サイドストーリー

MT部隊排除
俺はコックピット内で、ACの最終点検を行おうとしていた。
「システム、通常モードから整備モードへ移行、自己診断プログラム作動。」
本来、声を出す必要は無いのだが。俺の性格上、読み上げないと落着かないのだ。
「FCS・・・クリア、火器発射システム・・・クリア、関節系・・・クリア、」
俺は慣れた手つきで次々と各項目を確認していく。
「EN供給システム・・・クリア、全項目確認、オールクリア。」
その表示を見届けた俺は、ふと、通信機の回線を開いた。
そこにちょうど、通信が入った。この作戦のパートナーからだ。
「よう相棒、調子はどうだい?」
その男の声には一種の貫禄が存在していた。どうやら、かなりの場数を踏んでいるようだ。
「ああ、問題はない。」
俺の声を聞いてか、向こうの声が一瞬途絶えた。
「ずいぶん声が若いな、声変わりはしていないのか?」
少し、カチンと来るところがあったが、表に出さないように勤める。
「声変わり?まだ考えたことも無い。」
俺の返答に向こうは少し混乱したらしい、唸る声が通信機から聞こえてきた。
「まさか、女じゃないよな?」
「・・・俺は列記とした男だ。」
「そうか・・・そうだよな。ところで、おたくの名前は?」
「俺か?俺はホワイト、そっちは?」
このコード、略したものなのだが。まあ、問題はないだろう。
「俺はマインズだ。よろしく頼む。」
「了解、こちらこそよろしく頼むぜ、パートナー。」
そこに、通信が入った。今試験の試験官からだ。
(これより、実戦試験を開始する。)
俺は操縦間を握り込んだ。この緊張感は久しぶりだな。
(今回の作戦を成功させれば君たちはレイヴンとして認証される。)
ハッチがゆっくりと開き、漆黒の砂漠が眼下に広がっていった。
(我々、コーテックスが求めるのは優秀な人材だ。健闘を祈る。)
俺は機体を戦闘モードに移行し、一気に飛び降りた。

着地の衝撃がコックピットに伝わる。
数秒遅れて、後方から着地音が聞こえてきた。マインズの機体だ。
「マインズ、敵はかなりの数のようだな。」
「ああ、あっさり10は超えてるみてぇだ。」
マインズの言った通り、レーダーには10を超える光点が映っている。
「おい、ホワイト。」
「ん?なんだ。」
「俺と勝負しねえか?MTの撃破数だ。」
俺は冷めた口調で応じた。
「勝ったら何があるんだ?」
「負けた方は勝った方の言うことを聞く。」
俺はOBの起動スイッチを入れ、急加速に備える。
「マインズ。その話、忘れるなよ。」
言い終わるのが早いか、OBが起動し、俺の機体は一気に速度を上げていく。
「あっ!てめっ、ずるいぞっ!」
慌てて、マインズの機体が俺の後を追ってきた。
俺の機体はうなりをあげて一番近いMTに突っ込んでいく。
感覚が研ぎ澄まされ、この機体が自分の身体の一部のように感じられる。
「さあ、行きますか。」
俺の呟きは左手から出る光の音にかき消された・・・

「無茶な勝負を持ち込んじまったな・・・」
ホワイトの動きを見て、俺はすでに勝負の敗北を確信していた。
OBで突っ込んでいった彼の機体は手短なMTの両足をブレードで切断し、
無駄の無い動きで、また一機、また一機と落としていく。
俺は少し前までMTに乗っていたので、ある程度の操作技術は持っているつもりだったが、
ホワイトの動きは、俺のそれをはるかに凌駕するものを彼が持っていることを示していた。
まるで前から訓練を積んでいたような・・・ん?まてよ・・・
確かあいつはホワイトと名乗ったな・・・まさか、ホワイトランス!?
「噂は聞いたことがあったが、本当にお目に掛かれるとはな。」
ホワイトランス・・・俺は友人からこの名を聞いたことがあった。
一、二年前から頭角をあらわしはじめ、ランカーに匹敵する実力を持つと言われる存在。
しかし、実戦で彼と戦ったことのある者はいない”シュミレーターだけの存在”。
「おっと、見とれているわけにもいかんな。」
俺はブーストをふかし、ホワイトの後を追った。

「くそっ、いくらなんでもジェネレーターの性能が悪すぎる!」
俺はコックピット左端のエネルギーゲージと睨めっこをしていた。
エネルギーは既に限界に達し、いつチャージングになっても不思議では無い。
俺は目の前のMTとの距離を詰め、他のと同様にブレードで足を切断しようと構える。
「!?」
だが、とっさに回避行動をとり、距離を離す。
コンマ数秒遅れて、MTからロケットが発射され、機体の肩をかすめる。
タイミングのいい射撃だ。勘が働かなければまともに食らっていた。
その時、MTの側面に二つの光が突き刺さった。
肩に積んでいたロケットに引火したのだろう。MTの肩が吹き飛び、崩れ落ちる。
光の飛んで来た方向を見ればそこでマインズの機体がライフルを構えていた・・・
「マインズ、助かった。」
「ああ、言い出した奴が一機も潰さないとあっちゃ格好つかねぇからな。」
それが最後の一機だった。作戦は終了だ。
「そうだ、勝負は俺の勝ちのようだな、マインズ。」
「・・・ったく、始めっからおたくがホワイトランスって名乗ってれば、こんな勝負申し込まなかったのによ。」
「どうして、俺のことを?」
「ああ、ランカーに知り合いが何人かいてな。その名前。お前が思ってるより有名だぞ。」
「そうか・・・」
確かに、そうかもしれない。
俺は古い友人に進められ、この日に備え、四年前からシュミレーターに入り続けていた。
シュミレーターで俺は腕を磨き、本物のランカーから交流試合を申し込まれるほどになった。
誰が言い出したのか、”シュミレーターランカー”という呼び名まで貰っている。
まあ、有名なのはいい事なんだろうがな。自分がそうだと言われてもいまいちピンとこない。
「まあいい、言い出したの俺だ。さあ、何でも言ってくれ。」
「ん?ああ、そうか。そうだな・・・」
俺はふとあることを思い出した。そうだ、あの日がもうすぐだったな。
「マインズ、もうすぐ俺の十五の誕生日だ。プレゼントを期待しているぜ。」
しばらく、マインズの声が途切れた。急に風の音が耳につきはじめる。
「・・・おたく、十四なのか?」
「ああ、少し言いにくかったが、事実だ。」
その時、通信が入った。
(二人ともご苦労だった。)
(我々は君たちを歓迎する。おめでとうを言わしてもらおう。)
「マインズ、おめでとう。」
「あ、ああ・・・これからもよろしく頼むぜ、相棒。」

俺の物語はここから始まる・・・
作者:ストライカーさん