サイドストーリー

新世界ジハード 第伍話『アザーサイドの面々』
「敵輸送機、上空に出現!6エリア前で減速、来ます!」
オペレーターがザギリスに告げる。
「予定通りだ。すぐに配置させろ」
冷静に対応する。
「了解!・・・地形座標調査阻止作戦遂行レイヴン、格納庫に集合!繰り返します、
同作戦遂行レイヴン、格納庫に集合!」
館内放送をかける。
「何をしたいのか知らんが、貴様らの好きにはさせん」
金縁眼鏡を押し上げ、ザギリスの眼に光が宿る。

「おいでなすったな」
ラスカーが立ち上がり、ウェイターを呼ぶ。カードで支払いを済ませ、フウカに目配せすると出口に歩く。
すぐにフウカもついて行き、後にはウェイターだけが残される。
「まぁまぁの店だったな」
フウカは満足しているのかしていないのか、簡単にレストランの評価をした。
「厳しいね〜。俺はあそこはいいと思うけどな」
ラスカーは軽い口調で、不安や緊張がまったくないように感じられる。
「相変わらずだな」
「何が?」
「何でもない」

「行くぞ」
「・・・・・・」
エルロットはシリルを促し、持っていた携帯用ゲームの電源を切る。無言のシリルはひっそりとエルロットに従う。
この二人は今までどちらか一方のみの単独行動をしたことがない。いつも二人で行動し、何事も済ませる。
兄弟といえば違い、昔ながらの親友というわけでもないらしい。彼らは何者なのか、それはミッドルガルド内でも謎である。

「僕の仕事・・・わからない。でも、今を精一杯生きれば活路が開くはずだ!」
レアは拳を握って震えを止めようとする。
「そのためには・・・」
「死なないこと」
シイラが口を挟む。
「う、うん、そうだ。僕は今、一番がんばらなきゃいけないときだ」
「時間だから行くわね」
シイラはレアを無視し、歩き出す。
「あ、待ってよ」
後に続く。

「心残りは手の中に。想い出は心の中に。戦いは今の中に・・・来るがいい」
誰もいない部屋、何もない部屋。ラッドはサングラスを手に取り、決意を固めた。

「今回の作戦は規模が大きい。敵の目的は不明だが、奴等はかなりの数だ。なぜそれだけの戦力を注ぐのか・・・
とにかくこちらも軍から援護してもらう。だが、相手は未知の部隊だ。何を使ってくるからわからん。強敵はACで倒すぞ」
ザギリスが格納庫で言う。いつもはこの役割はラッドがするのだが、彼がするということはそれほど重要な作戦であるということだ。
「了解!」
レア、シイラ、ラッド、ラスカー、フウカ、エルロット、シリルの全員が口を揃えて返事をする。
「ではACに搭乗してください」
ザギリスの横にいるオペレーターがせかした。
「絶対に成功させろ。失敗は許されない。行け!」
もう一度ザギリスが釘を打つ。
「了解!」
そして、再度全員が返事をする。急いで各々が自分のACへと走った。

「レア=ヴェイ、ACギミーシェルター準備完了しました!」
「・・・シイラ=ローレンス・・・ACヘヴンスアラー準備完了・・・」
「こちらラッド=ガイ、ACニュルンベルク準備完了!」
「ラスカー=フェルゴット、ACハイスピードレイカー準備完了だ!」
「フウカ=アマクサ、ACメタルハザード準備完了した!」
「エルロット=カンファだ、ACリングフィスト準備完了!」
「シリル=コンテーシ、ACマーヴルフィスト準備完了」
七人の戦士が告げた。
「システム正常、運送レール開口!」
続いてオペレーターが喋る。
「発進!」
七つの機体がボダミア平原に向けて放たれた。レールの上を高速で疾走し、全員がその中で気を引き締める。


