サイドストーリー

Guardian 06-再始動
「ここよ」
盗難車を止めた場所は、貧相なビルの前だった。
「ここというのは・・・この古いビルですか?」
かなり古い。
一応『レイフウッド不動産』と書かれた看板が設置してあるが、それには堂々と『臨時休業中』と書かれた張り紙がしてある。
「そうよ。と言っても入り口でしかないけどね」
ローズはポケットから鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。それを半回転させ、錠を外した。
「入って」
ローズが先を促す。
店としてはふさわしくない頑丈な鉄製の扉を押し開ける。それは見た目以上に重く、ここに来る客は余計にいなくなるだろう。
例え臨時休業と書かれて無くとも、だ。
扉を開けると、接客用のソファや木製の机が置いてある。
本棚も幾つかあり、そこにはファイルがぎっしりと詰め込まれていた。その中の一冊を手に取ってみると、軽かった。
何も入っていない。他の物も全てそうだろう。
やはりこれはただのカモフラージュで、不動産などしていない。永久に臨時休業ということだ。
これらの家具は窓から覗かれたときのためだろう。
もちろん一度も使ってないため、埃が溜まっているだけでシミやほつれは全くない。
「で、どこが入り口になってるんですか?」
「もちろん秘密の地下室よ」
ローズが先に立って進み、木製机の引き出しを開けた。何も入っていない。
「あれ?・・・ウソ・・・ない!どーして!?」
ローズの顔が蒼白になる。
「何がないのですか!?」
何か盗まれたとでもいうのか?
「・・・なーんちゃって。そんなバレバレな場所に大事な物を隠すわけないでしょお?」
女は焦っている僕の顔を見て笑いながら言った。
「・・・いい加減にしてください」
「そう怒らないでよ。本物はこっち」
ローズはその机の引き出しを引き抜き、裏返して見せた。薄いステンレスのようなプレートが一つ付いていた。
「これを・・・ポチッとね」
女がプレートに触れ、そこがわずかに凹んだ。
すると、機械の作動音がした。
本棚からだった。それがゆっくりと横に回転しだし、人一人分通れる程の隙間を空けた。漫画などによくある仕掛けのようだ。
「どう?ロマンチックでしょ」
どこがどうロマンチックなのかはわからないが、素人目にはまずわからない。
その前にH・Dという組織を知っている者はいるのかが疑問だが。
この組織に何か大きな業績はあるのだろうか。
「入るわよ」
ローズはつかつかと歩む。そしてひらりと本棚の奥に入った。
「早く来なさい」
「わかりましたよ」
僕も少し窮屈だがその隙間に何とか入ると、目の前にエレベータがあった。ローズは既にその中に入っている。
ここは灯りもなく、エレベータまでの一直線になった通路しかない。
「ここから降りるわ」
僕もエレベータの中に入る。
ローズがボタンを押した。すると、先程開いた本棚がまた回転し、隙間を閉じた。
漏れていた灯りが無くなると、ローズは緑色に不気味に光っている『閉』と書かれたボタンを押した。
エレベータの扉が閉まり、その中に照明がついた。
女が口を開いた
「さて。目的地に着くまで意外と時間がかかるからちょっとした説明をしないとね」
「ちょっと待ってください。その前に聞きたいことがあります」
ローズが怪訝そうな顔をする。
「何?」
「・・・今思い出したのですが、僕が牢獄にいたとき・・・なぜあなたは強化人間でいることができたのですか?
元管理者部隊であるならば強化チップの機能は停止しているはずです」
強化人間。
そう。あのときは気にもとめなかったが。
「ああ、それね。あれは簡単に復旧させることができるわ。元管理者部隊であのお方にチップを停止させられていたとしてもね」
「・・・あれを再起動させるのはそんなに簡単なものなのですか?」
「ええ」
言われてみればそんな気もしないでもない。
停止したのなら取り替えればすむものだし、何よりもあのお方の電波で停止させたのだ。
こっちからも似たような電波を流せばまた起動させることはできるのではないか。
なぜそんな簡単なことに気づかなかったのだろう?
「・・・質問終わり?」
