サイドストーリー

プロローグ
 ダン=イルキスは将来の事を他の同級生たちとは違ってよく考えている少年だった。
 同級生の少年達がまだ、なんの将来になんの展望も持たない事と同じようにダンも、特にこれと言って志望を決めているわけではない。
 しかし、ダンは本来はC級市民であり、スクールに通って学習にいそしむことのできる身分では無かった。
 それが可能なのもひとえに彼の父親―正確には養父だったがーのおかげである。
 ダンの父親はレイヴンであった。
 …レイヴン。
 おおよそ個人が所有できる最大戦力であるACと呼ばれる巨大人型兵器のパイロットを指す言葉であり、
 この地下都市レイヤードの三つの巨大企業に属さない自由傭兵の総称であった。
 無論、レイヴンにも様々な人間が存在する。
 金銭の為に戦う者。
 名誉の為に戦う者。
 闘争の中で生を感じる為に戦う者。
 殺戮の快感の為に戦う者。
 彼の父親は、かつてのトップランカー。撃墜王の名で呼ばれ、数ヶ月前にあるレイヴンに敗北した男であった。
 始めての敗北を喫してからは修羅のように戦いつづけ、その強さはダンから見ても、以前とは比べ物にならなくなっていた。
 未だ見ぬ強さの果てを目指す父親は、正直余り家に寄り付く男ではなかったが、ダンにとっては最高の父親であった。
 彼は、多額の報酬でもって企業の子息達が通う学校に裏口入学させてくれたのである。
『知識はあったほうが良い。…俺はお前に人生の選択肢をたくさん持っておいてもらいたいんだよ。』
 余り表情に揺れがない父親はそれだけを言って、どこかに行った。
 …父、エースはダンに対して最高の環境を与えてくれた。 
 それだけに、いい加減な選択はできない。人生をどのように生きるか、それはダンにとって難しい課題であった。
 そして、この日の事件をきっかけにダンは、人生の一大転機を迎えることとなる。 


『依頼者  ミラージュ  報酬  16000コーム
 本時間から45分前、ある過激グループがナイアーブリッジの民間人の乗るモノレールを占拠した。
 彼等の要求は、地上世界への移住。しかしテロに妥協することを我々は行うことは出来ない。
 モノレール付近に位置するMT部隊の全機破壊を依頼する。モノレールの乗客の生存率は十両中、四両の生存を限界とする。
 1両助けることに報酬の上乗せを約束しよう。最低四両だけあれば、世間に一応の言い訳はたつ。
 迅速な行動を期待する。以上だ。』

 グローバルコーテックスのオペレーターガール、ジェシカ・ライトは依頼内容を見て溜息を吐いた。
「はぁ…。なによ、この依頼…。」
 機数不明のMTの殲滅に、モノレールの安全確保。
 何気ない文章ではあるが、何かを守りながら戦うのは、ただ壊すのとはわけが違う。
 このようなミッション、恐らく文章ほど簡単なものではない筈だ。
 そして、そのミッションをこなせるとなれば、Bランカー級の実力が必要だろう。
 …しかし、今度はこの報酬額の低さがネックになる。
 こんなスズメの涙程度の報酬では、弾代だけで赤字になるだろう。
 ミラージュ側の依頼を発行した人間も、ずいぶんなミスをしたものである。
 やれやれと思いながらジェシカは溜息を吐いた。
 レイヴンは、プロの集団である。
 自分が得意とする戦場を少ない情報から正確に判断し、
 その戦場にあったセットアップを行い自分の実力に見合ったミッションを見抜きごっそり儲けてくることを目指す自由傭兵達だ。
 …可哀想だが、モノレールに閉じ込められた民間人の救出はまだまだ先になるだろう。
 そう思いつつ、ジェシカは、ぬるいコーヒーを飲もうとして、視線をディスプレイから外す。
 そして、見返してみると、そこには依頼受諾の返信が帰ってきていた。
「へえ!!こんな報酬にもならないミッションを受ける奴がいただなんて、良い奴もいるじゃないの!!」
 そう思いながら、ジェシカはメールを開いてみて、…そこに記されていた依頼受諾者の名前に一瞬で顔を青くした。
『レイヴンネーム・エース。AC名・アルカディア。』
 見間違いではないか、そう思い何度も見なおす。
 だが、そこに記されていたのは、無敗神話を築いていたかつてのトップランカー、エースの名前があったのである。
 一度、あるレイヴンに敗北を喫してから、狂ったように戦いを重ね、かつての自分よりも遥かに実力を磨いていると言われている。
 その究極に近い位置に立つ最強の一人が、なぜ、こんな依頼を受けたのか、ジェシカの脳裏には疑問符ばかりが沸いたが、
 取り敢えず、彼女は依頼受諾の返信を始めた。
 脳裏は完璧に混乱していたが、取り敢えず仕事をすることでなにも考えまいとしたのである。


