サイドストーリー

新世界ジハード 第六話『遺された神域』
ボダミア平原での小戦が終結した後、ミッドガルドでは緊急招集が行われた。
各支部から数人の代表が選ばれ、本部に向かうことになっている。
その中の一人、第四支部長である彼は憂鬱だった。
「部長。今回の招集のことなのですが・・・」
隣に座っている秘書が話しかけてくる。今は航空機で本部に移動中である。
「・・・すまない。少し席をはずさせてくれないか」
頭を抱え、彼は言った。
「かしこまりました」
秘書は素直に応じた。
第四支部長の男は席を立ち、トイレへと向かう。
ガラスに反射された自分を見る。ひどく疲れた顔で、白髪も増えている。
頭髪も少なくなり、もうすぐ50歳だというのに未だ未婚である彼は、憔悴しきっていた。
ドアを開け、中に入る。別に排便をしたかったわけではない。ただ独りにして欲しかったのだ。
「・・・私は疲れた・・・」
壁にすがるようにもたれかかる。
「今回もいい知らせではないだろう。おそらくウェストの・・・ああ、考えたくもない」
壁を力なく殴りつける。
「もう疲れたんだ、私は」
天を仰ぐ。見えるのは空でなく、機内便所の小奇麗な天井のみだった。
「やめたい。なんで私はこんな組織に入ったんだ」
再びうつむき、沈黙する。
先程からの独り言は誰も聞いていないが、その光景はひどく奇妙である。
「・・・・・・!」
目を見開いた。
思い立つと彼はすぐにドアを開け、貨物室に歩き出す。
「お客様、そちらは関係者以外立ち入り禁止となっておりますが・・・」
通路でスチュワーデスが話しかけてくる。
「私はこういう者だ。すまないがバッグに機密書類を入れたままになっていてな。取りに行かせてくれ」
ミッドガルドで作られた偽造カードを見せ、無理やりにでも貨物室に入ろうとする。
「では私が取って来ましょう」
スチュワーデスはにこやかに返事し、振り返って歩き出す。
「駄目だ、あれは絶対に見せてはならない物なのだ。私が行く」
「ではバッグを取って来ましょうか?」
「口で言ってもわからないようなバッグなのだ。私が行かないと絶対に見分けられない」
「しかし・・・」
「お願いだから行かせてくれないか」
「・・・すぐに取って来てくださいね」
「ああ、わかってる」
彼の勢いに押されたのか、新人スチュワーデスは仕方なく入室を許可した。

中に入ると、山積みになっている旅行鞄の群れを無視し、とりあえず邪魔なものをどかせて床を探し当てた。
「この辺りにあるはずなのだが・・・」
手当たり次第に床を探る。
「・・・これだ」
航空機というものは、貨物室内に大抵はダストシュートのような外に出るための扉が床に備えられているのだ。
彼はそれを探していたのだった。
見つけたのはいいものの、それには堅く鍵が掛けられており、容易に開けることは不可能だった。
「こんなときに私の技が役立つとはな」
第四支部長の証たる名札をはずし、そのピンを垂直に立てた。鍵穴に抜き差しし、内部の構造を掴む。
ミッドガルドの支部長になる前、彼は凄腕の空き巣だった。
資金に困っていたわけではなかったのだが、ただ鍵をはずすのがおもしろかったのだ。
わずか三分ほどで鍵をはずすと、それを力いっぱいこじ開けた。
下には真っ白な絨毯が敷かれているようだった。雲である。その隙間からかすかに海が見える。
「下は海か・・・」
彼は身震いし、身を乗り出した。

「おい、何だあれ・・・」
機内ではたくさんの乗客が窓から空を見つめていた。
「きれい・・・」
「こっちにくるぞ・・・?」
青とも白ともいえない光が、一直線に一つの航空機めがけて接近してきていた。
しかし、それは接近といえど相当の速度が出ている。
それがなぜ彼らには遅く、ゆっくりと接近しているように見えるのか。
そう、彼らは空に己を視ていたのだ。
自らの死を。

