新世界ジハード 第参話『幻惑、止まらずに』
「今からそっちにラッドをやる。すぐに来い」
そう言うと通信機の相手は、勝手に通信を切った。
その声は、サングラスの男の声ではなかった。
ラッドという知らぬ名も少年は聞こえない。それほど現実が信じられなかった。
「ツーッ・・・ツーッ・・・」
通信機の発信音は少年の鼓動と同じリズムで鳴っている。
「夢じゃない」
誰もいない廊下で、レアは愕然とした。
「逃げなかったようだな。それが一番利口だ。来い」
ラッドと呼ばれ、やって来たのは例のサングラスの男だった。一応知っている人物のことだったようだ。
「来いって・・・どこへ行くんですか」
謎に包まれているとはいえ見知った顔の男を前に、レアは少し安堵していた。
学校の校門の前で、少年は先刻からずっと待っていた。
次の授業は体育、要するに肉体式戦闘訓練だったが、適当に言い訳をして早退を申し出たのだった。
「つべこべ言うな。本部に決まっているだろう。乗れ」
ラッドはあまり目立たない黒のスポーツカーに乗り込むと、窓から少年を目で促した。
「・・・・・・」
無言で車のドアを開け、中に乗り込む。
すぐに乗用車は走り出した。
「言い忘れたが、私は組織内ではそれなりのポストに位置する。一応頭の隅に置いておけ」
少年の方は見ずに、ハンドルを握ったままラッドは言う。
「・・・はい」
助手席でなく後部座席に座ったレアは、聞き取りにくい小さな声で返事をする。
「返事も重要だ。司令官には絶対にそういう態度を取るな。お前は暗すぎる。もう少し明るい少年を振舞え」
どうやらこれからすることは上司へのあいさつか何かだろう。
「・・・はい」
レアの声は相変わらず小さい。
「声が小さい」
迷わずラッドはそこを指摘する。
「はい」
小さいと言えば小さいが、先程の声と比べるとだいぶ聞き取りやすい。
「・・・幸運にも我々は軍隊ではない。その程度で許してやる。
だが、さっきまでの様ではあまりにも無理がある。今のでやっと許容範囲の最低レベルだ。いいな?」
「・・・・・・」
少年はそれをあまり聞いていなかった。とにかく自分を作って目をつけられないようにすればいいのだ、と認識した。
「今から行くのは第一支部だ。だが俺とそこにいる司令官は本部から派遣された人間だ。
だから、お前は組織のほぼトップと会話をすることになる。肝に銘じておけ」
「・・・これが例の子かね?ラッド少佐」
夕日の逆光に隠れて男の顔は見えづらいが、声からすると電話の主のようだった。
社長室のようなその部屋は電灯が点いておらず、夕日の光のみで照らされていた。
木製の作業机は上に何も乗っておらず、おそらく年季の入ったものなのだろうがひどく真新しいものに見える。
そこに男は座っていたのだった。
「はい」
少年は部屋の中央に立つラッドの横にいた。
例の子?
レアはその言葉に少し違和感を覚えた。
ただ単に実験か何かを目撃されたことだけを指しているのか?
