サイドストーリー

真の力 偽の力 〜第一章 混沌編〜


「あなたって、太陽みたいな人なのね。」

2ヶ月前、女が出来た。
名前はレナといって、まだ「女性」ではない、強気な19歳の「少女」だった。
彼女に2度言われたこの言葉は、今でも忘れない。
絶対に、忘れない…。

ある休日の事。
いつものように、第2居住区の公園で散歩をしていた。
クレストのお堅い連中とずっと一緒にいると、ストレスがたまる。
そんな時はアパートから、いつもここへ煙草とライター片手に来る。
いつものようにベンチに座り、足を組む。
いつものように煙草を口にくわえ、先端に火をつける。
いつものように大きく吸って、煙草を手で口から離し、
大きなため息をつくように、煙を思いっきり吐く。
いつものように、意味もなく辺りを見回す。
いつものように何やら独り言を言う人。
いつものようにみすぼらしいカッコをして、ベンチで寝ている人。
いつものように泣いている老人。
……全てが「いつも」だった。
何の変哲もない、生きている気のしない毎日。
ストレスは解消されるが、生きる気はしなかった。
かといって死ぬのも面倒だ。
いつものように、同じ事を考える。
……………ん?
あれは……誰だ?
いつものように、そこにはいない「少女」。
いつものように私は、ボーっとしていなかった。
その青髪の美しい「少女」に、ただ目を奪われるだけだった。
私は立ち上がり、その「少女」に歩み寄った。
せめて名前だけでも知りたい…。
それが、レナとの出会いだった。

ある休日の事。
いつものように、第2居住区の公園で落ち合う約束をした。
いつものようにベンチに座り、足を組む。
いつものように煙草は…あの日以来、吸っていない。
レナは、煙草の煙が嫌だと言っていた。
…あの日レナは、泣いていた。

私はレナに、泣いている理由を聞いた。
レナは泣きながら、嗚咽まじりに、恋人に冷たく突き放されたと言っていた。
大きく綺麗な瞳から、大きく綺麗な涙をこぼしていた。
私はそのレナを、そっと抱きしめてやった。
そして、そんなに人生つらい事ばかりじゃないぞと言ってやった。
レナは、あなたに何ができる、何がわかると激しく言っていた。
そんなレナに、私は言ってやった。
「僕には、君を幸せにする自信があるよ。」
レナは顔を真っ赤にして、涙目で私を見た。
私は、抱きしめる力を強くした。
レナは、私の胸でまた涙を流した。
きっとそれは、初めに流していた涙とは意味の違うものだろう。

……ふと気付くと、目の前に走って来る人が見えた。
美しい青髪をなびかせて、片手を上げて走って来る「少女」。
…レナが、来たようだ。

ある休日の事。
「あなたって、太陽みたいな人なのね。」
その日、レストランでレナにそう言われた。
「…?」
私はフォークにくるみ、口に運ぼうとしたその手を止めてしまった。
「それはどういう意味だい…?」
私はあまりに唐突な出来事だったので、驚き半分で問いかけた。
するとレナは、微笑みながらこう言った。
「明るくて、暖かくって…いつもいないとダメな存在って意味なの。」
「…!!」
私はフォークを落としそうになった。
私はその場でレナを抱きしめたくなった。
この子はなんてかわいいのだろう。
この子はMTに乗っているだけの私に、何かをくれる。
こんな私に、きっと生きている実感を教えてくれる。
私は、この子の為なら何でもできる。
たとえそれが、莫大な資金がかかる物だとしても。
私は尽くせる、彼女の為に。
尽くしてみせる、彼女の為だけに。
私は、彼女の奴隷にもなれるだろう。
愛しているよ、レナ…。

ある休日の事。
いつものように、レナを買い物に誘う。
レナは高級な鞄が好きだ。
レナは別に、ねだったりはしない。
ただ、ショウケースの前で目を輝かせているだけ。
そんなレナに、私はいつも思う。
強気な女なのに、こいつはねだらない。
本当は、中身は純粋な、ただの「女の子」なのではないか?
私は迷わず、レナに「物」を買ってやる。
レナは満面の笑顔で、私に「ありがとう」と言ってくれる。
私は、この笑顔がたまらなく好きだった。
強気な彼女が滅多に見せない笑顔だった。
全ての人を魅了する笑顔だった。
とても嬉しそうな笑顔だった。
本当に、可愛かった。

