サイドストーリー

H・D深層部
H・D組織幹部ローズ=パルネス。
彼女は一つの研究をレポートにまとめていた。
だが、組織内での公表はなかったらしく、彼女の机の上で埃をかぶっていた。
それには、こう書かれている。




研究レポート『エディス』


第七階級執行委員会幹部聖銃騎士団団長:ローズ=パルネス 書

1:はじめに
エディスとは、レイヤード最深部で発掘された未知の鉱物らしき物体の名称。
私はそれの研究に割り当てられ、今こうしてこのレポートを書き上げている。
エディス、それは不思議の木箱、未知の領域。
その特性には謎が多く、このレポートでそれらを明かしてゆきたいと思う。

2:レイヤードの地
レイヤードとは、英語で「Ray−Yard」と綴る。
直訳すると「希望の庭」。先祖が我々に託した最後の希望、それがレイヤードである。
なぜそれが作られたかというと、数百年前に起きた大災害、「大破壊」から逃げ延びた人々が生活場所を確保したかったからだ。
そして、地下都市を作るのに選ばれた場所は惑星上の巨大なクレーターの中央だった。
それは、何千年も前にこの惑星に落下した隕石が作ったものだといわれている。
そこはもとから地表に比べ海抜がかなり低かったので、急造するために選ばれたのだろう。
とにかく、それで完成したのが我々の住む地下都市、レイヤードだというわけである
(レイヤード立総合資料館より「我々の住む場所」から)。

3:エディスの発掘
前項に記したレイヤードについては、これから述べるエディスの発見に密接に関わってくる。
地下都市の人口が増加してゆく中、レイヤードの規模を広げなければならなくなった。
それで人類が選んだ道は、さらに地下へと掘っていくことだった。
横に広げればいいのではないか、という意見も出たが、地盤の陥没を防ぐため、やむを得ず星の中心に深く掘っていったのだ。
そして地下に地下に掘り続ける中、作業員がある不思議な石を発見した。
一見普通の岩石のような殻につつまれていてそれが何なのかわからないが、その殻の隙間から漏れ出る光が目に止まったという話だ。
科学者の説は、こうだ。
隕石のかけら。レイヤードができる以前、ここは大きなクレーターだった。そこに落下したものではないか、と。
岩石の殻自体もこの星のものでなく、それは宇宙からの訪問者としか言いようがなかった。
ちなみに中の光を放つものは液体状の物質である。
結局それがエディスだったというわけだが、手柄を立てた作業員は、現金をもらって口止めされたという。
すぐにエディスの特性に気づいたその時代の科学者は、おおいに感嘆したという話だ。
なんと、その鉱物は生きていたのだ。
鉱物に生体反応があり、何の消費もなく化学エネルギーを作り出せるという未知の特性をも兼ね備えていた。
しかし。
科学者達は極秘裏に研究を重ねたが、完全なる解明は不可能だった。
やはり宇宙の神秘とは計り知れないものだと思う。
そのエネルギーを利用して何か兵器を作ろうという意見は当然のごとく出た。
だが、その時代ではそれだけのエネルギーを使ってまでの兵器がなかった。
よってエディスは数百年もの間、レイヤードの特別隔離層に封印された。

4:ハンプティ・ダンプティ
我々の親組織であるH・D。
その目的は謎に包まれていたが、私は一つの答えをリオ=クラヴス、ナズグル様に見いだした。
彼は、管理者を殺したときに何かを知ったのだ。あれからナズグル様はそのことに関しては口を閉ざす。
その知ったこととは、おそらく人類への見方を変えるようなものだったのだろう。
それからのナズグル様は人間を憎んでいるようにさえ見えたのだから。
ナズグル様は、管理者を倒してその後にH・Dを結成した。
あの超人的な強さを持っている以上、その組織に入る者達が多くいるのは当然だろう。
そして、ナズグル様は、下記に記すが「ルキエル計画」と呼ばれるものを画策した。それは全人類を滅ぼすものでしかなかった。
あのお方は、自分もろとも全てを消す気ではないだろうか。
それが私個人の見解である。

5:H・Dの目的「ルキエル計画」
数百年の時を経て、エディスは我々H・Dによって再研究された。
結果、クローンやAC機構の技術を発明した人類の手によって新たなるエディスの使い道が開けた。
Q−001細胞、それはナノマシンの世界なのだが、
管理者と呼ばれたAIの作り出した生体兵器人造人間とでもいうべき存在。
それは我々を震撼させた。
再生力、膂力、知力、どれをとってもその性能は人類を遙かに凌駕していたのだから。
そして我々は、Q−001細胞をベースに組み込み、
その動力源にはエディスを含ませるというほぼ最強といえる兵器の開発を提唱した。
だが、エディスにネズミのクローンであるダミーを実験台にして意識統合実験をしてみたところ、
エディスはさらに驚くべきことも知らせてくれた。
意思のある生物を取り込み、それと同化する。さらに極小引力を発生させることもできる。
三次元空間の一点に極小の超重力を発生させ、周囲の物体を取り込み、一瞬後に真空爆発を起こさせる。
黒い稲妻のような空間亀裂を起こし、周囲の物を瞬間圧縮、簡単にいえば消滅させる。
科学者達はそれに気づいたとき開いた口が塞がらなかったそうだ。
ただ、エディスのみとの意識統合は何でも可能だが、
エディスとQ−001を組み合わせた物体に普通人の意識を組み込むのは無理だった。
どうしてもQ−001が拒否反応を起こし、統合するはずの人間の意識が消失してしまうのだ。
そのために何人かの犠牲が増えたが、気にも留められない。
結果、Q−001に組み込めるのはルーシャ=サーティス、管理者の血を受け継ぐ者のみであることがわかった。
それを知ったナズグル様は、サーティス家のリオ=クラヴス自らが実験台になることを希望。
我々は止めたが、あのお方は組織内最高権力を持った地位にあたるので、制止は不可能であった。
そしてナズグル様は、エディスとQ−001細胞融合人造兵器、通称「ロクスファード・ルキエル」と同化に成功した。
その後、ナズグル様はルキエルを使ってレイヤードを支配しようと提案する。いや、正確には支配でなく壊滅であった。
あれだけの力をもっていれば、強者が頂点に立つという不合理な意見を否定することもできない。
結局我々はナズグル様に従った。
それが通称「ルキエル計画」である。

