サイドストーリー

Guardian The Fate-僕らの終わりは晴れた日に
目の前に来たのはいいものの、僕はこれから一体何をすべきか。
ここに来る前はとにかくこいつに会わなければと思っていた。
だが、いざ会ってみると何だこの空虚感は。僕はこいつとの対面を望んでいたのではないのか?
「よぉ。お前か」
目の前に存在する異形の物体、ロクスファード・ルキエル/ファーストは言葉を放つ。
その声は、アリーナの覇者であり管理者を倒した英雄リオ=クラヴス。
「僕は、お前に会いたかった。でも、その後何をすべきかわからない。一昔前までお前に抱いていた怨恨も消え失せた。
何も感じない・・・一体僕は何なんだ?」
僕はぶつぶつと喋る。
「お前か?お前はルーシャ=サーティスの血を受け継いだセーラ=グリームズの子、アルテス=グリームズだ。
そして、ルキエル/セカンドの適正因子保持者でもある。俺はファースト、お前はセカンド。
ちなみにファーストとセカンドの違いは、基本性能の違いだ。
単純だが、セカンドは雑魚共にレベルを合わせた量産用ルキエルであってファーストほどの・・・」
リオが何やらルキエルについて説明するが、僕は無視する。
何がしたかった?
リオに会うこと。
今僕はどこにいる?
地上。目に映る自然というものは何とも形容しがたい。電気光しか見たことのない僕でも、学校で習った『太陽』と呼ばれるものを見ていた。
これから何をしたい?
・・・わからない。
「ま、簡単に言えばファーストタイプと雑魚専用セカンドタイプが戦ってもファーストが圧倒的に有利なわけだ。聞いてるか?」
リオはまだ喋り続けていた。
「聞いてない」
「・・ったく。まぁいいや。とにかくお前は俺に勝ち目がないってことだ。無駄な戦闘を避けるために言っといた。
ところでだ。お前はこの大自然をどう思う?
俺はな、アルテス。
下等な人類が手にするべきものではないと思うんだよ。お前はどうだ?」
「そうだな」
「そうだ。管理者が全てを賭けて人類から守った地上を汚されてどうする。俺はそれを許せない。
レイヤードを滅ぼし、地上には不可侵とする。俺たちはそのために死ぬ、みんな死ぬ。
どうだ?自分たちのお供として何億人もの人間を連れて逝ける。
悪くないだろ?そして失われたはずの大自然は永久保存さ」
「一人で逝け」
「まぁそう冷たく言うなって。ものは考えようだ。お前、ローズが作ったサザンクロスで死にそうなんだろ?ここは一つ手を組もうじゃないか」
なぜサザンクロスが僕の体を蝕んでいることを知っているのだ。
だが、それについてはあえて追求しないことにしよう。
「何をする気だ」
「お前とロクスファード・ルキエル/セカンドは、それぞれの遺伝子に共通点があったから融合できたんだろ?
その共通点ってのはルーシャ=サーティスの遺伝子って事は見抜け。
それでだ。
俺とお前。
ファーストとセカンド。
・・・見事に同化可能な組み合わせじゃないか?」
それは当然だ。ルキエルも僕たちも同じルーシャの子。
だが、盲点といえば盲点かも知れない。
「そうした場合、僕にメリットはあるのか?」
「あるさ。
まず、戦闘能力の急上昇。これは今はどうでもいい。次、サザンクロスの消滅。
サザンクロスはもともとセカンド用に製作された代物だ。そこに俺の血が混じればサザンクロスは働きを失う。
よってお互いハッピーさ。どうだ?いい案だろ」
「意識はどうなる?強い方の意思が残るのか?」
「わからん。もしかしたら俺でもお前でもない新たな人格が生まれるのかもな。だが、お前が死ぬのは困るんだ。俺と合体しろ」
何もすることがない。それでもいい。
「合体というのは・・・あっ・・・」
突然視界が揺らぎ、僕は意識が朦朧としてきた。
「どした?」
リオが惚けたような顔で聞いてくる。
僕は、サザンクロスによる死亡まで残り少ないのだろう。
このまま死んでもいい。
美しい地上にうずくまる異形の最強兵器・・・それも趣がある。
僕の膝が地につく。
「アルテス!」
「・・・うっ・・・」
ぱさ、と人差し指が抜け落ちた。それはさらさらと風になってゆく。
風化。
ローズの言葉が思い出される。
次に中指。その次は小指。
力が抜ける。
「僕は・・・」
霞む世界の中で、人型の物体が近づいてくる。
ゆっくりと。
僕の風化は急速に進行しだし、ついに上半身と下半身が分かれた。
下半身はすぐに消え、上半身も消えつつある。砂になって風となる。
目の前に、掌が見える。
それは僕の頬に触れた。
だが、その感触はなかった。