ある休日の事。
私は、近所の銀行へ金を下ろしに行った。
…お金が、底をつき始めた。
レナの為に、少し浪費しすぎたようだ。
でも私は、サラ金に手を染めてまでレナに「物」を与えた。
レナの笑顔は、私の忘れかけていた青春を思い出させてくれた。
レナの笑顔は、何物にも変えられなかった。
レナの笑顔は、全てを忘れさせてくれた。
レナの笑顔は、全てを思い出させてくれた。
レナの笑顔は、私の全てだった。
そして私は今日も、レナの笑顔を見に行くのだった。

ある休日の事。
いつものように、レナを買い物に誘う。
レナは高級な鞄が好きだ。
レナは別に、ねだったりはしない。
ただ、ショウケースの前で目を輝かせているだけ。
…しかし私は、もうそんなお金などなかった。
財布の中身は、文字通り「スッカラカン」。
私はショウケースを見ているレナに、渋々言った。
「…ごめん、今日は帰ろう。」
するとレナは、私の方を見てこう言った。
「…ダメ、かなぁ?」
その反応に私は、冗談混じりでこう言った。
「ダ〜メッ。」
するとレナは怒り出して、さっそうと店を出て行ってしまった。
私は慌てて後を追った。
ガラスの観音開きのしゃれたドアを開けて、すぐさまあたりを見渡した。
レナは既に、ショッピング街の人ゴミに紛れて、その姿を消していた。
私は、ただ立ちすくすだけだった。
「何だってんだ、いったい……?」
これが「オンナゴコロ」というものだろうか?
私には理解できない。
私には受け入れられない。
私には意味がわからない。
何だというんだ、いったい…?

ある休日の事。
いつものように、レナに電話をかける。
…出ない。
一度切って、もう一度かけてみる。
…出ない。
一度切って、電話番号を確認しながらかけてみる。
…出ない。
番号は間違っていない。
間違っているはずがない。
なのに…何だというんだ?
どういうことなのだ?
何があったというんだ?

ある休日の事。
私は会社を無理矢理休んだ。
そして、レナを探し出した。
あらゆる情報網を駆使して。
そのためだけに、半日かけた。
そのためだけ…いや、今の私にとっては、それが全てだった。
日は沈み、マンションの窓からは薄暗くなった外が見える。
私はしばらくソファーで目をつむった。
そして、大きなため息をつく。
「……ふぅー…。」
顔を両手で覆い、そして顔を洗うような動作をする。
そして、ズッと一気に立ち上がった。
「よし…行くか。」
私は玄関へ行き、靴を履き、ドアを勢い良く開けた。
ドアノブをひねっただけで、ガチャンという大きな音がする。
古ぼけたドアだ。それもかなり。
私はそんなドアをしばらくにらみ、足で蹴った。
ドアノブをひねった時よりも大きな音で、ドアが閉まる。
耳の奥でかすかにエコーする。
私はさっそうと、エレベータに向かった。
目的地は地下1階、駐車場。
赤いスポーツカーがそこにある。
サラ金返済の為に売ろうと考えたが、売らなくて良かった。
まさかこういう時に役に立つとは…。

ゴアアァァァァァ…。
なかなかいい音を出すエンジンだと、毎回思う。
アイツの住んでいる所は、第2居住区の13番街。
ここから大体30分で着く距離だ。
着いたら、何を言おうか。
まずは、電話に出ない理由だ。
それから、私に対する愛情を聞く。
彼女は強気だ。
まわりくどい事は嫌っていた。
「直球勝負」が最善の方法。
待っていろ。
もう少しだ。
待っていろ。
あとわずかだ。
待っていろ。
もうすぐだ…!

