サイドストーリー

あれはいつ頃の話だっただろうか。

私がまだ普通の女だった頃。

当時は夫と子供と3人で平凡で退屈な日々を過ごしていた。

ある日私は些細なキッカケからレイヴンになろうと思った。

もちろん夫は「そんな生死に関わる仕事はやめてくれ、普通の仕事にしてくれ」と反対した。

だけど夫の静止を振り切り、私はレイヴン試験を受けた。

誰でもレイヴンになるチャンスはあった。

私も事前に簡単な適正検査を受けるだけで実地試験に臨むことができた。

そして、合格してしまった。

ロクに機械も扱った事のない私が案の定機体を大破させたにも関わらず、だ。

理由は簡単。

その試験直後にテロリストによる試験場付近の市街地襲撃があり、鎮圧に駆り出された合格者が

数名死亡するという事故により繰上げ当選となったのだ。

ラッキーだった。

口うるさい夫には「やはり試験には合格できなかった」と伝え、とりあえず安心させておいた。

だがしかし晴れてレイヴンとなった私は一切の依頼を受けず、じっと「その時」を待った。

「合格できなかった」という言葉に真実味を持たせる意味もあったが、くだらない依頼など受け

る気はなかった。

受ける必要も無かった。

そして「その時」は意外と早く来た。

他企業の恩恵を受けている街をみせしめのために無差別に破壊せよとの任務だった。

依頼主がどの企業か、どこの誰か、また任務内容なんて関係ない。

私は「この場所の任務」を待っていたのだ。

襲撃時刻は深夜。

これも都合が良かった。

そして初陣は運良く敵ガードのロクな反撃も無く大戦果を収めた。

もちろん私的な「大戦果」、だ。

私は初仕事を終え、報酬の振込みを確認もせずに足早に家路についた。

一際破壊されたマンションの一室に帰り着くと、落ち着いた様子で確認した。

「あった」

床に転がる夫のものらしき千切れて焼け焦げた腕が私に「任務達成」を認識させた。

そう。

私は夫と子供が邪魔だったのだ。

だから邪魔者を始末する為にレイヴンになり、「任務中」というどの機関からも罪に問われない

この特殊な状況下で邪魔者を始末したのだ。

私はやっと自由を手に入れた。

大空を羽ばたくレイヴンになれたのだ。

思わず笑いがこみ上げてきた。





・・・・・・しかし、甘かった。

「私はあの時夫の死体の一部しか確認していなかったんだ」

今、たった今私は大破した機体の中で思い出した。

そう、てっきり瓦礫の下敷きになっていると思い、息子の死体を確認していなかったのだった。

そしてこうして私の命も終わろうとしている。

同じレイヴンになった息子の手によって。
作者:リリエッタさん