誕生日プレゼント
「よう、ホワイト。早いじゃねぇか。」
聞き覚えのある声に俺は入り口の方に顔を向けた。
見れば、マインズと男性がもう一人、格納庫に入ってきたところだった。
「俺に会うつもりだったんならそっちが遅い。」
「モノレールが事故ってよ。足止めを食らっちまったんだ。」
「ふーん。」
間の抜けたレナの反応に、マインズは首をかしげながら俺に聞いてきた。
「この子、おたくの妹か?」
「いや、俺の専属メカニックだ。」
「レナ=シールメンスです。よろしくお願いします。」
「・・・類は友を呼ぶと言うが、本当だな。」
「・・・どういう意味だ?」
慌ててマインズが顔をそらす。彼の額からは暑くもないのに汗が流れ出ている。
「君が、ホワイトランスかね?」
今度、俺に声をかけてきたのはマインズの横にいた白髪混じりのナイスミドルだ。
「ああ・・・あんたは?」
「そこの機体の所有者さ。」
彼が指を指した方を見ると、そこには青みがかった白の重量二脚の機体があった。
それを見て、彼の名がすぐにわかった。MWG-KARASAWAを装備している機体なんて滅多にいない。
「ラストバーニング・・・まさか、シルバーフォックスか?」
「ご名答。」
「マインズ、お前、シルバーフォックスとはどういう関係だ?」
この問いに答えたのはマインズでなくシルバーフォックスの方だった。
「私のことはフォックスと呼んでくれ。彼とは何度か作戦を共にした仲でね。」
「そうか。で、俺に何か用事か?」
「おうよ、ホワイト。お前に誕生日プレゼントだ。」
「おいおい、マインズ。俺の誕生日まであと4日もあるぞ。」
「え・・・4日後?」
妙な反応をしたのはレナだ。少し照れを隠した様子で、俺に尋ねる。
「リック、あなたの誕生日、4日後なの?」
「ん?ああ、そうだ。」
「ほー、偶然ってあるもんねえぇ。」
「おい、まさか・・・そっちも誕生日は4日後とか言うんじゃ・・・」
「そのまさか、私は13になるんだ。」
その時、レナ以外の時間が止まったのをひしひしと感じた・・・
「ははは・・・!そりゃいい!お嬢さんの事も考えなきゃな!」
沈黙を破ったのはフォックスの豪快な笑い声だ。
「やっぱり、類は・・・」
俺がマインズの方を威嚇の視線を向けたせいか、マインズは話を変えてきた。
「そうそう、プレゼントってのはな、おたくに仕事を持ってきてやったんだ。」
「仕事?」
「そうだ、君には私とともに作戦に参加してもらいたい。」
急に貫禄を取り戻したフォックスの口調に俺も合わせる。
「作戦の内容と報酬は?」
「簡略にいえば目標の護衛。報酬は40000Crだ。」
「40000?俺はまだ、レイヴンになったばかりだ。そんな仕事まわってくるはずが・・・」
「だが、企業は君をそうは見ていない。君は自分が思っているより大きい存在なんだ。」
「・・・わかった、正式に俺から依頼承諾を伝えよう。」
「君ならそう言うと思っていた。これを受け取ってくれ、私からのプレゼントだ。」
フォックスが取り出したのは現金のやり取りに使われるクレジットカードだった。
「50000Cr入っている。それで機体を改良するといい。」
「フォックス、確かにありがたいが。俺にはこいつは受け取れん。」
「受け取ってくれ。もうすぐ、私には必要の無くなるものだ。」
「フォックスさん、引退しちゃうんですか?」
こういう時に無神経な発言をするのはレナだ。
声を上げようとする俺をフォックスは手を上げて制する。
「ああ、正直、身体が付いて来なくてな。私も年を食ったものだよ。」
「フォックスさん、あなたが良ければ、引退後はここで働いてもらいたいのですが・・・」
シェイルの言葉にフォックスは苦笑いを見せた。
「考えておくよ。だが、しばらくはもつさ。」
フォックスのセリフは俺に妙な虚無感を抱かせた・・・
フォックスとマインズは30分程前に帰り、シェイルは仕事に戻っていった。
「リック、どんな機体を組むつもり?」
俺とレナはフォックスから受け取った50000Crで機体をどう改良するか考えているところだ。
「フォックスから50000を受け取ったといえ、安上がりに済ませるしかないだろう。」
「だったら、逆関節のAKSかタンクのMLKSが安くすませるなら最適よ。」
「タンクは困る。逆関節を使おう、ジェネレーターはいい物を使いたい。それについて案は?」
「VE905がいいんじゃないかな?」
「ROZはどうだ?」
「思いっきり購入制限違反。それに、武装にお金をまわせなくなるし。」
「わかった、ジェネレーターはVE905・・・と。右腕にMG-500を積みたい、出来るか?」
「うん、積載量、価格ともにいい感じね。MG-750でもいいんだと思うんだけどね。」
「MG-750?聞いたことの無いパーツだな。新製品か?」
レナは意外そうな顔で俺の顔を見つめた。
「ひょっとして・・・リック、ユニオンのこと知らないの?」
「ユニオン?あの、レイヤード時代にあった反管理者組織か?」
「あー、やっぱ知らないんだ。メカニックスユニオン・・・数年前からある、メカニック集団のことだよ。」
「初耳だな。パーツの制作でもしているのか?」
「うん、レイヴン個人個人の依頼を受けて。それぞれに合うパーツを制作してるんだ。」
「職人集団と言う訳か。しかし、レナ、ずいぶん詳しいな。」
「私もそれに所属してるもん。」
と言いながら、レナは自分の着ているメカニックベストの左胸を指差す。
確かに、よく見れば、MECHANIC'S UNIONという文字と、六角形のナットのようなマークが入っている。
「なるほどな、俺も金が貯まったらなんか作ってもらうか。」
「その時は何なりと私にお申しつけください。」
「さて、その前にさっさと機体を組み上げてしまおう。」
「アイアイサー、さっさと終わらせよー。」
4日後、光の届かぬ地下通路に俺と俺の機体”スノークラウド”が存在していた・・・
作者:ストライカーさん
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