サイドストーリー

新世界ジハード 第四話『夢の中、壁の外』
「ラッド少佐」
「はい」
「あの少年は一体何だ?」
「何だ、とはどういう意味でしょうか」
「わからんか?」
「戦闘力の低さのことを指しているのですか?」
「違う」
「では何のことでしょうか」
「なぜここに連れて来た。例の実験なら見られても構わなかったはずだ」
「・・・すみません。私の手違いでした。処理しておきます」
「いや、いい。入ってしまったものはしょうがない。適当な任務に就かせておけ」
「・・・では私の直轄部隊にさせても?」
「好きにしろ」
「はい」
「それはそうと今から一時間後に俺は本部へ出発する。お前は第三支部だ。
計算だとあの辺りに来そうだからな・・・本部で用が済めば第三支部にも向かう」
「了解」
「もういいぞ。戻れ」
「はい」
ラッドは足早に部屋を出て行った。
「・・・・・・」
ザギリスは閉じられた扉をじっと眺めていた。そして、口元の端をつり上げた。
「手違い・・・?・・・ふん。お前の考えなど読めているよ」
誰ともなく呟く。
「安心しろ。こっちからは手を出さない」
そして、席から立ち上がった。レアをこの部屋に招き入れてから丁度24時間。
窓の外では再び夕日が沈みかけていた。


「私は第三支部に行く。お前はここ第一支部周辺地区、自宅でもいいな。そこで待機。
学校に行ってもいいぞ。呼び出しの場合は指定された場所に来い」
「はい」
「小戦はすぐに来るかもしれん。傷は充分に癒しておけ」
「はい」
「じゃあな」
ラッドは自前なのか、例の黒い乗用車に乗り込み、走り出した。
レアを眠らせたときも、第一支部に行くときもその車だったようだ。
「・・・またあれに乗らなきゃいけないのか」

少年は気がついてから、ずっとミッドガルドの特殊施設にいた。気絶してからここに運び込まれたのだろう。
レアはそのときのことは断片的にしか思い出せなかった。廊下ですれ違う人々は誰も少年を気にかけない。
「学校に行きたいって思う人もいるんだろうな」
廊下で窓の前に立ち、外の風景を見ていた。何の変哲もない景色。施設の前を行き交う人々。忙しそうに歩いている。
「歩いているときぐらい楽にすればいいじゃないか」
その人間に問いかけるようにレアは呟く。サラリーマンらしき男はそれを聞くこともできない。
「・・・そうだよね。みんな仕事があるんだ」
自分で納得する。話し相手がほとんどいない少年は、いつもこういう感じだったのだ。
「僕にだって・・・あるんだ」


「無様だな」
それは目が覚めてすぐのことだった。MTに惨敗したレアを見舞いに来たラッドがそこにいる。
「そうですね。僕は昔から無様です」
ベッドの上で楽天的にレアは言う。
「だから無様と言っているんだ」
「そうですか」
レアはラッドから視線をそらし、壁を見つめた。降りしきる雨の音がその場の沈黙を紛らわせている。
「次回からは真面目にやれ」
「・・・真面目ですよ」
少年は目をつむって言う。
「まぁいい。次は勝て。そうでなければお前が存在する意味がない」
少年は急にラッドの方に振り向き、
「意味って!・・・意味って何ですか!僕はあなた達に勝手にここに連れて来られて・・・
戦えって言う方が無理ですよ!・・・僕は!僕は弱いんだ!」
「それだけ吠えれば充分だ」
「充分って何がですか!」
「気力だ」
「そんなものが何の役に立つって言うんですか」
「・・・やめたいのか」
「当然ですよ!僕じゃ死ぬかもしれないんだ!」
「死ぬかもしれない?嫌な理由はそれだけか?」
「それ以外に何があるんだ!」
会話が噛み合わないことにレアは苛立ちを覚えていた。
「・・・そうか。なら、見せてやる」
「?」
急にラッドは態度を変え、レアの腕を持った。
「自分で立てますよ」
レアはしぶしぶと立ち上がり、スリッパを履いて歩き出した。
「地下のAC格納庫に行くぞ」
「ここにもAC格納庫があるんですね」
「ミッドガルドに関係する施設は全てAC格納庫が備えてある」
「準備万端ってわけですか」
「そうだ」