それとも、他になにかあるのか。
「レア=ヴェイ。そういう名だったか?私は特務機関『ミッドガルド』の人間だ」
机に座した男は、ぼそぼそと喋る。ラッドの言う通り、軍隊のようには感じられない。
だがその迫力は、少年が今までに経験したことのないものだった。
「ところでだ。お前は今のイーストは平和だと思うか?」
イーストというのはイースト・レイの略である。
「はい。平和だと思います」
ラッドに言われた通りの返事をし、思っていることをそのまま答えた。
「素直だな。もしくはただ上司に気に入られたいだけか。入れ知恵かね?少佐」
机の向こうの男は鋭い目つきをしているのだろう、とレアは感じた。
「存じませんが」
ラッドは無表情に応える。サングラスはかけたままのため、その顔はうかがえないが。
「まぁいい。小僧。お前の考える平和とは何だ?」
唐突な質問に小僧と呼ばれた少年はたじろいだが、これも思っている通りのことを答える。
「・・・戦争がないことです」
ラッドとレアは共に直立不動のままである。
「そうか。ではお前に聞くが戦争とは何だ?」
男は質問を重ねる。
「・・・国と国とが戦うこと・・・です」
少年は自信なさげだ。
「安直だな。我々は、それを戦争とは呼ばない」
男はかすかに笑いを含めた声で言う。
「国と国が戦うことは、戦争。確かにそうだが、その中でもさらに種類分けができる。
一つは、国民も総動員して敵国を打ち滅ぼそうと必死になり、実際に殺し合うこと。
それはそのまま戦争と呼ばれる。もう一つ。情報化社会の裏を通じた国同士の戦いだ。
これもそのままだが、小戦と言う。そして、小戦は頻繁に行われている。
戦争は数十年に一度、大規模なものしかないが、超小規模に行われる小戦は数ヶ月に一度の割合だ。
何年も前からずっとそうなのだ」
その事実に驚愕するレア。だが、なるべく表情を崩さないように努めた。
「お前達『善良な市民』が知ってはならない事実。それが小戦の頻発。お前は知ってしまった。それはどういうことか」
男は立ち上がる。
夕日が完全に沈み、部屋は急速に暗さを増した。
ラッドが無言で点灯装置に近づき、ボタンを押した。部屋内の蛍光灯が点き、男の全貌が明らかになる。
無精髭の濃い顔。金縁の眼鏡。精悍な顔立ちで、大きな意志を抱く両瞳。
痩せてはいるが長身で、その雰囲気は巨大で底知れない。年は30代後半といったところか。
ついて行くべき人、つまりカリスマを漂わせる。組織のトップとしてふさわしいすぎる程であった。
「仮想世界からの脱落、現実への投獄。お前はもう、平凡な日々を送れない」
言っていることは正反対なのだが不敵に言い放つと、男が座っていた机の電話が鳴り出した。
男はすぐにそれを手に取って会話を始める。
「覚悟しろ。いつ何が起こってもいいように」
突然ラッドが言った。
男は受話器を置き、あまり緊張を見せない声で呟いた。
「出撃だ。第五支部からも数人送られる。アラソガル山下腹部、拠点を押さえろ」
「了解!」
ラッドは頼りがいのある返事をし、
「来い」
少年の肩を叩くと部屋を足早に出て行く。
ミッドガルド本部司令官ザギリスは、部屋に一人残されたまま呟いた。
「いよいよだな」
「ハァ・・・ハァ・・・どこ行くんですか?」
想像以上に足の速いラッドについて行くレアは必死だった。
「AC格納庫だ」
ラッドは息も全く乱れていない。
「僕は・・・!僕はどうすれば・・・ハァハァ」
喋りながら走るという行動はスタミナを一気に奪う。
「俺と共に出撃する」
「!」
意表を突かれた少年は、走るスピードががくっと落ちた。
「ぼ、ぼぼ僕にはむ無理だ!」
体勢を崩しながら少年は叫ぶ。その左腕を掴んでラッドはレアを引き寄せる。
「安心しろ。相手はMTだ。お前でも簡単に制圧可能だ」
「でも・・・!」
少年は今までMTにさえ勝ったことがない。
「やればできる。自分を信じろ、レア」
「僕はMTに勝ったことがない!」
少年は思いっきり叫んだ。それを聞いたラッドは、少年の襟首を掴んで壁に押し付けた。
その状況は、初めて会ったときの状況と酷似していた。
「MTに勝てないことを自慢するな。いいか、奴等は重なる作業で疲弊している。
ACを使ってこないのは攻撃でなく物資の極秘輸送が目的だからな。ACは戦闘用なのだ。
だが、もちろん護衛としてACも用意しているはずだ。それは我々がやる。
