エース(3rd Story)
…ここは何処だ?
少し狭い部屋。
白塗りの壁。
壁の半分を占める大きな窓。
白塗りのカーテン。
私が寝ていた、白いベッド。
私が身にまとっている白衣。
…病院、か。
体のあちこちが包帯で巻かれている。
怪我でもしたのだろう。
……?
「だろう」?
今、自分で「だろう」と言った…?
私が…?
何故だ?
…痛み?
感じられない。
…苦しみ?
感じられない。
私は左腕に巻かれた包帯をゆっくりと、
おそるおそるほどいていった。
肌が見えた。
外傷の跡など、見当たらなかった。
…何故だ?
いや待て、何故私は病院にいるのだ?
何故こんな基本的なことがわからないだ?
思い出せない…。
思い出せない…。
すると入口の扉が開き、
白衣を着た男が入ってきた。
「お目覚めはいかがかね?」
中年のような、少し濁った声だった。
左腕を見ていた私は、顔を上げてその白衣を着た男を見た。
肌は少し日に焼けていて、茶色かった。
少しシワが目立つ顔。
大体30〜40歳ぐらいだろう。
白衣の男はこちらに近づいてきた
私は、真っ先に聞いた。
「…この体中の包帯は何だ?」
すると白衣の男は下を向いて少し考えると、
ゆっくりと口を開いた。
「…あなたはアリーナで大怪我を負ったんだよ。」
私はこの答えに、包帯をほどいた左腕を
白衣の男に向けて喋った。
「じゃあコレは何だ!?傷など何処にもないじゃないか!!?」
すると白衣の男は黙り込んだ。
私の怒りは、爆発した。
「何故何も言わないッ!!?」
すると、黙り込んでいた白衣の男は
不敵な笑みを浮かべてこちらを見てきた。
「…ククククク、わかっていれば話は早い…。」
私の怒りは、一気に引いていった。
それと同時に、恐怖が来た。
「な…何故笑う?」
声が震えていた。
男の笑いは止まらない。
「フフフフ…説明する手間が省けたというものだ…!」
「…?」
私には、この男が言っている事が理解できなかった。
男の奇妙な笑みは、次第に大きくなっていく。
「ッハハハハ…!お前は何もわかっていないんだな、フハハハ!!」
何だ?
この男、何を言っている?
何も…わかっていないだと?
何だというのだ…?
その時、男は語り始めた。
「クククク…お前は自分の体の事を知っているか?」
「…?何を言っている?」
「その様子じゃ、何も知らないのか…フハハハ…!!」
「…何言ってやがる…!
何か言いたい事があるのなら、さっさと言え!!」
すると男は、自分の頭に左手の指を置きながら言った。
「お前のココに…何があるか知っているか?」
「………?」
「…クックックック…ハーッハッハッハッハ!!」
「!?何がおかしい!!」
「ハハハ…愉快なヤツだ、本当に何も知らないんだな!」
すると男は私の額に左手の指を置きながら言った。
「なぁ…『強化人間チップ』って、知ってるか?」
「…?」
「最高の力が手に入るシロモノなんだけどよぉ…。」
「…何を言っている?」
「もうわかってんだろ?」
「…まさか…!!」
「そのまさかだよ!!!」
男は右手に持っていたナイフのような物を、
私の頭めがけて振り下ろした。
ドシャア!
私の頭に激痛が走る。
男はまた私を切りつける。
物凄い力で。
ズシャ!
ドシャア!
男の白衣は赤黒くなっていた。
壁には、無数の血しぶきが飛び散る。
私は薄れゆく意識の中、男の顔を見た。
男の顔は、笑っていた。
耳からかすかに、男の笑い声が聞こえた。
「けひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
白衣には、もはや白いところなどなかった。
顔は返り血で真っ赤になっていた。
無数の血しぶきが、壁を鮮やかに染めていた。
ベットは、まるで元々赤かったかのよう。
それに横たわっている、人間とは思えない『モノ』。
既に頭などは残っておらず、脳、皮膚、目玉が
あちこちに床に飛び散っていた。
私は右手のナイフを『モノ』の腹に思い切り突き刺した。
…ザクッ!
心地よい音がした。
私は『モノ』の脳に当たる部分に手を突っ込んだ。
クチャ、クチャという音が、
静寂に包まれたこの部屋を満たす。
…見つけた。
私は脳の中に何か硬い物があることを
感じ取ると、それをつかんで
一気に引き上げた。
「見つけた…ついに手に入れたぞ!」
私は喜びを押さえきれなかった。
テトラブロックのような形をした、灰色のチップ。
私はそれをまじまじと見ながら叫んだ。
「ハーーッハッハッハッハ!ついに手に入れたぞ!!
これで…これで最強だ!!
これが…これが伝説の…!」
私は『モノ』に少し目をやると、自然と笑みが出た。
「ありがとう、哀れなレイヴン。
こんな私に世界最強の物をくれるなんて…
感謝してもしきれないよ…ハハハハ!!」
こいつを私の廃病院まで連れてきて良かった。
アリーナでの対戦の直後、私は発狂したコイツを
医者と偽ってここまで運んだ…。
簡単に引っかかる奴らだ。
包帯で巻いてやるだけで、コイツを
重体患者と思いやがるんだからな!
ッハハハハ…!
突然、ドアが開いた。
…役員の奴らだ。
私が偽者だと気付かれたか…!!
フフフ…銃口をこちらに向けるな…。
…さて、早速出番がきたようだな。
私は『モノ』に刺さっていたナイフを持ち、
自分の額めがけて、刺した。
役員達は、驚きを隠せないようだ。
私は額に開いた『穴』からチップを差し込んだ。
傷は瞬く間に修復され、体中に力がみなぎった。
フフフ…そうだ、そうだ、そうだ!!
コイツを試す為、まずはこのクソ役員達で試そう。
さあ、出番だ!
その力、存分に楽しもうではないか!
禁断の、INTENSIFYよ…!
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作者:アーヴァニックさん
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