サイドストーリー

TIMEDIVER:未来からの訪問者

まばゆい閃光とともに地上に降り立った赤いAC・・・
その中でシャウシュッツは辺りをモニター越しに見回す
生い茂る緑、目を凝らしてみると彼がいた時代では
見られないような動物たちの姿もいた。

「・・・ディードリットの言っていた事も
 あながち迷い言ではないな・・・。」

センサーを起動させると、生体センサーが働いていたのか
無数の小さな反応でレーザーが埋め尽くされる。
野生の動物たちだ。
地下世界や荒廃した世界でもこのような動物たちが
映し出されることは希にあるが、
このように埋め尽くされるのは初めてであった。

「やれやれ・・・・これからどこに向かうかな?」

必死の思いでD機関の部隊を追いかけたシャウシュッツであったが
この広大な大地で、彼らを見つけるのは至極困難な作業でもあった。
第一、時空転移先のこの場所が本当に彼らと同じ地点であったことすらも
疑わしい状況で、追撃するのは困難を極めた。

「・・・インフィニティジェネレータは起動するか・・・
 D・F・C・Sも機能に問題はない。
 とりあえず、人間の動力源を探すのが当面の目的だな・・」

マシンは永久機関が働いているため、機動に問題はないが
人間はそうはいかなかった。
緊急用に3日分の食料と水がシートに配備されているとはいえ
手を返せばその程度しかないのである。

「少なくても1週間分は調達しないとな・・・」

コンソールに手を伸ばし、当てもなくソリッドランサー
を操作するシャウシュッツ・・・
行けども行けども森林ばかりが見え、いい加減
飽き飽きしていた頃・・・

「・・・熱源反応?
 距離は・・・2000か。
 レドームがないことを祈るのみだな・・・」

機体をゆっくり移動させ、一歩一歩反応に近づいていく・・・
丁度1000に近づいた時、相手が動いた!!

「ちっ!!気づかれたか!!」

相手は素早く散開するとソリッドランサーを囲むように移動する!!
一機がスモークのような物を投げると、他の二機が
一斉に攻撃を仕掛けてくる!!

「いけ!!相手は目が見えないはずだ!!」

「ちぃ、良い作戦だ・・・だがなぁ!!」

後方に接近してきた機体にブレードで斬りつけると、
横から奇襲してきた相手に右腕でナックルを食らわせる!!

「なに!!なんだこの武器は!?」

「ちぃ、やっぱり奴らの機体だったか!!」

「・・・これは・・MT?
 そうか・・・丁度ACが開発される前の戦闘兵器か!!」

「いまだ、撃て!!」

一瞬、動きを止めたのを見計らって各機が銃を構える!!
だが、機動性、反応速度ともに圧倒的な性能を持つ
ソリッドランサーとシャウシュッツの腕が組み合わされれば
その程度の攻撃は難なく回避する!!

「ちぃ、なんて早さだ・・・追え!!
 それと後続の部隊に連絡だ!!」

「まずいな・・・このままだと大部隊がやってくるか。
 ・・・やはりこれしかない・・か。」

突然、機体を翻し相手に正面を向くと
おもむろに銃器やブレードを解除する。
そして、広域通信に切り替えると

「この通り降参だ・・・さすがに大部隊が相手では
 こちらも勝ち目がない・・・」

「・・・隊長、これは降伏宣告です。
 どうしますか?」

「・・・よし、こいつの降伏を認めよう・・・
 機体を回収すればあいつらと同じような
 兵器が作れるかもしれん・・」

「おぃおまえ、機体から出てこい!!」

MTのパイロットが機体に叫ぶと、
ハッチが開き、中からシャウシュッツが出てくる。
そして、相手からは銃器が突きつけられ
そのまま連行される・・・

機体はおそらくMT部隊の駐屯地らしきところに運ばれ
シャウシュッツはそこから留置場のような所に連れて行かれる・・
駐屯地は四方を森に囲まれ、建物はテントなどで構成されていた。
留置場と言っても、堅い城壁に囲まれたところではなく
まるで営巣のような所であった。

「そこでしばらく大人しくしてろ!!
 おいハンス、しっかり見張ってろよ!!」

「了解です、軍曹!!」

「・・・旧時代の軍隊か・・・
 俺たちの時代ではさしずめ、企業部隊
 と言ったところか・・・」

ハンスというなの若い兵士がアサルトライフルを
こちらに構えて見張っている・・・
その目はおそらく配属されたばかりの新人なんであろう、
堅く緊張した体に、何かおびえるような目をしていた。
「・・・安心しろ、取って食う気はない。
 第一・・」