『セレン。聞こえますか?』
「はい…。」
 お世辞にも広いとは言いがたいACのコクピットで、セレンと呼ばれた一人の少女が通信機からの声に返事した。
 堅く閉じられていた瞳が開かれる。
 赤い、紅玉のような綺麗な赤い瞳だった。だが、その瞳は悲しみの色に染め上げられている。まだ、十六辺りの筈である。
 しかし、彼女の瞳は到底少女のものではなかった。
 幾千幾万の絶望を見てきた生に膿んだ疲れ切った目。
 愛と希望に満ちるべき歳若い娘が一体何を見ればこうなってしまうのか。
『今回のあなたの目的は、ナイアーブリッジを占拠しているMT部隊の全滅です。思う存分に力を振るいなさい。
 あなたの手足たるリリティアの力と、あなたの力さえあればMTどもなど簡単にかたずけられるでしょう。』
「はい、…あの?」
『なんです?』
 男とも女ともつかない通信機越しの声。セレンはこの声の主が嫌いだった。
 物腰は丁寧だし、声を荒げたことなどただの一度も無い。 
 だが、セレンには分かった。
 声の主の優しさは、愛玩動物に向けられる愛情と同質のものである。
 決して彼女と対等に立ち、苦しみ喜びを分かち合う存在ではなかった。
 だが、そのことを辛いと思う気持ちは、ずいぶんと昔に捨ててしまった。
「…占拠されたモノレールの人達の救出は…?」
『必要ありません。今回はあなたの実力を測るためのテストですから。』
 やはり。セレンは声も出さずに呟いた。 
『目標時間は3分。それ以上だと、グローバルコーテックスから派遣されたレイヴンと接触する可能性があります。』
「了解しました…。リリティア、起動します。」
『システム・キドウ。』
 無機質な機械音声がコクピット内を埋め、コクピット内が電子の光に満たされていく。
 重量級AC『リリティア』。
 最大クラスの重量二脚に中量級コアとアームで構成された重火力AC。
 カラサワ、グレネード砲、ガトリングガン、実体シールドを装備したACである。
 巨大な二脚が、動く。
 ナイアーブリッジを踏みしめ、巨体が歩き始めた。
『ACだ!!迎撃しろ!!』
 リリティアの接近に気付いたMT部隊が隊列を組み、こちらに銃口を向けてくる。
 だが、リリティアはMT部隊など歯牙にもかけぬように悠然と歩みを進める。
 その侵攻は王者の余裕にも似ていた。
『撃て!!』
 全MT部隊がリリティア目掛けてバズーカ―を発射する。
「私に…、私に、撃たせないで!!」
 悲鳴に近い言葉を上げながら、セレンはリリティアの背部を開放させる。
 
ギュォォォォォォ…… 

 コアパーツの背部に装備されたOBがその背中に力を貯める。
 重量級のACすら恐るべき速度で動かす、その爆発的な加速を生み出そうとしているのだ。
 正面から飛来するバズーカ―の砲弾を実体シールドで受け止め、次の瞬間、リリティアが疾った。

ゴバァァァァァァァァァ!!

 背部から爆発的なブースターの翼を吐き出し、突進する。
 同時に脚部に装備されたスラスターが巨体を宙に持ち上げながら敵陣目がけて飛んだ。
『ぶ、ぶつかる!!』
 そう、ぶつけることが、セレンの目的だった。
 重量級ACが、爆発的な加速で持ってMTに飛行しながら大質量の蹴りをかましたのだ。
 ACならまだしも、MTの装甲で耐え切れる筈もない。
 たちまちMTの一機が鉄屑に変じる。
 
グシャ!!