ゴアアァァァァンン…。
キキィ…ガチャッ……。
バタン!
コツ、コツ、コツ、コツ…。
「ここが、あいつの家…?」
疑問を感じずにはいられなかった。
日の当たらない薄暗いところにある、大きな家。
それは「幽霊屋敷」を連想させるところだった。
信じられなかった。
疑ってしまった。
私はとにかく入口へ向かった。
ドンドンドンドン…。
ドンドンドンドン…。
…ドアのノック音?
歩くたびに、それは大きくなってゆく。
ドンドンドンドン…。
ドンドンドンドン…!
ドンドンドンドン!!
「おい、入れてくれよ、頼むよぉ〜。」
ノック音の正体がわかった。
どうやら「先客」がいたようだ。
酔っ払いのような、頭のてっぺんがハゲたオヤジだった。
…なるほど、私は読めた。
このオヤジは、きっと毎晩レナの家を「自宅」と勘違いしているのだろう。
ひどく酔っているから、レナの家とは気付かずに。
妻にでも締め出されたと思っているのだろう。
私は早足で、そのオヤジに近寄っていった。
コツ、コツ、コツ、コツ…!
もうオヤジがそこにいる。
私はオヤジの着ているよれよれのワイシャツの、胸倉をつかんだ。
そしてそのまま、力いっぱい後ろに放り投げた。
………ズシーン…!
私は倒れたオヤジの方を見た。
いや…見たと言うより、睨んだと言った方が正しいだろう。
オヤジはかなりダメージを受けたらしく、
小さな声でうめき声を上げていた。
そんなオヤジに、私は追い討ちをかけるように一言、言ってやった。
「…オイ、腐れオヤジ!もうレナに迷惑かけんじゃねぇ!!」
いや…言ってやったというより、怒鳴ってやったと言った方が正しいだろう。
するとオヤジはこちらの方を見て、小さな笑みを浮かべた。
その笑みは次第に「笑い」へと変わっていった。
「クックックックック…ハハハハハ…!!」
「…何がおかしいんだよ、クソ野郎。」
「ハッハッハッハ…そうか、あんたもか…。」
やれやれ…相当酔っているらしいな。
ここは一発、蹴りでもかましてやらないとわかんねぇかな…!!
私はオヤジに再び歩み寄った。
オヤジは未だに倒れたままだった。
その倒れているところに、私は肋骨を思い切り蹴った。
…ズガッ!
「ぐふァッ…!」
「酔ってんじゃねぇよ、ハゲクソ。殺すぞ。」
「ぐふッ…ふふふふ…。」
「まだ笑ってんのか?さっさと帰れ!俺の彼女に2度と迷惑かけんな!!」
「彼女、か…。」
ズガアァッ!!
「があぁぁぁぁぁッ…!!」
「『彼女か』じゃねぇんだよ、クソジジィ!消えろ!!」
「ぐッ………。」
オヤジは、ようやく道を歩き出した。
帰っていったようだ…。
私は何だか、無性に「優越感」を感じていた。
この行為が「彼女を守った」という事につながっているのだと思う。
だから私は「優越感」を感じているのだ。
とても晴れ晴れとした気持ちだった。
ガチャッ…。
「何なのよもう…うるさいわねぇ。」
………ん?
ドアが…開いた?
この声は…?
私はゆっくりと、後ろを振り返った。
大きな、吸い込まれそうな瞳。
銀をおびた、美しい青い髪。
少し少女らしい顔に、それに似合わぬ大きめの胸。
細く、美しい足。
やはりそうだった。
やはり彼女だった。
やはりレナだった…。
………ふと、ここへ来た理由を思い出した。
いや…思い出したというより、思い出そうとしたと言った方が正しいだろう。
忘れてしまった…。
私はレナに会うために来たのか?
いや、違う。
それでは、何のために…?
「な…なんであなたが私の家の場所…知っているのよ!」
このレナの一言で、私は全てを思い出した。
そうだった。
私は必至にここを探した。
そして、見つけ出した。
見つけたのだ。
私は「尋問」しに来たのだ。
私はレナの目をしっかり見て言った。
「レナ、部屋で話そう。」
私はレナの返事もろくに聞かずに、つかつかと家に入っていった。

ある休日の事。
この日は、平日より忙しかった。
初めて入った、レナの家…。
私の予想を、はるかに越えていた。
いや……これは予想も出来なかった。
入らなければ良かったのか?
いや、入らなければいけなかった。
ここで、全てを知っておく必要があったのかもしれない。