お前は物資輸送の邪魔でもいい。とにかく食い止めろ。わかったな?」
ラッドは早口に告げた。
「ハァ・・・ハァ・・ハァ・・・りょ、了解・・・」
少年は圧倒され、逃げようとはしなかった。
「装備は?」
「野戦なのでA型で充分かと!」
「わかった!そっちのやつもA型だ!」
「了解!」
格納庫にいる作業員に少年のわからない話をすると、ラッドはコクピットに乗り込んだ。
「何をしているレア。お前も自分のACに乗れ」
「でっ、でも、僕のACは学校に・・・」
少年は落ち着けない。
「その程度の修正はしてある。目の前の通路を真っ直ぐ進め」
少年は頭を巡らせ、奥に続く通路を発見した。
そこに再び走り出す。
「邪魔するだけ・・・邪魔するだけだ!」
レアは自分に言い聞かせていた。
「出撃準備完了。AC二機、発進させます!」
第一支部にあるオペレーション室で、女のオペレーターが言う。
「行け」
ザギリスが頷く。
「運送ルート正常!発進準備!」
「行くぞ!準備はいいなレア!」
ラッドがレアに聞く。
「はい」
少し落ち着きを取り戻した少年は、冷静に応える。電車のレールの様なものにACを乗せられ、稼働アームに固定される。
「出撃!」
オペレーターが言うと、レールに乗っていた台にACが動かされ、その台は一気にレールを疾走する。
時速何百キロ出ていようかという速度で、レールを疾走する。
「もう一度任務を復習するぞ」
ラッドが回線を繋いできた。
「アラソガル山近郊で陣形を展開。我々は敵ACを迎撃する。お前は敵輸送部隊に突っ込め。
敵MTは耐久性があまりない。お前のライフルでも充分だ。
いいか、敵を邪魔すること。もしくは撃破、一番いいのは無力化だが、お前はとにかく邪魔することだ。わかったな?」
「了解」
レアは返事をする。
「では、武運を祈る」
ラッドの回線は切れた。
「武運・・・」
レアはコクピットの中でその言葉を吟味した。
大丈夫だ。死にはしない、少佐が守ってくれる。僕は、いつものようにACを動かせばいいんだ。
少年は怯えを消すために何度も何度も言葉を反芻する。
何度も着てその度に嫌な思いをした、パイロットスーツ。
これは、訓練ではない。
小さな学校だが、避難訓練だけはきちんとやっていたときの警報の言葉を思い出した。
訓練なのに、訓練でないと言う。
教師が言うにはそれは実際に使われていた昔の正式な警報で、廃棄処分する前に学校側が受け取ったということだ。
それをそのまま使っていたのだった。
「目的地到達!両レイヴン戦闘準備!」
オペレーターが緊迫した声で告げる。
「ニュルンベルク出撃する!」
ニュルンベルクという名前らしいラッドのACが起動する。
アラソガル山の地下トンネルから荒野に出たレール。台は急停止した。
前方の台からはラッドの機体が起き上がる。
A型装備だと言っていたが、それはどうやらバランスを求めた装備を指す言葉だったようだ。
何の変哲もない中量機体構成で、肩には中型ミサイル、小型ロケット。
エクステンションとしては連動ミサイルがつけられている。右腕にはノーマルライフル、左腕には2551と呼ばれるブレード。
ACの肩にラッパのようなエンブレムが描かれている。
「お前はここから南南東にあるもう一つの地下トンネルまで行け。俺達はここらで陣を展開、敵ACを見つけ次第迎撃する」
すると、近くの地下トンネルからACが二体出てきた。
フロートタイプに、タンクタイプだ。前者は近距離用装備、後者は遠距離用装備である。
これにバランス型のラッドと組み合わせるとだいたいのことをこなせるチームになる。
「我々は常に先を読んで行動しているわ。新入りさん、健闘を祈ります」
タンクタイプのレイヴンから通信が入った。女性レイヴンのようだ。
「これからよろしくな。これが終わったら飲みに行こうぜ」
今度はフロートタイプからだ。こちらは軽薄そうな感じがする。
「残念だがこいつは未成年だ。何してる、行け!」
ラッドが言った。
レアは、
「了解」
と言ってACを起こし、立ち上がると南南東の方角へ向かった。
「腕前はどの程度だい?」
軽薄の男がラッドに尋ねる。
「おそらく使い物にならないだろう。フウカ、お前の配置が一番レアに近いな。危険と判断したら援護しろ」
「わかったわ」
フウカと呼ばれた女性レイヴンが答える。
「使い物にならない、ね。俺も最初はそう言われてたよ」
軽薄そうな男が言う。