ローズが聞いてきた。
「終わりです」
「じゃ、組織の説明に入るわよ・・・オホン」
女は偉そうに咳をした。
「ハンプティ・ダンプティっていうのは童話『不思議の国のアリス』に登場したタマゴの名前よ。
別名『神の卵』。その卵っていうのは私たちの神様のことよ」
やはり何か宗教の団体であるらしい。
「私たちはそれを『孵らせる』ためのしもべ。私たちはその神様・・・ナズグル様のために戦い、死ぬ。
そして神の卵が孵るとき、世界はナズグル様のものになる。ミラージュも、クレストも、キサラギも。
そしてユニオンも。全て消え去り、新たなる王ナズグル様が世界に降臨する」
その手伝いをしろとでも?
「私たちはナズグル様の手となり足となり働くの。でも、あなたにとっては嫌でしょう?あのお方以外のものに仕えるなんて。
でもね。ナズグル様っていうのは誰のことだと思う?」
「あのお方・・・ですか?」
「そう、あのお方。正確には神の卵が孵ってからでなく孵らせる前に三大企業を滅ぼすんだけどね。私たちが」
そのために人員を集めていたわけか。
確かにあの三大企業全てを一つの組織だけで滅ぼすなど、並大抵の人数ではできることではない。人員不足というのはそのためか。
しかし・・・孵らせるだと?
「孵るというのはどういう意味ですか?」
僕は聞いた。
あのお方はもう孵ってしまったではないか。そして・・・多くのゴミを掃除し・・・あいつに殺されたのだ。
「・・・孵るって言うのは以前のように戦闘形態に移行するってわけじゃなくて単純にこの世界に再び現れるって意味よ。
もう一つの名前が神の卵だから『孵る』っていう言葉を使うんだけど」
ローズは涼しい顔で告げる。
「なるほど。すみません話の途中で。続けてください」
しかし、どうしても疑惑が晴れない。
あのお方は僕らに別れを告げたのだ。生きているはずがないのだ。
「・・・何で生きてるかって言いたげな顔ね」
ローズがため息を吐く。
「まだ実物は見せてないけど、とりあえず言っておくわ。あのお方は偉大よ?
管理者はたったの一つしかないと思って?当然バックアップが存在するの。そして、我々はそれを見つけた」
「生きているのなら、なぜあのお方は僕らに別れを告げたのですか?」
「あのお方に自分を信じていない部下は不要。次第に管理者に反感を抱く者達が増えてきたから、慎重に事を運ばなければならない。
あれは試験だった。本当にあのお方を信じている者達が必要なのよ。
そしてその試験をくぐり抜けてきた者だけが、再びあのお方に再会することができる。
もちろんあなたは知らなかったでしょうけど・・・まぁそれはいいとして。とにかく私とあなたは試験に合格すべき者よ。
どんな手を使ってでもあのお方の下へ辿り着く。でしょ?」
「・・・でも、それであのお方は僕たちを認めてくれるのでしょうか?」
「大丈夫よ。ただ信じる心があればいいんだから」
そんなものなのか?
「・・・で、今度は組織の活動についてなんだけど。いいかしら?
・・・まず、表面的なことは今のところほとんどやってないわ。ただ、内では組織の勢力を広げるためにいろいろとやってる。
違法はもちろん、強化人間は必須。あなたも組織に入ったし、それに戦闘員の可能性は相当高いから絶対付けてね。
あ、あなたは昔強化人間だったわね。だとしたらさっき言った通りこっちの装置でパルス信号送るから手術はしなくてもいいわ。
とにかく、あなたは即戦力なんだから。がんばってね」
ローズが僕の背中を叩いた。
「・・・ところであなたは何をしてるんですか?聖銃騎士とか言ってましたが・・・」
「その名の通りこっちで作った違法武器を装備した騎士団よ。団長の私はもちろん戦闘員。なかなか権力あるわよ」
「戦闘員は全員聖銃騎士と呼ばれるのですか?」
「う〜ん・・・まぁ、そういえばそうね」
そうか。これでだいたいの組織の内容とあのお方についてがわかった。
階を示していたデジタル数字が、『15』と表示された。おそらく地下15階だ。
「着いたわ」
エレベータの扉が開く。割と狭い部屋で中は明るく、部屋の中央に小さな柱があった。
「ようこそ。ハンプティ・ダンプティへ」
ローズが笑みを浮かべた。

