サイドストーリー

第三話 透明少女
カメラに写るのは、
市街地を蹂躙するMT。
今、少女はそれを狙う。
MTを撃つのは自分ではない、
鉄の機械、ACがやるのだと、
さっきから頭でグルグル廻る。

撃たねばならない。
撃たなくてはならない。
撃たなければならないのか?

かならず残る疑問符。
迷いを捨てきれない少女は、
引き金を引くのをなんどと躊躇う。

間接的な殺人。

少女はこれを嫌がった。
ナイフで刺す。銃で撃つ。
首を絞める。薬物を飲ませる。
追い込む。脅す。
実際の社会。ACを降りた場でなら、
それは正当な判断を下され、
法に裁かれる。
が、
たかが鉄の機械に乗っているだけで、
それは合法となる。
その「合法」が、少女を悩ませる。

耳には、
撃つことを催促する声。
頭には、
撃つことを躊躇う思考回路がグルグル廻る。
何かで気を抜けば、
一瞬でぶち切れてしまいそうな、
そんな線ギリギリの思考。
少女には辛すぎた。

家計が苦しい自らの家。

たったそれだけの理由で、少女はレイヴンになろうとした。
そして、今、試験のまっただなかにある。
合格し、レイヴンとして仕事をこなせば、
家計を助けてあげられるかもしれない。

が、
少女にはやはり辛すぎる。
そんな、「助ける」というヤワな正当化の道具で、
人殺しを・・・。
法には裁かれぬかもしれないが、
自らにへばりつく「殺人者」のレッテル。
いかに、間接的で、
仕事上のことで、やらなければならないことで、
そんなことをいくら並べても。
少女はいまだに引き金を引けない。

耳には、不合格になる、
という声。
もう、試験を実施する側としては、
やってもらわなくては困る、といった様子が漂う。

少女は迷う。
悩む。苦しむ。
心を鬼にはできない・・・。

家を助けなくて良いのか?

お前は殺人者になりたいのか?

繰り返される自問自答。
二つの答え。

助けたい

なりたくない。

二つの答えを持つゆえ、
少女は苦しんでいた。

もう、目には涙すら浮かぶ。
答えのでない、
自らの将来を決める計算式が解けない。
いくら、正当化という解くための道具を使っても、
「殺人者」の答えがなくならない。

連立する二つの答えに悩む少女に、
追い討ちをかけるように、
狙われたMTが、逆に狙う。
動かないACを狙い、
このまま直撃すれば、
ACは機能停止に陥ることを確認し、
MTはロックオンをした。

少女の乗るACは動かない。

動かないACを狙うMTは、
無常にもロックオンを終えた。
いまにもミサイルが打ち出されようとしているとき、

少女の視界に一筋の光が見えた。

二つの連立する答えを無視して、
少女はまったく新しい答えを出した。

ヤらなければヤられる。

少女は答えを出した。
連立する答えを考えるのは後にまわす。
少女は今を生き延びることに決めた。

ミサイルが発射された。
煙の尾を引き、少女に向かうミサイルを、
少女のACが迎撃した。
打ち落としたことを確認すると、
少女はトリガーを引く。
引く。引く。
何度も引いた。
リロードの関係で、トリガーを引いても、
その回数分だけ弾丸が出るわけではないが、
彼女はトリガーを引き続けた。

MTは動くのをやめた。

少女も引き金を引くのをやめた。
まだMTはいくらかいる。
そのMTを倒しに行く前に、
少女はまた連立する答えを考える。

汚れのない、無垢すぎる心ゆえの苦悩。
限りなく透明な・・・。
レイヴンの世界には似合わぬ少女。

透明少女は、
答えを探す。

きっと、永遠に悩み続けるであろう答えを・・・
作者:ライネケさん