「お前のことは関係ない。来たぞ」
「冷たい上司・・・」
上司とは言っているが、あまりそういう関係には見えない二人の男であった。
装備を確認する。
学校でレアはほとんどアセンブリを変えなかったため、初期装備だったのだが今はラッド少佐とまったく同じだ。
基本的な武器しか使ったことのない彼は少し安心した。
「大丈夫。いつも通りに・・・」
少年はそう呟くが、彼の脳裏にはクラスメートに負けている自分が甦った。
「やるだけだ」
それを振り払い、戦場へ赴く。
「だぁあ!」
高速型フロートに搭乗するミッドガルド第五支部AC隊のラスカーは、ACにブレードを叩き込んだ。
だが、その一瞬の硬直の隙に、敵ACからのカウンターを受けた。
「どわっ!」
単純に左腕専用シールドを叩きつけられただけなのだが、重量級腕部から繰り出されるそれはかなりの破壊力を持っていた。
「ふぅ。怪力め」
ラスカーは最速フロートを使っているだけあり、急後退で直撃を免れた。
だが、右腕先端をかすめ取られ、500発マシンガンが吹き飛ばされた。
火花を散らす右腕。先程まで持っていた愛銃はアラソガル山の森林の中にある。
最速フロートは積載量が少ないため、今持っている武器はブレードとイクシードオービットだけだった。
もっと積もうと思えば積めたのだが、彼は極端に速さを求めるため、他の装備は一切考えない。
「どうするべきか・・・」
敵は重量二脚の短期決戦装備型だ。30発バズーカに金属製シールド、後は援護武器だ。
どうやらバズーカ主体のACのようである。
「長期戦はまずいかな・・・もとから長期戦は考えてないがな。行くぜ、異国の戦士さんよ!」
ラスカーは呟き、前進でなく横にブーストダッシュした。
この距離ではバズーカの的なので、距離を離すことにしたのだ。月光を構え、森林の中に入って行く。
重量ACはゆっくりと旋回し、フロートACを捕捉しようとした。
「俺のマシは、と・・・」
ラスカーは森の中を高速移動し、愛銃を探索していた。
落ちた場所はだいたい見当がつくので、今そこに向かっていた。
「あれか?」
モニタが金色の四角い物を捕らえた。
「あれっぽいな」
それに近づいた瞬間、木々の隙間をぬって砲弾が飛んできた。
バズーカの弾速は遅く、最速フロートを持ってすれば回避は簡単だった。
「見つかったか?」
レーダーには映っていない。ステルスを持っているようだった。
今度は、天空に五つのミサイルが現れた。
空高く舞い上がったそれらは、角度を変えてラスカーのACハイスピードレイカーに降下してくる。
ラスカーは垂直ミサイルを充分にひきつけ、一気に進行方向を切り返して全弾を地面に当たらせた。
一息ついたところに、再び砲弾が放たれる。
「二度目だ。これでお前の居場所は読めた」
簡単に敵弾を避け、それが飛んできた方向に突き進む。
突然視界が広がり、森を抜けて野原に出た。
「しまっ・・・」
防御壁、つまり大木がないここは、敵の的となる。
ごうっと風を切りながら飛来するミサイルの音がし、ハイスピードレイカーを衝撃が襲った。三発垂直ミサイルを受けた。
そして、ラスカーの背後に敵は降り立ち、バズーカを連射した。空中に潜んでいたのだ。
「ぐあっ!」
ACが被弾反動に揺れ、一気にAPが削られてゆく。
だが、ラスカーは転んでもタダで起きる男ではない。
ターンブースタを起動し、そのまま月光を振り切る。敵ACは盾で防御しようとしたが、ものともせずに切断。
コアに食い込み、コクピットに届きそうなほどの亀裂が空いた。
「浅いか!」
それだけの傷を負わせても、ラスカーは満足しない。今の一撃で決めるつもりだったようだ。
ラスカーは後退しながら、EOを発動する。
敵はそれをコアに当てさせまいとし、左腕で防いだ。だが、連続で放たれるエネルギー弾に左腕は半壊した。
あともう少しで貫通する、というところでエネルギー切れが近いのでラスカーは攻撃を中断した。
すぐに敵ACはバズーカを構え、撃つ。
ラスカーは理由があって進行方向を変えられず、月光を取り外して砲弾に投げつけた。
それらは空中で接触し、爆発を起こす。
少し間ロック障害が起こり、その隙にハイスピードレイカーは目の前に落ちている愛銃500発マシンガンを手に取った。
それを取るためにタイムロスをできず、先程のような行動に出たのだった。
「あばよウェスト野郎。イーストの新兵器を味わえ」