「来やがれ西のクソ共」
「・・・ラスカー、暴言だぞ」
「戦場に言葉遣いは関係ないさ」
「・・・最前線だ。我々が情報を送らなければ後衛が無駄になる。負けてもいいから次に繋ぐぞ」
「わかってるよ。全滅させる勢いで攻めりゃいいんだろ」
「何も聞いてないな。ま、それでいい。私が情報を回す」
「そうしてくれ」
ラスカーとフウカが会話しているうちにオペレーターから通信が入る。
「ラスカー、フウカ!そちらに接近中!すごい速度でやって来ます!ま、まさか!」
かなり驚愕した声だ。
「何だどうしたってんだ!」
「来たよ!」
轟音と共に数機の戦闘機が飛んで来た。レーダーに反応しないところを見るとステルス機のようだ。
「厄介だな」
フウカが呟き、ラスカーがマシンガンを上空に構える。放たれた弾丸は二つの戦闘機を撃墜し、空中で爆破させた。
「ACじゃなかったのかよ?」
「知らん!私に聞くな!」
スナイパーライフルで着実に敵機を破壊してゆく。ロックオン不可の状況で見事攻撃を命中させるこの二人はさすがのベテランだ。
「ちっ!調査だって話なのに・・・これじゃ戦争に来たようなもんだぜ!」
戦闘機部隊はどんどんやって来る。
「戦争・・・?・・・くそっ・・・あいつら・・・」
「何だフウカ!」
「これは小戦じゃない!戦争かもしれない!」
突如バズーカ弾が飛来し、メタルハザードを襲う。
「うっ!・・・AC!?」
目の前に二体のACが降り立つ。輸送機が目前に迫っていた。
「ラスカー!ACが来た!こっちをやるぞ!」
「わかってらぁ!」
掛け声と共にフロートACとタンクACが突撃する。降り注ぐ弾幕を避け、たまに受け流す。
その間にも戦闘機は次々と上空を通過してゆく。
「エルロット!シリル!戦闘機が行った!撃ち落せ!」
フウカが二人に通信を入れる。
「あぁ?それなら大丈夫だ。この辺は軍がいるからな。空戦してやがる」
エルロットが面倒くさそうに応答する。
「あんたも援護しろっつってんだよ!」
「わかったわかったうるせぇな!」
エルロットとフウカの仲は最悪だ。
「フウカ!」
ラスカーが叫ぶ。
「!」
会話の隙にACがブレードを振りかぶった。フウカは冷静にスナイパーライフルでブレードと腕部の接着面を撃ち抜き、分離させる。
敵ACは腕を振っただけでブレードは後方に飛んでいる。
「危なかった!」
ラスカーは月光で敵の脚部を両断する。
「殺す必要はねぇ・・・とりあえず戦闘不可能にしときゃ楽だ!」
フウカは不意を突いて目の前のACを殴った。重量級腕部のパンチ力は凄まじく、敵機は転倒した。
「うぉおおお!」
グレネードに武器を持ち替え、敵ACの武装を狙って撃ち込む。バズーカはいとも簡単に使用不能と化した。
メタルハザードは敵ACの腕部を掴み、捻り上げる。そのACの腕部は中量級のため、重量級腕部のパワーに捻じれ切れた。
そしてそれを振り回し、コアに叩きつける。コアも中量級だったため、陥没するしかない。
「まだまだぁ!」
へこんだコアをさらに殴りつける。数回殴る頃には敵は動かなくなっていた。
「そっちも終わったか・・・」
ラスカーは既に相手を月光のみでバラバラに切り刻んでいた。
「無駄に弾を使いたくないからな」
「それは言える。今回は長期戦に・・・ん?おい!敵だ!今度はレーダーに反応してるぞ!」
「何!オペレーター!今度は何だ」
ラスカー達は休む暇もなく戦闘を強いられる。
「わかりません・・・こちらのアンテナでもUNKNOWNと表示されています。気をつけてください」
「言われなくても・・・うぁ!」
対話中だったラスカーが急に通信を切られる。
「どうしました!?」
「こっ、これは一体・・・ぐっ!」
フウカも通信が途絶える。

「フウカ!」
オペレーターが叫ぶ。
「何事だ」
ザギリスが問う。
「正体不明です!何かが彼らを襲いました!」
「・・・そういうことはラッドにやらせろ。奴なら絶対に敵を倒せる」
ザギリスが自信を持って言う。
「は、はい!・・・少佐!指令です!B−2に緊急配置!正体不明機を撃破してください!」

「了解。レア、俺はB−2に行かなければならない。ここは頼んだぞ」
待機中の二人、ラッドとレアが会話を交わす。
「え!?そ、その間に敵が来たらどうするんですか?」
レアが慌てる。
「安心しろ。ここに来る前にはまだエルロットとシリル、そしてシイラという砦がある。
奴らが大抵は殲滅してくれるはずだ。お前はじっとしていればいい」
「・・・・・・」
「さらばだ」
ラッドはOBを発動し、一気に視界から消え去る。
「そんな・・・」
後には無力な少年ただ一人が残された。