「だ、黙れ!!う・・・撃つぞ!!」

「・・・分かった・・」

おびえた兵士に銃を突きつけられ黙り込むシャウシュッツ。
もし、ここで彼が本気を出したのであれば
ハンスが銃を撃つ前に彼の体を引き裂き、
そのままソリッドランサーの所まで逃げて脱出することも可能であった。
しかし、彼はそんなことをしに来たわけでもなく、
する気もなかった。

30分ほどたったのであろうか、シャウシュッツを連行してきた兵士と
いかにも上級将校のようなやつが現れ、なにか話をする。
しばらくすると、こちらを睨み付け他の施設に連行される。
後ろで見張りに疲れた兵士を後目にしながら・・・

鉄パイプなどで頑丈な骨組みをされた施設に連れて行かれると
そこで入念なボディチェックを行う。

「問題ありません!!」

「分かった・・・椅子に座らせろ。」

上級将校の男がシャウシュッツを椅子に座らせると、
シャウシュッツが予想したとおり尋問が始まる。

「まずは、簡単な質問から行こうか?
 第一に、君たちは何者だ?」

「・・・・」

「貴様ぁ!!」

黙っていると横の兵士から蹴り飛ばされる。
鈍い痛みが脇腹に響き、そのまま床に倒れる。

「・・・答えられんかね?
 では話を変えよう。
 君の名は?
 さすがに捕虜と言えど、名前ぐらいは知っておきたいが・・」

「シャウシュッツ・・・シャウシュッツ・ヒュッケバインです。」

「ほう、シャウシュッツ君か・・・では話を戻そう。
 君達は何者だ?」

「・・・・それは・・・」

「さっさと言わんか!!」

またも蹴りを受けてそのまま倒れ込む。
その様子を見た将校が

「悪かったね、うちの兵士はみな気が荒くてね・・」

なおも黙っているシャウシュッツを見て、
横の兵士が顔を殴りつける。

結局、初日はこうして殴られ、蹴り飛ばされるだけの
痛い一日となった。

2日目も3日目も同じような日々が続き、
ついには1週間もこのような状況が続いた。
最初はなにも動じなかったシャウシュッツも
このように連日続く尋問にいささか疲れが見え始めていた。

「ふぅ、さすがにここまで来ると疲れが来るか・・・
 一体いつまで続くんだろうな。
 まぁ、奴らがここまで来るまでの辛抱か・・・」

9日目が過ぎたある昼のこと・・・
奴らは現れた。
最初は大きな爆発音から始まり、
それにいち早く反応した兵士達がマシンを駆って出撃する!!
相手はD機関兵士に普及しているありふれた量産型AC
とはいえ、その戦闘能力はこの時代の戦闘兵器の
比ではなかった・・・

「くそ!!なんて奴らだ・・・

 こちらの攻撃がまるであたらん!!」
「いや、それどころか当たっても大したダメージじゃないぞ!!」

「まるで・・・悪魔だ・・」

そのとき、尋問中だったシャウシュッツも
この攻撃を受けて尋問どころではなくなった。
部屋にいた兵士達も前線にかり出され、
将校は後方での指揮に追われていた・・・

「・・・チャンスはチャンスだが、
 どうした物か・・・
 ソリッドランサーが解体されていないとも限らないし。
 ・・・とりあえず行くしかない・・・か。」

急いでテントから抜け出すと、先の戦闘で負傷した兵士や
中には足や手がなくなった者さえいた。

「酷いな・・・幸い、こちらには誰も気がついていないようだな・・」

それを見届けると、いち早くソリッドランサーが
格納されている大規模な建物に移動する。
中にはいると、そこには誰も居らず
無傷の状態で保管されていた機体があった。

「あのときのダメージも回復している・・・
 さすがはナノマシン内蔵装甲だけはある。」

さっさとハッチを開けてコクピットに入り込む。
コンソールも無傷で、作動には全く問題なかった。

「セットプログラム異常なし・・・
 D・F・C・S、インフィニティジェネレータも
 問題はないな・・・」

ナノマシンによってグロックとの戦闘で受けたダメージも
完璧とはいえ無いが補修された機体は、いつでも起動が可能であった。
持ってきたライフルも、建物の横にセットされており
手に取ると出撃する!!

