サイドストーリー

第二話 非日常的
コンビニで、好物のサンドイッチをひとつ、
そして、これも好物の炭酸飲料を買ったセインが出口へ向かう。
すれ違う人。
あれも、これも。
どれだけ、自分と同じ職業の人がいるだろうか。
レイブンは希少とまではいかないが、
めずらしい職業ではある。

このすれ違う人たちと刃を交える日はくるかなぁ・・・

AC。無骨な機械を通して、互いにレイブンとして初めて、
わりきった殺し合いの中で出会うなら、
それはしかたないと言えるだろう。
しかし、もしかしたら次のミッションで互いに敵同士、
刃を交えることになるかもしれない・・・。
セインの気持ちは少々複雑だった。

ドアに手をかけ、押して開けようとしたとき、
ちょうどそのときに入ってきた男性。
20代後半だろうか。別に気にしないでいつもならとおりすぎるのだろうが、
セインの目にその男性は異常にまとわりついた。

どこかで見た気がする・・・。

記憶はいつでも曖昧である。
必要な情報を、必要な時に送ってはくれない。
セインはもどかしかった。
何か、かならずあの男にはある。
セインとなにかしらのつながりが。
気になり、少し観察してみようと思ったが、
今日は天気がいい。
そんな気味の悪い観察をするよりは、
陽の当たる公園で買ったサンドイッチを食べたほうがいいだろう。
セインはもどかしい気持ちを振り払うように、
少し大げさにドアを押した。

公園は近い。横断歩道を渡ってすこし歩けばそこにある。
歩きながらセインは、
さっきの男のことを思い出そうとしていた。
記憶を検索する。
曖昧な情報ばかり。これといったものが出てこない。
曖昧をハッキリとさせるキッカケが必要だ。
セインは思った。
もう考えるのは無駄だろう。
検索を止め、何を考えるわけでもなく、
公園へと向かった。

公園には、小さい子供達と、
母親であろう女性達がいた。
幸せそうな声。セインにはとうてい縁がない。
こんな日常的なことよりは、
戦場で覚える、ACの駆動音や、
弾丸のかする音。破壊される音。
ときどき、受信してしまう断末魔。
それらのほうが、記憶にこびりついてしまう。
この、今目の前にある幸せな光景を、
いくら覚えようとしたところで、
次の戦場での出来事で上書きされてしまう。

僕にとって、日常に生きることが本当に難しい・・・。

そう思うと、なぜか悲しかった。
セインとてまだまだ若い。
未来だってこれからだ。
それなのに、レイヴンとして活躍し、
未来を一発の銃弾でかき消されるかもしれない仕事をしている。
日常に生きて、笑い、友人と話し、
当たり前のことに何気なく反応し、
ときには怒り、ときには泣いて・・・。
そんなことはもう、セインには無理なのかもしれない。
セインも理解しているのだから。
レイヴンとして、生死を自らのテクニックとACに託し、
セインは生きる。
日常に生きる人たちから見れば、
「非日常」に生きる。

ベンチにすわり、横にコンビニの袋を置いて、
サンドイッチを取ろうとした瞬間。
自分に当たる日光をさえぎる人間が現れた。
なんだなんだと、セインは見上げた。

さっきの男。

セインの目に異常にまとわりつき、
記憶を検索させ、曖昧な記憶ばかりを排出させたあの男。

「姉は元気か?」

男が言った。

思い出した・・・この人は・・・
作者:ライネケさん