「この柱が・・・あのお方?」
「もちろん」
まさか。生きていたとは。
「あの・・・」
柱に話しかけようとした僕の言葉をローズが遮った。
「まだ話しかけても無駄よ。あなたのチップはまだH・D式にアップデートされてないから。
そしたらナズグル様は応答してくれるわ。まずは起動させないとね」
ローズは傍にあった機械に手を乗せ、横のスイッチを押した。するとローズの掌の辺りに緑色の光が発生し、ローズの掌を照らした。
これは指紋をロードするタイプのセキュリティ装置だろう。
しばらくしてブザー音がし、機械の下の穴から一つのヘッドホンのような物が出てきた。
「これ着けて」
言われるがままにそれを僕は着けた。
「ちょっと変な感じがするけど気にしないでね」
ローズが機械の横に設置してあるレバーを下ろした。すると、ヘッドホンの奥から高い音が聞こえてきた。
「これは・・・?」
「・・・強化人間っていうのは『意思』を信号化させてAC側にある強化オプショナルに送るのは知ってるわよね。
それの応用よ。あなたのチップはまだ生きてるから、こっちのパルス信号で起動させるわ。そして、H・D式に書き換えてと・・」
ローズはキーボードに何か打ち込んでいる。
強化チップというのは、まずパイロットに埋め込み、それと対応したものをそのレイヴンのACにも埋め込む。
AC側のものはオプショナルパーツとして分類されるが、その機能は恐ろしいものだ。
まず、レイヴンの意思を脳内に埋め込まれた強化チップが読みとり、それをAC側の強化OPに伝える。
すると、そのレイヴンとそのACが同化する。
つまり、レイヴンの意識がACに移り、レバーやボタンなど一切使わずACを思いのままに操ることができるのだ。
例えば背後の敵を感知するとする。普通であればACを旋回させて攻撃、もしくは回避する。
そこまでの一連の動作は全てコクピットの中でやらなければならない。
だが、強化人間はACと一体化するため、自分の脚を動かそうとすれば、勝手にACの脚が動く。
なぜなら、戦っているのは自分なのだ。振り向くだけでACが振り向く。進もうとすれば自動的にブースタが発動する。
痛覚までは共有しないが、これではAC操作技術など必要ない。
そうくればレイヴン試験なども必要なく、レイヴン全員に強化チップを支給すればいいと考える人間も多数いる。
だが、こんなチップをそう簡単に何個も作れるはずがなく、何よりも危険すぎる。
手違いで不良品を埋め込んでしまったバカがいたそうだが、そいつは戦闘中の衝撃で意識不明と化し、いまだに昏睡状態らしい。
そして、OP−INTENSFYの効果はそれだけではない。
人間側の筋力や五感を限界まで向上させ、驚くべき強靭な力を手に入れることができる。
そして、それには外傷修復機能促進効果なども付加されている。
ちなみに外見だけでは普通人と全く違わないが、ある簡単な機器で強化人間と判断することができる。
それは、体温計だ。
同じ体型でも強化人間と普通人の身体能力は全然違う。
その場合、同じ大きさの筋肉でもその力はだいぶ違うのだ。
つまり、そのぶん体温を常に高めを保持しなければならない。
常人の平温は35〜37℃だが、強化人間に至っては45℃を超える。
そのおかげで普通でない力を発揮できるのだ。
そして強化オプショナルの恩恵は、AC側に現れる。ブースタの長時間使用やブレードレンジ強化などだ。
「よし、オッケー」
ローズの指先がEnterキーを叩く。
「!」
何かが僕の鼓膜に突き刺さったような気がした。
頭の奥が痛む。
そして、目の前が真っ白になる。意識が遠のく。
思わず後ろに倒れそうになった僕は、いつの間にかそこにいたローズに受け止められた。
「・・・気分はどう?」
視界がはっきりして、あの感覚が戻った。
振り向かなくても背後に何があるのかわかる。物体の位置が正確に。熱反応で後ろにいる人物がローズだということも。
体中に力がみなぎる。
あのお方によって一度は消失させられた力。
OP−INTENSFYが。
ローズもこの装置で強化チップを甦らせたのだろう。
「これであのお方にも話しかけることができるわ」
ヘッドホンを外し、自分の掌をしげしげと眺めていた僕にローズが話しかけてきた。
「じゃ、コンタクトしてみる?」
僕はすぐにうなずく。
「・・・ナズグル様。元管理者AC部隊第一総隊長、アルテスです」
ローズが柱に話しかける。
「・・・ネーム:053、元管理者部隊ヲ確認。入隊ヲ許可スル」
柱のスピーカーが淡々と告げる。
ああ。ああ!
僕の心は歓喜で一杯です!
我が君主よ!
僕はあなたの手となり足となります!
そして、あの誓約通りあなたのために生きます!

僕の後ろにいた女が目を細め、唇が綺麗な曲線を象っていた。
謎めいた表情だった。
笑顔・・・なのかもしれないが。
それは甘く、凍てついていた。






下記は感想です。

「ふう。管理者生き返っちゃった。これじゃコアさんとかのと一緒じゃん・・・と思ったそこのあなた!
これは実は『ピーガガガガガブーブーブーピィィィィン(←ノイズ音)』なのです!
乞うご期待あれ!
↑バカ?」

長い間休んでました。
では。
作者:Mailトンさん