突如動き出した機体に驚く兵士や、こちらに発砲する者を
見届けると、森の中へと消えていった・・・

「さて、敵はどこだ・・・・なるほど3機のみか・・・
 識別信号から、量産型だな。」

レーダーに反応がある地点にライフルを向けて、
照準を合わせる・・・
距離が700に近づいた瞬間、緑色の
レーザーが発射され、相手のACを貫く!!

突然の反撃に驚いたD機関兵士は銃器を振りかざし、
ソリッドランサーに突撃してくる!!
「くそ!!やつら、あんな兵器を持っていたのか!!」 「おかしいぞ、この時代にACの互角に渡り合える兵器は
 存在していないはずだ!!・・・だとしたら一体・・・」

「まさか、噂に聞くあいつか!!」

「あり得ない話ではない・・・とにかく、撤退の準備を・・」

「動きが鈍った?・・・もらった!!」

2機目も同じようにレーザーで貫かれると
残った3機目が撤退を始める・・・

「くそ!!ルークとマッシュがやられたか!!」

「残るは・・・一機。」

その場で上空にあがり、相手の上を押さえたシャウシュッツは
なんのためらいもなく、相手を射抜く。

「うっ・・・あああぁぁぁ!!」

「・・・これで全滅だな・・・
 あとは、地上軍がどう出るか・・だな。」

交戦の意志がないことをアピールしながら
駐屯地へと帰還するシャウシュッツ・・・

「願わくば、歓迎してもらいたい所だが・・」

当然そこには、ランチャーやミサイルを向けて
威嚇するかのように、兵士が睨み付けていた・・・

「参ったな・・・完全に敵と見なされてるよ・・。
 どうした物かな・・・」

そうこうしている内に、尋問の時に現れた
将校が通信をしてくる。
内容は・・・

「・・・君は、本当に我々と交戦する意志がないのかね?」

そう言うと、シャウシュッツは

「はい。むしろ、彼らは私の敵です。」

そう言い換えされた将校は・・・

「分かった・・・とりあえず、尋問していた
 部屋まで来てくれ・・・」

将校が、攻撃をやめるよう命令すると
シャウシュッツはホッと一息をつく・・・
これで、出たとたんにズドンはなくなるわけだ・・・

尋問部屋に行くと、そこにはいつものように
兵士が二人、そして将校が座っていた。

「さぁ、座りなさい・・・
 では話してもらおうか・・・まずは
 君がどこから来たのか・・と言うところから始めよう。」

「俺達は・・・未来から来ました・・」

「なっ!!・・・」

「ほう・・・それはつまり、君達が未来人だというのかね?」

「はい・・・信じてはもらえないでしょうが・・・」

「・・・なるほど・・・もちろん君を疑っているわけではない。
 それならば、あの兵器の能力も合点がいく。」

「お言葉ですが大佐・・・そこまで簡単に信じてよろしいのでしょうか?」

「・・ベクター君、君は彼が敵とでも思っているのかね?
 確かにそうかもしれないが、現時点ではどうとも言えんよ。」

「・・・・申し訳ございませんでした、大佐。」

「・・それとシャウシュッツ君、あの戦闘兵器は
 どういう物かね?
 原理的には我々が所有しているMTと酷似しているようだが・・」

「あれはAC・・・アーマード・コアという
 機動汎用型戦略兵器です。」

「なるほど・・・では、我々の機体であるMTとは
 どう違うのかね?」

「MTは元々作業用に制作された大型機械を
 戦闘用に転用した物ですが、
 ACは初めから戦闘用として開発されました。」

「それ以外は?」

「まず、機体フレームのブロック化にあります。
 これは技術者に見せれば分かると思いますが
 大まかに頭部、胴体、腕部、脚部などが比較的
 簡単な構造で固定され、操作時には細かく可動します。」