6:サザンクロスの発見
私は、ルキエル計画に反対だった。
何があったのかは知らないが、自分勝手な考えのために全人類を滅ぼすのは許せない。
でも、私はわけあってあのお方に従いたいのだ。
だが、それでもルキエル計画は阻止したかった。
そこで私は研究を重ね、ルキエルの弱点を探した。
エディスについての解明は私一人でできることではないので、Q−001の方向で欠点を模索する。
まず、Q−001、管理者の遺体は発見されなかった。ただ粉が見つかっただけだ。
それを解明した結果、Q−001の細胞だと判明。おそらく、管理者の死因はリオによる斬殺ではないだろう。
私はウイルスプログラムによる肉体構成組織崩壊、つまり風化したと判断する。
そのプログラムは残ったQ−001細胞に含まれているかどうか微妙だったが、奇跡のように少量のものが見つかった。
それがルキエルに通用するかどうかは不明だが、エディスの未知部分による邪魔が入らなければ理論的に通用する。
わたしは未完成だったルキエルの細胞を幾つか盗みだし、ウイルスプログラムで浸食させてみた。
それは見事にルキエル細胞を食い尽くし、そのウイルスプログラムはルキエルに通用すると判明、
私はそれをシステム「サザンクロス」と名付けた。
だが、一つ疑問が残る。
なぜQ−001の体にサザンクロスが含まれていたのかという点だ。
あれでは自分の作った毒に自分でやられるという情けない話が起こるではないか。
では、なぜか。
それを知っているのはナズグル様だけだと私は考える。
あの部屋で、何が起こったのかということを。

7:ルキエル量産
先日、集会で驚くべきことが知らされた。それはルキエルの量産計画だった。
だが、量産型ルキエルがそううまく作られては叛乱を起こされたときに必ず敗戦してしまうので、
プロトタイプルキエルよりも数段弱体化させた。
もちろん、量産タイプといえどルーシャ=サーティスの血を持っていなければ稼動しない。
よって、政府の血歴書からサーティス家の人間を洗い出した。
今現在生きているサーティス家の人間は7人。
リオ=クラヴス。
スティーヴ=ニクラド。
カガシ=クサナギ。
クリス=ラミウル。
グランク=ファッドリア。
レイド=アルラ。
アルテス=グリームズ。
ナズグル様以外の全員が自分はサーティス家の人間とは知らず、のうのうと生きている。
いや、唯一人アルテスという名の青年は元管理者部隊であり、重要なポストに就いていたという。
幸か不幸か私はアルテスの勧誘に回された。
勧誘は全員成功。

8:不可解な行動
ナズグル様はある指令を下した。
それは自分とルキエルパイロット候補者一人の計二人だけを残し、他の候補者全員を排除しろというものだった。
早速ミラージュ壊滅班に6人が全員回され、結果としてアルテスを残し他の全員は死亡や重体し、
軽傷で済んだレイドはしばらく放心状態だった。
アルテスは二人目のルキエルパイロットに任命された。
なぜそうなったのか私にはわからないが、これだけは言える。
そろそろサザンクロスを投与しなければならない時期だ、と。
惜しくもナズグル様は地上に行ってしまったが、もう一つのルキエルはパイロット側にサザンクロスを投与した。

9:おわりに
これを書いている今、私の死は間近だ。
最初の項にエディスの特性を明かしてゆくと述べたが、それは無理だった。
エディスも、ナズグル様も謎を残したまま私から離れていってしまう。正確には私一人が遠ざかっていくだけだ。
ただ。
ファーストとセカンドはそれぞれ違ったエディスを含んでいる。
もしかしたら、その二つの核融合によってサザンクロスが消えてしまうかもしれない。
そうなったら、私の死ぬ意味は?
あるの?
ある。
私は所詮不幸な星のもとに生まれた女。
あの人のために死ぬことで充分。
ま、星なんてこの惑星以外に見たことないけど。

全人類へ、さよなら。


わたしへ、さよなら。



あの人へ、さよなら。




この星へ、さよなら。




それでレポートは終わっていた。
最後の部分は手書きで話し言葉になっている。
そして、遺言でもあった。
だが、今はその全てが存在しない。
それは虚しく、それを感じ取れる生命もなく、ただ何もない。
何も。










じんるいのいきたあかしは、どこ?














どこ?




下記は感想です。

この話はGuardianシリーズと憐れみの歌〜Requiem〜で残った少しの謎を解明するためのものです。
別にたいしたことじゃありませんでしたが、とにかく書きたかったんで。
まぁ、指輪物語の追討編みたいなもの・・・か?
そうなのか?
っていうか今回のラストどっかで見たことあるような気がするぞ?
とにかく読んでくれてありがとうございました。
作者:Mailトンさん