家に入ると、ダイニングルームと思われる所がまず目に入る。
少し小さめのテーブルに、イスが4つ。
だがそのテーブルの上には、ファッション雑誌などが
いくつも、いくつも「置いて」ある。
そう、「置いて」あるのだ。
適当に。
乱雑に。
小汚く。
床は、クツの箱やビニールでいっぱい。
「足の踏み場もない」とは、まさにこの事を言うのだろう。
冷蔵庫も置いてあったが、私には開ける勇気がなかった。
開けた途端に、食物の下敷きになって死んでしまうかもしれない。
これだけ汚れているのだから、冷蔵庫だけは…という事はないだろう。
蛍光灯の光は安っぽく、点滅が目立つ。
そして、薄暗い。
「ちょ、ちょっとアンタ何処まで行くの!?」
後ろから声が聞こえる。
ふと、後ろを振り向いた。
その声はレナの声だった。
……この家の異様さにあっけにとられていた。
レナの事を、すっかり忘れていた。
「何だか知らないけど出てってよ!!ウチの場所知ってんのはわかんないけど、
 無断でつかつか入ってこないで!!」
…レナ?
そんな喋り方だったか?
少し勝気なとこもあったが、ここまで強気じゃなかった。
こんな喋り方じゃなかった。
私の知ってる「レナ」じゃない。
私の知らない「れな」。
私の記憶の「レナ」じゃない。
私の記憶にない「れな」。
私の愛した「レナ」じゃない。
私の愛していない「れな」。
私の目の前にいる「少女」。
私の目の前にいた「少女」。
君は「レナ」?
それとも「れな」?
「ちょっと!!何黙って突っ立ってんのよ!!出てってよ!!」
「………お前、本当に『レナ』なのか?」
「…?」
「れな」は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。
そして、手前にあるイスを引いて、腰掛けた。
「座んなさいよ。」
「れな」は急に冷静になった。
まるで、もう慣れた環境のように。

私は「れな」の指示どおりイスに腰掛けた。
「聞きたい事が…」
「アンタ、名前は?」
「れな」は私の言葉をさえぎった。
私は怒りが湧いてきた。
「いい加減にしろ!!」
私は机を思い切り叩き、立ち上がった。
バァンという大きな音と共に、テーブルの上の雑誌が数冊、落ちた。
「れな」はそんな私を、笑みを浮かべながら見ていた。
私は「れな」の胸倉をつかんだ。
そしてグイと引っ張って、顔を近づけさせた。
私は「れな」の目を睨んでいた。
「僕の質問から答えろ!!君の質問は後だ!!」
私は怒鳴った。
小さな家に、私の声がかなり響いた。
「れな」はまだ笑っていた。
私は胸倉をつかんでいた右手を右に振って、「れな」を投げた。
そして私は倒れた「れな」を睨んだ。
「いったァ…。」
「れな」はぶすっとした顔で私のほうを睨んだ。
そして、こう言った。
「犯すなら犯せば?」
私はこの言葉にあっけに取られてしまった。
すると「れな」は私の顔を見て大笑いした。
「アッハハハハハハ…そうね。アンタにそんな勇気と根性ないものねぇ…!」
私は、何も言えなかった。

ある休日の事。
私は後悔でいっぱいだった。
ここに来なければ良かった。
こいつは何物だ?
本当に「レナ」なのか?
………いや、こいつは「れな」だ。
私の知らない「れな」。
私の記憶にない「れな」。
私の愛していない「れな」。
目は「レナ」より鋭い。
髪の色も、汚い青に見える。
じゃあこいつは一体「誰」なんだ?

