サイドストーリー

残された保険
ある朝の街、とても立派とは言えない一軒の家の一室で、
警報のような音が鳴り響く。
ピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピ
「だぁぁぁっ! うっさい!!」ガシャン
その男は拳でその音を発していた機械を叩き壊す。
デジタル式の時計だ。
「むぅ・・・ またしても誤作動か・・・」 違うと思う。
彼は『アマダ』アリーナ上位に位置するベテランレイヴン。
今日は休日としていたはずが、目覚まし時計の誤作動(人為的ミスと思われるが。)
により、いつも通りの時間に起きてしまった。まぁ、良くあることだ。
眠たそうな目をこすり、パソコンの端末を開く。
『二通の新着メッセージがあります。』
「マジかよ・・・ 休日だってのに、依頼は来てないよな?」
恐る恐る一通目を開く。
『ミラージュ 新ラインナップ追加
 我が社のラインナップの増加を連絡しておく。
 AC用右腕武器、
 型番は MWG-KARASAWA だ。
 これは日頃から我が社に貢献してくれる
 諸君にのみ、提供するものだ。
 性能はショップで確認して欲しい。』
「おぉ♪」
機嫌が良くなったのか、もう一つのメールも開く。
「げ・・・」
『キサラギ 依頼
 レイヴン、緊急の依頼だ。我が社の管轄するセクションに
 突如謎のACが現れた。現在もなお市街地で破壊を続けている。
 そこでこの依頼を受けて欲しい。君はそのACを撃破し、
 これ以上の被害を食い止めてくれ。こちらからもレイヴンを一人送る。
 実戦経験は浅いが腕は確かだ。協力して行動してくれ。
 なお、このメールを見た時点で作戦は開始されている。
 少々手荒かもしれないが、本作戦は絶対だ。すぐにガレージへ迎え。』
「強制かよ・・・」
眉間にしわを寄せつつもガレージに向かう。
外には既に輸送ヘリが着いていた。
「準備のいい奴等だ・・・」
ショップで新しくKARASAWAを買うと、愛機に持たせてヘリに搭乗した。

「あ、レイヴンってお前だったのか。」
『おぉ。久しぶりだな。』
彼の名はフェイ。レイヴン試験の時にアマダと同期だったらしい。
接近戦を主体とするインファイターだ。
出発してから二十分ほどで目的地に到着し、ヘリを降りる。
ヘリは逃げるように急に高度を上げ、霧の中に消えていった。
かなりの荒れようだ。一般人は既に避難を済ませている。
オペレーターから連絡が入った。
『どうやら・・ が妨害電波を発し・・・ 暫くは連絡が・ザザ れそうもありませ・ザザザザ・・・』
通信がノイズで埋め尽くされ、何も聞こえない状態になる。
フェイとは至近距離の為辛うじて通信が取れるようだ。

