SLS:悲劇の再会
「ふーん、大変だったわね。」
「他人事のように言うか、お前は。」
ミリィが放った言葉に、カイルが突っ込む。
ここはグローバル本社のレイヴン用休憩室。そこには、フドーケンとミリィ、カイルにクイークがいた。
かなめの襲撃から十分後、何とかグローバル本社の格納庫に戻ってきた時、フドーケンの機体を見たエマはびっくりした。
ミッションの時は多少装甲に傷が付いた程度であったが、戻ってきた時は、左肩の装甲融解、左のエクスは行方不明。
更に、左足の関節部分がエネルギーの塊を受けたのか、完全に溶け、くっつけることは不可能だった。
その後、休憩室に三人を呼び、襲撃された事を話した。無論、オペレーターにも話し、口止めをしてある。
「流石に災難だったな。」
クイークが少々皮肉交じりに言う。
「それにしても・・・。」
カイルが思い出したように言った。
「そのパイロット、かなめは確かに言ったんだよな?」
「ええ、確かに、謎の通信者の事を隊長と。」
「そうか・・・・。」
カイルは少々考えた。
フドーケンとミリィは気が付かなかったが、クイークの目は、かなり真剣になっていた。
「まさか・・・・。」
「師匠、心当たりでも?」
「あ、いやあるにはあるが・・・・・まさかな。」
ミリィとフドーケンは首を傾げた。
クイークは、その行動に目を細めた。
「・・・・もうこんな時間か。」
クイークの一言に全員時計を見る。
『・・・午前三時!?』
カイル、ミリィ、フドーケンの声が重なる。
「しまった、明日も依頼があるんだった!!」
(機体はまだ直ってないだろう。)
「明日は実家に帰るんだった!!」
(何!?お前って実家に時々帰ってるのか!?)
「明日は一ヶ月に一回の武道の稽古会が朝からあるんだった!!」
(それは知ってる・・・。)
『じゃ、そういう事で!!』
三人は音速は超えていないが、かなりの速さで休憩室から出て行った。。
(あれじゃ通りかかった人はびびるな。)
そう思いながら、背伸びをすると、クイークも自室に戻って行った。
そこは、どこかに部屋だった。あるのは、デスクとベッドのみ。
クライムは、椅子に座り、書類を片付けていた。相変わらず、仮面は着けたままであった。
その部屋のドアから、一人の男が入ってきた。
「クライム指揮官。」
「何だ?」
「一次作戦の予定が決まりました。」
男は持っていた資料を手渡した。それを見たクライムは、
「陽動か。」
「はい。一次作戦は我々の戦力を整える為の陽動作戦を主な任務とします。」
「・・・・明日の朝、クレスト、ミラージュ、キサラギの兵器工場奇襲か。」
「はい。クレストを含めた各企業はレイヴンに増援を要請すると思われるため、グローバル社への陽動を、
クライム指揮官率いる部隊で行っていただきたいのです。」
「・・・・分かった。クレスト、ミラージュ、キサラギの奇襲には第五機動部隊と第七高火力部隊を敵戦力に合わせ
戦力を分散し向かわせ、陽動には第一親衛部隊と第六狙撃部隊を連れて行く。」
「了解しました。部隊に伝えておきます。」
男は、敬礼をすると、部屋から出て行った。
出て行ったのを確認すると、クライムは椅子に深く腰を掛けた。
「流石に、こうゆうのは向かないな。」
そう言いながら、部屋にある時計を見た。
現在の時刻は、午前四時。
「・・・・機体でも調整しておくか。」
クライムは部屋から出ると、格納庫に向かった。
「そういえば、あいつどうしてるかな?」
歩きながら、思い出したように言った。
「あいつには黙ってきたしな。元気だといいが。」
苦笑混じりで喋っていた。
しかし、この時クライムは、思い出していた人物と戦場で出会うとは、知らない。
「いい朝だな。」