「おらおらおらおらぁ!ACは来ねぇのかぁ!?」
地上でエルロットがミサイルを一気に大量発射する。ロックを重ね、連動ミサイルも発動する。
七つの戦闘機が全て撃ち落され、夜空が赤く照らされる。
「シリル!一気にやれ!」
「・・・・・・」
エルロットがシリルに指示し、シリルは言われた通りに敵軍を襲う。
敵戦闘機群に空中戦を仕掛け、ほとんどエネルギーを消費せずに飛び回る。
上昇能力を高められており、少ないENで広い範囲を行き来できる。シリルはブレードを振り回し、撃墜を重ねる。
この二人で既に数十機の戦闘機が破壊されており、いまだに一機もこの領域を通過させていない。
軍の援護もあるため、ここは絶対のラインとなっていたのだった。
「余裕じゃねぇか・・・しかし何だこの数は?こりゃ戦争クラスだぞ?」
エルロットが愚痴る。
「オペレーター!どうなってやがる!?」
「わかりませんが・・・この勢いで来られたら戦争は免れません!もしかしたら、最初からそのつもりで来たのかも・・・
エルロット!その辺りにACが投下されました!迎撃してください!」
オペレーターもこの事態に困惑している。
「来たな!行くぜシリル!」
「・・・・・・」
シリルは言葉を忘れたかのように喋らない。
気がつくと敵輸送機が上空を通り過ぎようとしていた。
「そうはさせねぇぜ!」
四脚ACを操るエルロットは、自作の特殊兵器を自機に装備させていた。
それはワイヤーを発射し、その先端に取り付けたグレネード弾を時間差で爆発させる代物だ。
かなりの破壊力とミサイルレベルの追尾性能を誇るその兵器はエルロットの自信作でもある。
それを輸送機目掛けて射出し、輸送機底面にワイヤーマグネットが張り付く。
数瞬後に爆発し、巨大な輸送機は大きなダメージを受けて墜落する。
だがその目的であったACの投下には成功している。シリルはACと交戦中だった。
「一体だけ・・・?少ねぇな!俺たちを舐めてんのか!?」
エルロットの顔が怒気に歪む。
ミサイルが主力であるエルロットのACリングフィストは、多弾頭ミサイルを放った。
一つの弾が四つに分裂し、目標に襲い掛かる。
全弾直撃は滅多に有り得ないタイプの攻撃だが、必ずと言っていい程一つは当たる。
今回は運良く二つ当たり、隙を逃さずシリルが追撃、コアを貫く。
「む!」
ACがさらに三体投下された。輸送機はすかさずエルロットが撃墜し、シリルが敵にブレードで威嚇する。
今の間でさえ上空を通過できた戦闘機はいなかった。全てイースト国軍の射撃で撃墜されていたのだから。
シリルのACマーヴルフィストは二脚タイプだが、肩にエネルギーキャノンを搭載していた。
それを構え、三体の内で一番頑丈そうなタンクに照準を合わせる。
その隙に破壊しようと他の敵ACがマーヴルフィストに銃口を向けるが、それらは全てリングフィストが阻止する。
「俺たちは二人なら怖いもんなしなんだよ!」
エルロットは敵軍のACに発火型投擲銃を当てる。それは一気に燃え上がり、熱暴走を引き起こす。
「行け!」
エルロットが号令し、マーヴルフィストがキャノンを放つ。黄色い極太光線が平原を突っ切り、タンクACに直撃する。
彼のキャノンは強化がしてあり、発射にチャージが必要だが威力が数倍に跳ね上がる。
チャージをする分消費ENは抑えられており、使いこなせれば相当強力な兵器であることは確かだ。
一撃を受けたタンクは行動不能になる。
まだ燃えているACをリングフィストは二つの脚で蹴り上げ、弾切れになっていた多弾頭ミサイルのボックスを解除し、叩きつける。
そのACは軽量型で防御力は相当低く、今の一撃でもそれなりのダメージを与えられただろう。
今度は倒れこんだ軽量ACの右足を掴んで振り回すと、呆気にとられていた最後のACに投げつける。
そのACのパイロットははっとなったがもう遅く、軽量ACと共に倒れる。
そして、上空に飛び上がったリングフィストはワイヤーグレネードを放ち、軽量ACの辺りに落とした。
二つの機体が爆発し、それらがあった場所は焼き野原と化す。戦闘機の襲来も収まり、静けさが包み込む。
「・・・第一波は済んだようだな」
エルロットが溜息と共に言った。
「チッ・・・おい兵隊共。弾切れだ。補給車を回せ」
軍に回線を繋ぐ。
「・・・はい、こちら国軍・・・補給は無理です・・・」
丁寧な言葉遣いで国軍のオペレーターが言う。
「・・・あんだと!?てめぇらよりもミッドガルドの権力の方が上なんだぜ?さっさと回せ!」
エルロットが声を荒げる。
「すみません、前線に行っておりますのでこっちで手一杯なんです。なのでそちらには敵軍が行ってないはずですが」
どうやら国軍の働きで敵の進攻を抑えられているようだ。
「ケッ!もういいよ!その代わりこっちに来やがったらお前らのせいだからな!クソッ!」
そう言って通信を切る。
「・・・ま、楽になったもんだな」
エルロットは独り言を呟く。先程の怒りは既に消えている。

