイドストーリー

Guardian 03-インスピレーション
とにかく、僕は以前の戦いの勘を取り戻すために、アリーナに参戦した。
登録時に受付で名前を聞かれたが、『アルテス』と名のるわけにはいかない。
もちろん、『ネーム:053』等と言えるわけでもない。そこで僕は適当に名前を言った。
「・・・ホルツです。ホルツ・・・ホルツ=グリームズです」
「ホルツ=グリームズ様ですね」
受付嬢は素早く手元の一覧表に書き込む。
「・・・あなたのレイヴンランクはBですのでBランクからアリーナに挑戦できます。早速対戦を申し込みますか?」
僕は少し試したいことがあったから、二日後に決めた。
「Bランクか・・・どうしたものか」
現在のアリーナは、リオを頂点にエグザイル、エース、テラからBランクで、ロイヤルミスト、BBだ。
Bランクにも一般に強いとされるレイヴンは何人かいるが、
最近はまったく戦闘をしておらず、なるべく下の方に名前を連ねているレイヴンを選択した。

「期待の新人!ホルツ=グリームズの入場です!」
アナウンサーがそう告げると、歓声が沸き起こった。このアナウンサーは新人が出ると決まってこのセリフを使う。
僕に期待するのは結構だが、あのアデューにこのセリフを言ったことは後悔しているに違いない。
「がんばれ新人!」
「勝てよルーキー!」
確かに声援とも取れる行動をしている人間もいる。
だが。
「殺せぇ!」
「金払って来てんだぞ!つまんなかったら許さねぇぞ!」
「おらおらとっとと始めねぇか!」
ヤジを飛ばす者の方が多いようだ。それもしょうがないだろう。
Bランクという中途半端なレベルのアリーナではいまいち盛り上がりがないのだ。
いや、盛り上がっていると言えば盛り上がっているのだが、その種類はまた別な物なのだ。
「対戦相手はベテランレイヴン・・・コルレットォ!」
そして新人の相手にも必ずこのセリフだ。まったくなぜあのアナウンサーを解雇しないのか不思議だ。
あのお方が全てを滅ぼしてくれれば良かったのだが。
突然、僕の対戦相手であるコルレットが通信を入れてきた。
「よお新人。お前そんなアセンで大丈夫かよ?TITAN二個なんてベクターぐらいのもんだぜ?」
確かに今日の僕のACの肩装備はTITAN二つだった。
おかげで重量過多にもなっているが、エクステンションにもステルスを付けているし、MOONLIGHTもある。
おまけにKARASAWAまで持った僕のACは、ほとんど動けないだろう。
基本パーツは今までの実働部隊の物のままで、武器をひたすら重くしたのだ。
機体名は『エーデルリッター』。
コルレットがため息を吐きながら言った。
「どこが期待の新人なんだか・・・安心しろ、俺もこの世界で長く飯を食ってる・・・殺しゃしねぇよ」
勝ったつもりでいる。
「どうぞお手柔らかに」
僕は愛想を振りまいた。
「ではレディ・・・」
アナウンサーが告げた。
殺し合いが幕を開ける。
「ゴー!」
コルレットのAC『アルルカン』が静かに前進する。会場は沸きに沸いているが、戦いの始まりは静かだ。やはりヤジの多さは変わらないが。
僕も前進させるが、ほとんど速度は出ていない。
「どうした?重くて動かんのだろう?」
仰せの通りだ。だが、攻撃することは可能だ。
「速さは強さではありませんよ」
適当に反論した。
TITANに武器を持ち替え、ロックできる距離まで近づいてくるのを待つ。
「行くぜ」
コルレットが一気に接近してきた。
大型ミサイルのロックは既に完了している。即座に撃つ。
巨大な水色のかかったミサイルが煙を吐き出しながらアルルカンに直進するが、
歴戦の猛者であるコルレットをTITANの弾速で捕らえることは不可能だった。
すぐに二発目を撃つが、巧みなブースト使いで避けられる。
アルルカンは中に浮き上がり、武器腕のマシンガンを連射してきた。
連続する発射音には圧倒されるが、なぜかあの武器腕がダブルロックオン不能なのは知っている。
ブースタを吹かし、ほとんど速度は出ないが、全弾直撃は防げた。
「どうしたどうした!」
コルレットは遊んでいるようにも見える。なめられたものだ。
まだ銃撃は続いているが、それを無視してカラサワに持ち替え、撃った。
コルレットは既に着地しており、少し横移動するだけでいとも簡単に避けた。
腕部重量過多のこの機体では、満足に攻撃を当てることもできない。
「アデュー以下かお前は?」
アデューだと?