AC格納庫に着くと、レアは壊れかけた人型物体を目の当たりにした。
各部に大穴が開き、頭部、両腕、片脚が無くなっている。
体のあちこちが黒く焦げていて、それが何を意味するのか少年は悟った。
「これ・・・ACなんですか!?」
「ACだ。何を驚く」
少年の質問に、ラッドは答えをわかっていながら問いを返した。
「こんなボロボロに・・・一体どうやったらこうなるんだ」
外見からしてこれは軽量級だ。腕部は無くなっているのでどうだったか知らないが、
最高出力OBコア、最軽量二脚を見ると、高機動をメインに戦うタイプのACなのだろう。
「ウェストの高火力MTの集中砲撃だ。このACは、それを全弾受けた」
「この構成で!?・・・生きてるんですか?」
レアは信じられない、といった口調だ。
「奇蹟的にも中のレイヴンは生きている。今は集中治療室だ」
ラッドはACの残骸を見ながらレアに言う。
「・・・僕と同じで操縦が下手なんですか?」
レアはなぜこのAC格納庫に連れて来られたのかを理解したように聞く。
自分と同じ素人レイヴンと会って友達になれとでも?
それでお互いの惨めさを慰め合えとでも?
「勘違いするな。あの子はお前と違って天才だ」
「?・・・じゃあなんでこんなになったんですか?」
「護衛だ・・・ザギリス司令長官が本部に帰還する途中、ウェストの残党に襲われてな。
敵部隊の殲滅を図ったのだが、思うように敵を倒せないうちに凶弾が司令のトレーラーに当たりそうになった」
「・・・まさか!」
「そうだ。全弾命中した・・・ACにな。そうするしか防ぎようがなかったのだ」
「そんな・・・」
「その後、他の護衛部隊が到着してなんとか敵を殲滅した」
「・・・・・・」
レアには返す言葉がなかった。
「集中治療室ってどこですか?」
少年が何気なく聞いた。
「会いたいのか」
ラッドが無表情に聞く。
「会わせてください」
「今は面会謝絶だ。だが、顔ぐらいなら見せてもらえるかもしれんな」
彼がは珍しく少年の希望を尊重する。
「見るだけだが・・・お前にはいい薬になる」

