サイドストーリー

DIVINE KNIGHT 〜序章〜
「よく来たな…」
 見渡す限りの荒野、そこに2体のACが居た。
一体は重量級二脚AC「カースディア」。重々しく、黒を基調としたカラーリングが、
歴戦の兵(つわもの)としての風格を出していた。
 もう一体は安価な中量級二脚AC。グローバルコーテックスから支給されたばかりの、
お世辞でも『使いやすい』とは言えないACだった。
「審査官のメノス・クラウだ。わざわざ来てやったんだ、感謝しろ。」
 一見優男風のこの男、口は悪いが嫌味や高圧的には聞こえなかった。
単に面倒くさいだけといったかんじだった。『子供みたいな人』そう思った。
「このミッションは貴様のレイヴンとしての適正を測る為にある。
無様な姿を見せないようにするんだな。」
 言葉の内容の割には、かなり気だるそうに言っている。
やる気あるのか?この人。
「当たり前だが、俺は一切手伝わん。オペレートはしてやる。
目標はMT10体オーバー。正確な数は解らんが所詮小型だ、問題無いだろう。」
 それだけ言うとメノスはさっさと作戦領域外に出て行った。
「最後にこれだけは言っておく。死ぬな。」
 意外だった。メノスからこんな言葉が聞けるなんて。
こいつ…案外いいやつ?
「死体回収なんて死んでもゴメンだからな。」
 前言撤回。最低だ。気を取り直して出撃することにした。
『システム キドウ』
 機体の心地よい振動が荒々しくなる。
子気味よい起動音が操縦桿から伝わってきた。
一通りの余韻を噛み締めて、一気に戦場へ向かった。

 戦闘は意外と楽だった。確かに数は多かったが、
分散された配置だったため囲まれることはなかった。
一体ずつ、的確に撃っていけばいい。
 既に30体ほど倒したが、いっこうに減る気配を見せない。
正直うんざりしてきた。なにが10体だ、幾ら何でも多すぎだろ。
「油断するなよ。まだ敵はじ…体以じょ…ん?…つ…信……常…」
 突如メノスとの通信が途絶えた。通信機に故障は見られない。とすると
「ジャマーか。」
 さらにレーダーになにも映らなくなった。
そして、それと同時に辺りが暗くなった。
日の入りにしては早すぎる。案の定、それは機影だった。
空を見上げると、あまりに巨きいものが浮いていた。
空中要塞。まさにそう呼ぶに相応しい兵器だった。
頭部と思われる個所が三つある。まるでキマイラだな。
相手の戦闘力は不明。撤退も考えていた。しかし、レイヴンとしての闘争心。
キマイラに対する好奇心。そして、自分自身の腕に対する探究心がそれをためらわせていた。
「俺も早死にするタイプだな。」
 異変に気が付いたのはキマイラに向かおうとした後だった。
何者かと交戦した後らしく、所々煙を上げていた。よく見れば壊れているパーツもある。
さらに、まだキマイラと何者かの戦闘は続いているらしく、
キマイラはゆっくりと旋回した後、三つの口と思われる部分から次々とグレネードを発射した。
あまりの爆風で、相手の姿を確認することは出来なかったが、恐らくレイヴンだろう。
あんなのと戦えるのはレイヴンしかいない。
今のでやられたか?違った。次の瞬間、凄まじい猛攻がキマイラを襲った。
その攻撃の激しさは、恐ろしくもあり美しくもあった。
じっと見入ってしまい、全く動けなかった。
瞬く間にキマイラは瓦礫の塊と化した。
しまった。どうして何もしなかったんだ。

 機能障害の基はこいつだったらしく、通信、レーダー、共に回復していた。
「よお、あんな化物が来るとは予想外だったな。
よく生きてたもんだ。とりあえず帰還しろ。」
 早速メノスからの通信が入った。
「断る。」
「ちょっ!おい!なに考…」
 それだけ言うとメノスとの回線を断った。
残念だった。是非キマイラと戦ってみたかった。
悔しかった。傍観しか出来なかったことが。
既に試験のことなど頭に無かった。
こうなったら相手ACの顔だけは見ないと気が済まない。
よくもまあ見事に倒してくれたものだ。
 徐々に煙が晴れ、ACの姿を確認できた。
自分の目を疑った。そのACは全くの無傷だった。
あれだけの大きさを持った兵器なら、相当の火力だっただろう。
その攻撃をすべて躱すなんて…かなりの腕を持ったレイヴンなのだろう。
 煙の中から現れたのは中量級二脚AC「ムゲン」。
そう、言わずと知れたアリーナのトップランカーだ。
今、そいつが目の前にいる。
「一人であいつを倒したのか?」
 思わず話し掛けてしまった。トップランカーが高高新人レイヴンに興味を示すわけが無い。
「そうだが?」
 驚いた。どうせ無視されると思っていた。
どうやら変な先入観に取り付かれていたようだ。反省しなきゃならないな。
「相手…してくれないか?」
「やめておけ、どうせかすりも…」
 荒野に響く銃声。そしてムゲンについた銃創。
「かすりも…なんだって?」
 そう、右腕に持ったライフルでムゲンを撃ったのだ。
「そこまで言うなら相手をしてやろう。後悔するなよ。」
 不意打ちとはいえ、このことは彼のプライドを傷つけたらしい。
こちらの誘いに乗ってくれた。後は戦うだけだ。
しかし、今自分自身が震えていることに気が付いた。
今更怯えている?
「…名はなんと言う?」
 我に返った。ちがう。
「人に名前を聞くときは、まず自分からだろ?」
 そう、怯えてなんかいない。
「ふっ…そうだな。俺の名はメビウスリング。」
 これは…
「カイ。カイ・ジングウだ。」
 武者震いだ!
「カイ…失望させるなよ。では、いくぞ!」

つづく
作者:raulさん