サイドストーリー

再挑戦
俺は行き付けのバーで酒を飲んでいた。
今日は普段飲んでいるものより強いものを頼んだ。
「くそっ・・・!」
酒を一気に飲み干し、グラスを「カンッ!」とテーブルに叩き付ける。
今日の俺は荒れていた・・・。原因はわかっていた。
先日行われたアリーナ・・。そこで俺は初めての敗北を喫した。
悔しかった・・・・。それまでの俺の自信とプライドは粉々に砕かれ、
同時に、自分が井の中の蛙であることを身をもって思い知らされた。

カランカラン・・・。
誰かが店内に入ってきた。俺はふと目を向ける。女が立っていた。
さらに全身からはその女性が持つプライドや品格がまじまじと見えた。
「お隣り、よろしいですか?」
と、その女性が尋ねてきた。俺は席を勧めた。
「・・・あなた、レイヴンでしょう?」
飲み物を注文し終えた女性は俺に、そう話し掛けてきた。
俺は目を見開いて
「どうしてわかる?」
と、思わず訊いてしまった。その女性は微笑を浮かべ、
「コーテックスのアリーナデータバンクに、あなたのビジュアルデータがあったもの。」
と、言った。
コーテックスは、正式には「グローバル・コーテックス」と言い、
俺のようなレイヴンたちの仲介人的な役割を果たす企業だ。
そんなところのデータバンクを覗けるのは、コーテックスでも一部の人間、
もしくは俺たちレイヴンだけだと聞いている。
「あんたも、レイヴンなのか?」
そう聞くと
「ええ、そうです。」
と、また微笑を浮かべた。
レイヴンで女性と言うのは案外珍しくはない。
先日俺がアリーナで敗北を喫した相手も女だった。
そう、たしかワルキューレと名乗っていたはずだ。

「そうそう、あなたの先日のアリーナの情報も見たわ。」
その女性は不意に、俺のアリーナのことを切りだしてきた。
「ワルキューレ、彼女は弾速の速いスナイパーライフルを使うの。
あんな動きでは、彼女にとってはいい的でしょうね。」
「・・・・・。」
痛いところを突いてくるぜ、この人。
俺はそう思いながらその女性の話を聞いていた。
「そもそも、あなたの機体は軽量級。ならもっと速さを追求すべきだわ。」
もっともな意見だ。確かに俺は、軽量級ACに乗りながらも
その性能をいまひとつ使いこなせていない。
「・・・・確かに、そうだな。」
言っていることは全て的確だ。そのためか、素直に納得してしまう。
女性は微笑し、
「そう、では今度の戦いでは、期待してもよろしいわね。」
そう言って、その女性は席を立った。
期待?何を期待するんだ?
俺はしばらく考え、そしてひとつの結論に達した。
「まさか、あんた・・・・!?」
そのときには、もう先程の女性はいなかった。

アリーナの再挑戦の日が訪れた。
相手はもちろん、以前俺が惨敗した、ワルキューレ。
と、そこにワルキューレから通信が入る。
「ふふ・・・お久しぶりです、また会えて嬉しいわ。」
と、そこには、先日バーで出会ったあの女性がいた。
彼女こそワルキューレだったのである。俺は苦笑し、
「やっぱりな、どうもそうじゃないかと思ってたぜ。」
と、応える。
「今日こそ、私を超えてくださるわね?」
と、ワルキューレが問いかける。俺は
「もちろん。あんたに塩を送られたんだ、負けるわけにはいかないぜ。」
と、自信に満ちた顔で返答すると、彼女は笑った。
満面の笑みを浮かべて。
アナウンスが流れる。
「アリーナへようこそ―」
今度は負けはしない。彼女を超えてみせる。
メインシステムが起動し、戦闘モードに移行する。
「来い!!」
俺の再挑戦が始まった。
作者:テリーさん