「ウェスト兵戦線を展開!何かを恐れるように中心部に空洞を残しています!・・・
何でしょうか?」
軍のトレーラーにいる国軍直属オペレーターが告げる。
「さっきミッドガルドから情報が入った。相手は正体不明機を使って来る。それを意識した陣のはずだ」
軍の司令官が解説を加える。
「了解・・・聞こえますか?ウェストは正体不明機を持っているようです!
それらしきものを発見できたら即迎撃してください!最優先です!」
「了解!」
国軍戦闘機のパイロットが返事をし、敵軍を攻撃する。ミサイルを連射し、一気に落とす。
「それにしても手応えがない・・・無人機か?」
あまり苦労せずに何十機も破壊してゆく。
「久しぶりの戦闘だ・・・我々の腕が上がっているのさ」
「そうだな」
あくまでも陽気な空軍だった。
だが、ウェストの軍事兵器はその気分を壊すのにそう時間はかからない。
「何だ!?アレ!」
「く、来るぞ!」
「うわあああ!」
「これが・・・正体不明機・・・!」
完全に勝利を掴んだと思っていたイースト・レイの空軍は、一瞬で敗北を味わった。


「どうした」
ザギリスが言う。
「正体不明機・・・二次展開国空軍を壊滅させました!」
「・・・ラッドはまだか」
「もう少しで到着するようです!」

「あれか・・・」
ラッドはニュルンベルクの中で例の正体不明機とやらを視認した。
巨大なサイコロのような立方体が浮かんでいる。
ブーストで浮かんでいるわけでなく、本当にそこにある、という感じで存在していた。
イーストの科学力ではそれは信じられない光景である。
反重力か何かを使っているのか、とにかくそれは何の抵抗もなくそこに存在するのだ。
「とりあえず反応を見てみるとしようか」
ニュルンベルクはレーザーライフルを構え、立方体に撃つ。緑色の光線が直進し、サイコロ状の物に向かう。それは直撃した。
だが、その部分に何の変化も見当たらない。かなりの防御力を持っている。
「ククク・・・無理だよ、君達の武器ではね」
イーストの軍全てに通信が入った。どうやらあのサイコロのパイロットのようだ。
「これは完璧な兵器なのだ。なに、安心しろ。別に我々はこれを使って君達を滅ぼそうとしているわけではない。
今日はただ調査をしに来ただけだ。そちらが何もしなければこちらも何もしない」
いかにも勝利を確信している声だ。
「ベラベラとうるさい奴だ。調査をしに来ただけなら小型機一つでも良かろう」
ラッドが通信を返す。
「ほう・・・イーストにはなかなか傲慢な奴がいるようだな。そういうのは・・・」
サイコロの一面に穴が開き、その中からアンテナのような形をした物体が現れる。
「排除せなばなァ・・・!」
アンテナの頂点が輝き、極太の光線を放つ。
「貴様!これは・・・!」
ニュルンベルクに向かうが、ラッドは巧みな動作でそれを回避する。草原の中に突き刺さり、光が球状に放射される。
「衛星砲の技術・・・どこで手に入れた?」
ザギリスが回線を繋ぐ。
「衛星砲?・・・知らんな!」
アンテナの穴は閉じ、元の平面に戻ると、今度は右側面に穴が開き、数十個のミサイルが出てくる。
「ラスカー達も空軍もこいつにやられたのか・・・甘いな」
ニュルンベルクはOBを発動し、高速で移動する。多数のミサイルは地面に当たり、草原をさらに燃やす。
「まだだ!」
今度は左側面が開き、サイコロが回転して開いた面をニュルンベルクに向ける。
そこにはグレネード砲が多数備えられており、一斉放射する。計り知れない熱量と攻撃力を持ち、巨大なる砲弾が幾つも飛来する。
「・・・ふん。ワンパターンな奴だ」
いかにも攻撃力がありそうな弾だが、その弾速はライフル弾に比べれば遅い。
ひょいひょいと道化師のように避けるラッド。彼のACはいまだ無傷だ。
「我がACに対してはつまらん玩具に過ぎぬ」
ニュルンベルクが立方体に急接近する。
「馬鹿が!」
開いていた面を全て閉じ、今度は縦に回転して新しい面をさらす。当然の如く穴が開き、中から機関銃の群れが顔を出す。
「くだらんな」
撃たれる前に高度を上げ、サイコロの上に着地する。機関銃はその一瞬後に放たれるが、空を貫き、無駄に弾を浪費した。
