サイドストーリー

レイヴンになった日
ジリジリジリジリジリ・・・
俺は目覚し時計を止めた。ベッドから降り、洗面台に向かう。
俺の本名はリック、リック=レイアス。本日付けをもって、正式なレイヴンとなる。
顔を洗った俺は服を着替え、テーブルの上のパソコンを起動した。
三つのメールが俺のパソコンに届いていた。
一つ目はコーテックスからのレイヴンに認証された事を伝えるメール。
二つ目は情報面でのサポートを行なってくれる、オペレーターからのメールだ。
”レイヴン、始めまして。あなたの補佐担当者に任命されましたエマ=シアーズです。
 我々、人類が地上に進出して数年、企業による地上開発は最終局面を迎え、
 各企業はそれぞれの勢力拡大に向けて、積極的に動きだしているところです。
 情勢によっては、我々の活躍の舞台はさらに広がることでしょう。
 ですが、最近、地上での作戦中に消息不明になるレイヴンが増加しています。
 どうやら、地上には我々の知らない何かが存在していると思われます。気をつけてください。”
一言で言えば、不吉な内容だ。だが、レイヴンとなった以上、危険と手を切ることはできない。
俺はあまり気にすることなく、次のメールに目を通した。
”ホワイトランスさん、レイヴン試験合格おめでとうございます。
 早速ですが、本日9時より専属メカニックとの顔合わせを行ないます。
 同時刻までにグローバルコーテックス管理、第12施設の第2AC格納庫にいらして下さい。”
「9時か・・・」
壁にかけてある時計は現在7時過ぎをさしている。まだ時間はあるな・・・
だが、早く自分のACを見たいという気持ちも手伝い、早めに出発することにした。
手早く朝食を済ませ、テーブルの棚からモノレールの定期を・・・
「・・・?、自転車にした方がいいか。」
気が変わって、施設まで自転車で行く事にした。玄関前の金具から鍵を取り出す。
まあ、施設まではモノレールなら20分。自転車なら1時間だから、いい運動だと思えばいい。
「さ、行きますか。」
開いたドアから青い空と太陽が姿を見せていた・・・

「・・・やっと着いたな。」
俺は愛用の自転車を手短な所に止め、施設内に入った。
受付では普段と変わりなくいつものお嬢さんが営業スマイルを振りまいていた。
「ようこそ・・・あ、リックさん。主任をお呼びしましょうか?」
「いや、今日は早く来すぎた。あいつも大変な時間だろうからな。」
「わかりました。」
「で、第2AC格納庫はどこだい?」
「第2AC格納庫・・・!、リックさん、レイヴンになったんですか!?」
「ああ、ようやくな。」
「そうですか。第2はそこの道を真っ直ぐ行って、突き当たりに案内板があります。」
「ありがとう。」
「すぐに、主任にお知らせします。少し・・・」
「ミーちゃんその必要は無いよ。」
声をした方を向くと、そこにはきちんとした背広の男性が立っていた。彼の名前は・・・
「主任!」「シェイル!」
シェイルは右手をあげて俺達を制す。
「リック、レイヴン試験合格おめでとう。これからはホワイトランスと呼ばしてもらうよ。」
「リックでいい。お前だって、そっちの方が呼びやすいだろ?」
「そうだな。ミーちゃん、私は彼と第2へ行く。後の事はまかしたよ。」
「わかりました、主任。」
「それじゃあ、リック。行こうか。」
俺とシェイルは第2AC格納庫へ向かった。
シェイルのことを少し話した方がいいだろう。
シェイル=クリエイド。年は確か、26になるはずだ。
俺より10才以上年上だが、俺が孤児院にいた頃に一緒に遊んだ程の仲だ。
彼がこの仕事についてからは、背広姿しか見なくなったので、今では想像がつきにくいが、
実は空手二段、柔道六段というかなりの武芸者でもある。
俺より、レイヴンにむいていると思うんだが、本人にその気はないらしい。
「リック、着いたぞ。」
シェイルの声で俺は考えを中断した。現在の状況を確認する。
”第2AC格納庫”
そのプレートが貼られた扉の前に俺達は立っていた。
「リック、ここのカードキーだ。無くすなよ。」
シェイルはポケットからカードを取りだし、俺に手渡した。
オレンジ色のそのカードにはコーテックスのエンブレムと俺の名前が刻まれていた・・・

「暗いな・・・、窓は無いのか。少しくらい採光を考えた方がいいじゃないのか?」
「狙撃されるかもよ。」
「・・・そうかもな。」
部屋は明るくなり、数機のACが光の元でその姿をあらわす。
ここにあるACは5機、そのうち、初期機体が2機あった。どちらかが俺の機体だろう。
「シェイル、俺の機体は?」
「手前から見て、4番目の奴だ。」
「奥から1番目だな?」
「そう、それ。」
俺はその機体の前に立った。
そこには何の変哲も無い初期機体が存在した。何も変哲の無い・・・
「こいつが・・・俺の機体・・・」
「機体名はシュミレーターで使ってる名前で登録したけれど、いいか?」
「ああ、機体名、スノークラウド〈雪雲〉・・・それでいい。」
「色とエンブレムはどうする?」
「そっちもシュミレーターのと同じでいい。」
「わかった。そっちに仕事が入るまでには彩色も終わると思う。」
その時、ACの足元からベルの音が響いた。
「?」
上ばかり見て気付かなかったが、ACの足元に何かもごもごした袋が存在した。
袋の中から細い手が伸び、横に置いてあった時計に手をかけ、ベルを止める。
「ふわぁぁ、良く寝た。」
寝袋から出てきたのはショートヘアの女性だった。いや、少女だといった方が適切だろう。
おそらく俺よりも若い。俺とシェイルはまるで別世界の生き物を見るかのように彼女を見つめていた。
彼女と俺達の視線が合う。
「・・・」
しばらくの沈黙の後、話はじめたのは彼女の方だった。
「あ、どうも。ホワイト・・・ランスさんですね?」
「あ、ああ・・・そうだが。」
「始めまして。あなたの専属メカニックに任命されました、レナ=シールメンスです。」

「なにぃぃぃぃぃ・・・!?」
突然、シェイルが叫び、この格納庫にシェイルの声がこだまする。
「・・・シェイル、お前、何か知っているのか?」
俺の問いに少し息を荒げながらも、シェイルは応じた。
「・・・すまん、コーテックスに一番若い奴をよこしてくれと言ったんだ。」
「・・・なぜ?」
「・・・いや、若い人の方がお前に合うだろうと思ったんだ。」
「・・・程があるだろ。」	
「・・・すまん。」
「二人とも、私じゃ不安ですか?」
俺とシェイルは顔を見合わせた。現段階では彼女を信用するしかなさそうだな。
「いや、君がここにいる以上、それなりの腕を持っていると思う。これからよろしく頼む。」
俺が伸ばした右手を彼女は強く握った。
「こちらこそ、よろしくお願いします、ホワイトランスさん。」
「俺の呼ぶ時は、本名のリックでいい。期待しているよ、レナ。」
彼女の目には自信と希望が宿っていた・・・
作者:ストライカーさん