クイークは、窓越しの朝日を見て呟いた。
現在の時刻午前七時。クイークの睡眠時間約三時間。
それでいい朝って、アンタかなりすごい身体能力だよ。
ちなみに、彼がいるのはグローバル本社にあるトレーニングジム。
ジムの主な設置理由はレイヴンの体力増強と気分転換用。
レイヴンは金さえ貰えれば何でもやるが、やれる量には限界があるし、依頼の状況によってはストレスが溜まる場合がある。
更に、ACにずっと乗っていると、筋力が落ちる可能性がある為、この様な施設がある。
他にも、体ではなく、遊びで気分展開したい人の為の娯楽施設もある。
そっちが多いのが現状であるが、ジムには上位のランカーレイヴンが多く通っている。
クイークは、今まで使っていたランニングマシーンから降り、タオルを取り、ジムから出て行った。
「さて、依頼を・・・。」
確認するか、と言いかけ、突如警報が鳴り響いた。
『緊急事態発生。緊急事態発生。グローバル本社に向かい、所属不明のAC部隊の進行を確認。
本社にいるレイヴンは至急迎撃に向かってください。繰り返す・・・・。』
それを言い終わる前に、クイークは走っていた。
本社には、レイヴン用宿舎、格納庫、アリーナ、トレーニングジム、娯楽施設、滑走路など、依頼に必要な施設は全て揃っている。
クイークは、宿舎の一階にある自室に向かった。
宿舎は五階建てで、一階からEランク。一番上はAランクとなっている。
パイロットスーツに着替えたクイークは、格納庫に100mを五秒位で走りそうな勢いで走る。
「クイーク、機体の準備は出来てるぜ!」
整備士の一人が叫ぶ。クイークは、古くから整備をしてもらっていた人である。
クイークは、機体に乗り込むと、格納庫から出る。
「・・・・・ちっ!」
外の様子を見た後、クイークは舌打ちをする。
先に出ていたレイヴンの大半は、敵の部隊によって破壊されていた。
何とか生き残り、応戦しているレイヴンいるが、少し苦しい。
「クイークか!」
その中のショットガンを連射していたACがこっちによる。
「フォグか!状況は?」
「見ての通り。Bランククラスのレイヴンまでほとんどやられて、残っているのは上
位レイヴンは俺とメビウスリング、シルバーフォックス、カロンブライヴ位だ!」
Aランクのレイヴン、フォグシャドウは状況を早口で喋る。
フォグシャドウの機体、シルエットは、色は緑かかった色で、武装は両手にショットガン、肩にステルスミサイルと30発ロケット。
エクスに軽量型連動ミサイルを装備している軽二脚。コアタイプはOB。
ちなみに、フォグとは、彼の愛称である。
「出てきていない奴といない奴は?」
「フドーケンとか言う新人は依頼で留守。カイルはまだ。ミリィは・・・今出てきたぞ。」
クイークは、後ろをチラッと見る。
フォグの言う通り、格納庫からミリィの偵察型フォーニングが出てきた。
「状況はどうです!?」
フォグは、今さっき言った事を更に早口で言った。
「あと、レオンとシルバが準備してるわ。」
「しかし、その間になんと防衛しないと、こっちがまずい。」
「弾の方は大丈夫か?」
「もう弾が無いんだ。すまないが、少し間頼む。」
「分かった。」
フォグは、すまない、と言い残し、格納庫に引く。
「行くぞ!敵を食い止める!!」
「了解です!!」
二人は、OBを吹かし、一気に移動する。
「親衛部隊、状況を報告しろ。」
クライムが、前線に出した部隊に、戦局を聞いた。
グローバル社が見渡せる丘にACの部隊がいた。
そのほとんどが、狙撃に特化されたACで、グローバル社の防衛に当たっているレイヴンのACを狙っていた。
その中の一機、クライムの機体、クライムブレイカーがいた。
