サイドストーリー

Guardian 08(B)-僕の世界
「気がついた?」
ふと横に目を向けるとローズが立っていた。
僕はあれからこの病室に運ばれてきたらしい。体に痛みはない。
傷は癒えているようだ。
「・・・僕の部下達はどうなりましたか?」
思い出したことを聞いてみた。
「・・・その前に。ミラージュ壊滅作戦は成功したわ。あなたの手榴弾で何とか爆破したらしいって。
それで、あなたの部下達の容態なんだけど・・・最悪ね。
無事な順から言うと、レイド。彼は左腕損傷だけで済んで、今は全快してる。
次はスティーヴ・・・決して無事とは言えないけど、生きてる。昏睡状態だけど。残りの三人は・・・」
ローズは口をつぐんだ。
「・・・わかっています。おそらく、もう・・・」
あの傷では生きている方がおかしい。
「気にしないで。あなたのせいじゃないわ」
「いえ、僕の責任です。僕の指揮力が足りないから・・・でも、安心してください。今後の任務には差し支えないようにしますから」
「・・・ならいいわ・・・話題は変わるけど今レイヤードは大騒ぎよ。
私たちのテロによって大手二企業が壊滅に追いやられたから・・・そして、大事件が起こったわ」
大事件?
「私たちはクレストの壊滅を命じられたんだけど・・・クレストは管理者に絶対の忠誠を誓っていた。
それで、クレストの社長は管理者からある重大なシステムファイルを預かっていたの。
それは管理者の命令で開けないよう言ってあったらしいけど、管理者は死に、クレストは壊滅寸前。
そんなとき、クレストの社長は例のシステムファイルを開けた。そしたら、何が入っていたと思う?」
「さあ・・・全く思いつきませんね」
僕は思った通りの感想を述べた。
「・・・地上への道よ」
地上?・・・バカな。
あれだけ荒廃した世界への道があって何が大事件なのだ?そんなルートがあって何が不思議なのだろうか。
出口があるから入れるのだ。
「でも、それだけじゃ大事件にはならない。当然だけど。でも、地上は見事に再生していたのよ」
「嘘だ!」
そんなはずはない!
「・・・信じられないのはわかるわ。だってそれを知った私たちも全然信じられなかったから。で、本当の大事件はこれからよ」
まだあるのか?
こっちは美しい地上の存在自体僕にとっては信じられないのだ。
「地上へと調査に向かった第一部隊が全員地上へのゲート付近で壊滅させられた。壊滅させたのは一人のレイヴンよ」
一人のレイヴンが調査部隊を壊滅させた?
なぜそんなことをするのだ?
地上の再生は僕らにとって喜ぶべきものではないのか?
「誰なんです?僕の知ってる人ですか?」
どこのバカだ?
「・・・知りすぎてる人よ。あなたと一度戦ったこともある。そして、あの戦闘の後あなたは監獄送りにされた」
僕と戦い、その後僕は監獄に送られた。
知りすぎてる人物。
・・・リオ?
「・・・リオか!?あいつが調査部隊を壊滅させた!?バカか!そんなことやって一体何の利益がある!?」
僕は敬語も忘れて叫んだ。
「知らないわよ・・・でも、それはそれで私たちの作戦には関係ないわ。まだ、キサラギが残ってるんですもの。
それに今のところリオはそこに留まっているだけで何もしていないわ。
それを討伐しに行くバカがいるようだったけど全部返り討ちにされた。
あのリオに挑むのもバカな話よね・・・」
活動はしていない。
では、何をしたいのだ?
わからない。
わからないことが多すぎる。
さっきまで悪夢にうなされ、気がついたばかりの僕の脳では出来事の整理ができない。
「・・・とにかく、あなたに一つ伝えたいことがある。あと一つのキサラギは全てあなたにやってもらうわ」
「!?」
先程から僕を驚かせることばかりだ。
何だ?これは。
僕はあの世でも来てしまったのか!?
「なぜですか!?無理ですよ、僕には!一人で?
あっちは・・・あっちは強化人間の軍隊だって可能性が充分高いんですよ?それに今回のテロであっちは警戒を高めたはずです!
