サイドストーリー

哀しみの序曲:前編
今は閉鎖され水没していると言われる地区に 一つの大きな家があった。
その家に住んでいた物静かな少年は 後にレイヴンになっていた。

「ファナレ」と言う名を名乗り…


「坊っちゃん 食事の時間でございます」
年を重ねた執事らしき人物の声がまだ肌寒い 朝の家の中で響いた。
「彼」はとある男爵の末弟として産まれた。
兄は二人居たが既に長兄は他界し、次兄は一人で旅立ち音信不通らしい。
「今 行きます」
静かにそう言い 長い階段を下りていった。

「本日のご朝食はトーストの……」
「彼」の耳には言葉は届いていなかった。
「彼」は15歳の誕生日より 旅に出たらしい次兄の消息が気になりだしたのだ。
「彼」の次兄は ACと言う起動兵器にのって仕事をこなす
「レイヴン」であることしか知らされていなかった。

――僕も「レイヴン」になれば 兄さんのことが分かるかもしれない。

「彼」の心の中で 静かにだが確実に決心は固まっていった。
「坊っちゃん どうなされました? あまりご気分が優れておりませんので?」
執事の声に 一瞬「彼」は驚いたが
「いや 少し寝ぼけていただけです」
と、何事もなかったように朝食を摂り始めた。

――この人にだけは言っておいた方がよいだろうか…。

「あのッ」
「どうなされました?」
急に言葉をかけられて 執事は少し戸惑っているようだった。
「いや… なんでもないです」

――やはり言うことができなかった。

止められるのが怖い そんなことを心の底に「彼」は感じていた。


その晩 「彼」は決心した。

――明日 試験を受けに行こう。そう レイヴンになるんだ。

そして「彼」は自分の名を隠すとともに
次兄へのメッセージと言う形で長兄の名前「ファナレ」をレイヴンネームとして名乗りだすのだった。
作者:ジェットさん