サイドストーリー

夜蛾
 LMN(レイヤード・モデュレイテッド・ナンバー)。量産を前提に、性能を高レベルに調整され、
統一されたパーツによって開発されたACであり、この「ナハトファルター」はその最新型である。
 コアから各部パーツまで、レイヤード独自の規格に基づいて開発されたそれは、正確にはACではなく、
個体としての能力を高められた純粋な戦闘マシンである。
パーツ同士のエネルギー効率の向上、信頼性の向上、補助機構・武装の内装化など、
従来のパーツ共有型ACとは一線を画した性能を獲得するに至った。 

今宵、地の底で孵化した夜蛾(ナハトファルター)は、
大量の死の燐粉を帝都に撒き散らして、
聖なる夜を舞い踊る。

『敵、急接近!!全機、一斉攻撃に備えよ!!
これは訓練ではない!!繰り返す、これは訓練ではない!!』

  オーバーブーストによる加速時の衝撃は、一瞬意識を彼方へと持っていかれる。その音速の衝撃をこらえ、敵部隊へと強襲をかける。 
前方の敵、逆間接MTが約15機。今いる街路の幅は約50メートルで、MTは左右を埋め尽くして展開している。
あそこから一斉射して仕留める気だろう。なお、後方にも展開を始めているMT部隊がいることは、強襲前に確認済みだ。
左右に逃げ道の無い街路上で挟み撃ち、という事は、助かる道はただ一つ。
MT群を飛び越える!
  加速、上昇した機体の下を、大量の銃弾とミサイルがかすめる。
この街中で、治安警察部隊のその大胆な攻撃に舌を巻きながらも、MTを飛び越えた所で俺は機体を空中旋回させ、
完全に後ろをとった形になった。数瞬前まで俺のいた場所はMTの猛攻に蹂躙され、破壊し尽くされていた。
  そして、今度はこちらの破壊劇の始まりである。
マシンガンをタタン、タタン、と小刻みに発砲するたびに、MTが一機、また一機と火を吹いてくずおれる。

「うわっ、うわあぁっ!!」

そのMTパイロットは、パニックに陥っていた。
完全な包囲、絶対的有利な立場から一転して、今のこの仲間が次々に狙い撃ちにされる状況。
それはまるで夢の中の出来事のようであった。恐ろしさのあまり、背を向けて逃げ出す事すら出来ない。
何とか旋回が間に合い、照準モニターにその黒い影を捉えた瞬間、その影からパパッと光が弾け、彼の意識はそこで途切れた。



「・・・やられたか。チッ!情けない奴らだ。」

  ハイウェイを疾走する、2機のAC。
その内の一機に搭乗するサイプレスは、舌打ちした。

  先に所属不明ACと接触したかつての同胞ゴールドブリッドの「クローバーナイト」は、
そのACに対し警告をしている最中に反応が途絶えた。

(治安部隊なんぞに入るからだ。)

  業務執行を優先させるから、そこにスキが生じる。まあ、レイヴンだった頃もそれは変わらなかったがな。
つい今しがた、数十機からなるMT部隊も全滅。とことん不甲斐ない奴らだ。
メインモニターが、遠くで赤く輝く火の海とそこに転がるMTの残骸をとらえた。同時に、こちらへと赤い目を向けるACの姿も。 

  ACは、ブースターの火を放って飛翔した。 接近してくる。

「来たな」

  相対速度を計算。なるほど、スピードがご自慢というわけか。だが、それはこちらとて!
彼自慢のフロート型AC「テン・コマンドメンツ」は速度を増した。

「ムーンサルト!!聞こえているな!!手はずどおり、俺が奴を誘い込む。 そこでお前が仕留めろ!!」

「了解だ。」

  サイプレスと並走するやたらと派手なカラーリングのACは、その言葉に応えるように加速、上昇を始める。

「レイヴンの戦い方ってのを見せてやる。」

サイプレスは、チェインガンの砲身を「ナハトファルター」に向けた。
作者:ヴォルカヌスさん