まぁ、これではそう言われても当然か。
今度はコルレットが武器を持ち替え、レーザーキャノンを構えた。
四脚は接地しているかぎり、ほぼ自由にキャノンを撃つことができる。
僕はTITANを持ち直し、盾代わりにした。
アルルカンの砲撃が放たれる。
真っ黄色の直線的な波動の衝撃がTITANを突き抜けるが、ダメージはほとんど受けなかった。
そのせいでTITANは使い物にならなくなり、投棄したが。
しかし、ある程度の機動力は得られる。だが遅いことに変わりはない。
「さすがにこれでは厳しいですからね」
僕は軽くいうが、コルレットに返事はない。
「それで少しは楽になったつもりだろうが・・・まだトロすぎる」
微妙に怒りが込められていたが、僕はあえて無視した。
ブースタを吹かし、アルルカンに肉迫するが、またもやレーザーキャノンを発射される。
金色の光線が僕のACの横をかすめ、間一髪で避けることができた。そして上空に浮かび上がると、コルレットの頭上に移動する。
のろのろとした動作だったが、キャノンの次弾装填までにはある程度の時間を要する。
「上に行って何ができる!」
レーザーキャノンの弾が装填され、エーデルリッターに向けて砲口が輝きだしたが、遅かった。
レーザーキャノンの砲口は僕の落としたTITANによって半壊された。
僕の作戦は見事に成功した。
「何っ!」
大型ミサイルの重量でレーザーキャノンが暴発し、黄色いドームがACを包み込む。
コルレットは手痛いダメージを受けた。
「この野郎・・・」
素早くアルルカンは武器腕を構えるが、僕はもう一つ武器を落とした。
重量1520。この瞬間のコルレットの顔が見てみたいが、AC同士では不可能だ。
右腕武器最大の重量を誇るKARASAWAは、見事に敵ACの脚部を破壊した。
「くそっ!」
三つも武器を投棄したせいで、僕のACは一気に軽くなった。
初めからこのつもりでいたのだ。
とてつもなく重い武装を投棄することで、敵にダメージを与える。
これが意外と効くようで、あまりの重さに敵ACが硬直することも多々ある。
もちろんその破壊力はお墨付きである。
「成功して良かったですよ」
僕はほくそ笑む。
「・・・賢しいな、新人・・・」
コルレットは一杯食わされた、という感じだ。
「アリーナでは新人ですがレイヴンとしてはあなたの方が新人だと思いますよ」
おそらくそうだろう。5年もレイヴンを続けるというのは結構な腕前でないと無理なのだ。
「何だと?」
「集中しないと死にますよ」
挑発も混ぜて忠告した。
「生意気だな!」
見事に挑発に乗ったようだ。所詮この程度か。
先程とは正反対にアルルカンのスピードが落ち、エーデルリッターのスピードが上がった。
残りの武器は、月光のみ。しかし、それでも十分すぎる程だ。
「まだ戦いは終わってねぇぞ!」
コルレットは諦めない。辺り構わず武器腕を乱射してくる。
もちろんそんな攻撃は当たらない。
中量級にしては相当の速度で、エーデルリッターは移動する。だが、コルレットはこれで終わる程甘くない。
僕はアルルカンを中心とした円を描くように移動し、だんだんとその直径を短くしていった。
もちろんそれでは単調すぎるので、不規則に移動方向を変えたりもした。
僕はある感覚に襲われた。
降り注ぐ鋼鉄の雨をくぐり抜け、隙を見つけて斬りつける。自分以外の全てが遅い。
何もかもが見える。何も聞こえない。
わかる。『何処に何がある』のか。