クライムブレイカーは、色はダークレッド。武装は、右肩に多弾頭ミサイル、左肩に小型一連ミサイル、
右腕にマシンガン、左腕にショットガンを装備した中二脚。コアタイプは中型エネルギーEO。
「現在、敵レイヴンの反撃が強く少々押され気味です。」
通信機から、親衛部隊の一人の声が聞こえる。
「敵の戦力は?」
「AC五機です。」
「・・・・私も出る。」
クライムは、脇のコンソールを押し、システムを調整する。
「え?」
「もうお前達に任せてはおけん。」
そう言うと、通信機を切り、機体をグローバル社の方に動かした。
「遅い。」
「うわっ!」
クイークは、ランスガンで敵ACの右腕を切り裂く。
敵は、ACのみの部隊。
パイロットの技量はともかく、敵機体のバランスがよく、数で攻めて来るので、消耗戦になっている。
更に、敵の後方から敵の遠距離射撃でかなり苦戦を強いられる。
「流石にまずいか・・・。」
その時、敵が集まっていたところに、複数のミサイル飛んで行き、ヒット。
更に、上から爆雷が落ちてきて、生き残ったACを赤き風が切り裂いた。
「フォグ、レオン、シルバ!!」
後ろから、二機の黒いAC、前方から赤いACが来た。
「相手のバランスが崩れた。一気に攻めるぞ!!」
別の場所で戦っていたメビウスリングから、そういう通信が入った。
その言葉通り、敵は突然の増援に驚き、うまく動けないようだった。
「よしっ、行くぞ!!」
『了解!』
四機は分かれると、敵の掃討に入った。
「うぉー!」
レオンは、敵の部隊に左腕の高速マシンガンを連射し、敵部隊に突っ込んでいった。
レオンの機体、ブラックナイトは、右腕は赤、それ以外は黒。武装は、肩にバーストミサイルと小型一連ミサイル。
右腕にパイルバンカー、左腕に高速マシンガンを装備した中二脚。コアタイプは中型エネルギーEO。
「遅い!」
敵のコクピットにパイルを打ち込む。
「次は、誰だ!」
「動きが鈍い!」
シルバは、敵の機体のコクピットに月光を突き入れる。
シルバの機体、クリムゾンウィンドは、色は赤。武装は右腕にパイルバンカーと左腕に月光を装備した軽二脚。コアタイプはOB。
「ほらほら、もっとこないか!」
「何とか優勢ね。」
敵を切り裂き、周りを見たミリィが、呟く。
「・・・!」
突如の気配に、ターンを起動しつつ月光を振る。
バチン。
後ろから接近していたACのブレードらしき物が、月光を受け止めた。
「何!?」
「ほう・・・・。」
お互いに間合いを取る。
そこにいたのは、クライムのクライムブレイカーである事は、ミリィは知らない。
それより、驚いたのは、
「ブレード・・・!?」
クライムのACの装備しているマシンガンの銃口の下辺りから、月光のような粒子の剣が出ていた。
「まさか、こいつの隠密奇襲攻撃プログラムを見破られるとはな。」
クライムは、マシンガンブレードを構える。
ミリィも、月光を構える。
「ミリィ!」
その時、通信機から声。
ミリィの右側から、レオンのブラックナイトが来ていた。
「ミリィ・・・だと!?」
クライムは困惑した。
「ま、まさか・・・いや、他人の空似だろう。」
「レオン!」
その声を聞いた直後クライムは、完全に困惑した。
「まさか・・・本当にミリィなのか?」
クライムは、通信を前方の機体に向けた。
「その声・・・まさか、クライム兄さん!?」
「やはりミリィか!お前がどうしてレイヴンなど・・・・。」
「兄さんこそ、何で今まで・・・。」
レオンは、途中でブーストダッシュを切った。
(あの機体に乗っているのはミリィの兄さん?だけど、ミリィの兄さんは確か管理者時代に行方不明になったはず・・・・。)
レオンも考え込み、二人の行動を見守る事にした。
「それは、すまないと思っている。だが、私にはやるべき事が出来たのだ。」
