サイドストーリー

One Raven’s Chronicle No.3 自らを憎む者
オレは今、実働部隊との戦いを終え、迎えの輸送トレーラーの中にいる。
トレーラーの中はAC1機を整備するだけのスペースがあり、さっきから作業着の男たちが忙しそうに走り回っている。
 
「よう、ウェイン!今日は珍しく派手にやらかしたなぁ!ACとでも戦ったのかぁ?」
 
ウェイン「なんだカークか。ま、見てのとおり予想外の事態発生といったところだ。」
 
この声のでかい男はカーク・C・ジェラルド。オレのACの整備主任だ。腕は確かだが無類の酒好きで、
この男にツブされたヤツはかなりの数らしい。
 
カーク「お、なんだとはごあいさつだな。せっかくビールの一本も持ってきてやったのに。」
 
ウェイン「あぁ悪い悪い。で、あとどのくらいかかる?」
 
カーク「そうだなぁ、ま、明日までには仕上がるな。俺たちのモットーは『早く確実に』だ。
お前さんは安心して俺たちに任せてくれればいいんだ。ガハハハハ!」
 
ウェイン「頼りにしているぜおっさん。明日の昼アリーナなんだ。そのときまでに仕上げといてくれ。」
 
カーク「おう!大船に乗った気でいてくれ。で、一つ質問がある。」
 
ウェイン「なんだよ。」
 
カーク「一体どうやったら垂直ミサイルが木っ端微塵になるんだ?
他の装備は無事なのにコレだけが無いってのが不思議でならん。」
 
ウェイン「あぁそれはな、垂直ミサイルをパージして投げつけたんだ。どうせあこじゃ使い物にならなかったんだしな。
で、ヤツが避けたところをライフルでブチ抜いて爆発させたんだ。」
 
カーク「はぁー…。なるほどなぁ。そりゃあ跡形も残ってねぇのも納得だ。しっかしお前さんにそんな無茶させたヤツだ。
さぞかし強かったんだろ?」
 
ウェイン「まぁ…な。じゃ、オレは部屋に戻るわ。ビールありがとよ。…あんま無理すんなよ。」
 
カーク「ガハハハハ!そいつはお互い様だ!」
 
このようなやりとりの後、オレはビール片手に格納庫を後にした。
 
ウェイン「ふぅ。ユリカになんか買ってきてやると言った以上、なんか買っていかないと面倒だな。
ケーキでも買ってってやっか。」
 
オレはビールを飲みながら今日の出来事について考えを巡らせていた。
が、いくら考えてもあのACが実働部隊らしいことしかわからない。管理者無き今、ヤツらが動く理由はないはずだ。
 
1時間ほどして、トレーラーはコーテックスの整備施設に到着した。オレのACはここで本格的に修理される。
トレーラーで行なわれていたのは、応急修理や部品の発注などの、いわば下準備だ。
 
カーク「じゃあ俺たちが責任を持って整備しておくからな。あと垂直ミサイルは買い換えておくぞ。その方が安上がりだからな。」
 
ウェイン「あぁ、任せるよ。おっさんたちの仕事は早くて丁寧だから安心だよ。」
 
カーク「なあに、俺たちはモットーを実践しているだけだ。明日頑張れよ!ガハハハハ!」
 
ウェイン「おう。じゃ頑張れよ、おっさんも。」
 
こうしてオレはカークたちに整備を任せ、家路についた。
 
 
オレの家は極々平凡なマンションの一室だ。
一つ特徴的なことと言えば、グローバルコーテックスが経営しているだけあってレイヴンが結構いることだ。
だからセキュリティも他所と比べて1ランク上だ。
中に入るには身分証明書の提示からボディーチェック、さらには指紋の照合をクリアしないといけない。
しかも引っかかったら警備員が来るのではなく、MTの大軍がくる。
そのため、安全といえば安全だが、友達を呼びにくいことこの上ない。
 