「なるほど・・・それはつまり、戦況にあわせて
 その形態を変えることが可能というわけかね?」

「はい、それを主眼に置いて開発されています。」

「何とも恐ろしい話だよ・・・ああいう兵器が
 君達の時代では、ごく当たり前のように
 普及しているのかね?」

「はい・・・あれは、我々レイヴンと呼ばれる
 傭兵だけが特別に許可を受けて、使用できる兵器です。」

「レイヴン・・・か・・・
 ワタリガラスの名称だな・・・。」

「ええ・・・面白い皮肉ですよ・・」

「で、そうなると彼らも同じレイヴンなのかね?」

「いえ、彼らはD機関という全く異なる集団です。
 現に、彼らによって多くの仲間が犠牲になりました・・」

「・・・なるほど・・・」

その後もしばらく話は続き、終わったときはすでに日が暮れていた。

「もうこんな時間か・・・どうだね、
 食事にでもしないかね?
 大した物はないが・・・」

「ええ、さすがにまずい飯は飽き飽きしていますから・・」

シャウシュッツが食糧を配給している所に向かうと、
鋭い視線が浴びせかけられる。
しかし、先の戦闘のおかげか別の視線を向けるやつもいれば
やはり、射たい視線を向けるやつもいる。

「おい、お前シャウシュッツって言うんだろ?
 少し話を聞かせてくれよ」

「どうだ、俺達と飯を食わないか?」

そんなこんなで若い兵士達とともにこの時代で始めての
人間らしい食事を堪能する。
味は、シートにセットされている非常食に及ばないが
なによりも、まともな食事という点で安堵感がこみ上げる。

次の日の尋問で技術部からこんな報告が来る

「システムの解析時のことなんですが・・・
 妙なプログラムが発見されました。
 まだ調査段階ですが、これはおそらく戦闘支援OSではないかと・・」

「・・・ガンナーとソードマスターか・・・」

「分かった、詳しいことはシャウシュッツ君に聞こうではないか。
 で、どうなのだねシャウシュッツ君?」

「・・・プログラムの初めにGUNNERやSOWRD MASTERと書いてなかったか?」

「ええ、それ以外にSOLID LANSERという物も見つかりました。
 これはいったいどういう物なんですか?」

「まずGUNNERだが、これはコード:ガンナーという
 射撃制御プログラムを強化するOSです。
 これを起動させることで、通常時では不可能な
 超精密射撃などが可能になります。」

「なるほど・・・それ以外は?」

「SOWRD MASTERはコード:ソードマスターというプログラムで
 先ほどとは違い、格闘戦に指向性を持たせたプログラムです。
 最後のSOLID LANSERはコード:ソリッドランサーという
 戦闘能力全般を強化する支援プログラムで、
 単純に言えば、リミット解除にような物です。」