再び味わう虚無空間。そこに僕の意識はある。ルキエルでなく人間の姿として。
「俺とお前。勝ち残るのはどっちだと思う?」
目の前にいる男、リオが僕に問いかけた。二人でこの空間と漂っている。
そうか。僕はリオと同化しようとしているのか。
「わからないな。だが、僕よりも君の方が強固な意志を持っていそうだ。消えるのは僕かな?」
正直な意見であった。
「正直だな」
リオが言う。
「でもな。それは俺の理論が間違っていなければの話だ」
「何?」
思わずリオを睨め付ける。
「そう睨むなって。さっきルキエル同士で融合すれば強くなったりサザンクロスが消えたりって話をしただろ?
あれだ。あれははっきり言うとデタラメだ。融合できるのは事実だが、それによるメリットは知らない。
もしかしたら、お互い滅ぶのかもな。だが、今はまだ手遅れではない」
リオの言っていることがよく理解できない。
手遅れじゃない?
どこが?
「何を言っている」
「そうだな・・・まだ完全な同化状態になっていないってことかな」
「もう僕たちは同化したのではないのか?」
「同化するのはこれからだ。今現在、俺たちは普通に会話してるが、ここは時間の進行が外界よりも極端に遅い。
ここでの一日はあっちの一秒にも満たない。だから安心しろ。サザンクロスでお前が死ぬまであと何日もここで過ごせるってわけだ。
ま、それはおいといて。同化するのは、まず俺とお前の意思が同意しなければならない。
俺はもうもとからお前と同化するつもりでいたからな。お前の決心さえつけばとっとと融合完了なわけさ。
さぁどうする?」
「どうすると言われてもだ・・・ここにいてもあっちにいても僕の死は免れそうにない気がする。
僕が何をしたいのか何をするべきなのか何がしたかったのか全く一つもわからない・・・僕は知りたい。そして、それを教えてくれるのは唯一人だ」
「お前の母だろう?」
「・・・なぜわかった?」
リオは頭をかいた。
「やっぱ覚えてねぇよなあ・・・俺とお前は幼少時時代に一度会ってる。従兄弟として」
そこまで血が近かったのか。いや、同年代なのだ。近くて当然だ。
「お前の母さんはえらくいい人だったよ。初めて俺に会ったときも何かいろいろ菓子とかおごってもらったし。
あの人を尊敬するのは当然だと思うしな」
「・・・僕はお前に会ったときどんなだった?」
「俺は覚えてるけど・・・ほんとお前覚えてないな。やっぱ強化人間とかルキエルとかで記憶が吹っ飛んじまったのかな・・・
ま、普通の奴だったよ。特に印象のない平凡なガキだった」
「そうか。やっぱりそんなものなのか。
でもどうでもいい。僕が知りたいのは答え。逢いたいのは母さんだ。これから何をすべきか、何をしたいのかを教えて欲しいんだ」
僕は下を向いた。下を向いても何もないが、リオと目を合わせたくなかっただけだ。
「会える」
「・・・何を言ってるんだ?」
僕はバカにするような目でリオを見てしまった。
「会えるぞ?ここをどこだと思っている。俺たちの意識の中だ。見ろ。ほら・・・」
リオは当然のごとく言いながら、目の前の小さな黒い物体を指さした。
いつからそこにあったのか。
「それは俺がこの意識中で創り上げたものだ。よく見ろ」
僕はその黒いものをしげしげと眺めた。どこかで見たことがあるような物体。
「・・・!」
CALAMITY。極小サイズで僕の考案した兵器が再現されたいる。
「な?できるだろ。やってみろ。お前の意志で失った母さんを再現しろ」
そう。ここは僕の中、リオの中。お互い母さんのことを知っている。
ここに来て欲しい。
僕に会いに来て。
母さん。
僕は目を閉じた。