僕に・・・僕に死ねっていうんですか!?」
いや、もう死んでいるのかもしれない。
「確かに死ぬわね。このままだったら」
ローズは即答した。
「このまま・・・だったら?」
その意味深な言葉に僕の耳は反応した。
「そう、このまま・・・あなたにはH・Dが死力を尽くして完成させた兵器に乗ってもらうわ。
それを使えば無傷でキサラギを完全に滅ぼすことができる。三大企業の中で一番規模の小さいキサラギで試運転よ・・・それなら満足?」
「満足・・・って、僕はそれがどんなものかも知らないんですよ?満足しろっていう方が無理です」
ローズは憤慨する僕に向かってため息を吐きながら言った。
「だから今からあなたにそれを説明するわよ。新兵器開発施設にあるわ。
多分、ACなんてあれに比べれば無力なんだろうけど・・・ほとんど生体兵器に近いわ。もう体は大丈夫なんでしょ?・・・ついてきて」
・・・生体兵器・・・ACが無力・・・キサラギを完全に滅ぼす・・・化け物か?
「・・・何で僕なんですか」
「それも後で説明するわ」
「・・・ふん」
僕はベッドから立ち上がり、もう歩き出しているローズの後について行った。
どうやら事態は僕の思っている以上に急速に展開していっているらしい。

「これが・・・新兵器」
目の前にある巨大なものは人型をしていた。
僕はそれを見上げている。
人型と言ってもACのようにいびつな形ではなく、ほぼ完全な人型だ。
「・・・これが最強の人型兵器『ロクスファード・ルキエル』。これはセカンドよ。ファーストにはもう専属パイロットがいるわ」
ローズが簡単に兵器の名称を紹介する。
白銀に輝く甲冑を着た兵士のようでもある。その鎧の隙間からは黒色に鈍く光るラバーのようなものが見えている。
あれは人間で言うと皮膚に当たるのだろう。
その巨大な兵器は十字架にくくりつけられた死刑囚のように脚を揃え、両手を横に突きだした姿で固定されている。
頭部にも兜の様に装甲がついており、目の部分に当たる箇所には青い光を放つアイカメラがある。
「・・・で、どのへんが強いんですか?」
見た目は細く、非力そうだ。
「まず、火器は一つも使わないわ。全て格闘戦よ。
そのために機動力を強化してある・・・そして、何よりも、ある特殊な能力を持っている」
火器を使わない?
格闘戦・・・それは強いと言えるのか?
「それは、極小引力発生能力。三次元空間に極小の引力空間を故意に創り出し、それで標的に圧力をかけ、破壊する。
ルキエルの半径100m以内ならばどこにでも発生させることができるわ。
その力の大きさも、規模の広さもパイロット自身が調整できる」
「何でそんなことができるんですか?それは超能力と同じです。
超能力者を故意に作ることができるのですか?・・・いや、その前にこれは何なんですか?」
極小引力発生能力。そんな能力を備えた兵器を簡単に作り出せるのならば最強だ。
「AC・・・ではないし、ロボットでもない。ほとんど人に近いけど、何よりも近いのは管理者、Q−001よ」
「Q−001・・・!」
あのお方が孵った姿の名称。
その姿は鬼神である。
「そう、Q−001。あれを管理者がどうやって作ったか知ってる?
・・・まず自分のクローンを一体作り、それにある遺伝子を組み込む。
その遺伝子については謎だけど、
地上に潜むもう一つのレイヤードのような地下国家で作り出された生体兵器の遺伝子サンプルだと言われているわ。
で、私たちは壊された管理者からその遺伝子を見つけ出した。それを組み込んで人に近い知能を持たないヒトを作った。
それが、ロクスファード・ルキエル。内部は人間の内臓のような自己管理機能が備えられているわ。
それらによって自己再生もできたりするし、極小引力発生能力も発揮することができる。
柔軟な内部構造によって衝撃をそれなりに吸収でき、ACの攻撃ではびくともしないかもしれない。
でも、ルキエル同士の戦闘なら関係ないわね。
ルキエルは格闘戦をする際腕や脚は超高速で振動し、接触したものを簡単に壊すことができるから。
だから、一応装甲を装備させてるわ。
・・・と、これで簡単なルキエルの説明は終わり。次はそのパイロットであるあなたについてよ」
僕も何かしなければならないのか。
「何ですか?」
「まず、強化人間は卒業よ。あなた、ルーシャ=サーティスの顔を知ってるわよね?
・・・誰かに似てると思わない?」
ローズが問いかける。
「・・・僕の、母さんですか」
「そう」
「だから何ですか?」
「あまりにもそっくりじゃない。今まで不思議に思わなかったの?」
「ただの偶然だと認識してましたから」
そっくりさんだからといって調べる必要もあるまい。
「・・・遺伝するとき、子は親の形質を受け継ぐわ。だから、似てたりするんだけど。
それで、あなたの家系を調べた結果、あなたはルーシャ=サーティスの子孫だと判明したわ」
・・・?