これで、全てが終わる。
私は解放された。呪縛から逃れることができたのだ。
これで、全てが、私が終わる。
ミッドガルド第四支部長である壮年は、ゆっくりと上昇する景色の中で、かなりの速度で下降していた。
手を広げて叫ぶ。
「私は・・・自由を得たのだ!」
超高速で落ちて行く彼の耳にはあまり大きな音として聞こえなかったが、それを声として発した彼自身にはわかっていた。
目を閉じて風の音は轟音で何も触ることのないこの場所で、視覚、聴覚、触覚を失った中で、彼が知ることはなかった。
先程まで乗っていた航空機がヴァルハラの攻撃によって消滅したことを。



「今回集まってもらったのは言うまでもない。前作戦の敵の目的だ」
ミッドガルド本部の会議室でラッド=ガイが告げる。
「判明したのかね?」
巨大な机の向こうで、各支部の部長が緊迫の表情を漂わせる。
「静かにしてくれ。それと、第四支部長アラガレには伝えておく。案ずるな」
ラッドが制す。
「来ない人間はどうでもよい。それで、どういう結果だったのだ?」
「・・・今回は滅多にない大規模でやって来た。しかし、戦争となる前に奴等は引き下がった。
これは、戦争が目的だったのでなく本当に調査が目的であったということになる。
あの情報は本物だったというわけだが、では奴等の目的とは何だったのか?あれ程までの軍勢が必要だったのか?」
ラッドが一旦話を切り、周りを見回す。
「必要だった。そして、あれだけでも足りなかったのかもしれない程だ。やつらの真の目的は地形の座標調査ではない。
宇宙空間であの場所における状態の座標を求めていたのだ。しかもほとんどが有人でなく無人機で来ていたのだ。
有人は例の正体不明機一体だけだったらしい。情報は専用電波で送られており、奴等を破壊したときは既に手遅れだった。
情報は充分に与えてしまったのだ」
「・・・どういうことだ?」
確かに彼の話は理解し難いものだった。各支部長の誰もが疑問を隠せない顔をしている。
「・・・昔から原因不明の爆発などで施設や航空機が破壊されることがあるだろう。
それは三年に一度起こるか起こらないか程度のもので、それを一つの事柄と関連付ける人間はいなかったのだが・・・
我々は今、その人間となった」
「世間では適当な理由をつけられて収まっているが・・・やはり裏では何かあるのだな?」
ミッドガルドの中では原因不明とされても世間では何事もなかったかのように全ては解決されている。
「そうだ。それは何か?・・・簡単だよ。宇宙空間にある遺跡とは何か知っているかね?
それは極めて危険なもので、誰もがあれに関与することができない」
ラッドが勿体をつける。
「まさか・・・!」
各支部長の顔に驚愕が走る。
「既知の通り、衛星砲だ」
今度はザギリスが言った。
「あれが原因不明事故を巻き起こしていたというのか!?あれは空想上の存在のはずだ!」
各支部長は口々に反論する。
「聞け。あれは以前、昔に考古学者ゴーラが唱えた説だが・・・太古の昔、宇宙空間に放たれた無数の衛星砲が存在し、
それは我々未来人の動向を見て裁きを下すためのものであると。はるか未来に向けての制裁者を空に放したのだと。
そしてその存在を信じるものはいなかった。彼は無念のままに死んでしまった」
ラッドが説明する。
「だが実在したとしてなぜゴーラは知っていたのだ?証拠があるというのなら公表すればよかったはずだ」
「・・・彼がその思想に考え付いた経路は、最初に流れ星を見てからだった。
それはなぜか夜空で消えることなく、彼の住んでいた土地のすぐ近くに落下したというのだった。
ゴーラはあわててその地点に向かうと、大破してバラバラになった人工衛星の破片を見つけた。
よく見るとどうやら相当古いもので、彼はそれを自宅に持って帰った。