目を開くと、女がいる。リオの姿はない。
「母さん」
僕は両手を広げ表情を和らげた。
「久しぶりね、アルテス。調子はどう?」
「元気にやってる。でも、聞きたいことがある。これから僕は何をすればいいんだ?」
僕は問いかけた。
「呆れた・・・そんなこともわからないの?」
母さんが呆然として言う。
「わからないんです。もう何もすることがないような気がするんです。
でも、それでも何かあるような気がするんだ・・・矛盾してるけど。
こう・・・自由・・・というか、永遠の素晴らしいもの・・・何て言うのかな。それを人々に分け与えたいんだ。
みんなを等価値にしたいんだ。それって、一体何だろう?」
「そうね・・・」
母さんも考える。
「私には一つしかわからないわ。それは、生きること。生きることは自由。素晴らしいもの。永遠にそれは変わらないわ」
「でも、死にます。ヒトは、生命はいつか尽きます。永遠なんて、有り得ません」
僕はそう思う。
「違う。あなたの意味する死というのは、肉体が朽ち果てて意識がなくなる状態のことでしょう?私の言う死は違うの。
それは、消えること。誰かがその人を記憶していないこと。それは、とても悲しい。でも、みんながみんな覚えていれば、それは永遠」
永遠。
”だから!あんたが死ねばフラジャイルは救われるわけ?それってとんだ勘違いじゃないの?死んだ人のことはわからない・・・
その人の死と共にその気持ちは消えるから。でも、その人は他人の記憶の中で生き続けることができるわ”
誰かのセリフが甦る。
”死んだ人のことはわからない・・・その人の死と共にその気持ちは消えるから。
でも、その人は他人の記憶の中で生き続けることができるわ”
甦る。
”その人の死と共にその気持ちは消えるから。でも、その人は他人の記憶の中で生き続けることができるわ”
甦る。
”でも、その人は他人の記憶の中で生き続けることができるわ”
甦る。
”生き続けることができるわ”
甦る。

「忘れないこと。消さないこと。それは永遠の始まり」
母が言う。
「そのためにお前は何ができる?」
影の様に現れたリオが言う。
「全てを壊し、全てを忘れ。あなたはそれでいいの?」
同じく現れたローズが言う。
「今、ここから。始まるのは、永遠。永久の自由、平和。無限の可能性」
フラジャイルが言う。
そして。
「それらをもたらすのはあなた。悠久を与えることができるのはあなただけ。全てはあなたが決めること」
ルーシャ=サーティスが言う。
「そのためには・・・かみさまになればいいの?」
幼い僕は聞く。
「ねえ。そしたら、みんなじゆうなの?」
幼い僕は聞く。
「そうよ」
「その通り」
「ええ」
「そうだ」
「神になるのよ。我が子、アルテス=グリームズ」
皆が皆同じ答えを返す。
わかった。
じゃあぼくは、りおさんとがったいすればいいんだね?
そうすればかみさまになれるんだね?
五人が同時に頷く。
じゃあ、するよ。
りおさん。どこ?
「ここだ」
何も見えないが、声はする。そして、その方向から手が差しのべられている。
そこにいるんだね?
いますぐいくよ。
ぼくは、かみさまになる。
そしたら、みんなをすくえるんだ。
幼い僕は希望に喜びながら空中に浮かぶ掌を掴んだ。
その瞬間、永遠が始まった。
最初で最後の。




