サイドストーリー

トラブル
夜明けがもうすぐそこまで来ている。

気温も温まり始めた。
ターゲットの距離と外気温湿度等を読み取り、パネルがめまぐるしく補正の計算をしている。
大気中では光学兵器は直進しないのだ。
狭いコクピットにもう何時間いるだろう?
そろそろ腰が痛い、立ち上がって体を伸ばしたい。
だいたいACは居住性が・・・・・来た!

夜明け前の紫色に染まる道を、数機の護衛MTを引き連れた大型トレーラーが走ってくる。

ターゲットをサイトに入れ、慎重に軸を合わせる。
ロックすると気づかれる。
手動で、しかも動く目標を一撃で仕留めなければならない。
なんて過酷な任務だ。

・・・・よし、行けっ

光学スナイパーライフルから一条の光が放たれ・・・なかった。
隠密行動なので出力を極限まで絞込みターゲットを破壊できる極限まで抑えている。
微弱なレーザーが視覚に捉われる事なく射出された。

直後、トレーラーのドア窓に拳ほどの穴を穿ち、
ターゲットとなる人物2人の頭部を同時に音も無く蒸発させこの世から消し去った。

操縦者を失ったトレーラーはしかし、何事も無かったかのように直進していく。
護衛のMTも誰一人として気づいていない。

ここで気づかれては元も子もない。
岩陰から出していたスナイパーライフルを引っ込め慎重に、音を立てないように隠れる。

・・・しかし、気づかれぬように2人同時に始末するのがこうも巧くいくとは・・・
しかも手動で。
もうこんな芸当は2度とできないだろう。
まさに神がくれた「奇跡」だ。
・・・いや、そもそもACでやる必要があるのか?

そのような思考を巡らせているうちに標的の一団が完全に索敵範囲から消えた。

ひどい汗だ。少し外の風に当たろう・・・

コクピットハッチを開くと心地よい夜明けの風が舞い込んできた。

・・・・・うっ

いつの間に接近したのだろうか、そこにはACがいた!!

ゴン

ACはハッチを閉じられないように左手で押さえ、右手のバズーカを私に突きつけてきた。
なんてヒドイ奴だ!生身の人間にACで!!

目の前のACから通信が入った。
・・・・ザッ・・ガガゴッ・・・・・・おはよう。
任務ご苦労だった。以上を以って君の役割は終了となる。

・・・・・え?

ククク、いくらなんでもハッチを開けたのは不味かったな。
こうして自ら確実に処理されに出てくるとはなんと間抜けな・・・。

ええっ!?ちょっと待ってよ!?状況が飲み込めない!!
貴方はナンなの!?
なんで私が始末されるの!!?

・・・・・・・それはお前が知る必要はない。

言い終わるか終わらないか、その瞬間に生身の私に突きつけられたバズーカが火を噴いた。
堅牢なACも内部に直接砲撃されては持たない。
一瞬にして手足を残しばらばらに飛び散った。
だがそれよりも早く私はバズーカの上に飛び乗り難を逃れていた。
・・・いや、破片で全身にひどい打撲と裂傷を負ったが。

なんて事を!まだACのローンが・・・などと考える暇もなく相手の頭部に飛び移る。
これなら振りほどかれまい!

なっ・・・!?どこだっ!

頭部カメラアイの後ろに回りこんだので奴は私を見失ったようだ。
はぁ・・・なんて事だろう。
生身でACと戦う羽目になるとは・・・。
こんな無謀な事をしているのは古今東西私くらいのものだろう。
任務中にACから降りる、などという愚かな行為がこんな形で祟るとは・・・。

死にそうな目に遭っている人間は行動が大胆になる。
相手が冷静を取り戻す前にコアの前部に回りこみ、ハッチ手動開閉スイッチを回す・・・か、
カタイ!!
数メートルの高さでろくにつかまるところもなく命がけだ。
なんで私はこんなことを!?通常なら考えられない!
奴はまだ気づかない。
開閉スイッチがくるりと回りコア前部装甲が上下に開く。
すかさずハッチ前部に飛び乗り携帯していた拳銃を搭乗者に向け発砲する。

ぱん、ぱん、ぱん、ぱん・・・・

奴は生身の頭部と胸部に数発の銃弾を受け、コクピットに座ったまま・・・
何が起こったのかも解らぬ様子の表情で絶命した。

・・・無駄口叩くのは相手を始末してからにしなさいな

ACから降りるという暴挙に出た私が言えた事ではないが、絶命した相手に向かって私は言い放った。

誰とも知らぬレイヴンの死体をコクピット外に放り捨て、
死体の代わりにコクピットに収まるとすぐにグローバルコーテックスのオペレーターに通信を入れた。

ザッ・・ガッ・・・え〜・・・任務完了。
ですが・・・あの〜、その・・・複雑な事情があって自分のACじゃないのですが・・・。
(なんて言えばいいんだろう・・・?)

すぐに返答が帰ってきた。

構いません。任務終了を確認しました。その機体で帰投してください。

はい、わかりました。
それで、その・・・
(ダメモトで言ってみよう・・・)

?・・・なんでしょう?

私のACを完全に破壊されてしまったのでこの機体を貰ってもいいでしょうか?
(いくらなんでも・・・無理よねぇ〜・・・)

?持ち主は・・・・

私が直接殺害しました。
(まさか罰せられる!?)

そうですか、構いません。その機体をあなたのACとして再登録しておきます。

え?いいんですか!?
(ええっ!?)

はい。我がグローバルコーテックスは貴女とクライアント、
また他レイヴンとの間に起きた問題には一切関知致しませんので。

ありがとうございます。これより帰投します。
(よかった・・・まだ借金残ってるのよね。ラッキーかな)

私は残骸と化した自ACの使えそうなパーツを拾い集めるとコクピットハッチを開けたまま帰路についた。
汗と血で汚れた体いっぱいに受ける風が気持ちいい。
・・・しかし、このACの持ち主は・・・依頼主は一体・・・?
標的はなんだったのだろう・・・・?
もしかして偽依頼・・・・?
あたしを始末?なんのために・・・?
まあ、一レイヴンとしては真相を生涯知る事はないのだろうが・・・。


いつの間にか夜が明け、既に日が高く上っていた。

今日も暑くなりそうだ。
作者:リリエッタさん