 鉄が潰れる音の何百分の一は肉が潰れる音だったのだろうか。
 セレンは、殺害になんの感情の揺れも見出させなくなった自分自身に悲しみを覚えた。
 MTを踏み潰し、リリティアがガトリングガンを構える。
「逃げるなら好きにして!!追いませんから…!!」
 恐るべき高速回転の唸り声を上げながら、ガトリングガンが火を吹いた。
 たちまちに装甲を食い破り、MT数体をまとめて撃砕する。
『う、撃て!!』
『だ、駄目です!!味方に当ります!!』
 陣形を組んでいたことがMT部隊にとっての不運だった。一瞬で陣の中に切り込まれ、
 砲弾の雨を降らせるACに反撃しようとしているのだが、密集していた為、味方同士の相打ちを避けるには距離を取るしかない。
 だが、その隙を見逃すほど、セレンは弱い相手ではなかった。
「…撃ちます。」
 右腕に装備された最強と名高いビームライフル、KARASAWAがその猛威を振るい始める。
 連射性、威力、どれをとっても一級の性能をもつビームライフルである。
 陣形を再編しようとする相手に対し、組織的な反撃の機会も与えず、闘死する権利も与えず、
 一方的に破壊し、粉砕し、蹂躙する。爆光で辺りがオレンジ色の光に染まる
『ば、ばけものめぇ…!!』
 MTパイロットの声だろうか、セレンを罵る声が通信から漏れ聞こえる。
 セレンはどんどん少なくなっていく自分を罵る声を聞きながら、トリガーを絞った。


 ダン・イルキスは眼前で繰り広げられる戦いに見入っていた。
 20近いMTと、そんな数の差など全く歯牙にかけない白と薄い青色に塗装された重量級ACの戦い。
 …いや、そもそも戦いと呼べるものですらなかった。
 あまりにも圧倒的な実力差で戦場に君臨する白いAC。
 ダンはまるで魅入られたかのようにそれをずっと見ていた。
 気が付けば、二十体近くいたMTの全てが例外無く鉄屑に変わっていた。
「す、凄い…。」
 後ろのモノレールの中では既にほとんどの人間が脱出を始めているにも関わらず、ダンはずっとモノレールの外に立っていた。
 白い重量級ACがその動きを止める。コクピットハッチが開くのを、ダンは身体が凍りついたかのように見つめ続けた。


『戦闘終了、タイムは1分15秒です。…おめでとう、記録更新です。』
「はい…。ありがとうございます。」
 言葉とは裏腹に、悲しみに押しつぶされたような声で、セレンは答えた。 
 コクピットハッチを開放し、ヘルメットを外しながらセレンは外の空気を吸おうと外に出た。
 ほとんど白に近い、銀色の長い髪がヘルメットから零れ落ちる。
 美しいと呼ぶに躊躇う理由のない少女だった。ほっそりとした肢体に、流れるような銀髪、紅玉のような赤い瞳。
 異性の目を釘付けにする魅力をそなえた少女は、太陽を見上げた。
 色素をほとんど持たないアルビノの彼女にとって太陽の光は毒でしかない。
 だが、『組織』の飼い犬とされ、戦う機械にされてしまった彼女にとって、今の時間こそが『生きている』唯一呼べるものであった。
 日を浴びつづけて寿命が縮まるのならそれでいい。
 今の生になど、セレンはなんの未練もなかった。
 だが、その時、
「…はっ!!」
 ナイアーブリッジから気配を感じ、セレンは自分を見つめる視線の主を見返した。
 黒目黒髪に褐色の肌をした若者がそこにいた。
「…み、見られた?!見られた?!!」
 半ば悲鳴に近い声を上げ、セレンは叫んだ。
 片手に持つヘルメットからあの声が聞こえてくる。
『こちらでも確認しました。…仕方ありませんね。セレン、目標変更です。あの少年を抹殺しなさい。』
「そ、そんな…、民間人ですよ?!!」
『貴方の素顔を見た人間を生かしておくことは出来ません。命令です。』
「いや!!」
 セレンは半ば泣き声をあげながら否定の叫び声を上げる。
 彼女のその言葉に、しかし声の主はなんの揺らぎも見せることなく、言った。
『よろしい、のですね?セレン。』
「……………!!」
 その言葉に再び絶望するセレン。
 そうだった、自分は飼い犬、所詮は自由意思を持つことの許されない縛られた鳥。
 空を飛べるレイヴンとは、似て非なるもの。
「ごめんなさい……!!ごめんなさい…………!!!!」
 自分が日の光に当りたいなどと思わなければ、自由な時間など持ちたいなどと思わなければ、あの少年は死なずに済んだのに……!!
 悔恨の念が、悲しみの心がセレンの心を締め上げてゆく。
 泣きながら、セレンは右手を掲げた。
 重量級AC、リリティアが主の身体の動きに従うように右腕を掲げる。
 その手が持つのは最強のビームライフル・KARASAWA。人など、塵一つ残さず原子に還元する力を持つ銃。
「ごめんなさい、…ごめん…。」
 ただ涙を流しながらむなしい謝罪の言葉を繰り返すしか彼女には出来なかった。