「で、名前。何だったっけ?」
二人とも、もう一度座って、落ち着いた。
いや、落ち着いていなかったのは私だけ。
「れな」は初めから落ち着いていた。
まるで、全てを予測していたかのように。
「…コールハートだ。」
「コールハート……あーあーあーあー!!」
「れな」は何か思い出したようだ。
………ん?ちょっと待て、「思い出す」だと?
なぜ「思い出す」必要がある?
答えは………。
「あの金無いのに、やたらブランドバッグ買ってくれたバカね!」
答えは………簡単だ。
「全く、あんたも良くやるよ。」
そう……私…私以外に…。
「どうせサラ金にでも手ェ出したんでしょ?」
私以外に…。
「ホント、上辺だけの恋に金漬け込んでサ。」
私以外にも…。
「まぁ、私にはありがたかったけどね。」
…ダレカトツキアッテイタ。
ソレモ、カナリノカズ。
ナンジュウ、ナンビャク、ナンゼン、ナンマン…。
イッタイ、ドレホドノオトコトカンケイヲモッタ?
コンナヤツ、レナジャナイ。
オマエハ、レナジャナイ。
レナジャナイ!!!
「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
私はあたりのものを、ところかまわず投げた。
ドカッ!
ガラガラガラ…
ガン!
ドスン!
ドサドサドサドサ…
ガッシャアーン!!
「ああああああああああああああああああああああああああ!!」
「あ〜あ、やっぱり始まっちゃった。」
私の大事な「何か」が切れた。
私の大切な「何か」が切れた。
かけがえのない「何か」が切れた。
「ねぇねぇ、ちょっと。聞こえてる?」
「うっ……ううっ…うわあぁぁぁぁッ!!」
「あなたが見ていた『レナ』は『あたし』なの。わかる?
 あなたが勝手に恋と決めつけていたの。わかる?」
「うっ…くっ……『レナ』を…『レナ』を出せェ!!」
「もう…その言葉は聞き飽きたよ…耳にタコが出来たの!
 帰ってよ、アンタの『レナ』はここにはいないよ!!」
「どっ…何処にいるんだ!?」
「さぁ…アンタがヤクにでも手ぇ付けりゃ出てくんじゃん?アッハハハハハ!!」
「会わせてくれ…・・・会わせてくれぇ!!あああああ!!!」
「ハイハイとっとと出てって出てって!!」
レナは私を押す。
私は抵抗する。
無意味に。
「イヤだ…イヤだァァァ!!『レナ』に…『レナ』に会うまではァッ!!」
「ハイハイとっとと出てって!!邪魔なのよあんたは!!
 まったく…男なんてみんな同じね…ハン!」
ドン!
ドシャァ!
ギィィ…バタン!!
追い出された。
押し出された。
「入れてくれ…入れてくれぇ!!『レナ』に…『レナ』に会わせろ!!うああああああ!!」
ドンドンドンドン!!
ドンドンドンドン!!
「んもぉ―――うるさい!!アンタって本当に太陽みたいな人ね!!」
「…どういう意味だ?どういう意味だァァァァ!!!」
ドンドンドンドン!!
ドンドンドンドン!!
「暑い時に太陽は顔を出すでしょ!?
 いなくていい時に自分を主張しすぎなの!!
 つまりアンタは『鬱陶しい』の!!わかる!?」
ドンドンドンドン!!
ドンドンドンドン!!
「開けろォ!!開けろォォォォォォォ!!!」
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!
「だけどアンタは今となっちゃ、日の光も無い!
 ちょっと雲が来ただけですぐこれだ。
 とっととお帰りよ、ガキ。私はもっと強いオトコが好きなの。
 アッハハハハハハハハハハハハハハ!!」
ドンドンドンドン!!
ドンドンドンド………。
………………。
「うっ……うううっ……。
 うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

ある休日の事。
私は家にいる。
「いる」だけ。
会社に行かない。
公園に行かない。
煙草を吸わない。
酒を飲まない。
足を組まない。
腕を動かさない。
指を動かさない。
何もしない。
何も出来ない。
ただひたすら、考える。
あれは、レナじゃない。
レナじゃない。
レナじゃない。
レナじゃない。
レナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃ
ないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナ
じゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃない
レナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃ
ないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナ
じゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃない
レナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃ
ないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナ
じゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃない
レナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃ
ないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナ
じゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃない
レナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃないレナじゃ
ないレナじゃない………。
断じて違う。
レナじゃない。
……でも、本当はわかっているのかも。
あれがレナの本当の姿なのだと。
あれがレナの内側なのだと。
自分がそう認めたくないのだ。
受け付けないのだ。
信じないのだ。
………もう考えるのも面倒だ。
生きる気はしなかった。
かといって死ぬのも面倒だ。
いつものように、同じ事を考える。
レナに会う前よりひどくなった。
…当たり前か。
ああ、誰かドアから入ってきて、私を殺してくれないだろうか?
頼むから、殺してくれ。
………やめた。
考えるのは、やめた。
もうやめた。