「なるほど・・・だからああいう仕組みだったのか・・・」

「・・・さて、シャウシュッツ君も疲れただろう・・・
 ベクター、営巣に運んでやれ・・」

ベクターに再び営巣に連行されると、
ハンスが同じく監視を命じられる。
また、監視か・・とため息をつく姿を見て

「大変だな、お互いに・・・」

「ああ、全くだ・・・早くドイツに帰りたいよ・・」

「ドイツ?・・・ああ、なるほど。」

「・・・本当に君は未来人なのかい?」

「はい、としか言えん・・・」

「・・・どんな所なんだい?」

「一面が荒廃して、地下都市があり
 治安も荒れ、そんな中で俺達レイヴンと呼ばれる
 傭兵が企業から依頼を受けて暮らしているのさ・・」

「まるでこの世の地獄だな・・・」

「ああ、地獄かもしれない・・・だが
 みな満足して生活している・・・」

「・・・それと、レイヴンって鳥の名前じゃなかったっけ?」

「ああ、鳥のように羽ばたいているからな・・・」

「・・・俺もそんなレイヴンだったら、
 あいつも苦労させなかったかもな・・」

「あいつ?」

「この写真だよ・・・ほら。」

見ると、そこにはハンスと若い女性が写っていた。
おそらくは彼の彼女なのだろう、
東洋系の顔立ちが印象であった・・・

「きれいだな・・・」

「シャウシュッツ・・・だっけ?
 おまえにも彼女はいるのかい?」

「ああ・・・遠い世界でだがな・・」

「ああ・・そうか・・」

「気にすることはない・・・・」

「なんか俺、お前のこと信じてみたくなった・・・」

「おいおぃ・・・そう簡単に信じて良いのか?」

「それは・・分からないけど、とにかくシャウシュッツは
 悪人には見えない・・・むしろ、良いやつだと思う。」

「・・・・ありがとう・・・ハンス・・」

「ああ、それと俺の名はハンス・ファインベルクだ。」

「・・・ファインベルク・・・?」

「ああ、それがどうかしたのか?」

「いや・・・なんでもない・・・」

「そうか・・・・そうそう、そろそろ寝た方がいい。
 ベクターってやつが怒鳴りつけにやってくるからな。」

「ああ、そうさせてもらうよ・・・お互いにな・・」

そう言うと、入り口に背を向けた状態でうたた寝をする・・・
丁度タイミング良く、そこにベクターがやってくる・・・

「・・・寝ているようだな・・・しっかり見張ってろよ!!」

「了解です・・・軍曹・・」

ハンスを睨み付けると、そのまま自分のテントに向かっていった。
それを見届けると・・・

「おい、もう行ったぞ・・・本当に寝てるよ・・・」

その日は一睡もせず見張り続けていたハンスであったが
朝日が昇り、見張りの任が解かれると
そのまま倒れ込むように寝ようとするが、ベクターに蹴り飛ばされ
泣く泣く、訓練につきあわされる・・・

そのころシャウシュッツは、また同じテントで尋問を受ける・・・
捕捉された当初とは違って幾分かは穏やかな時間が流れ、
食事の際には他の兵士と同じように支給される食料が渡される。
そうしている間にもソリッドランサーの解析は進み、彼らにAC
と言う兵器の存在がどういう物かが理解されようとしていた。

「今日で、2週間か・・・」

「そう言えば、もうそれぐらい経つんだよな。」

「ああ、こないだの奇襲から5日が経っているんだな。」

「早い物だな・・・しかし、奴らも最近は大人しいな。」

「ああ、そこが不気味だ・・・」

「取りあえず、簡単な部分に至っては整備もされるし
 そこそこの食事は配布されるから悪くはないがな。」

「ここの兵士とは、上手くやっているかい?」

「ああ、みんな気がいい奴らばっかりさ・・・
戦場と言う殺伐したところだが、居心地が良い・・」

「そう言えば、昨日のポーカーは馬鹿勝ちしたそうじゃないか、
 エリックがここまで負けたのは初めてだって言ってたぜ。」

「ああ、あのゲームは勝たせてもらったよ。
 これでも、結構ヒヤヒヤもんだったがな・・・」

「そうじゃなきゃ、あいつが救われないよ。」

「ああ、違いないな・・」

つかの間であるが、平和なひとときが過ぎ去り・・・
日が落ちたその日の夜・・・奴らは現れた!!

「敵襲!!ACが出たぞ!!戦闘準備を急げ!!」

シャウシュッツが寝付こうとしたその瞬間・・・
駐屯地の後方で激しい爆発音が響き、兵士達があわただしく動き回り
同時にミサイルなどが配備され、基地の緊張は一気に高まる!!

「ちぃ・・・やはり、こないだの戦闘が元で敵も火力を高めてきたか・・・
 だが、やるしかない!!」

営巣にもうけられた留置場の牢を一気に破壊すると
格納庫に向かおうとするが・・・

「貴様!!そこを動くな!!」

彼の目の前には、目を血走らせ突撃銃を持った兵士が居り、
顔を見るとそいつは・・・ベクターだった。
彼はシャウシュッツを睨み付けながら

「やはりスパイだったか!!
 どうせ、こないだの戦闘も芝居だったんだろ!!
 あぁ?答えて見ろよこの糞野郎が!!」
「・・・・そこをどけ、貴様にもこの状況が
 どういうことか解っているだろう?」

「ああ、俺様にはよおぉく解るぜ。
 ・・・貴様があの機体を動かして敵に
 合流しようって打算がな!!」

「(・・・まずいな・・・完全に敵と見なしている。
 やるしかないのか・・・?)」

「はっ!!ダンマリかよ・・・
 さぁ・・死にやがれ糞野郎がぁ!!」

「ちぃ・・・」

シャウシュッツが殴りかかろうとした瞬間、ベクターが倒れ込む・・

「行け、シャウシュッツ!!
 ここはお前じゃなきゃ無理だ!!」

「ハンスか!!
 済まない、恩にきる!!」

「ああ、そのかわりうまい酒をいつかおごってくれよ!!」

「ああ、約束する!!」

脱兎のごとく駆けだし、傷ついた兵士、何かを大声で張り上げる兵士、
そんな物には一切目もくれず格納庫に走っていく・・・

「・・・よし、ソリッドランサー起動だ!!」

コンソールを操作し、機体を動かす!!

