サイドストーリー

DIVINE KNIGHT 〜第二章〜
「しまったーーーー!」
 とあるアパートメントの一室、
ここで彼は跳ね上がった。
「まずい、遅れる・・・いま何時だ?」
 慌てて着替えながら時計を見た。
「十一時・・・」
 血の気が引くのを感じた。
今日は彼にとって特別な日だった。
初めての大役、それを失敗するわけにはいかない。
ところが、彼は寝過ごしてしまった。一時間も。
「まだ終わったわけじゃない・・・とにかく、グローバルコーテックスに行かなきゃ。」
 ぼさぼさの髪を適当に直しつつ、急いで車に乗り込んだ。
しかし、どうも腑に落ちない。いつもならこんなことはないのに、何故、今日に限って・・・
そういえば昨日の晩から記憶がないような?
確か―――

彼はキッチンに立っていた。紺色のエプロンをつけ、袖もまくり気合十分だ。
今日の献立ははビーフシチュー、いい香りがしてきた。
しばらくするとチャイムが鳴ったので彼は慌てて出て行った。
うるさいくらい何度も鳴らしている。こんなことをするのは奴しか居ない。
「はいはーい、今出ますよー」
 ドアを開けると慣れ親しんだ同僚の姿があった。
「やっぱりお前か、メノス。」
「よおゲイル、相変わらず所帯じみた格好してんなー」
「うるさいな、ほっとけよ。」
 どうもこいつは一言多い気がする。
とりあえず鍋が気になるので、さっさと上がらせることにした。
どうせ嫌だといっても上がりこんでくるし。
メノスはなにか包みを持っていた。
「なぁ、何持って来たんだ?」
 ゲイルが聞くと、メノスは左手に持った包みを見てニヤリと笑った。
「ん?これか?ふふ〜秘密だ。」
「な、なんだよ・・・気持ち悪いなー」
 多分ろくでもないことだろう、これ以上聞いてもしょうがない。
ほうっておく事にした。
「なぁ、今日の夕虱はなんだ?」
「・・・」
 絶句してしまった。夕虱ってお前・・・いつの時代の人間だよ・・・
「だから、晩飯はなんだって聞いてんだよ。」
「解ってるよ・・・ってお前!また食って行く気か?」
「当たり前だろ?何言ってんだよ。」
 まぁ、ある程度解っていた事だが・・・
遠慮というものが無いのか?こいつには。
「ビーフシチューだ。高かったんだぞ、この肉。」
 いつもの様に談笑しながらシチューを食べていると、
メノスが徐に包みから何かを取り出した。
「そういえば・・・何なんだ?それ。」
「ふふふ、みて驚け〜。」
 そう言って取り出したのは一本のビンだった。
「どうだ!幻の大吟醸、その名も新月だ!」
「大吟醸って、まさか酒か?」
 ゲイルはあからさまに嫌な顔をした。
そう、言うまでもなく彼は酒が大の苦手だった。
「わざわざお前の祝いの為に持ってきたんだぜ。感謝しろよ。」
「祝い?」
「お前、会社から大任を任されたんだろ?その祝いだよ。」
 祝ってくれるのは嬉しいが、酒はちょっと・・・
「ミ、ミッションは明日だし、それに、ほら!俺が酒飲めないの知ってるだろ?」
「いいからさっさと飲めい♪」

―――これだ・・・
ここから先の記憶が無い・・・
「あ、の、野郎〜〜〜」
 今すぐ文句を言ってやりたかったが、あいにくそんな時間は無い。
今は一刻も早くグローバルコーテックスに向かわなければ。
会社へは十分ぐらいで着いた。とりあえず担当のオペレータに会わなければ。
「あらゲイル。どうしたの?そんなに慌てて?」
 オフィスに入るとゲイルの専属オペレーター、リース・ガーシュタインが迎えてくれた。
「ああ、リース・・・すまないけど、至急輸送機を用意してくれ。」
「ごめんなさい、今最後の輸送機が出たばかりなの・・・」
 リースは残念そうに答えた。
「え!?ちょ、ちょっと待ってよ!え、えっと、じゃあ次は?どの位で戻ってくる?」
「そうねえ、30分程度かしら。」
 ゲイルは愕然とした、ただでさえ遅れているのに更に・・・
「じゃあ、俺はガレージに行っているから、すぐに回して貰えるようにしといてくれないか?」
「ええ、解ったわ。それで、どこに行くの?」
「えっと、A−37地区だったかな・・・」
 まずい、あやふやだ。確認しておかないと。
「あら?そこにはクラウさんが行った筈だけど。同じミッション?」
「は?メノスが?」
 あいつ・・・何考えているんだ。
どうせ、ろくな事じゃないと思うが・・・
「まあいい、とにかく頼んだから。」
 それだけ言って、ガレージへ走って行った。

 ガレージに着くと、早速ミッション内容を確かめた。
目標:超大型MT『カルテイル』の破壊。
場所:A−37地区
よし、間違いない。
しかし、メノスが同じ所へ行ったというのが気になる・・・
まさかあいつ人の手柄を横取りする気じゃ。
「あ、の、野郎〜〜〜」
 メノスへの怒りが更に込み上げてきた。
もうただじゃ済まさん。
「バド、確かミラージュから新型のEN砲が来てたろ?」
 このガレージの整備班の一人に問いかけた。
「ええ来てますね。換装しておきます?」
「頼む。あと、今の装備はライフルだったな?重量が気になる、データをくれ。」
「はい。」
 暫くしてリースから通信が入った。どうやら輸送機が戻ってきたらしい。
「リース、今日も頼む。」
「ええ、ゲイル。あなたも気をつけて。」
 向かうのは広大な荒野。まだ、メノスはそこに居る筈だ。
あいつ、今日こそ一発ぶん殴ってやる。
いつも欠かさず書いている日誌に書き込んだ。
「1156。目的地アーカイブ。ゲイル・ノヴァ、出る!」

つづく
作者:raulさん