ニュルンベルクはレーザーブレードを振り上げ、思いっきり叩きつける。壁面装甲には傷一つつかない。
「どんな金属を使ってるのか知らんが・・・たいしたものだ」
「そうだろう!」
ニュルンベルクのいた面にも穴が開き、ACが飛び出す。
「馬鹿が」
ラッドは呟き、出てきたACを捕まえる。背後から羽交い絞めにしたそれは、敵ACを逃がさない。
そして開いた面が閉まりそうになった瞬間、ラッドはその隙間に滑り込んだ。
掴んでいたACは外部に投げ出し、内部に着地する。
「しまった!」
中で整備員らしき人物が悲鳴を上げる。サイコロ内部の小型AC格納庫にいたのだった。
「外は硬くとも中に入られては意味を成さない」
整備員は無視し、辺りを見回す。
「・・・機動部はどこだ?」
ニュルンベルクはレーダー機能を限界精度まで上げ、内部を検索した。
「そこか」
ニュルンベルクは振り返り、目の前の壁をロケットで破壊する。一発で壁に風穴が空く。
「何事だ!」
先ほどから余裕を持っていたサイコロのパイロットが慌てた声で館内放送をする。
「終わりだ」
ラッドはそう告げ、機動部にロケットを連射する。機動部も簡単に破壊され、爆発する。その衝撃で外部に穴が開く。
「ほう・・・外の壁も中からなら壊せるだと?・・・どうやらこの兵器は普通の金属に広く薄いシールドを張っていただけのようだな」
そして自分の周りにある壁も破壊し、脱出する。
「何故だッ!これは完全なる野戦兵器だったのに!・・・負けるわけがないッ!」
巨大兵器の中にいる指揮官らしき人物、先程から通信をしているパイロットが現状を理解できずに困惑している。
「完全なるものは存在しない。それ故に人は完全という言葉を使いたがるだけだ。己の弱さを覆い隠すために」
ラッドが静かに告げる。
「・・・!」
ニュルンベルクが平原に降り立つ。
「それがいい証拠だ」
ラッドのACが振り向き、いつの間にかそこにいた敵の増援部隊を一瞥した。
背後で墜ちゆく巨大な残骸は、そのACにただならぬ迫力を与え、敵軍にただならぬ重圧を与えた。
「さぁ、どうする?」
その言葉を言った瞬間、ニュルンベルクの後方からイースト国軍の援護射撃が敵部隊を襲いった。
頼みの綱も破壊され、戦況は一変する。ウェストの軍は逃げ惑うばかりだった。

「正体不明機撃破!」
「よし」
ミッドガルド第三支部のオペレーションルームでザギリスが頷く。
「後は残りを滅ぼすだけだ」
「そ、それが・・・」
敵軍の主力兵器を倒したというのにオペレーターは納得した顔ではない。
「どうした」
「敵輸送機が三機、Z−9・・・レアの配置地点に向かっています!」
「まずいな」

「くそ!国軍の奴ら・・・!」
エルロットの頭上を敵輸送機が通過して行ったようだ。
「弾さえ残ってりゃあよ!シイラ!迎え撃て!」
I−5、シイラの配置された地点に敵輸送機が飛来する。
「シイラ!あなたが止めなければレアがやることになるわ!それだけは絶対に回避して!」
オペレーターが叫ぶ。
「了解」
打って変わってシイラは冷静である。
彼女の機体は基本的に腕部収納型パイルバンカーしか武器を装備していない。なぜならシイラは全て格闘戦で敵を仕留めるのだ。
だから今回の作戦では機体の周囲にバズーカやミサイル、遠距離砲キャノンを備えておき、緊急時にそれを使って援護射撃をする。
今のところ彼女のところに敵は一度も来ていない。つまり今から来る敵輸送機が今回の作戦で初めての敵だった。
空の彼方に小さく輸送機が確認できる。シイラの機体、ヘヴンスアラーがキャノンを構える。
重量過多になってしまうが、近距離戦でないので構わない。ロックオンが完了すると、戦闘の敵機に向かって撃つ。
その間にもどんどん近づいて来る。相当の速度が出ているようだ。白い光は空を切り、敵機は回避した。
何があっても敵を仕留めるつもりでヘヴンスアラーは乱射する。だが当たったのは一機につき数発だった。
そしてあっという間にそれは通り過ぎる。しかし彼女の攻撃は功を成したようで、三機とも両翼から爆炎を上げていた。
高度もどんどんと低下していき、レアの地点に着く頃には墜落していることだろう。
もちろんそれでは安心できないのでシイラはOBでZ−9に向かった。