ラスカーが意味深な言葉を言い、コクピット内で特殊装置を起動させた。
それはパイロットであるラスカーの頭部を覆い、赤外線モニタが表示され、
敵ACの内部構造までわかる程の高性能リーダーが搭載されていた。
照準ロックが青く光り、一点に定められた。それは敵ACのコア、亀裂を狙っている。
「スイッチ!」
多くの弾の弾道が一点の狂いもなく打ち出され、
コアを防御している右腕に銃弾一つ分の穴を空け、それを全ての弾が突いてゆく。
イースト・レイの開発したライナーガトリングである。それは、連射兵器にある一つの欠点を有り余るほどに克服した新技術。
集弾性の悪さ。特に1000発マシンガンはあまりにもその欠点が目立ち、使用者が激減した程だ。
それをどう直したかというと、マシンガンに超硬ラインレールを搭載し、特殊装置で弾道補正することだ。
しかしそれは扱いが難しくめったなことでは使わないが、使えれば全てが直線に沿った軌道で目標に向かう。
人間の目ではわからない程ずれがないので、連射すればただ単に炎の直線が銃口から伸びているだけに見える。
それの一点破壊力はすさまじく、リロードタイムを含めればグレネードよりもはるかに破壊効率が良い。
もちろん、グレネードの大規模破壊には及ばないが。
それを使ったラスカーは勝利を確信した。
一瞬で腕部を貫通、コクピットに直撃、また貫通。
敵は静止した。
「ライナーガトリングか。使えるな」
初めてそれを使ったラスカーは、ここまでの性能とは思わず、驚いていた。
「・・・こちらラスカー。目標の沈黙を確認。ただちにそちらに向かう」
通信をフウカに送った。
「いらない。もう終わる」
冷たく答えた。
フウカの相手は四脚AC、チェインガンを使っていた。
だが、フウカのACの高防御力と巧みな回避術によってそのほとんどは無効化された。
「しつこいね」
グレネードを構え、威嚇射撃に近い攻撃をする。
「あんたじゃ私に勝てない」
無謀に突っ込んでくるACをブレードで迎撃する。タンクタイプのACは、ブレード攻撃を当てづらいとはいえ強力だ。
それは四脚ACの足を二本切断し、機動力を奪った。だが、ブーストで逃げる。
フウカは飛び上がり、空中からグレネードで爆撃する。
足が二つ分減ったおかげで軽くなったのか、スピードは先程よりもある。
蛇のようにうねりながら進む。その横をグレネードの爆炎が襲う。
「すばしっこいね」
グレネードの連射をやめ、エネルギーキャノンを構える。それを今度はACの前方を狙い、撃つ。
地面に当たり、橙色のドームが展開される。
瀕死の敵ACはそれに触れただけでも動けなくなることを知っており、急停止した。
そこをすかさずフウカが襲う。砲撃でなく、すさまじい重量で押し潰そうとする。
獲物がそれに気づいたときはもう遅く。
ぐしゃりと音がし、機体の各部が軋みを上げながら湾曲してゆく。次第にスパークが激しさを増し、爆発する。
辺りに炎を撒き散らし、木々に火が点く。
フウカの機体メタルハザードが衝撃でわずかに浮かび上がり、その後ゆっくりと地面に着地する。
「こちらフウカ。目標の沈黙を確認・・・ボウヤはどうなったかしら?」
「いた!」
コクピット内で一人緊張するレア。
「邪魔をする・・・邪魔をする・・・邪魔をする!」
任務内容を反復する。
「邪魔をするッ!」
彼のACが茂みから飛び出し、輸送部隊に突撃する。
「うああああああああ!」
絶叫しながらライフルを乱射する。興奮のせいでセカンドロックもしないまま銃弾が飛んでゆく。
「何だあれは?」
MTの中でウェストの輸送部隊が困惑する。
「こちらで撃破できそうだが・・・囮か?」
レアの銃弾を簡単に避けながら仲間内で会話をする。
「かまわん!撃て!一斉射撃だ!」
「了解!」
MTが一斉にアームを構え、大量のミサイルが放たれる。
「き、来たぁ!」
レアのACギミーシェルターはほぼ全てのミサイルを被弾し、大量のAPを奪われる。
「うう・・・」
ギミーシェルターは突進を止め、ブレードを取り出す。
「うああああああ!」
再び絶叫し、前進しながらぶんぶんとブレードを振り回す。
「まさか素人か?」
MTのパイロットが戸惑う。
「確かに素人に見えるが、偽装かもしれん。全力で叩き潰すぞ」
またMT達はミサイルを構え、照準をギミーシェルターに合わせる。
「!」