格納庫を抜けると、そこにはまさに地獄絵図が見えていた・・・

燃えさかる基地、爆発か何かでバラバラに吹き飛んだ人間の死骸、
傷ついた兵士達の阿鼻叫喚がそこには広がっていた・・・

「・・・これほどまでに酷いとは・・・
 敵は?・・・居ない?どういうことだ?」

銃を構えた次の瞬間・・・突然爆発音が鳴り響き、
火急となって飛来するグレネード弾が接近してくる!!

「レーダーに反応なし・・ステルスか!!」

タッチの差で交わしたソリッドランサーの後ろで格納庫が
爆発を起こし、機体を揺らす・・・

「ぐぅ・・動きが止められただと!!」

さらに左右から接近する機体・・・
ソリッドランサーは前方と左右から接近する3機の機体に
阻まれた状態となる!!

「・・・包囲網か・・・面白い、やって見ろ!!」

左右の機体が一斉にマシンガンの火を噴かすと、
ソリッドランサーが急発進、前方の敵に接近する!!
突然、回避されたマシンガンはお互いの機体を貫き爆発する!!
急接近する機体を迎撃しようとグレネードガンを撃つが、
ブレードで相殺・・・そのまま一気に機体がまっぷたつになる!!

「やはりこの程度か・・・
 さぁ、まだ居るんだろう・・・出てこい!!」

ステルスが解けたのか、レーダーには多数の機影が浮かび上がる・・・
さらに暗がりの中、視界でも確認が出来、装備を見るとロケットや
ライフルなど、明らかにAC戦を意識した装備が目立った。

「(・・・おかしい、一介の兵士がここまで周到な準備をするのか?
 司令官が居るにせよ、これはまるで俺が居ることをあらかじめ
 予期していたようだ・・・)
 ・・・まさか、グロックは!?」

各機が銃口をソリッドランサーに向けると、まるで
雨嵐のように乱射してくる!!
回避は成功した物の、その弾丸は基地周辺に被弾し
その被害を拡大させる・・・

「くっ・・これでは被害が拡大する一方か。
 ならば・・・」

機体のブーストを吹かし、森林地帯に移動する。
シャウシュッツの読み通り、機体を追っかけてきた相手は
移動しながら攻撃を続ける!!

「よし、このあたりなら被害は増えることはない・・・
 かかってこい!!」

森林を縦にしながらブレードをかざし、近くの機体を両断する!!
破壊された機体ごと攻撃してくる相手はやたら滅多に攻撃を続ける・・
やがて、弾切れを起こした機体を見つけるや否やライフルで撃ち落とす!!

「よし、これで2つ!!
 残りは・・・7か。」

その後も巧みに動き回りつつ、3つ4つと落としていき
最後の一機を落とそうとしたとき

「これで終わりだ!!」

ライフルをコアめがけ発射するも、巧みに回避され
反撃弾を食らう!!

「なっ・・?こいつ・・・やるな」

避けてはライフルを撃ち、避けられては相手の弾が
すれすれで飛び交うという接戦となる!!