「何だ・・・あれ・・・」
レアの地点から見て東の空は、奇妙な光景になっていた。三つの赤い光点がこっちに迫ってくる。
そして、それはゆっくりと高度を下げてゆく。
「・・・敵だ!」
ギミーシェルターのレーダーに赤い点が三つ表示されたのだ。
「迎撃します!」
独りで心細かったが、何をするにしてもとにかくやらなければならないのだ。
だが、少年の方へ近づけば近づくほどそれらは力なく沈んでゆく。
肉眼で確認できるまでに近づいたとき、それらが炎を上げていることにレアは気づいた。
「・・・もしかしてもうやられたのか?」
レアの言葉を裏づけするように三機の巨大輸送機はほぼ同時に墜落した。そして、爆発する。
「ほっ・・・シイラか誰かがやってくれたんだろ・・・」
少年は安堵していた。しかし、レーダー上の光点は消えない。それにレアは気づいていなかった。
「後は作戦終了の合図を待つだけ・・・あ、あれは!?」
炎の中から、人型の巨大な物体が現れる。ゆっくりと前進し、止まる。そして、その辺りからもう五体ほど同型のACが出現する。
「ろ・・・六体・・・嘘だ・・・」
安堵は絶望に変わる。

「輸送機は破壊されたが、作戦は終了だ。ここで帰還してもいいのだが・・・どうする?」
今輸送機の中から現れたACのパイロット達が通信を交わす。
「なんだと・・・嫌だ!俺の友達もみんなイーストの軍隊に殺されたんだ!」
「このままじゃ収まらないわ!」
「目の前にACがいるじゃねぇか!殺してやる!イーストの奴等は全員嬲り殺してくれる!」
「そうだそうだ!」
「殺せ!」
「みんなそうか・・・丁度俺もはらわた煮えくり返ってたところだ。あいつを殺すぞ!」
議題をふったパイロットが他のレイヴンの意見に同意する。

「・・・き、来たぁっ!」
レアは震える腕でギミーシェルターを操作し、ライフルを構えさせる。
そして、ロックした瞬間撃つ。撃つ。撃つ。弾丸は先頭のACに向かい、だがシールドで弾き返えされる。敵はぐんぐん迫ってくる。
「うわぁ!」
恐怖に駆られた少年はライフルを目の前のACに投擲した。それに虚を突かれたのか、先頭ACは直進を止めて対応する。
ライフルはもともとが軽量のため、投擲によるダメージは大したことがない。
以前アリーナでカラサワを投擲した青年がいたそうだが、それは相手側ACに多大なる重症を負わせたのだが。
「くそ!」
ロケットに持ち替え、辺り構わず乱射する。
だがレアは一体に気をとられていたおかげで、二体目のACの攻撃をもろに受けてしまった。
零距離で放たれたショットガンはギミーシェルターのAPを1000近く奪う。
ショットガンといえど零距離射撃ではさすがに反動をもらい、レアのACはバランスを崩した。
「滅茶苦茶だ!」
コクピットで悲鳴を上げる。さらに追撃を受け、大地に叩きつけられる。
そこに金属製の槍を突き刺され、ギミーシェルターは磔にされた。
ウェストで開発された金属性の槍は、重量はかなりあるがENを消費せずに多大なる熱量を持った攻撃を行える兵器だ。
欠点は重いこととレーザーブレードと違って破壊される可能性があるということ。
しかしその確率は低いため、それほど気にする点ではない。
六つのACがギミーシェルターを取り囲み、見下ろす。
「や・・・やめて・・・」
レアは恐怖で言葉も出ない。
そして、敵は一斉にギミーシェルターを嬲り始めた。脚で踏みつけ、何度も槍を抜き刺しし、零距離射撃を続ける。
頭部は爆砕し、右腕部を捻り壊し、ブースタ、内部機関のほぼ全てを圧壊させてしまう。
「助けて・・・助けて・・・」
レアは眼を閉じて念じる。通信機は使用不能と化し、外部との接触は完全に絶たれているのだ。
機体残りAPは既に0。行動不能の状態ながら、まだいたぶり続けられる。
「助けて・・・殺される・・・助けて・・・助けてぇえ!」
念は叫びに変わり、それを続けるレア。
彼の二戦目は惨敗だった。それどころか、このまま殺されてしまうのかもしれない。


