サイドストーリー

帝都
2425年12月某日第四週某日、敵首都強行偵察の任が下った。
通常の編隊戦闘ではなく、単機ずつに分かれての隠密作戦だと言う。
その作戦目的は、地上軍帝都の偵察、戦力の削減、
及び戦闘データの収集。
生還率の恐ろしく低いと言われる奪回軍特別攻撃隊だが
幼い時分から憧れていた『地上』をおがむチャンスでもある。
この下らない戦争を終わらせる。
そして「願わくば、彼女のあの笑顔をもう一度・・・」
俺は一も二も無く志願した。

地上で待ち受けていたものは、地下世界と何ら変わらぬ不毛の大地と
万全の体制で襲い掛かる地上軍の機動部隊だった。
レイヤード最新鋭ACとはいえ敗色は濃厚である
だが俺は、意を決して光の只中へ飛び込む。


"警戒せよ! 所属不明AC接近!! 接触まで3秒!...2...1..."


OBの出力も途切れ、機体が降下を始める。俺は、手頃な着地場所を探した。
眼下には、既に帝都治安警察部隊のMTが5,6機展開していた。その内の一機めがけ、ACを落下させる。
俺のACに踏んづけられたその逆間接MTは、脚部の間接から火花を散らしてくずおれた。
周囲のMTは味方がいる所為で、攻撃を躊躇した。
だが、マシンガンで頭部から撃ち抜かれ爆炎を上げたそいつを見て、機銃とミサイルを一斉射した。
が、既に俺は跳躍し奴らの頭上を飛び越えていた。

雑魚を相手してる暇も、弾薬も無い。

俺はすぐさま次の目標を探した。まあ、探さなくとも向こうから見つけてはくれる。
帝都にそびえたつビルの合間を縫って、機体を滑空させる。
アラート、左舷より熱源。回避行動に移るが、熱源の元であるレーザーは機体の前方を狙って放たれたものだった。
警告射撃とはなめられたものだ。

『警告!!!貴機は現在、秩序を著しく乱している!!!自覚があるのなら、
 速やかに機を降り、所属と目的を述べよ!!!繰り返す・・・・!!!』

機体を旋回させ、そいつをディスプレイに収める。レーザーライフルとシールドを持ったAC。こいつは・・見覚えがある。
確か、ACアリーナの下位ランカーだったはず。こんな所で治安機動部隊をやってやがるとは。
面倒な事に、数機のMTを引き連れている。

『繰り返す、貴機は・・』

繰り返すまもなく、そいつは俺のマシンガンを頭部に食らい、そこから火花を散らして仰向けに倒れた。
ほんの少し遅れてレーザーが発射されたが銃口は既に上に向いており空しく夜空を彩る。
機能停止。
反応はなかなかだが、やはりその甘さは変わっていなかった。

  MTも何とかロケットを撃って応戦を始めるが、当たるものではない。
そもそも、そいつはパイルバンカーを装備した接近戦仕様だ。圧倒的に機動力に勝る「ナハトファルター」の敵ではなかった。

  LMN-05J "ナハトファルター"。夜間迷彩を施されたこの機体はレイヤードが強襲作戦用に開発した最新鋭機である。
ブースター出力、火器管制システムの大幅な強化を施されたが、従来とは比べ物にならないほど操縦者に負担がかかることや、
脱出システムの省略、軽量化による防弾能力の低下など、おおよそ真っ当な神経を持った奴の乗る代物ではなかった。
俺達は、この鋼鉄の棺桶の中で戦いつづける事を強要されている。

 MTの攻撃を軽くいなした俺は、そいつらに急接近を仕掛けた。わざわざ相手の土俵に踏み込んでやろうというのだ。
格闘戦の戦闘データは特に重宝されており、当然俺達への見返りも大きくなる。 
ビシュッッッ!!
  ナハトファルターの左腕から発振された黄金の光の束は、一体の二足歩行MTの胴体を刺し貫いた。
火花と、熱で溶解したMTの装甲がナハトファルターに当たって弾ける。俺は刺し貫いたままのそいつをもう一体に叩きつけた。
味方に押し潰され、身動きが取れなくなったそいつを横目に、もう一機のパイルバンカーを振りかぶって接近する奴に焦点を定める。
  たとえ格闘戦だろうと動きは止められない。いつ、どこから攻撃をうけるか、敵地の只中であるこの状況では分からないからだ。
  肩に内蔵されたブースターと、背中のブースターを同時にふかし、瞬時にしてMTの側面に回りこんだ。
ナハトファルター独特の特殊機動だ。パイルバンカーを空振りして戸惑うそいつの胴を、腕ごと切り裂く。
胴から上がアスファルトに転げ落ち、動かなくなるのを確認した。
  
  レーダーに映る無数の機影。だが、まだ少し遠い。ナハトファルターに搭載されたステルス迷彩を機動。
そして敵に奇襲をかけるでもなく、俺は美しくネオンに光る街中へ、漆黒の機体をゆっくりと滑らせた。 
  少しの間、羽を休めたかった。
作者:ヴォルカヌスさん