わかる。『これから何が起こる』のか。
小さな鉄の弾が無数に飛来してくる。慣れた動作で全て回避する。
これが僕だ。
何も、誰も僕に触れることはできない。
もうすぐ、行けるのだ。
あの『領域』へ。
あのお方のいる、領域へ。
僕は我に返った。ふとアルルカンの耐久力を見てみると、残りAPは1033。使える武器は武器腕とレーザーキャノンのみ。勝てる。
僕がだいぶ近づいてきた頃に、アルルカンが武器を持ち替えた。
何を今頃。その隙に叩き斬ってやる。
だが、今アルルカンの持っている武器は全く別の物だった。僕は目を見張った。
KARASAWA。
いつの間にかレーザーキャノンを二つとも投棄しており、武器腕でKARASAWAを器用に持ち、足でKARASAWAの引き金を引いた。
多少の無理があるが、様子からすると問題はないようだ。
そして銃口が青い光弾を放とうとする。エーデルリッターに向かって。
「これで終わりだ!」
コルレットが勝ち名乗りを上げた。
この距離では命中精度も何もない。
レーザーライフルの銃口が輝く。青い光球が大気を貫き、僕に直進する。
絶望的な状況。この瞬間がスローに映る。
KARASAWAならばそれ一本でも戦闘に勝つことが簡単にできる。ここで怯めば相手を調子づかせることになる。当たるわけにはいかない。
ロック式火器にのみある弱点。
今の僕なら可能だ。
すでに僕はある行動を開始していた。
勝利を確信していたコルレットはモニタを見て驚愕した。
そこには、何もいなかった。
エーデルリッターがいた場所は、ただ青い光が空しく通過して行く。そして、レーダーにも何も映っていない。
「さすがにBランクですね」
僕はそう告げ、月光でKARASAWAとコルレットの両腕とキャノンを一瞬のうちに切断し、コルレットのコアに月光を突きつけた。
「・・・なぜ外れた?・・・お前は手品師か?」
コルレットは自分が負けたことにも気づかず、ただ混乱する。
「・・・簡単です。銃弾が発射される前にステルスを起動させました。おかげでロックが外れましたよ」
そんなことにも気づかないのか?
弾が発射されるまでにロックが外れてはロックは無効になるに決まっている。ここで『ロケット撃ち』をしていれば問題なかったのに、だ。
判断力も技術も実力も精神力も何も、ただの欲しか持っていないこの種の生物にロクな奴はいない。
あのお方に変わって、討つべきか。
「負けた。新人に。この俺が・・・」
この俺?どの『俺』なんだか。まぁいい。死ぬがいい。
「なぜだ?俺がミスをしたか?一体・・・な、何を」
月光をコアに突き刺し、正確にコクピットを貫いた。
「・・・すみません」
僕は言った。
バカが。ミスだと?貴様の存在自体がミスだ。
「手元が狂いましたよ」

今回の戦略は見事に成功した。
リオ戦でこれが有効かどうかはわからないが、少なくとも戦法の一環に取り入れることは確かだろう。
コルレットは全く参考にならなかった。どうせならAランクと無理矢理戦っておく方が良かったようだ。
そして、僕は既にもう一つの作戦を実行に移しつつある。
実働部隊時代に学んだAC学が今頃になって役に立とうとは。
ACパーツの『改造』。
一つは完成している。
もう一つが完成すれば、リオに挑むとしよう。
OP−INTENSIFYの効果は消えども、長い間戦闘ミッションを避けていたために衰えていた能力が、戻った。
全てを取り戻した。
あのお方以外を。
作者:Mailトンさん