白い小鳥が、六羽のカラスに囲まれている。小鳥は瀕死状態で、周りのカラスはそれを見て残虐な笑いを浮かべているのだった。
そこに、矢が打ち込まれる。
カラスの輪の中に入り込み、小鳥にはかろうじて当たらず、地面に突き刺さっている。
そして、光を。
全てが明るみの中、新たなる憎悪が顕現した。

一体のACが吹き飛ばされ、戦闘不能となって地に投げ出された。機体は有り得ない方向に捻じ曲がり、衝撃で既に半壊していた。
時が止まったかのように、破壊された一体以外は動きを止めた。
「助けてあげる」
突然現れた救世主のパイロット、シイラ=ローレンスがレアに告げた。

「間に合いました!シイラはZ−9中心地、レアの地点にいます!」
「殲滅しろ。それが今作戦最終事項だ」
ザギリスが言う。
「了解」
通信の向こうからシイラの声が流れた。

二体目の餌食は高速スピンから脚払いをかけられ、転倒する。
間髪いれずに踵落としを入れられ、コアの中身を圧迫し、内壊させた。
それに気を取られていた三体目のACはコアを掴まれ、腕部収納型パイルバンカーに貫かれる。
切っ先で内部のレイヴンを削ぎ取り、即死。
やっと反応できた四体目が暴れているシイラのACヘヴンスアラーに掴みかかるが、
それは上空に一瞬で飛び上がり、下降しながら四体目であるACを上から踏み潰す。
踏み潰しながら片脚で蹴り上げ、仰向けに倒す。それが持っていたライフルを奪い、五対目に叩きつける。
四体目はパイルバンカーで同じく破壊されている。叩きつけたライフルを引き上げ、今度は銃口をコアに突き刺す。
少しだけめり込んだそれの引き金を引き、連射する。
簡単に五体のACを無力化し、最後の一機を睨むヘヴンスアラー。
ギミーシェルターと敵AC内でのリーダー格は動けない。
両方とも理由は正反対だが、とにかくそのリーダー格は逃げ出そうと後ろを向いた。
それが、命取りだった。
圧倒的に速度が違いすぎるため、そのACは相対距離を一瞬でゼロにしたヘヴンスアラーに後ろから掴みかかられた。
そのまま腰部を絡め取り、形を固定した後背中を反らせてバックドロップの要領で地面に叩きつける。
頭部がめり込み、コクピットにいたレイヴンは逆様になって慌てる。
その逆転したままで地面に突き立てられたACの姿はまことに滑稽であった。
ヘヴンスアラーはゆっくりと立ち上がり、敵の方を向いたまま静止する。
突然シイラのACが逆格好のACを殴りつけ、パイルバンカーを発動し、貫く。
両手同時に使ったそれは、二つの風穴をACに開ける。今度は蹴って地面から引き抜き、押し倒すとそれに馬乗りになった。
両腕でコアを殴りつける。交互に打ち込み、コアはどんどんへこんでいく。
頭部を掴み、少し持ち上げると思いっきり地面に叩きつけ、爆砕させる。
その状況は先ほどのレアに対する周りにいたACのリンチと酷似していた。
狂った様に敵を殴り続けるヘヴンスアラー。
完全に残骸と果てたACを、まるで餌の様に扱う。
先程のパイルバンカーで開いた穴に自ら腕を突っ込み、中の物を引きずり出す。人の内臓を取り出す様に。
「や・・・」
かろうじて生きていた外部音声モードに転換し、シイラに言わなければならないことが。
「・・・やめろ」
レアの声は無かったかの様に無視され、敵を嬲るヘヴンスアラーがそこにいた。
「やめろ・・・やめろよ!」
さらに大きい声で発信するが、届かない。
「・・・くそっ・・・」
少年は緊急用予備電源を作動させ、システムを再起動させた。
故障箇所はほとんどだったが、奇蹟的にも左腕と両脚部がまだ機動可能であることが判明する。
ただ熱暴走を起こし過ぎたため、ほとんどの機関がヒートしていた。
コクピット内は電源が落とされ、過剰に室温が上昇した程度で済んだのが不幸中の幸いである。
動けたとしても、すぐに可動部が湾曲したり活動限界が来てしまうだろう。だが、それでも行かなければ。
レアは使命感に捕らわれて行動を開始した。左腕で突き刺されたままの鉄槍を掴み、引き抜く。
相当深く刺されていたのか、なかなか抜けない。
ずぼり、と抜けた瞬間、同じく左腕部がはずれ、槍と共に地に伏した。それでもまだ立ち上がることはできる。
ギミーシェルターは立ち上がり、よろよろと惨劇の場へと向かう。そこはもともとギミーシェルターのすぐ近くだった。
「やめ・・・」
外部音声が響き渡るその瞬間、くたびれた右脚部がべきりと丁度膝の部分でへし折れ、バランスを崩す。
これは倒れるな、と感じたレアは、左足を踏み込んでレアを気にも留めないヘヴンスアラーを押し倒した。
わずかに反応を見せたが、それも遅く、気づいたときにはギミーシェルターの下敷きになっている。
レアはハッチを開き、外側に開く原理を利用してヘヴンスアラーのハッチをノック、つまり叩いた。