 
 ダンは、自分に向けられたACの銃口を平静たる気持ちで見つめていた。
 死の恐怖などまったく無い。
 あるのは、自分の視線を釘付けにして止まない少女に対する情のみだった。
 彼女を視線で捕らえたとき、ダンの心は完璧に虜になっていた。
 視線を動かすことなど出来ない。
 逃げようなど脳裏に浮かびすらしなかった。ただ、その彼女の姿をひたすらに瞳で焼き付けようとしたのである。
 死も恐れないダンの胸のうちに去来したのは彼女の涙を流す姿に痛みを感じる心と、彼女を泣かせた存在に対する根源的な怒りであった。
「…一度会って、話をしてみたかったなぁ……。」
 末期の台詞のつもりでダンは呟いた。まだ、胸の思いの丈を告げてもいない。
 関係も殺そうとするする人間と殺されようとしている人間というものから脱却していない。
 せめて、せめて、お友達ぐらいにはなりたかった。
 ビームライフルに灼熱が蓄えられ、ダンは瞳を閉じて、ゆっくりと死を受け入れた。


 ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!

 リリティアの巨体が揺らぐ。
「な、なに?」
『ばかな、別働隊のMTどもをもう突破してきたのか?!』
 珍しく通信機から聞こえてくる声が切迫している。銃撃を受けているにも関わらず、セレンはそんなふうに感じる自分を可笑しく思った。
 即座にコクピットに戻り、再び戦闘モードを起動させる。
「機体各部チェック。…KARASAWAが使用不能?!」
 驚きの声をあげながらセレンは表示された情報を見た。
 右手装備のKARASAWAは、先程の銃撃によって機能を完全に停止していたのである。
 レーダーに映ったその敵機に対し、セレンはリリティアを正面に向けさせる。
『照合しました。ランカーAC・アルカディア。…エースとは、予想外ですね。通信を繋げます。』
 そう言った声を聞き流しながらセレンは目の前に立ちふさがるAC、エースに視線を向けた。 
 生きながらにして半ば伝説の存在になったAC・アルカディア。
 シュミレーターで戦ったことがあるが、目の前の本物がもつ闘志は肌が泡立つほどであった。
『エース、聞こえますか?貴方もレイヴンなら無駄な戦いは好まないはずだ。…どうでしょう、あなたの依頼主の十倍の報酬で……。』
『ふふふ、ふはははははははははは!!!!!!』
 エースの笑い声が通信機から聞こえてくる。
 その言葉の響きは表向き哄笑の形を取っているが、その実は、明確な憎悪と殺意に満ちた怒りの笑いだった。
『お前達は世間一般の常識をわきまえていない……。』
『なんですって?』
『……子供を殺されかけた親が、どれほど狂暴なのかまったく解っていない!!!!!!』 
 グレネ―ドが問答無用で発射された。
「くう…!!」
 セレンはシールドで防御させたが、腐ってもグレネ―ドである。機体が受けた衝撃は生半可なものではなかった。
 アルカディアはグレネ―ドを発射しながら猛然たる勢いで突進してくる。
『逃げなさい、セレン。彼は敗北する前の5倍は強い!!』
「了解!!」
 OBを展開し、リリティアは加速を開始する。
 逃すまいとアルカディアが迫った。
 セレンは回線を開きながら、遁走の準備を始める。
「ありがとうございます…。」
『何?!』
 恐らく、あの声の主がリリティアのパイロットだと思っていたのだろう。
 エースの声には意外そうな響きが多分に含まれていた。
「止めてくださって、ありがとう。…あの人にごめんなさいと伝えてください…。」
『待て!!お前は!!!!』
 OBの爆発的な加速が、アルカディアのレーダ実効範囲を軽く突破する。
 白い機体の後姿を眺めながら、エースはただ見送るしか出来なかった。