そして持ち前の考古研究技術を駆使してそれが何であるかを確かめたのだ。それでただの人工衛星の物ではないと発覚した」
そこで一息つく。
「だが、それだけで衛星砲などという物の存在を主張する奴はいない。彼はそれを世間に公表し、研究をしたが全くわからなかった。
そしてそれはそのまま博物館行きにされ、今でも残っている。研究の結果が出ない以上、研究者である彼は納得しなかった。
何としてでも正体を暴いてやると言い、世界各地に調査に向かった。そして出くわしてしまったのだ」
「何に?」
「衛星砲が施設を崩壊させるところを」
「原因不明爆発に目撃者がいたというのか?」
「そうだ。彼はそれを青いとも白いともいえない光が照射され、全てを真っ白にして消滅させたと表現したのだが・・・
もちろん誰も信じてはくれなかった。それと以前見つけた謎の衛星を組み合わせて衛星砲説を述べたのだが、
彼は狂人呼ばわりされ、挙句の果てには嘘言師とまで呼ばれた。彼は世間を呪ったよ。
しかし、それに興味を示した組織があった。それは我々の先駆者、そのときにあったミッドガルドだった。
原因不明爆発の貴重な情報として一応は話を聞き、詳しい情報を貰った。
彼は必死だったが、残念にもそれは正式なものにならなかった。単なる仮説として世にひっそりと残されたのだ」
「しかしそれは正しかったと?」
「正確ではないが、一番有力説であることは確かだ。奴等の攻めて来たボダミア平原のはるか上空、
我々もあの辺りを調査した結果、わかったのだ。大気圏の上、熱圏。そこにあった。まさに群れだ。
多数の謎の人工衛星が群れを造って同じ軌道を描いている。
それを衛星砲と決め付けるのは早計かもしれないが、少なくともウェストがそれを狙っていることは確かだ。
もしかしたらゴーラの説は正しく、あれが原因不明爆発を起こしているのかもしれない。
そして、あれが数世紀続く戦争の勝敗の鍵になるのかもしれないのだ。そうでなければ昨日の大規模小戦は有り得ない」
「ふむ・・・」
各支部長は納得した、という顔である。衛星砲の真偽はともかく、
今は敵軍の作戦は成功をおさめ、それによって自国が危機にさらされるかもしれないと認識した。
「それでこれからどうするつもりだ?」
「情報はそれでいい。だが、衛星砲、とりあえず不明群地域はヴァルハラと呼ばれているのだが。
ヴァルハラをくれてやるわけにはいかん。ここで審議を行う。ヴァルハラを破壊するか、奪還するか。あなた方の意見を」
ザギリスが仕切る。
「ふむ・・・そうだな。私は奪還を薦める。今のままでは戦況は変わらない。重大な決め手が欲しいからな」
本部勤めのミッドガルド参謀官が言う。
「しかし、奪還は可能なのか?」
支部長の誰かが反論する。
「それがわからないからこうやって審議しているのだよ。本気で奪還に取り組むか、破壊してしまうかをね」
他の支部長から揶揄される。
「だが破壊こそ可能とは決まっていないではないか」
「どちらが簡単かという話をしているのだ」
「その前に侵入はできるのか?」
部屋がだんだんとうるさくなってきた。
「侵入は不可能でも破壊は可能なんじゃないか?」
「遠距離から攻撃すればいいだけのこと」
「それができたらこんな会は開かぬわ!」
「とりあえずイーストよりもウェストの方がヴァルハラへの到達が早いはずだ。
ヴァルハラの自己防衛力とウェストの迎撃が重なれば奪還は無理だろう」
誰かが言った。
「つまり破壊を薦めるわけか」
「他にあるまい」
「確かにそれが妥当な意見だな」
部屋は静かになった。
「・・・思ったより早くまとまったようだな。いいのか?破壊する方針で」
ザギリスが言う。誰も口答えはしなかった。
「いいだろう。我々はその意見を公式に認める。今日の会議はこれまでだ」