ロクスファード・ルキエル/ファーストとロクスファード・ルキエル/セカンドは性質がほとんど同じことは確かである。
違うのは、その能力を最大限に発揮できるリミッターがあるかないかだ。ファーストタイプにリミッターはつけられていない。
セカンドタイプにはついている。大きすぎる力を押さえ込むためとして設けられたリミッターだが、遺伝子やその特性などには全く影響しない。
つまり、ファーストとセカンドが同化しようがしまいがサザンクロスによる肉体崩壊からは逃れられない。
最強兵器ルキエルのファーストタイプとセカンドタイプは融合した。
その結果、倍加した巨大な力がサザンクロスの進行を防ごうとし、肉体温度がさらに急上昇する。
抗体が増え、体中に流れる組織液を満たす。熱で抵抗力を活性化しウイルスを末梢させようとする。
だが、その熱に負けたのはウイルスでなくルキエルの肉体だった。
熱に耐えきれなくなったルキエルの体は、極小引力を球体化させた物体を伴って大爆発を引き起こす。
極小引力球体は周囲にばらまかれ、爆心から半径数千km内に被害を及ぼした。
もともとルキエルは電力で動かすのは不可能で、レイヤード最深地にて発見された化学物質を動力源に、製作された人造生体兵器というのがそれだ。
その物質は『エディス』と呼ばれ、宇宙からやって来たというのが定説だ。
そして、エディスの解明を完全にしないまま完成したのがロクスファード・ルキエル。
その性能は驚くべきもので、発表は極秘にしたままエディスの使用は行われた。
結果、二つの異なるエディスの融合によって未知の事態が起きたわけだが、そのミスを悔やむ者はいない。
それも当然だ。
なぜならエディスについての知識を持つ者は全て滅びたのだから。
エディスの核融合爆発は惑星の体積を約6分の5まで減少させ、爆心地には超引力が発生、ブラックホール化し、周辺の物をさらに吸引した。
それにより惑星を包み込んでいた大気も激減、気圧は大幅に低下し、気温はマイナスを遙かに下回った。
当然のこと、レイヤードという地下都市は消滅。
惑星軌道も大きくずれ、地表は急変し、全ては氷に包まれた。
生命は見つからない。運がよければミクロ並の生物が生き残り、何億年もかけてまたこの星を踏み荒らす害虫と化すかも知れない。

無駄に知能の発達した生態ピラミッドの頂上、人類は滅び、その全ては消えた。
だが、ヒトは自由を得たのだ。
肉体も魂も精神も何もかもを失ってまで、得た物。
それは、自由というもの。


死というベールに包まれた、もの。


たいせつな、もの。





下記は感想(あとがきでもある)です。

長い間読んでくれた方、ありがとうございました。
もしくは最終回だけ読んでくれた方、今までの作品も読んで欲しいですが、とにかくありがとうございました。
・・・いや〜、暗いですね〜。
つーか自分は明るいものを書けないし考えられないしで、結局はどの作品も暗くなるのです(つーか受験シーズン真っ最中)。
なんつっても今回はここがすごい。
みんな死んだ。
もう死んじゃいました。ズダボロに全滅いたしました。SS初じゃないですか(いいのかよ)?
これは新記録?
で、まあ結局は何がいいたかったかっていうと。題名の意味はわかりますか?
Guardianなんですが、これは直訳すると守備兵とかガードマンみたいな意味になるんですが、ここでは守護神と読んでほしいです。
結局最後はみんな死んだけど自由を手にしたっていう話ですね(それを自由と呼ばない人もいるでしょうが)。
それで、問題なのは主人公であるアルテスが、結局守護神として何かを守れたのかどうなのかってことなんです。
死んだけど、自由を手にした。生きるべきか、絶対的自由(これはエヴァのカヲルのセリフをパクった)か。
どっちが幸せなのか・・・(バッドエンドかハッピーエンドかってことかも)。
これは死を受け入れるか受け入れないかって話にも発展しますね。結局誰も死後の世界は知らないんですけど。
ま、それぞれで自分なりの答えを考えてみてください。
ほんと読んでくれてありがとうございました。
作者:Mailトンさん