ウェイン「毎回面倒なことさせおって。軍事施設じゃあるまいし。」
 
オレの部屋は3階にある。オレはエレベーターの扉を閉じようとボタンに手をのばした。と、その時。
 
「待った。俺も乗せてくれ。」
 
乗り込んできたのはカロンブライブ、明日のオレの対戦相手だ。
幾度も死亡したと噂されていたが、その度に生還し、不死鳥とも呼ばれている。一部に狂信的なファンがいるほどだ。
現在のランクはC‐1だが、高い技量と的確な判断力、そして強運が合わさって、
その実力はA、Bランクのレイヴんと比較しても何らひけをとらない。
 
ウェイン「よう、あんたも仕事帰りかい?」
 
カロンブライブ「ああ。」
 
チーン
 
ウェイン「じゃ、明日はお互いフェアプレイでな。」
 
カロンブライブ「当然だ。」
 
オレは彼とは特に会話もせずに別れ、自室のドアへ向かう。
 
ウェイン「ただいま。ケーキ買ってきたぞ、ってうわっ!?」
 
ドアをあけたとたん、ユリカが飛びついてきた。そして隣に響きそうな大声でまくし立てる。
 
ユリカ「お兄ちゃん!?大丈夫!?ケガしてない!?知らない人についてっちゃだめよ!?拾い食いした
りしてないよね!?」
 
ウェイン「…まず落ち着け。後半の2つが引っかかるが、オレは大丈夫だ。ケガもしてない。というかメールみてないのか?」
 
ユリカ「見たけど…。予想外のことって書いてあったから…。」
 
ユリカはオレのことを兄と呼んでいるが、オレはユリカの兄などではない。
彼女の兄は2年ほど前、オレがレイヴンになって間もない頃にミッション中に敵ACと交戦して帰らぬ人となっている。
彼はユリカの唯一の肉親で、オレの親友だった。オレは天涯孤独となってしまった彼女を引き取り、今に至っている。
この頃からだったろうか。ユリカが必要以上にオレを心配するようになったのは。もっともあの頃はもっとひどかったが。
 
ウェイン「お前心配しすぎ。もう少しオレの腕を信じてくれよ。…まだシュウのこと、引きずってるのか?」
 
ユリカ「う、ううん。そんなこと、ないよ。」
 
ウェイン(嘘だな。思いっきり引きずってるって顔だ。…くそっ!もっとオレがしっかりしてたら!)
 
ウェイン「…飯にしよう。今日はハヤシライスだ。」
 
ユリカ「うん…。」
 
食事中も重たい空気が流れていた。そしてオレはこの重たい空気がたまらなく嫌だった。気が滅入るだけじゃない。
普段は明るいユリカが顔を曇らせるからだ。そしてその顔は、かつての不甲斐ないオレを、親友を見殺しにしたオレを思い出させる。
ユリカは以前俺のせいじゃない、悪いのは兄を殺したレイヴンだ、と言っていた。
それでもオレは思い出すたびに自らを許せなくなる。オレは今でもオレが憎い。
レイヴンだったころ、キョウと名乗っていたあいつを殺したオレが。
 
ウェイン(シュウ、いや、キョウ…。お前はどう思っている?お前を見殺しにしたオレを。
そしてユリカをいまだに悲しませているオレを。オレがお前にしてやれることはユリカを守ることぐらいだ。
勝手な言い分ってことはよくわかっている。だが今のオレにはこれしかできない…。許せ、キョウ…。)
 
オレの一日はこうして幕を下ろした。消えることの無い悔恨の念の苛まれ、一睡もできなかった。
そして翌日、オレはカロンブライブとの決戦の時を迎えようとしていた…。
 
 
 
 

あとがき
やっとこさ3話目〜。息切れ寸前。だってネタがないもん。
しかし他人のを見た後に自分のを見ると、自分のは…。
もっと修行してきます……。
作者:キリュウさん