レアは突然飛び上がり、今度は空中からライフルを連射する。
戦略性も何もなく、ただがむしゃらだ。これでは勝てるものも勝てないと納得できる。
「あああああ!」
絶叫は止まらない。
「うるさい奴だ。撃て!」
ミサイルの群れがレアのACに向かって行く。
「ま、またか!」
少年は慌ててブースタの出力をカットし、機体を自由落下させた。
その行動は少しの功を成し、機体に当たりそうだったミサイルの幾つかを相殺させることに成功した。
「危なかった・・・」
少年はカメラアイを頭上に見上げる。
「う!?」
爆炎の中から数個のミサイルが顔を出し、ギミーシェルターを襲う。
それらを被弾しながらACは着地する。すると、たまたまそこにいたMTを踏みつけ、一機ほど破壊した。
「残りAPが少ない・・・でも一つ壊せた!」
レアは初めての小さな勝利に喜んだ。
「貴様ァ!」
逆上した他のMTの一体がブレードをかざしてACに襲い掛かった。
ウェスト・レイのMT部隊は護衛ACを雇っていたため、武装は貧弱だった。
緊急用のミサイル、緊急用のライフル、緊急用のブレード。物資輸送用のため、軽量で装甲も薄い。
「ひっ!」
レアは目をつむってブレードを突き出した。そのブレードは刀身が長く、補助用の物だった。
それに対してMTの方はあくまでも緊急用のため、ブレードの刀身は短めである。
「ぐわっ!」
その結果、ACのブレードはMTを貫いたが、MTのブレードはACに触れることもできなかった。
「ふ、二つめ・・・」
レアは自分の力に驚いていた。正確にはACの力なのだが、少年はだんだんと自信が出てきた。
残り少ないAPのことを忘れ、少年は思った。
勝てる、かも。
「チッ・・・」
突如、猛スピードで一体のMTが突進してきた。
「隊長!」
他のMTパイロットが引きとめようとするが、それらを無視してACに突撃する。
「こ、こここ来い!」
レアは今度は目を開き、まともに迎撃しようとした。
「なめるなよ雑魚が!」
「あぅっ!」
ギミーシェルターのブレードはあっけなく弾かれ、機体にMTのブレードが突き刺さる。
ぎりぎりでコクピットには当たらなかったものの、コアの下部を貫かれ、FCS、ラジエータが破壊された。
「あ、あああ・・・」
レアの口からは言葉が出ない。彼のACのAP表示は0を示していた。熱かった機体はゆっくりとクールダウンする。
「二人も殺ってくれたな。覚悟しろ」
リーダー機と思われるMTのパイロットが告げ、小型ライフルをコクピットに押し付けた。
やっぱり駄目だった。
せっかく敵を二機撃破っていう自己新記録を打ち立てたのに。
ACの中で、少年はうつむいた。
「まずいな・・・目標補足」
メタルハザードは残弾数の少ないグレネードを構えた。今まさに、護衛対象が危機にさらされていたのだった。
「吹き飛べ」
その言葉に嘘をつかせない勢いで、巨大なる砲弾が放たれた。
レアの目の前でMTが轟音と共にバラバラに吹き飛んだ。
そしてそこは大爆発を起こし、衝撃波でギミーシェルターも仰向けに倒れた。
絶望に浸っていた少年は、突然の出来事に気を失ってしまった。
「大丈夫だったか?少年」
タンクACのパイロット、フウカが回線を繋いだ。
「おい、聞いてるのか?」
レアは完全に昏倒している。
「・・・死んだのか?・・・ラッド少佐、新入りは生死不明です。気を失っているだけのなのか、それとも・・・」
フウカはラッドにそう言うと回線を切り、
「本当に使い物にならないな」
本音を吐いた。
「イーストの兵か!」
敵MTが構える。
「兵・・・?ちょっと違うね。あたしらは・・・」
MTが一つ、グレネードによって粉砕された。
「ミッドガルドさ」
その後、フウカによる全敵勢力殲滅によって作戦は終了した。
下記は感想です。
参話目でやっと戦闘。これは長かったですね〜。
対話編と戦闘編で分ければよかったかな・・・?
特に言いたいこともないので感想はこれまでで・・・(疲れてるんで)。
次回予告
戦闘用でなく、実戦においてほとんど無力なはずのMTに惨敗したレア。
もう戦いたくない、自分は無力だと嘆き、苦悩する。運命からは逃れられない。
ミッドガルドの組員は彼に逃げることを許さず、冷徹な決断が下される。次回『夢の中、壁の外』。
作者:Mailトンさん
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