サイドストーリー

DIVINE KNIGHT 〜第一章〜
 見渡す限りの荒野。そこで二体のACが戦っていた。
一体はアリーナの頂点を極めたAC「ムゲン」。
もう一体はグローバルコーテックスから支給されたばかりのACだった。
 キマイラとの合流が目的だったのだろう。
先刻まで居たMT達はいつの間にか居なくなっていた。
残っているのは大量のMTの残骸と、瓦礫と化したキマイラだけだった。
「…見慣れない顔だな。新人か?」
「悪かったな。」
 誰が見ても勝ち目は無いと言うだろう。しかし、カイは善戦した。
間髪入れず放たれたレーザーが機体に突き刺さる。
メビウスリングはかなり正確に狙ってきた。
だが、避けきれなくはなさそうだ。
集中しろ、いけるはずだろ。
少しずつ。少しずつだが確実に避けていった。
しかし、カイは集中する余り攻撃することを忘れていた。
(弾切れを狙っているのか?とんだ曲者だな。)
 このことがメビウスリングに火を付けたらしく、
これまで単調だった攻撃が急に激しくなった。
応戦しようともしたが、避けるだけで精一杯だった。
とても攻撃する余裕などない。
「来ないのなら…こちらから行くぞ!」
 ムゲンのグレネードキャノンが火を吹いた。
なんとか避けることが出来たが、余りの爆風で一瞬視界が妨げられた。
そして、その一瞬でムゲンは居なくなっていた。
即座にレーダーを確認した。奴はどこに居る?
「チェックメイトだ。」
 真後ろ!?気付いたときには遅かった。
無情な一撃が放たれる。だが、カイはそれを辛うじて避けた。
危なかった。まともに当たればやられていた。
「甘い!」
 さらに背後から撃たれた弾を避けつつ、どうにか振り向いた。
そして、弾幕を張るようにミサイルを発射した。
一発、二発。その殆どは撃ち落されていったが、
少しずつムゲンの装甲を削っていった。
「ちっ、賢しいな。」
 先程の戦闘もあり、既にグレネードは撃ち尽くしたようだ。
ミサイルも全く撃って来ない。もう尽きているのか?
だとするとライフルも残りわずかのはず。あとはブレードをどうにかすれば…
「勝てる!!」
 カイは一気に間合を詰めた。
左腕のブレードが眩い光を放つ。そして一筋の光がムゲンの左腕を切り裂いた。
勝った。そう確信した次の瞬間、
「覚えておけ、敵を破壊するまで油断しないことだ。」
 ムゲンから無数のミサイルが放たれた。
そう、ミサイルは尽きてなどいなかった。
メビウスリングがミサイルを使わなかったのは、まさにこの瞬間の為と言っても良かった。
懐に飛び込んできた所を狙って、カウンターで仕留める。
 なんとか直撃は免れたが、右腕とミサイルを持っていかれた。
機体の損傷が激しい。これがトップとの差か…
自分の未熟さ加減には嫌気がさす。
だが、ただ負けるわけにはいかない。
まだブレードが残っている。それだけで十分だ。
「うおおおおおおおおおおお!!」
 まるで、機体がカイに呼応するかの如く、
左腕のブレードが一段と強い光を放った。
そしてムゲンの胴体めがけて閃光が走った。
しかし浅かった。ムゲンを切り裂くことは出来なかったが、
なんとかミサイルを破壊することはできた。
このまま一気に畳み掛けてやる。
「惜しかったな。遊びはここまでだ…」
 メビウスリングはそれを許してはくれなかった。
カイの放った二撃目は虚しく空を切り裂いた。
ムゲンはひらりと蝶の様に避けると、流れるようにライフルを撃った。
余りの滑らかさに一見、ゆっくりと動いているように見えるが、
今までに比べ、明らかに速かった。
速いといっても見失うほどの速さではなかった。
しかし、目では追えても、身体がついていくことが出来なかった。
有り得ない速さで繰り出される攻撃に耐え切れず、
あっという間にブレードが悲鳴を上げた。
『ボウギョリョク テイカ』
 機体も危険信号を出している。しかし、逃げるわけにはいかない。
だが、このままでは負けるのは必至だ。なにか手を打たないと。
とっさに岩陰に身を隠したが、時間稼ぎにもならないだろう。
それでも隠れずにはいられなかった。恐怖が心を支配する。
このまま死んでいくのか…
「自分から仕掛けてきて、負けそうになったら逃げるのか?
見上げた根性だな。」
 ムゲンはゆっくりと近付いてきた。
一歩一歩、確実に死が迫ってくる。
もう駄目だ。
そのとき、カイの目に何かが映った。
あれは、こいつの腕?こんな所まで飛ばされていたのか。
腕の方は損傷が激しく使い物にならないが、
ライフルはほぼ無傷だった。
これは使える。
 サイトを下に向け、ムゲンのいる方向へ機体を向けた。
ロックオンする訳には行かない、感付かれてしまう。
もう、ムゲンを破壊する力は残っていない。
だとすると、狙うのはライフル。それしかない。
 レーダーをじっと見つめ、ひたすら射程圏内に入るのを待った。
ここまで時間を長く感じたのは初めてだった。
まだだ、もっと引きつけろ。
そう自分に言い聞かせた。そうでもしないと飛び出してしまいそうだった。
もう少し、もう少し…今だ!
一気に照準をムゲンに合わせ、ライフルめがけて次々と弾を発射した。
それとほぼ同時にムゲンもライフルを撃ってきた。
「な、左腕にRF-200だと!?」
 意表を突かれたメビウスリングは少しだけ撃つのをためらってしまった。
そしてその一瞬の差が、互いの勝敗を決した。
 そのとき、急に西の空が騒がしくなった。

つづく
作者:raulさん