ある休日の事。
もう何日会社に行ってないのだろう…。
まあ、とっくにやめさせられているに決まっているが。
壁を背もたれに、足を伸ばして床に座ったまま。
飯も食わず、寝ず、ただじっとしているだけ。
そしてサラ金取立ての連中が3、4人、私の部屋にやってくる。
金は無いかと怒鳴ってくる。
私は喋る気力も無い。
そして、殴られる。
束になり、私を囲み、殴り、蹴ってくる。
痛み………そんな感覚、どうでもいい。
そんな中、私はあの休日の事を思い出していた。

いつものように、第2居住区の公園で散歩をしていた。
クレストのお堅い連中とずっと一緒にいると、ストレスがたまる。
そんな時は、いつもここへ煙草とライター片手に来る。
いつものようにベンチに座り、足を組む。
いつものように煙草を口にくわえ、先端に火をつける。
いつものように大きく吸って、煙草を手で口から離し、
大きなため息をつくように、煙を思いっきり吐く。
いつものように、意味もなく辺りを見回す。
いつものように何やら独り言を言う人。
いつものようにみすぼらしいカッコをして、ベンチで寝ている人。
いつものように泣いている老人。
……全てが「いつも」だった。
何の変哲もない、生きている気のしない毎日。
ストレスは解消されるが、生きる気はしなかった。
かといって死ぬのも面倒だ。
いつものように、同じ事を考える。
……………ん?
あれは……誰だ?
いつものように、そこにはいない「少女」。
いつものように私は、ボーっとしていなかった。
その青髪の美しい「少女」に、ただ目を奪われるだけだった。
私は立ち上がり、その「少女」に歩み寄った………。

…そうだ、あれが全ての始まりだったんだ。
あの日「れな」は「獲物」を探していた。
探すというより、あちらから来るように仕向けていたんだ。
そして罠にかかった。
罠にかかったのは………私だ…。


ある休日の事。
もう何日会社に行ってないのだろう…。
まあ、とっくにやめさせられているに決まっているが。
壁を背もたれに、足を伸ばして床に座ったまま。
飯も食わず、寝ず、ただじっとしているだけ。
そしてサラ金取立ての連中が3、4人、私の部屋にやってくる。
金は無いかと怒鳴ってくる。
私は喋る気力も無い。
そして、殴られる。
束になり、私を囲み、殴り、蹴ってくる。
痛み………そんな感覚、どうでもいい。
そんな中、私はあの休日の事を思い出していた。

レナは高級な鞄が好きだ。
レナは別に、ねだったりはしない。
ただ、ショウケースの前で目を輝かせているだけ。
…しかし私は、もうそんなお金などなかった。
財布の中身は、文字通り「スッカラカン」。
私はショウケースを見ているレナに、渋々言った。
「…ごめん、今日は帰ろう。」
するとレナは、私の方を見てこう言った。
「…ダメ、かなぁ?」
その反応に私は、冗談混じりでこう言った。
「ダ〜メッ。」
するとレナは怒り出して、さっそうと店を出て行ってしまった。
私は慌てて後を追った………。

あの時、気付いていればよかったんだ。
事の、異常さに。
なぜレナは、最後の買い物の時怒って出て行ったのか。
あの時「れな」は、怒っていなかった。
あの時に私を捨てたのだ。


ある休日の事。
もう何日会社に行ってないのだろう…。
まあ、とっくにやめさせられているに決まっているが。
壁を背もたれに、足を伸ばして床に座ったまま。
飯も食わず、寝ず、ただじっとしているだけ。
そしてサラ金取立ての連中が3、4人、私の部屋にやってくる。
金は無いかと怒鳴ってくる。
私は喋る気力も無い。
そして、殴られる。
束になり、私を囲み、殴り、蹴ってくる。
痛み………そんな感覚、どうでもいい。
そんな中、私はあの休日の事を思い出していた。

いつものように、レナに電話をかける。
…出ない。
一度切って、もう一度かけてみる。
…出ない。
一度切って、電話番号を確認しながらかけてみる。
…出ない。
番号は間違っていない。
間違っているはずがない。
なのに…何だというんだ?
どういうことなのだ?
何があったというんだ?