「そんなのが理由になるとでも!?」
「・・・・・・。」
「俺は生きてる、位は言ってきても良かったでしょう!?」
「しようとはしたが、忙しくて出来なかったんだ。」
「兄さん・・・・。」
「ミリィ、俺と共に来い。」
「え・・・!?」
「お前は俺の妹だ。ここにいるべきではない。」
「でも・・・・。」
ミリィは、レオンを見る。
レオンは、黙ったままだった。
ミリィとレオンは、カイルの最初の弟子で、時々レオンに相談を持ちかけていた。
もっとも、こんな時は、自分で決めろ、と彼は言うが。
「・・・・ごめん、兄さん。」
「・・・そうか。お前もようやく自分のやるべき事が分かったか。」
お互いにブレードを構える。
「クライム指揮官。」
その時、後方に待機させていた通信兵から通信が入る。
「どうした。」
「作戦は完了。帰還してください。」
「了解した。」
クライムは、後退した。
「兄さん!!」
「ミリィ、覚えておけ。次会った時、その時は・・・。」
クライムは、マシンガンを向ける。
「お前を撃つ。」
「こっちもよ。」
ミリィも、マシンガンを向けた。
「ふっ、楽しみだ。」
そう言い残し、機体を後退させた。
周りを見ると、他のACも撤退を開始した。
「良かったのか?」
寄ってきたレオンが通信を入れてきた。
「ええ。私の居所はここだから。」
ミリィは、笑顔で答えた。
「動き始めたか。」
グローバル社の会議室。
そこに、謎の男とカイルがいた。
会議室の依頼確認用スクリーンには、外の様子が映っていた。
しかし、今日は合同稽古会のはずのカイルが何故ここにいるのか。
「今日は大事な日ではなかったのか?」
「一日くらい、何とかなる。」
どうやら、カイルとこの男は親友に近い存在らしい。
「これから、どうするつもりだ?」
「奴等の動向を調査する。その後、そちらと合流する。」
「分かった。しっかりな。」
「分かっている。」
そう言うと、男は会議室から出て行った。
次回予告
ついに始まった謎の組織の第二次作戦。
その作戦の中、カイルは最強最悪の機体の封印を解き、敵との戦いに望む。
そこで語られる、クイークとカイザルの因縁。
カイルの過去。
組織の実態。
次回 『起動、アナザーフォーニング!』
後書き
ふぅ、疲れた。
次回は、もうちょっと短くしたいです。
あと、登場人物の紹介と追加情報
カイル
謎の男と関わり有り。
次回、衝撃の事実が分かる。
ミリィ
クライムの妹。
クライムの誘いを断り、仲間と一緒に残る事を選ぶ。
レオン
カイルの弟子。
扱いの難しい機体を操る。現在Bランク。
性格は、普段はおとなしい性格だが、ACに乗ると強気になる。
シルバ
カイルの弟子。
格闘専用の機体を操る。現在Cランク
性格は、かなりのお調子者。しかし、その目の奥は、相手の行動を注意深く見ている。
クライム
ミリィの兄。
ミリィが自分の道を選んだのを嬉しく思い、今度から妹ではなく、敵として扱う事を誓う。
フォグシャドウ
Aランクのレイヴン。
実力だけでは、トップレイヴンのメビウスリングを越える。
あだ名はフォグ。
性格は、依頼とアリーナでは、情に左右されない上、沈着冷静。
しかし、依頼とアリーナ以外のときは、優しく、兄貴分のような存在。
メビウスリング
アリーナトップのレイヴン。
トップレイヴンと納得できる力を持つ。
ほかのレイヴンを意識した事がなく、孤独な戦いをしている。
性格は、冷静さと熱血さを合わせた性格。
????
カイルと関わり有り。
次回、その正体が判明する。
です。
作者:カイルさん
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