Guardian 08(A)-追憶
”いい?アルテス。大切なものは守らなくちゃいけないの”
『どうして?母さん』
失った母と僕は会話をしていた。
全てが黒塗りの光景。
これはいつのことだったか。
思い出せない。
僕は、昔の自分と母を客観的に眺めている。
”それを失えば悲しいでしょ?その悲しみを味わわないためよ”
『・・・悲しいって何?』
無知で幼い僕。
”う〜ん・・・そうね。あなたは昔、くまさんをお犬さんに食べられちゃったわね。あのときはどうだった?”
くまさんというのは僕が母からもらった誕生日のプレゼントだった。
だが、あまりにも嬉しくて公園に持っていって遊んだところ、野犬に襲われ、僕の大切にしていた人形は奪われた。
『くまさんじゃないよミックだよ』
”そうだったかしら?まぁいいわ。で、その大切な友達を失ったときはどうだったの?”
『うしなった・・・食べられちゃったってこと?
あのときは、何でか知らないけど目から水が出てきて・・・それで・・・。
それで・・・いきが苦しかったんだ。
・・・それが悲しいということ?』
”そうよ・・・アルテスはもう一度、それを味わいたい?”
『いやだよ。あんな苦しいのはもういやだ。
でも・・・どうやったら味わわなくてすむの?』
”一番いいのは、失ったら悲しくなるものを作らないこと。でも、それは不可能だわ”
『・・・よく、わからない』
”だから、失いたくないわよね?・・・だったら。守ればいいのよ。失わないように守るの。そうすれば悲しさを味わわずに済む”
『・・・守るってどういうこと?
・・・ぼくの大切なものをとろうとするやつらをころせばいいの?』
”殺すなんて言葉を使うんじゃありません!・・・確かに、殺さなければならないときもある・・・
・・・でも、それは新たな悲しみを生み出すだけ”
『何で?
大切なものを守ったのに何で悲しくなるの?
・・・わからないよ』
『・・・何で?ぼくは守ってないよ?
・・・何で死んでるの?』
目の前に昔の親友が血を流して倒れている。
幼い僕はそれを見てただ泣いているだけだ。
だが、幼い僕の両腕は鮮血に染まっていた。
この血は・・・倒れている人間のものか?
『ぼくは何も守ってないよ、こわしてただけだったよ?
ねぇ?
・・・こたえてよ。
ぼくにおしえてよ』
だが、目の前に倒れている人間は動かない。
『むかしよくあそんだじゃないか。何でだまってるの?
ぼくをばかにしてるの?
友だちじゃないか!そんなのずるいよ!』
返事はない。
『・・・いきが苦しいよ。
・・・悲しい。
・・・?・・・そうだよ。守らなかったから悲しいんだ。
守ればよかったんだ。
・・・守る・・・でも、何を?
ぼくは何を守ればいいんだろう?
また、おしえてよ。
ねぇ。
母さん』
母さんは、もういない。
そして、目の前に倒れているこの人物。
フラジャイル?
『・・・どうしてみんな死ぬんだ。
・・・どうして?』
今度は僕しかいない。僕は闇の中で苦悩しているのか。
しかしその姿は幼いままだ。
『・・・よく考えたら死んでしまった人たちこそぼくが守りたいものだったんじゃないかな。
それが、大切なもの・・・?
じゃあ、今のぼくに大切なものはあるのかな。
だれも、だれもいない。なにも、なにもない。
何で?』
顔を上げると、目の前に女の人がいた。
薄く微笑んでいる。
『だれ?・・・母さん?・・・母さんだ!』
だが、その女は首を横に振る。
『うそだ!母さんだ!ぼくにうそをつかないで!』
うっすらと笑みが消え、表情は悲哀に満ちている。
そして、僕の目の前から立ち去ろうとした。
幼い僕は涙を流して追いすがる。
『待ってください!』
幼いはずの僕は今の自分、レイヴンとなって管理者のために戦う戦士に変わっていた。
『母さん・・・僕はわかったよ。一体何が大切でそれをどう守ればいいのかが。
あのお方を、あなたを、母さんを守ればいいんだね?
そうでしょ?』
目の前の女は振り向かず、ただ去ってゆく。
『なぜ・・・?なぜ何も言ってくれないんだ?・・・僕のことが嫌いなんですか?』
女の姿はだんだんと遠ざかってゆく。
『待ってよ!』
僕は走って母さんの後ろに行き、肩を掴んだ。
そして引く。顔を僕に向かい合わせるために。
だが、期待していたものは見ることができなかった。
顔面に穴の空いた鬼の顔。
その穴からはぽたぽたと銀の雫が滴っている。
『何だよ・・・これ・・・』
横を向くと男が立っていた。
その手には、銀の血に塗れた剣を握っている。
『お前が・・・お前がやったのか?・・・母さんを殺したのか!?』
男の視線は虚ろだった。
『どうなんだよ!?何で何も言わないんだ!さっきから誰も僕に話しかけてくれないじゃないか!』
男の襟首を掴み、揺さぶる。男の体はがくがくと揺れるが、僕には無頓着だ。
『お前!何なんだよ!』
不意に男の視線が僕の目を捉えた。
そして、男の拳が僕の鳩尾を打ち抜く。
『うわっ!』
僕は後方に吹き飛ばされ、無様に地を転がった。
『ちくしょう・・・』
先程の男が仰向けの僕に歩み寄ってきた。
手を差しのべる。
そして、初めて口を開いた。
「よぉ。俺はリオってんだ。あ、知ってるか。知ってるから挑戦してきたんだもんな。ま、よろしく頼むぜ」
・・・リオ・・・リオ!
『・・・ぁぁああああっ!!!』
そこで、目が覚めた。
作者:Mailトンさん
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