窓越しにはいろいろなチューブが繋がったベッドの上で寝ている少女の姿が見えた。
心音表示機や呼吸マスクがあるところからして、いかにも重症人に見える。
かすかに呼吸マスクが曇ったりしておりちゃんと息はある。
しかし、レアが見ているのはそこではなかった。
患者衣を着ているものの、その隙間から身体全体に包帯が巻かれていることがわかる。
染めたと思えないこともないが頭髪は綺麗な茶髪で、その隙間にも血痕が浮かび上がった包帯が露出している。
いつものレアなら、この顔なら学校で男子から人気あるだろうな、ぐらいしか考えないのだが今は違う。
自分と同じぐらいの年齢で死に掛けてまで、上官を守った。
同じぐらいの年齢で。
「お前と同い年だ」
案の定、ラッドがそう言った。
「僕もそう思いましたよ」
レアは雷に打たれたような顔をして、ぼそぼそと言う。
「・・・なんでこうまでするんだ。本当に死んじゃうよ」
「彼女にはそうするしかなかったのだ」
「そんなわけないじゃないですか!逃げたりできるよ!・・・なんで逃げないんだ・・・」
「役割だからだ」
「・・・役割って・・・護衛対象を守ることが・・・?」
「そうだ」
「・・・立派なんですね」
少し悲しそうな顔をして、レアは言う。
「立派だ。だが、お前はどうだ?」
虚を突かれて少年は戸惑う。
「僕は・・・」
口がうまく回らない。
「お前にもわからない。我々にもだ」
ラッドが突然言った。
「・・・?」
「役割と言うものは、自分で決めるものだとお前は思っている。そうだろう」
「・・・はい」
「大抵の人間がそう思っている。真実を知らないのだ。だが、シイラは知っている」
シイラというのはおそらくこの少女のことだ。
「役割とは、はじめから決められていることを。そしてその運命からは逃れられない
ということも」
「・・・・・・」
「彼女の役割が何なのか、それはシイラ自身しか知らない。ただ、彼女はそれに向かって進んでいる」
レアは何も言わず、ラッドが喋り続ける。
「お前は、どうだ」
再びラッドが問う。
「僕は、わからない。でも、ミッドガルドに入ったのは役割なんでしょうか。ここに僕の運命があるから、なんでしょうか」
レアが問い返す。
「わからん。自分で決めろ。これがお前の役目なのか、その目で見定めろ」
「・・・・・・」
沈黙。
「・・・俺は仕事がある。お前はもう帰ってもいいぞ」
ラッドはそう言うと、集中治療室を出て行った。
レアは顔を上げ、少女を見た。
すると、シイラの目がうっすらと開いた。そして、ごく自然に頭をレアの方に向けた。
睨まれているような気がしてたじろいだ少年は、睨み返すように少女を見た。
シイラの口が何か言ったように見えたが、厚いガラスに遮られているため、レアには何を言ったのかわからなかった。
すぐにシイラは頭を元に戻し、目をつむった。
また開くのではないかと思っていたレアは、じっと少女の目を見ていたが、再び開くことはなかった。
「・・・行こう」
独り言を言い、少年は立ち去った。

集中治療室内でシイラが再び目を開けた。横を見たが、窓の向こうにはもう誰もいない。
そしてもう一度言った。少年に言ったのだが、聞こえなかった言葉。
「無様ね」


そして、今。少年は窓の外を眺めている。ついさっきまで降り続いていた雨は止み、
外には人が。
「僕の仕事は、うっすらとぼやけていて・・・」
言葉を切る。
「何が何だかまったくわからない」
そう言って少年は踵を返し、とぼとぼと歩き出した。


次の日、レアは学校に登校した。一日ほど欠席扱いになったのだが、誰も気に留めなかった。
いつも通りに、教室の一番隅に座り込む。膝を抱えて目をつむり、考え事をする。それが少年のいつもの日課だ。
「発進!ジョスター号6世!」
そう言いながらクラスのムードメーカーであるジョスターが、自作の紙飛行機を投げる。
それはくるくると奇妙な軌跡をたどり、見当違いの方向へ飛んで行く。
「どっ、どこへ行く!」
ジョスターが自分で飛ばしておきながら追いかける。白い紙飛行機は予測不能の軌道に乗って進み、なかなか地に落ちない。
「ああ!そこはデンジャラスゾーンだ!」
ジョスターが悲鳴を上げ、紙飛行機が女子生徒の頭に当たる。力をなくした紙飛行機は、ぽとりと床に落ちた。
それが頭に当たった女子生徒が、紙飛行機を拾い上げる。
読んでいた本にしおりを挟んで閉じ、立ち上がる。
「あんたさぁ・・・」
その女子生徒、ユイアが紙飛行機を広げ、呆れた声で言う。
「これって昨日のテスト用紙じゃん。どーせ点取れないんだから、これ使って復習でもしたら?」
そう言ってひらひらと紙を指に挟んで揺らす。周りの生徒が笑い出す。
「う、うるせえな!余計なお世話だ!」
ジョスターが折り目のついたテスト用紙を取り返そうと腕を伸ばす。ひらりとそれを避け、
「悪い子には罰を与えなきゃね」
手のひらでテスト用紙を握りつぶし、団子状態にする。
「て、てめえ!それじゃ復習のしようがぶっ!」
団子になった紙を、ユイアがジョスターの顔面に投げつけたのだ。
「どうせしないんでしょ。それに、紙ってのは書いてあるもんが読めりゃいいのよ」
いたずらっぽく微笑みながらユイアが言う。
危うく口に入りそうだった紙団子を払いのけながらジョスターが反論する。
「ほぉう・・・そうかい。だったらこうしてくれるわっ!」
ジョスターはユイアの読んでいた本を掴み、適当にページを開いた。
「ま、まさかあんた!」
ユイアの顔が蒼白になる。
「もう遅い!はっはっはァ!」
数枚のページを強引に掴み、握り潰してぐちゃぐちゃにする。
「こっ・・・このクソ猿がぁあ!」
ユイアが涙目でジョスターの顔を思いっきり蹴り上げる。
「ぐふっ!」
「高かったのにぃい!」
頭を仰け反らせたジョスターをさらに追撃する。
「イテェ!書いてあるもんがわかりゃいいって言ったのはどこのどいつだよ!」
「知らないわよ!」
クラスメートの痴話喧嘩をレアは何気なく傍観していた。
騒いでいる彼らを見ても、楽しそうとしか思えず、特に仲間に入れて欲しいとは思わなかった。
それに、入れてもらえないだろう。
再び眼を閉じ、外を見ることを拒否する。
学校での一日はあっという間に終わった。