ドゴゴゴォゥ・・
突如として目の前のビルが倒壊し、その影から問題のACが飛び出す。
アマダは目の前に立つACを観察する。
四脚でマシンガンタイプの武器腕、それに肩には大型のEN砲・・・
頭部は独特のフォルムの003型。どす黒い青と紫味がかった灰色を基調とする塗装。
「こいつは・・・ 実働部隊!」
『実働部隊!? あの、管理者直属の?』
「あぁ。あの色調、装備、前に本で見たことがある・・・ エンブレムが違うようだが・・・」
その機体のエンブレムは、管理者そのもののエンブレムと同様のものだった。
上部に記された、"001"の数字を除けば。
『でも、管理者はとうの昔に破壊されているはずでは・・・ 何故今さらになってこいつが?』
「どうもそんなことを考えてる場合じゃあ無さそうだな。」
相手のACは肩のリニアキャノンを真っ直ぐこちらに向けていた。
もちろん、直弾してただで済む攻撃ではない。
『いくか。』
「あぁ。準備はどうだ?」
『言いも悪いもないだろ。』
「そうだな。  散れッ!!」
両機は高速でその場から離れると、相手を挟むように攻撃を開始した。
一方相手は、EOや武器腕で双方を同時に攻撃する。
「甘いッ!」ガスッ!
アマダが急接近し、右腕のKARASAWAで思いっ切り殴り付ける。
不意を突かれて直弾したACは大きくバランスを崩し、いささか焦ったように
体勢を立て直す。教科書に無いことが起こるのが戦場だ。
今の攻撃で武器腕の左腕が故障したらしく、残った右腕とEOで弾幕を張り、
ブーストダッシュで後方に逃れた。予想通りの動き。
後ろではフェイが月光を構え、この時が来るのを待っていた。
『喰らえ!!』
その突きは的確に相手のコックピットを貫いていた  ――はずだった。
渾身の一撃はむなしくも宙を切り裂くだけで終わり、
同時にEN弾が降り注ぐ。斬撃後の反動で硬直しているフェイ機は
避ける術もなく、殆ど被弾してしまう。
『な! ・・・上!? ぐぁあ!!』
「バカなっ!」
その機体は月光が当たる寸前に高々度に逃れていた。
もちろんステルスも張っていた。しかし気付かれていた・・・
続いてアマダにも攻撃が仕掛けられる。
「くそっ 避け切れねぇ・・・」
ズガガガガガ・・・ 
大量の弾が容赦なくAPを削っていく・・・
KARASAWAを乱射して抵抗するが、易々と回避され
こちらの右腕の接続部にEN弾が直弾、破壊されてしまった。
「(くっ どうする・・・ これではカラサワは使えないぞ・・・)」
『アマダ、大丈夫か?』
「大丈夫と言える状態じゃないな・・・ そっちはどうだ?」
『脚部の機能が低下した。移動は出来ないが・・・ そうだ、これを使えるか?』
そう言ってフェイは肩の大型ミサイルをパージする。
「やってみるしかないな。」
カラサワを捨て、OBで一気にフェイの所まで行き、ビルの間まで運ぶ。
フェイは武装を全て捨て、軽くなったところで安全な場所まで避難する。
『うまくやってくれよ。』
「あぁ。」
「(ん? あいつ、改造したな・・・)」
渡されたミサイルは時間差で二発射出されるように改造されていた。
これで幾らか好機が増えればいいが。

ドゴォッ!!
「うぉっ 危ね。 ・・・こっちだ!」
今まで隠れていたビルが青い稲妻で完全に破壊される。
こちらもロックオンが済み、ミサイルを発射する。
相手のACは即座に気付き、腕のマシンガンで迎撃する。
ガガ・・・   ――弾切れ。
もう一つのミサイルが接近する。相手はリニアキャノンで・・・
ガション・・・ ――遅かった。
ドゥッ!!
機体を爆風が包み込み、脚部を完全に破壊した。
装甲も殆ど融解している。

「おい、乗っているのは誰だ?」
『・・・ 』
「返事をしろ。」
ここになってやっと口を開く
『・・・お前達は何故そこまで生き抜こうとする。』
「ん?何を言っている。」
『お前達は他者のことを全く考えず、行動する。』
『お前達は他の生物とは明らかに違う。この広大な地球に生まれ、
 資源を使い尽くすまで繁栄し、新たな土地を求める。』
「おい、聞こえないのか? 質問に答えろ。」
『お前達は何世紀にも渡って同じ争いの歴史を繰り返し続ける。』
『お前達は邪魔だ。この地に、この世界に。』
『良いことを教えてやる。この辺り一体に爆弾を仕掛けた。
 この機体のシステムが止まると同時に爆発する。』
「・・・何だって?」
『だがお前には関係ない。どの道此処で死ぬのだから。』
その瞬間肩のキャノンに青い光が灯る。
「しまった!! キャノンが生きてたか! えぇい!!」
アマダは左手のブレードを相手のコアに突き立てる。
辺り一面を青い光が覆う――

「・・・これまでか。」
アマダはキャノンの被弾の衝撃と精神の疲労でその場に気を失った。
『DOVE-001 装甲・・低下 戦闘フ能 機noウテイシ・しま・・・
 D・・VE-002 システム キドウ・・・ 』
その声が消えるとともに、市街地の一角が爆風にのまれる。
後にはビルの残骸と鉄クズとなったACが残るのみだった…
作者:焔さん