あの時も、気付くはずだった。
あの時も、レナを愛していた。
あの時…私は「れな」を知らなかった。
あの日…決意しなければ良かった。
あの日…レナの家に行くと。
会社、ネット、コーテックス、電話帳…。
ありとあらゆる物を駆使した、苦労した。
………探し出さなければ良かった。
私は永遠に、レナを愛し続けられた。
「れな」を知らずに、レナを愛せた。
永遠に、忘れかけた青春の1ページとして、しまっておく事が出来たのだ。

ある休日の事。
もう何日会社に行ってないのだろう…。
まあ、とっくにやめさせられているに決まっているが。
壁を背もたれに、足を伸ばして床に座ったまま。
飯も食わず、寝ず、ただじっとしているだけ。
そしてサラ金取立ての連中が3、4人、私の部屋にやってくる。
金は無いかと怒鳴ってくる。
私は喋る気力も無い。
そして、殴られる。
束になり、私を囲み、殴り、蹴ってくる。
痛み………そんな感覚、どうでもいい。
そんな中、私はあの休日の事を思い出していた。

「座んなさいよ。」
「犯すなら犯せば?」
「アッハハハハハハ…そうね。アンタにそんな勇気と根性ないものねぇ…!」
「コールハート……あーあーあーあー!!」
「あの金無いのに、やたらブランドバッグ買ってくれたバカね!」
「全く、あんたも良くやるよ。」
「どうせサラ金にでも手ェ出したんでしょ?」
「ホント、上辺だけの恋に金漬け込んでサ。」
「まぁ、私にはありがたかったけどね。」
「さぁ…アンタがヤクにでも手ぇ付けりゃ出てくんじゃん?アッハハハハハ!!」
「んもぉ―――うるさい!!アンタって本当に太陽みたいな人ね!!」
「暑い時に太陽は顔を出すでしょ!?
 いなくていい時に自分を主張しすぎなの!!
 つまりアンタは『鬱陶しい』の!!わかる!?」
「だけどアンタは今となっちゃ、日の光も無い!
 ちょっと雲が来ただけですぐこれだ。
 とっととお帰りよ、ガキ。私はもっと強いオトコが好きなの。
 アッハハハハハハハハハハハハハハ!!」

「ハッハッハッハ…そうか、あんたもか…。」

…あの酔っ払い…!!
フフフ…そうか、そういう意味だったのか…。
…そうだ、あれが全ての終わりだったんだ…。
そして「れな」にとっては、新たなる「始まり」だった…。

ある休日の事。
もう何日会社に行ってないのだろう…。
まあ、とっくにやめさせられているに決まっているが。
壁を背もたれに、足を伸ばして床に座ったまま。
飯も食わず、寝ず、ただじっとしているだ………
…ふと、あの休日の事を思い出した…。
「私はもっと強いオトコが好きなの。」
私はもっと強いオトコが好きなの。
わたしはもっとつよいおとこがすきなの。
ワタシハモットツヨイオトコガスキナノ………。
頭の中で、その言葉が繰り返される。
何度も、何度も、繰り返される。
………。
………………。
………………………。
…力が欲しい。
もっともっと、力が欲しい。
「力」
「強さ」
「たくましさ」
「権力」
あらゆる力が欲しい…。
私に力をくれ…。
私に強さをくれ…。
私に「それ」をくれるものは…何だ?
………。
………。
………。
………。
………。
………。
………レイヴンだ。
そうだ、レイヴンだ。
そうだ、レイヴンだ!!
あの女を見返してやる!!
私は、こんなに強いんだと!!
あの女をひざまずかせてやる!!
待ってろよ………!!
………。
フフフ…。
ハハハハ…。
アハハハハハ…!!
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!


作者:アーヴァニックさん