家の前に来て、少年は足を止めた。
「久しぶりに家に帰ってきたような気がするな」
そう言うと、家のドアを開き、中に入った。
彼の家には生活に必要な最低限の物があるだけで、そこに居ても何一つ楽しいことはなかった。
安物の造り、安物のトイレ、安物のシャワールーム、安物の台所、安物の冷蔵庫、安物のベッド。
だが、そこに蛍光灯はなかった。
もともとはあったのだが、レアは無駄に資金を使いたくなかったので点けないことにしていたのだ。
冷蔵庫にしても電源は入っていなく、ただ食物が貯めてあるだけである。
学校の残り物や、近所の親切なおばさんが作ってくれる食べ物を置いてある、冷蔵庫の役目を果たしていない物。
虚弱な少年で、あまり物を食べない。家賃は両親が残した財産でなんとかしていた。
学校に許可を取ってアルバイトをしているため、水道代やらはそれで養う。
それがレア=ヴェイの生き方だった。
「ふう」
ごろんと床に寝転がってみる。掃除もしていないので埃が少年を取り巻いていた。
不衛生極まりないこの場所で、急にレアは眠たくなってきた。
「少し・・・少しだけ・・・」
そして、深い眠りに堕ちる。

”きもちいいね”
少年は草原を歩いていた。
”そうおもうよね?”
レアの横を歩く、大きな男。なぜか頭の辺りにもやがかかっていて顔が見えない。
しかし、それが誰だかレアにはわかっている。
”え?そうなの?”
音無しのこの空間で、少年は誰かと対話しているようだった。
もちろんその相手は少年の横の男しかいないわけだが、そこから音というものは何も発されていない。
いや、聞こえないのだ。
”ふーん”
どうやら言ってることさえもレアには理解できているようだった。
”いままでなにをかんがえてたんだろ”
緑の中を歩いてゆく二人は、何かに誘われるように一つの方向に向かってゆく。
”聞いているのか?”
急に男が音を出し、レアに問いかけた。
”あ!なおったんだね!”
少年の顔が明るくなる。
”おい!レア!”
突然男がレアの胸倉を掴み、顔を近づける。もやがゆっくりと晴れてゆき、男の顔がはっきりと見えてくる。
”あぁ!お、おまえは・・・”
突然少年の顔が恐怖に歪む。
男の顔は、右目が金色で左目が銀色だった。