「父さん!!」
「ダン!!無事だったか…。」
 ダン・イルキスは父親とようやく再会することが出来た。
 瓦礫の上で、二人はお互いの無事を喜び合う。褐色の肌を持つダンと、典型的な白人の男である血の繋がらない二人であったが、
 その絆は強かった。
「…よかった。ミラージュの知人に働きかけて依頼を発注させたんだ。レイヴンはコーテックスの依頼が無きゃあ動けないからな。」
「でも、それじゃあ相当金をばら撒かなきゃあ…。」
 個人の力で企業を動かすことのできる人間などそういるはずが無い。
 しかし、考えてみればエースはそれができる数少ない人間であった。
「いいさ、お前が無事でいてくれれば。…さ、帰ろう。」
「…父さん、俺、決めた。俺、レイヴンになる。」
「はぁ?!」
 突然の息子の言葉にエースは二の句も告げない様子だったが、そこは歴戦の勇士である。
 不測の事態にも冷静な判断力を咄嗟に取り戻し、適当にその辺の瓦礫に腰掛ける。
「レイヴンには、様々な人種がいる。…戦うために、金の為に、名誉の為に。様々な戦う理由が存在する。お前のその目的はなんだ?」
「ある。」
「言ってみろ。」
「あのACのパイロットの娘に会って、俺は言いいたいんだ。『好きです』、って。」
 息子のその言葉にエースはしばらく言葉を失った様子で、まじまじと息子の顔を見た。
 長いこと父と息子と言う関係を続けてきたが、まさか、息子がこうも惚れっぽい人間であったとは完璧に予想外だったらしく、
 二の句が告げないでいる。
「あの子はアリーナに登録されていないACに乗っていた。それならレイヴンになるしかない!!
 戦場でだってかまわない、俺はあの子に会って一言、『好きです』って言いたいんだ!!」
「ぶ、ふはははははははははははははははははは!!!!」
 耐えきれんといった風に、エースは腹の底から笑った。
 流石にその様子に傷ついたのか、ダンは唇を尖らせた。
「なんだよ、父さん。そんなに笑うこと無いじゃないか…!!」
「いや、…手術代を稼ぐとか、戦うためだとかそんな理由でACに乗る奴はいたが、初恋を追っかけてレイヴンになる奴は始めてだ!!
 …いいな、それ。最高だ!!ダン、やるからには絶対にその初恋の女を捕まえろ!!俺もお前に俺の持つ全てをくれてやる!!
 やるからにはハッピーエンドを目指せ!!」
「もちろんだ!!父さん、宜しく頼むよ!!」
「当たり前だ、息子の恋の援護射撃は俺に任せておけ!」
 実に、本当に楽しげに笑う二人は、一緒にアルカディアを目指して歩き始めた。
                 <続く>
   主人公
 ダン・イルキス 年齢十七歳

 黒髪に黒目、褐色の肌をした健康優良男児。
 かつてのアリーナトップランカーであったエースの養子にして彼の技術を受け継いだ強化人間。
 たった一度だけ非戦闘員として遠目に見たセレンに一目で魅せられ、理屈も手順もすっ飛ばして彼女に恋をする。
 彼女に会う、戦場でもかまわない。彼女に会ってただ一言、『好きです。』と伝える為にレイヴンになった純情可憐熱血少年。
 あらゆる困難を機転と気合と愛で叩き潰し蹂躙する戦の申し子。
 愛機ACの名前は『キング』。金色と、限りなく黒に近い紺色を基調とした機体。
 非常に目立つが、それ以上に隙のない機体構成。
 エクステンションの回転ブーストを併用したビームサーベルによる2段切り、『ダブルスラッシュ』を必殺技とする。 

 キング・機体構成
HEAD   CHD−SKYEYE
CORE   MCL−SS/RAY
ARMS   CAM−14−DUSK
LEGS  LYI−55−RVE
BOOSTER   CBT−01−UNB
FCS  VREX−WS−1
GENERATOR  CGP−ROZ
RADIATOR  RMR−ICICLE
INSIDE NONE 
EXTENSION KEBT−TB−UNS
BACK UNIT/R  MWC−LQ/15
BACK UNIT/L NONE   CWC−CNG−300
ARM UNIT/R NONE  CWG−XCMK/70
ARM UNIT/L   MLB−MOONLIGNT
OPTIONAL  OP−INTENSIFY


『氷の女王』 セレン 
 現在十九歳

 アリーナに参加せず、戦場にのみ出現するAC『リリティア』を操る女性レイヴン。
 自身の生存すら無視したような戦い方は敵味方を問わず、見るものの背筋を凍らせる。
 絶望的な火力と、重量級とは思えない機動力を併せ持つ機体を完璧に使いこなす。
 プライベートも謎に包まれており、彼女の姿を見ることができるのは、通信機越しのみである。
 強化人間の特殊能力を使用した無限ジェネレーターと併用される高速機動射撃法『吹雪の痛み(ブリザード・ペイン)』を使う。
作者:ハリセンボンさん