朝、日が昇り始めてまもなくの頃。表通りを一人の少年が歩いていた。
いつも同じような暗い顔で歩くのだが、今日はその意味が少し違っていた。
少年の名は、レア=ヴェイ。彼は先日のことで落ち込んでいたのだった。
やらなきゃやられるっていう精神か。僕にそれができるのか。
信号機にひっかかったとき、不意にそれは現れた。
「・・・ん?」
レアは目の前に背の高い男が立ちふさがっていることに気づいた。
その男の両眼は少年を真っ直ぐ見据えていたのだが、レアは無頓着にそれを避けて進もうとした。
だが、男の出した腕によって進行は止められた。
「・・・何か用ですか」
小さな声でレアは応える。
「ちょっとね。そこまで来てくれないか」
そいつは今頃の若者、といった服装で、真っ赤なガラの悪いシャツにチェーンの巻き付けられたジーンズ。
金色に染め上げた頭髪、耳たぶに輝くピアス。
気の弱いレアはそれに逆らえず、男の指示に従って裏通りに入ってしまった。
「お前・・・レア=ヴェイだよな」
「そうですけど・・・」
男の目が不気味な光を放つ。
「ふーん」
男は拳を握り、振りかぶった。
「!」
レアは目をつむる。しかし拳は容赦なく叩き込まれ、少年は仰け反る。
「な、何するんですか!?」
壁にもたれてレアが反論する。
「てめえが良くて俺が駄目だと・・・!?ふざけんな!!」
今度は蹴りを入れる。脇腹に直撃。痛みに耐えられずに倒れこむ。
「・・・なんだって・・・?」
「うるせぇ!昨日だって作戦を失敗しやがってよ!」
襟を掴んで持ち上げ、今度はみぞおちを殴る。急所に攻撃された痛みで、少年は意識が遠のきそうになった。
「なんで俺が・・・!」
地面に投げつけ、無抵抗なレアの顔を踏みつける。
「ぐっ・・・」
「収まらねぇぜ!このクソガキが!」
こめかみに血管を浮かばせ、今にも少年を殺してしまいそうな勢いだ。
レアはだいたいの状況が掴めてきた。そして。
やらなければ、やられる。
少年は足元にあった鉄製パイプを力なく握り、持ち上げる。
そしてそれを男のすねにスイングする。気づかなかった男はもろにその攻撃を受けてしまい、うずくまって悶絶する。
「うぐっ・・・!」
立ち上がろうとした男に再び鉄の一撃を見舞う。今度は頭部に当たり、相当のダメージを与えたようだった。
「好きでやってるわけじゃないんだ!」
自分でも意味がわからないうちに叫んでいた。
「負けたから何だっていうんだ!僕だって自由気ままに生きたいんだよ!あんたなんかに・・・!」
レアは続ける。
「あんたなんかに恨まれるほど僕は暇じゃない!いつ僕があんたに迷惑をかけたんだ!」
鉄パイプを地面に投げつける。
「いい加減にしてくれ!」
そして、踵を返して表通りに戻ろうとした。今日は学校に遅刻かな、とぼんやり考えながら。
少年が数メートル離れたとき、
「殺してやる・・・!」
動けなかった男は銃を取り出した。銃口を少年の背中に向ける。
「へっ・・・」
撃鉄が下ろされるその瞬間、銃を持っていた腕ごと銃を踏みつけられた。
「ぎゃあっ!」
今の一撃で数本の指を骨折しただろう。奇妙な叫び声で少年は後ろを振り返る。
「あ、確かあなたは・・・」
シリル=コンテーシが男の腕を踏んだまま立っていた。
「ぐあああ・・・!」
無表情に男を見つめるその眼は機械的だ。
「やれやれ・・・ミッドガルドに入れなかった腹いせか?」
通りの入り口からエルロット=カンファが姿を現した。
「とんだ災難だったな、レア」
「ええ・・・」
シリルがいればエルロットがいることも不思議ではなく、少年は何気なく下を向く。
ぼろぼろな姿になってはいるが、あまりそれには頓着していない。
「しかしこの状況を見ると喧嘩には勝ったようだね。人生で初めてのことじゃないかい?」
明らかに失礼な言い方だったが、今の少年にそれをどうこうする元気はない。
「まぁいいか。とりあえずあいつの説明をしておく。あいつは昔にミッドガルドの入隊希望者だったんだ。
でもその腕前では無理と判断されてね。要するに『雑魚は帰れ』ってことだったのさ。
それをいつまでも根に持っていてね。昨日の君を知って自分の方が技術が上だと思ったんだろう」
「なんで知ってるんですか?」
「そうさ。それが問題でね。あいつはまずい。知りすぎてるかもしれない。だからその処置が我々に託されたわけだ。
そして張っていたらどうも君がここに連れ込まれたようでね。到着したらこの有様だったというわけ」
「処置って・・・」
「今シリルにやらせたところさ」
あごでシリルと男の方を指す。
男は既に死んだかのように動かなくなっており、シリルはそれを眺めているだけだった。
「殺したんですか?」
「さぁな」
「やばいんじゃ・・・」
「安心しろ。俺達のバックにいるのはミッドガルドだぜ?」
「そうですか・・・」
「しかしここで会ったのも偶然じゃないかもな。どうだい?そこらでお茶でも」
「学校が・・・」
「いいじゃねーか。どーせもう遅刻だろぉ?それに結構重要なこと話さなきゃなんないしね」
「・・・・・・」