「おいレア!聞こえるのか!?」
目を覚ました少年は、自分の通信機が大音量で怒鳴っていることに気づいた。あわててそれを掴み、返事をする。
「す、すみませんラッド少佐!寝てました!」
「聞こえるならいい。今すぐ第三支部に来い。道は昨日教えた通りだ。心配なら地図を使え。以上」
「了解!」
そして、通信は切れた。
寝起きを装った喋り方をしたが、今はそれどころではなかった。
ラッドに殺されそうだったとき、見た一瞬の夢。それに出てきた死神。その顔は、一瞬だけ見えていたのだ。
右目が金色。左目が銀色。
金銀異眼。
先刻の夢に出てきた男の顔と一致する。今は亡き父親と思って話しかけていた男は夢の中の死神だったとは。
「違う・・・僕の父さんはあんなのじゃない・・・」
だが、自分の父親の顔を知らない少年が自分である。
レアは頭を振るう。そうすれば、心に留まる悪夢を振り払えそうな気がしたからだ。



第三支部は、第一支部の次にレアの家から近い。
しかし、支部同士は近いといっても結局はレアの家からは遠く、国鉄を使えど時間がかかる。
国の規模で見ればなぜこんなに第一支部と第三支部が近いのかというと、
この近くには多くの敵軍進入ポイントが多くあるそうだからだ。よって本部の部隊でも大抵ここらの支部に派遣される。
第三支部に呼び出されたというのは、おそらく敵襲だ。
「また戦闘か」
そう呟きながらレアはセキュリティゲートをくぐった。
心臓近くに埋め込まれたライフメーカーを認識し、門が開く。
この時代によくこんな大層なものを作る金があるものだ、と少年は思う。
ラッドは今すぐと言ったが、1時間もかかってしまった。門が完全に開くと、そこにはラッドがいた。
「遅い。もう全員集まっているぞ」
「すみません・・・これでも全力を尽くしたつもりです」
「お前はあそこに住んでいては不便だな。この辺りに住むか?」
「・・・住めるんですか」
「いや、支部にそのまま滞在するか?」
「学校はどうするんですか」
「特別休暇にできる。それよりも行くぞ」
ラッドは歩き出した。
「また敵襲ですか?」
「戦いは始まってはいない。情報を入手した。それだけだ」

第三支部は第一支部よりは大きな建物で、それなりに綺麗にしてある。
廊下も広く、すれ違う人も多い。ラッドが部屋の前に立ち、扉を開けた。
「遅くなったな」
そう言って、レアを中に入れた。部屋内には五人の男女がいる。その中には、見覚えのある顔が一つあった。
「よぉ。お前がレアか。想像通りの人物像だぜ」
その声は、この間の作戦でフロートACを駆るラスカーのものだった。
髪は金色に染め上げており、肩に届く程の長髪である。声と同じく軽薄そうだ。
「まったくだ」
そういった女は、レアを助けたフウカらしき声だった。
髪は男のように短く、鋭い目つきは軍人の様だ。腕組みをしているその仕草がまた似合う。
「今回から本部直轄部隊のレア=ヴェイだ。まだここの規律など全然わかっていない。
そうだな・・・シイラ、同年代のお前がいい。こいつにいろいろと教えてやれ」
ラッドが隅にいた少女、シイラを指名する。その顔がレアの覚えていたものである。
「了解」
小さな声で返事をする。
「えっ?僕が本部直轄って」
ラッドは何か言おうとしたレアの口を叩き、黙らせる。
「さて、新入りの紹介は終わりだ。今回の作戦内容を教える」
そこにいる全員の顔が引き締まる。ラッドの陰にいる少年は口を押さえてうずくまっていた。
「ミッドガルドはウェストのある情報をキャッチした。
それはボダミア平原の地形座標調査を実行に移すというものだ。
なぜそんなことをするのかわからないが、ウェスト・レイのメリットになるであろうことは確かだ。
ウェストにメリットをやる必要はない。国の存亡に関わることかもしれん、我々はそれを阻止する」
ラッドがざっと作戦の経緯と簡単な目的を告げる。
「今回は前回と違ってACが来るはずだ。座標調査はACでも充分可能だからな・・・では配置を指定する。
A−3の最前線にフウカとラスカー、G−7にエルロットとシリル、I−5にシイラ、
最奥部のZ−9に俺とレアだ。基本的には配置から動くな。援護が必要なときは救援信号を出せ。
開戦は3時間後の午後11時だ。ここに集合は午後10時30分。以上、解散」
作戦の詳細を述べ、ラッドは手帳を閉じた。
「フウカ、最前線だってよ」
ラスカーがのんきな口調でフウカに言う。
「気負うな。敵は最前線から来るとは限らんからな」
彼の方を見ずに返答する。
「へいへい。・・・さてと、メシでも食いに行こうかね」
そう言ってラスカーは伸びをしながら行ってしまった。
「そうだな」
フウカも同意し、ラスカーの後に続く。
「AC・・・望むところだ。おいシイラ、また単独配置かい。信頼のお厚いことで・・・ヒヒ・・・」
エルロットと呼ばれた小柄な男が下卑た笑いを浮かべながらゆっくりと歩き出す。それに伴ってシリルも進む。
「行きましょ」
エルロットの言うことを完全に無視しているシイラがレアにそう呟いて、皆に習って歩き出す。
「あ、うん」
呆けていたレアもシイラについて行く。
振り返らずに。
ラッド唯一人が部屋に残された。
「ウェスト・・・何を企んでいる」
そして、最後の一人が部屋を去った。

