サイドストーリー

第3話 ――Man・In・the・Mirror――
――AM7:00――
 
目覚まし時計のアラームが、けたたましく鳴り響く。もわもわとした白い塊が、もぞもぞと動きだした。
それは白い腕を生やし、先端には、黒光りするL字型の物体を握っていた。
突如、目覚し時計を何かが貫いた。L字型の物からは薄い煙――硝煙が立ち昇っている。
「う……うん〜、またやっちゃったぁ……」
白い塊から若い男の声が発せられ、塊は小刻みに痙攣し始めた。
……一体、何を喜んでいるのだろうか? この男は……。
 
――AM10:00――
 
ドーム状の建物の中で、20機のMTと――それをENライフルで狙撃し続ける、ACが1機いる。
ACは、中量2脚で、色は白で統一し、ジョイント部分だけは水色。右腕には高威力で100発の弾数を誇るENライフル。
左手には射程の長いブレード。左肩にだけ、ミサイルを装備している。
武器の性能に拘り過ぎた機体のため、AP、スピード、ディフェンス、重量はアンバランスと断言してもいい。
だが、パイロットはそれを実力でカバーしている。その腕前は、確かなものだ。
「フフフッ……、もっと抗いてみせろよ。なぁ?」
ACは、MTの攻撃を全てかわし、撃ち落とし、お返しとばかりにスクラップへ変えていく。
「ンフフフッ、シヒヒヒッ、カッカッカッカ……!」
パイロットは、まるで何かに憑依されたように、笑い続けた。MTを撃沈していくごとに……。
――突如、飛空していたACの姿勢が傾いた。MTが放ったミサイルが当たり、その反動で傾いただけのことだ。
そう……それだけのことだった。
「ッ!!!」
パイロットの顔が、鬼面の形相に変貌したのも、その時だった。
ACはオーバードブーストを起動し、一気に例のMTに肉迫する。
そして、紅い閃光がMTを貫いたかと思った瞬間、MTの体が上下二つに分離する。否――真っ二つに切り裂かれたのだ。
どう見ても、そのMTが2度と動けないことは、一目瞭然だ。
なのに、
「ぁぁあああああああああああ!!!!!!」ACは――パイロットはブレードを振り続けた。
残っていた下半身は、見るも無残に斬られ、原型を止めていなかった。
それでも、ブレードは永遠のように振られていく……。
『そこまでだ、クリザック』
司令室から通信スピーカーを通じ、男の声が聞こえてくる。
永遠が、止まった……。
「ハァ、フー、ハァ、フー、ハァ、フーハァ、フー、ハァ、フー、ハァ、フー……」
(またか)
この息遣い、あの発狂ぶり――。一体、何度目になるだろう。
「よし。残ったMTは遠隔操作に切り替え、ガレージに収容しておけ。医療班と整備班は共同で作業を行い、クリザックの治療、
そして<ガングニール>の整備をしておけ」
白衣を着、短い茶髪で眼鏡をかけた、見かけ30代くらいの男は、慣れた手付きで指示を出していく。
(あと、少しだな)
男は、AC――ガングニールから引きづり降ろされるクリザックを見ながら微笑をこぼし、司令室を出ていった。
 
「さて、話してもらおうか」
大きな部屋の中で、スーツを着た中年の男性が、立ち尽くしていた。ひどく怯えながら……。
その男性の真正面には、気品溢れる、オールバックの黒髪の男が、机に頬杖をつき、高価な椅子に座っていた。
おそらくここは、社長室か何かだろう。しかし、社長にしては、いささかその男は若すぎる気がしなくもないが。
「スネイクチャーマーがどんな人間かは、知らないわけがないよな……?」
「は、はい。総督の、お、お、おっしゃる通りでございます……」
総督と呼ばれた男は、溜息を吐いた。それだけなのに、男の怯えは一層強くなる。
「そうでありながら、買収……か」
総督は頬杖をとき、その男に微笑みかけた。
「今後、一切そのような危険な真似をしないように。以上だ。持ち場に戻りなさい」
「えっ!!」
男は驚愕した。自分が予想していたことと、全く違ったからだ。
「ほ、本当に、本当によろしいのですか……!?」
「ああ。我々の許可なくやったということは、いささか気に喰わんが、処分を下すほど大きなミスではない」
男は歓喜のあまり涙を流し、しゃがれた声で「ありがとうございます!!」と何度も何度も言い、部屋を出ていった。
(やれやれ。人間を統括していくのも、中々骨が折れるな)
総督は、重い溜息を吐いた。
「入るぞ」
その言葉が入るより早く、白衣を着た短い茶髪の男がやってきた。
「なんだ、ルォーズ。そんなに慌てて」
「君のほうこそ、甘いな。優しすぎる。明日は大雪かな?」
総督は微笑んだ。
「用件はなんだ?」
「吉報をもってきた、では不満か? ガイル」
「話してみろ」
「もうすぐ、あの“ロゼータ”にかわる人間が誕生する」
「ほう。して、そいつの名は?」
「クリザック=ノースランド」
「フン……あいつか。それは確かだろうな?」
「ああ。俺が保障する」
ガイルはルォーズの瞳を覗き込み、ルォーズもまた、ガイルの瞳を覗き込んだ。
やがて、ガイルは目をそらし、引き出しから一枚の書類を取り出した。
「解った。君が言うんだ。間違いはない。許可書を出しておく。整備班に“アレ”をつけておくように言っておけ」
「待った。あれは完成したことは完成したが、もう少しテストをした方がよくないか?」
「かまわん。それに、実戦データがあった方が、役にはたつだろう」
「……もし、対象者になんらかの影響がでたりした場合は?」
ガイルは、微笑し、こう答えた。だが、そこには、先程のような優しさは、これっぽちも包まれていなかった。
「そんなこと、私が知った事ではない」
 
 
 
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クリザック全然喋らなかったなぁ〜〜。これから頑張るか。
次回は、ヒサト達のドタバタ(なるかな?)ミッションです。お楽しみに〜。
作者:フドーケンさん