「ここさ」
地下にそれはあるのか、建物の下に続くようにその階段は存在していた。
「喫茶店なんですか?」
「喫茶店さ。俺らの行きつけでね。さ、入ろうか」
レアを促し、エルロットが下りてゆく。
今にも壊れそうなドアを開ける。奥には、喫茶店といえなくもない廃墟があった。
「これが・・・喫茶店・・・」
レアはぽかんとしている。
「ちょっと君のイメージとは違うかな」
にやりと笑うと、レアの腹を殴った。
「・・・っ!」
間髪入れずにシリルがハンカチをレアの口に押し付ける。ラッドにされたときとまったく同じやり方でレアは眠りに堕ちる。


「聞こえるかい?こっちはエルロットだ」
「エルロットが何の用だ?」
本部の電話回線からの声に、ラッドは不機嫌を隠せない声で応対した。
「おっと、そんなに怒んなよ。俺はてめぇらに言わなきゃなんねぇことがあんだ」
「言葉遣いを直してからものを言うんだな」
ラッドが受話器を置こうとしたそのとき、
「その必要がなくなったんだなこれが」
受話器を耳に近づけ、
「何だと?」
「もうお芝居は終わったってこと。そして俺らはレア少年を生け捕らせていただきましたでございますですよ」
「俺ら・・・シリルも一緒か。レアを誘拐してどうするつもりだ」
「簡単さ。祖国に帰る。邪魔をすればレアを殺す。それだけ」
ラッドは音もなく左腕を挙げ、内務管理部の男に合図を下した。彼がいるそこは、様々なジャンルであらゆる電波を感知し、
こちらからも電波を送ることのできる施設、オペレーティングルームの一つであった。
彼の合図は逆探知、エルロット・シリルを探索。
そして通話音を外部音声に切り替え、エルロット側の情報をできる限り集めようとした。
「安心しろってば。おとなしくしてくれりゃあ殺しゃしねぇ」
逆探知に感づいているのかいないのか、エルロットは続ける。
「我等がレアを見殺しにする可能性を考えなかったのか?」
「見殺しだって?いいのかい、それでも」
エルロットは見抜いているようだった。
「ケッケッケ・・・わけわかんねー理由でミッドガルドに入ったこいつがただの捨て駒なんてこたぁねーもんな。何かある。
そこまではわかってんだが、それが何かは知らねえ。
ま、俺はとにかくこいつを捕まえりゃあ何とか切り抜けられるかなって思ったわけよ」
「・・・お前はウェストの回し者だったということか」
「気づくのが遅いってば。もう情報は送っちまったことだし、俺らはただ帰るだけ」
逆探知完了まで10秒。
「ここに連絡した理由は何だ?」
「ふふん。焦るあんたの声を聞きたかったんだよ。それとわかってるだろうけど第四支部長は原因不明爆発でお亡くなりになったよ」
「自殺の線もあるがな」
「詳しいね。それじゃな。俺は帰らせてもらうよ。フウカにもよろしく言っといてくれ」
逆探知完了。
「自分で言え。そこにフウカが行くからな」
ラッドが言い、受話器を乱暴に置いた。

「手が早いね」
エルロットは不敵な笑みを残し、熟睡しているレアを見る。
「こいつがどんな意味を持つのか・・・ウェストにでも送っちまうか?」
シリルに言っているのだが、彼は微動だにしない。
「・・・やはり機械だな」
エルロットは廃墟の椅子に座り、脚を組む。
「さて・・・ヴァルハラ占拠作戦の進行具合はと・・・」
その声は木霊となって廃墟に満ちた。




下記は感想です。

どーもすんません。長い間書けませんでした。ほんと忙しいもんですね高校生活というものは!
疲れでPCに触る元気もないとこでした。
ま、慣れてきたんでだんだんとペースを盛り返していきたいと思います。

次回予告
暴かれたウェストの陰謀。それはヴァルハラの占拠という恐ろしいものだった。
内通者であったエルロットは、レアを連れて国境に向かう。
その事実に少年は気づくことなく、事態は展開していくのだった。
一方、彼らの標的となったヴァルハラにも変化が生じる。虚無の中から作り出されたもの。
遠い空の彼方、その真下。次回『星空の使い』。
作者:Mailトンさん