がん、と音がして我に返る。今さっきまで作戦を遂行していたはずだが、レーダーに敵は映っていない。
今は何をしているのか、とモニタを見る。そして、ぎょっとした。目の前にはACのコアがあったのだ。
どうやら押さえつけられているようだ。レーダーに赤光点として映っていないものの、瞬時に敵と判断、攻撃を再開する。
敵の頭部周辺を鷲掴みにし、ぐぐぐ、と持ち上げる。両腕片脚を失っているようで、基本的には戦闘不能だった。
基本的には、だが。
「シイラ!」
突然そのACが知った声を発し、攻撃を中断する。
「レア・・・」
「やめろ!もう終わってるんだ!」
彼は落ち着かない様子でまくし立てる。
「・・・?」
いまいち状況が理解できない。
なぜレアが目の前に?
そういえばZ−9に向かえと指令が下ったはずだったが。辺りには、たくさんのACの残骸が転がっている。
「これはあなたがやったの?」
「・・・何を言ってるんだ?・・・君がやったんじゃないか・・・」
レアも困惑しているようだ。
「ちょっと待って」
頭を抱え込み、先程のことをもっと深く思い出そうとする。
指令が下って、それで三つの敵機接近、多大なるダメージを負わせ、それで、Z−9に向かって、それで、目標を発見、それで。
「『助けてあげる』って言って僕を助けてくれたんじゃないか。覚えてないの?」
確かにそういうことを言ったような気がしないでもない。その後、敵を殲滅した。
「思い出したわ・・・ごめんなさい。たまにこうなるときがあるの」
「そうじゃなくて・・・」
謝罪されて面食らったのか、口ごもる。
「何?」
「あの・・・いくら何でもあそこまでぐちゃぐちゃにする必要があったの?殺さなくてもいいし、とにかく行動不能にすればいいんだよ」
「どうして」
「どうしてってそりゃ・・・」
うまく口が回らないようだ。
「行動不能ですって?甘いわ。やらなければやられる世界なのよ」
「殺さなくてもいいじゃないか!」
「殺さなければまた次にやって来る。そうして何度も逃がしていたらまた一人・・・
また一人・・・敵軍が増大してゆくの」
「でもそんな簡単に・・・」
「一瞬の躊躇いは死を招く。そう教わらなかったかしら?」
「ぐっ・・・」
シイラは完全に少年を圧倒した。彼女の精神は固く、レアでは打ち壊せない何かを秘めている。
「どうでもいいけど戦いは終わったの?」
聞きたかったことを訊く。
「・・・わからない・・・」
割と早く終わった戦いは、戦争とも小戦とも言えないものだった。攻撃側がただ侵攻して来て、防御側がただ迎撃して。
全ては謎に包まれている。
しばらくして、戦いの終わりを告げる通信が入った。




下記は感想です。

ぶはぁ・・・長かった。70k超えてますよ。久しぶりの快挙?ですね。
とりあえずいろいろと急いでたので戦闘シーンがちゃっちゃと簡潔に書かれてあります。
ご了承ください・・・って誰も長たらしい戦闘を期待してるわけないじゃん。こっちの方がウケがいいんじゃ?

次回予告
今回の事件の真相とは一体何だったのか。ミッドガルド研究班が調査を進める中、驚くべき事実が発覚する。
ウェストの真意が晴れてゆく。そして、しなければならないことも。
戦いは続き、さらなる恐怖が増大する。覆われた希望は、加速する事態について行くことができない。
宇宙空間における破壊、争奪する悪夢、ヴァルハラ。次回『遺された神域』。
作者:Mailトンさん