僕が・・・あのお方の子孫?
「・・・本当ですか?」
確かに僕があのお方に惹かれているのは母さんに似ているから、という理由もある。
だが、僕がその家系とは・・・?
「それで、あなたの遺伝子はルーシャ=サーティスの遺伝子サンプルと酷似している。
そりゃあれだけ親が似てりゃあね。ま、とにかくあなたは管理者の子孫だということを納得しなさい」
「わかりました。今ここで何をいっても無駄ですからね。・・・で、子孫だから何なんですか?」
「ルキエルを操作するのはACのような方法だとでも思っているの?
全然違うわ。簡単だけど、それができる人間はそうはいない。
ルキエルの操作法とは、ルキエルとそのパイロットが同化すること、つまり融合」
融合。
「融合したら元に戻れないんじゃないですか?」
ローズが言っていることの非現実的ぶりを無視して僕は真面目な設問をした。
「いや、同化っていうのは意思をも共有するから戻りたいと思えば戻れるわ」
なら、いい。いや、もういいのだ。
なんだかイライラしてきた。
よってたかって僕のことが嫌いならしいな。
「もう、僕にはわからないことが多すぎてこれから聞くことについて疑問を持たないようにしますよ」
僕は両手を広げ、諦めたようなポーズを取った。それは嫌味でもある。
「それは賢明だわ・・・でも、今からその体で同化しろって言ってもできないわ。
さっき言った通り、ルキエルはQ−001のような特性を持っているの。
それをパイロット側も持っていれば同化可能になるわけよ。
だから、あなたはこれから手術で邪魔な強化人間チップを取り除き、新たなるルキエルのパイロット専用チップを挿入するわ」
賢明だと?
確かにな。
僕は悟った。
「そうした場合・・・僕の体はどうなるんですか」
「・・・人間じゃなくなるわ」
ローズは表情を変えずに淡々と告げる。
「人間じゃなくなる?・・・ではあなたの人間という定義は一体何なんですか?
・・・心がある生物のことですか?他の生物より高いIQを持った生物のことですか?
他の生物を蹴落として頂上に生きるためだけに命をかける強欲な生物のことですか?
恥辱を感じる惨めな生物のことですか?やたら綺麗事の好きな生物のことですか?
過去の過ちを愚直に繰り返す生物のことですか?何だかんだ言いながら結局自己中な生物のことですか?
長所は見ず短所しか見ない生物のことですか?無駄に発達した知能の力で結局絶望する生物のことですか?
わけもわからず結局利用されてるようにしか思えない生物のことですか?
何かを守るためには全てを滅ぼす勝手な生物のことですか?・・・僕って人間なんですか?」
ローズの言葉をきっかけに洗いざらい言いたいことをぶちまけた。
「・・・そうさ。人間じゃなくなるって・・・僕はその前に人間なのか?一体僕は何なんだ?・・・今朝・・・夢で見た。
管理者と母さんを同視しちゃって『あのお方』なんて呼んじゃってさ。バカじゃん?何で同じなんだよ?母さんはもう死んだ。
管理者はただのプログラミングされたAI。機械に命を賭けてどうする。ルーシャ=サーティスはもう死んでいる。
どんなに上手く作ろうが結局は機械。その人じゃない、偽物。精巧に作られようが結局偽物。
人間じゃなくなる?結構さ、今の僕には何もない。どうぞ化け物にでも何でもしてくれ・・・僕に未来はない」
今まで管理者などという機械のために生きてきたバカらしい数年間は輝く汚物だ。
何で今まであのお方以外の生物を見くびっていたのだろう。
この世に存在するものは全て等しく低価値だというのに。
では、何が高価値なのか?
僕には、わからない。
でも、せっかく平和を取り戻しつつあるレイヤードに革命を起こしたり地上へのゲートを塞ぐのはなぜだ?
なぜバカげた権力争いをする?
等価値だ。
何もかも。
全ては等しく死に、等しく生まれ、等しく生き、等しく低価値。
くだらん。
「・・・いいわ、やっちゃって・・・うん・・・あ・・・でも・・・わかったわ」
一人思考を繰り広げる僕を無視してローズは近くにいた作業員と話を進めている。
そうか。
僕を人間外にする気か。
いいよ、やれよ。
僕を貴様らと違う生物にしてくれ。
僕は嫌いだ。
人類も管理者もレイヤードも僕自身も。
真の平和とは何かを僕が教えてやる。
あれこれ考えている内に手術が始まった。
作者:Mailトンさん