サイドストーリー

強行偵察作戦・開始
西暦2425年、12月24日未明。アーカイブエリア上空。高度約3000フィート。

俺は、輸送機内のACコクピットにいた。
ミーティングで聞いたとおりこの空域は磁気嵐が酷いらしく、コクピット内のレーダーディスプレイには常にノイズが走っていた。
LGF(レイヤード地上奪回軍)第721特別機動部隊に所属するAC乗りである俺が、作戦を開始して既に4時間が経過している。
その間、俺は始めて見る地上の有様に正直、ウンザリしていた。
どこまでも続く荒れ果てた不毛の大地。指導部の云う青い空とはかけ離れた、どんよりとした灰色の空。
他の別ルートで侵攻中の奴らもがっかりしているだろう。

 今回の作戦は、地上軍の帝都に対する強行偵察作戦。
敵防衛網をかいくぐり、少しでも長く戦闘・偵察行為を継続するのが任務だ。
当然補給は無く、ACが行動不能となった場合、即座に自爆させる事が義務付けられている。
敵にこちらの情報を与えるなど、偵察においてはもってのほかだ。
この作戦に参加するやつらは、恩赦を当てにした囚人や延命措置を目論む強化人間等、訳アリの奴らがほとんどだ。
もちろん俺とて例外ではない。開け放たれたコクピットハッチの間から覗く漆黒の闇は、彼女の黒い瞳を思い出させる。
「何故なの・・・?」
特別機動部隊に志願した事を告げた時の彼女の涙を湛えた瞳。だが、俺は、そのくらいしか、彼女に、・・・
その時、無機質な女性の音声が耳朶を打った。
「フライ4、突入に備えよ。」
来た。奪回軍本部からの指令だ。瞬時に、追想と現実が入れ替わった。
本部から送られる指令は、ACのコンピュータによって加工され、
HMD表示やこのような女性の擬似音声の形で、間接的に搭乗者に伝えられる。
逆に、俺の戦い振りもこいつに逐一報告されるという寸法だ。
「フライ4了解。」
俺の応答に呼応するかのように、突然雲が途切れ、視界が開けた。
光?
眼下には、おびただしい数の光点がきらめき、地表を覆っていた。膨大なエネルギーと、資源の浪費。
俺が始めて見た時の地上軍帝都のイメージだった。その、きらめく星の海から幾条ものサーチライトが辺りをまさぐり始めた。
どうやら、俺を歓迎してくれるらしい。磁気障害から回復したレーダーが、無数の機動兵器の接近を探知した。
数は、数百機ほど。ACも何十機か混じっているようだ。
何とかやり過ごして市街に潜り込まねば、瞬時に鉄屑にされてしまうだろう。高度約500フィート。降下可能高度である。
俺はスロットルを上げ、ACもろとも虚空へと飛び込んだ。
「戦闘モード、機動します」
火器管制システムをオン。マシンガンのセーフティが解除される。高度計の針がグングンと0へと近づいてゆく。
オーバーブーストを点火。俺の体に衝撃にも似たGがかかり、機体がグンと加速する。
アフターバーナーを散らせながら、そのまま帝都内へパワーダイブ。敵は、目前へと迫っていた。
作者:ヴォルカヌスさん