「シイラさんはさ、何が仕事・・・役割なの?」
屋外に来た二人。レアはベンチに腰を下ろしてシイラに問いかける。以前ラッドから聞かされていた。
彼女には役割があると。それをレアは知りたくなったのだ。
「ACに乗って敵を倒すこと」
「そういうわけじゃなくてさ・・・」
まるで見当はずれの答えを返すシイラにレアは口ごもる。
「じゃあどういうわけ?それとさん付けしなくていいわ。私は君付けしないから」
夕日を眺めているシイラは少年を見向きもしない。
それが通常だ、僕は人に見られながら会話をしないんだ、と納得しているレアがいる。
夕日は出会いを引き寄せるのか。今まで彼が誰かと会うときは、必ずといっていいほど空に夕日が浮かんでいたのだった。
「なんか・・・運命っていうのかな?そんな感じのやつ・・・」
運命などと誰も証明できていない理論を述べる自分が馬鹿らしくなったレアは、シイラを見るのをやめて地面を見た。
「運命・・・?知らないわ」
「でも、シイラさ・・・シイラは知ってるってラッド少佐が言ってた」
否定するシイラにレアは反論する。
「そのこと?」
「そのことって・・・うん、多分そのことだよ」
「それなら、私は知っているのかもしれないわ」
「何?」
シイラがレアの方を向き、紅い瞳が少年の目を射抜く。レアは、少しだけどきりとした。
「見ること」
「何を?」
レアは問い返すばかりで、彼女の言っていることがまったくわからない。
「知らない。あなたと同じで」




下記は感想です。

話なのに長〜い。しかも新キャラ出すぎ〜。←この書き方うざぁ〜い。
ああ、だんだん感想の文章が短くなってゆく・・・だってめんどくさ(略)
↑だったらやめりゃいーじゃん。
↑バ、バカヤロー、後で書きたいこと出てきたらカッコつかねぇじゃんか。
↑出てこなかったら?
↑・・・・・・。
・・・終わりです。

次回予告
二度目の戦闘指令。少年は決意を抱いて戦いに挑むが、今回の相手は前回程甘くはなかった。
打ちのめされるレア。ウェスト・レイの兵力であるACがボダミア平原に進行、そして謎の調査を行う。
繰り出される新兵器、立ち向かう東の戦士達。広がる爆炎は野原を舐め尽くし、全ては炎の渦の中へ。
そして絶対絶命のレアの前に現れた影とは?次回『アザーサイドの面々』。
作者:Mailトンさん