「くぅ・・・思ったより腕がいいな。
 こうなったら・・・・CODE:ソードマスター起動!!」

極太のブレードを展開すると、先ほどとは
比べ物にならない瞬発力で接近する!!
この場を見た誰もが勝利を確信した瞬間・・・

「なに・・・受け止めただと?」

「・・・さすがは総帥が言うことはある、
 大した技量だ・・・」

「なに!!・・・貴様、今総帥と・・」

「・・・言っておこう、我々D機関は不滅だ。
 先の戦闘で勝利を確信でもしているのであろうが、
 それは見当違いという物・・・
 そして、ここで貴様は死ぬ!!」

「・・・勝手に殺してくれるな・・・
 名はなんという?」

「・・・初めから名前など無い戦場の兵士だ・・・
 貴様もそうだろう・・・003?」

「・・・俺はシャウシュッツ・ヒュッケバインだ!!
 決して003などと言う人形ではない!!」

「・・・忘れるな、貴様がなにを言おうと
 宿命には逆らうことは叶わない話だ。
 それは、誰よりも貴様が解っているはずだ。」

「黙れ!!俺は・・・人間だ!!」

「あくまで吠えるか・・・それもまたいいだろう。
 しかし、貴様では俺には勝てない・・・
 それを証明してやろう!!」

「なに!!パワーが上がっただと!?」

「コードセレクターシステムは貴様だけの専売特許ではない。
 私の機体にも似たような物がある!!
 さぁ・・・CODE:リーゼ起動!!」

「リーゼ・・・巨人だとでも言うのか!!」

「さぁ、私と対等に戦って見せよ・・・003?」

「・・・何度も言わせるな・・・・俺は・・
 俺はシャウシュッツ・ヒュッケバインだぁ!!」

「来るか・・・さぁ、この005を超えて見ろ!!」

「005・・・新型か!!」

「はっ・・・動きを止めたな、もらった!!」

「しまっ・・」

破壊力だけを追求した大型ブレードの直撃を受けた
ソリッドランサーは右腕からコア部にかけて
大きな裂傷と亀裂が生じる!!
しかし、とっさに取った回避が功を奏したのか
かろうじて動力部とコクピットへの直撃は免れる。

「だが、まだ!!CODE:ソリッドランサー起動!!」

「ちぃ・・この状態では・・」

インフィニティジェネレータが起動し、各部の
性能がフルに引き出された懇親の一撃が相手の機体に直撃、大破し
同時にソリッドランサーも大きな損傷を受ける事となる・・・

「やはり、自爆したか・・・すまないソリッドランサー・・・」

「ちぃ・・・まさかここまでやるとは・・・侮りがたし003!!」

「新型と言っても、大したことはなかったな・・・所詮は人形か・・」

「だが、それは貴様も同じだ・・・機体が大破した状態で
 どう戦うというのだ?」

「そんなことは、やってみなければ解らないさ!!」

「負け惜しみを・・・この波動、まさか!!」

「場の空気が変わっただと!?・・・グロックか!!」

空間がゆがみ、そこに黒いボディと赤く光るサブセンサーが
印象的な・・・禍々しいと言うべきなのであろう機体がそこにいた。

「・・・この機体は・・・スパルタクスではないのか?」

「総帥・・・申し訳ございませんでした・・・」

「005・・・よくやった、後は休め・・・
 久しぶりだな003・・いや、シャウシュッツ・・」

「・・・やはり貴様か・・・グロック!!」

「・・・やはり、あれが私だと思っていたようだな
 相変わらずだ・・・目の前の事実にとらわれている貴様はな!!」

「なに!!」

「貴様のような、目の前の事実しか認識できない愚か者は
 この世界にとって不要だ・・・」

「貴様こそ、自らが望む世界ばかり見据えている愚か者だろうに!!」

「そう言う表現の仕方もあるな・・・」

「ふん・・・やけに素直じゃないか・・・
 それに、あの戦い・・・貴様は確かに死んだはずだ!!」

「・・・・たしかに、よくやったよ貴様は・・・
 しかし、あれが本当の私ならあのような戦いを挑んだと思うかね?」
「な・・・まさか、あれは!!」

「一応、オリジナルである私の6〜7割方の実力を持たせてある。
所詮は出来損ないのコピーに過ぎないが、そのコピーを打倒するとは
早々、侮れる物ではないな・・・」

「・・・あの戦いは、いったい何だったんだ・・・
 そして、俺は・・・」

「・・・貴様には現代に帰ってもらおう・・・
 私とは違い、貴様は不要だ・・・大人しく箱庭の世界で
 じっとしているのだな・・・」

「なに!!・・・やめろ、俺と戦えグロックゥ!!」

「負け犬ほどよく吠えるとはよく言った物だ・・・消えろ。」

ソリッドランサーを包んでいた空間のゆがみは
機体を消し去ると、何事もないように繊弱な夜が訪れる・・・

「総帥・・・完成なされたのですね。」

「ああ、まだ完全とは言えないが
 現行の70%の出力が出せる。」

「アモンデュール・・・でしたね。」

「ああ、これこそ我らの象徴・・・そして意志だ」

「・・・これからいかが致しましょう?
 奴らのことです、すぐに追ってくるでしょう。」

「・・・もちろん、やってくるだろうな・・・」

「だったら、なぜやつを現代に・・・」

「・・・楽しみが無くなる・・」

「はっ?」

「やつを今殺してしまえば、その瞬間・・・
 私は生涯の楽しみを無駄に食いつぶしたこととなる。
 それに、ただでは殺さないさ・・・帰還するぞ。」

「御意」

火が消し止められ、当たりに暗闇が戻った空間で
2体の機体が音もなく消え去る・・・

 TIMEDIVER:未来からの訪問者 完
作者:ハンクさん