サイドストーリー

AC3SL PW 第1話
「防御力低下。作戦中断、帰還します。」
モニターが壊され真っ暗になったコックピットに、コンピューターによって作り出された無機質な女性の声が響き、機体のシステムがダウンしていく。
「くそっ!」
機体のチェックもそこそこに、相手ACに向かって通信を入れた。
「ステア! 管理者を破壊するなんて事は止めるんだ!」
すると、相手ACから女性の少々不機嫌そうな声が答えてきた。
「人に、プライベート以外は本名で呼ぶなっていつも言ってるくせに、自分だって呼んでるじゃない!」
「くっ……、今はそんなこと言ってる場合じゃない! とにかくやめるんだ!」
相手の抗議を無視して、これ以上のミッションの中止を呼びかけた。
「嫌よ。いくらコースケの言う事でも、これだけは聞くことはできないわ。私は管理者を破壊する」
「管理者を破壊すればもっと多くの混乱を呼ぶだけだ!」
「暴走した管理者がこの世界を救えるとでも言うの? そんなことは無理だわ」
確かに、今のままではこの世界は崩壊しかないことは俺自身も分かっていた。
しかし、だからといって管理者を破壊すれば全てが解決するとは思えなかった。
「それは……。だが、誰がこの先の世界を作ると言うんだ」
「人よ。それに、管理者を破壊すれば人には新たな可能性が開かれるはずよ」
「可能性……だと?」
「そう、可能性が。後は見てのお楽しみ。大丈夫、終わったらちゃんと帰ってくるから。
 それじゃ通信は終わり。レイン、確か補給車があったはずよね。こっちに回して」
ステアはそう言うと通信を切ってしまった。
「おいっ、話はまだ終わってな……、うわっ!!」
話の内容といきなりの通信の切断に戸惑っているところに、大きな衝撃が襲い、俺の意識は吹っ飛ばされた。

明るい日差しが差し込む中、俺は目を覚ました。そこはいつも見慣れている俺自身の部屋。時計の針は10時を指している。
「またあの時の夢か……。くそっ、酒を飲んだ次の日は決まってこうだな……」
頭では拒否をしていたが、容赦なく夢の内容が思い出されてくる。
クレストから依頼された、管理者を破壊するACを止めるという依頼を受け、迎撃に行くが失敗して機体を大破させられてしまう。
これだけならただの失敗した依頼だったが、その相手ACが特別だった。
ACネーム、リヴァティーベル。
アリーナトップランカーであり、俺の彼女、ステア・ウィルフォードが乗っている機体。
彼女は俺を倒した後、管理者を完全に破壊した。
その事によって、地上への扉が開かれて、人には地上への進出という道が開かれた。
そして、地上の開発計画は企業同士の対立と共に急速に進んでいる。
ここまでは彼女の言うとおりになっていた。
ただ、彼女は最後に言っていたことをまだ果たしていない。
帰って来ていないのだ、何年も経った今も……。
そんな記憶を振り払うかのように、まだ目覚めきっていない体を起こしてキッチンまで移動し、
冷蔵庫から半分ぐらいしか入っていないミネラルウォーターを取り出して、一気に飲み干した。
水の冷たさによって意識が覚醒されて思い出された夢の内容が消えていく。
一応、振り払えたようだ。
メールをチェックすると、現在は俺のオペレーターをしているレインから来ていた。
ランドル整備士から、ACの整備終了の連絡があったというメールだ。
おそらく機体の最終チェックがしたいから来てくれという事だろう。
かなり遅めの朝食を済ませ、早速グローバルコーテックスのAC格納庫へ向かった。

「よう、バースト」
AC格納庫に着くと、作業服を着た30代ぐらいの男が俺のパイロットネームで呼んだ。
「おっ、ランドル。俺のAC、プライオリティーの整備が終わったって?」
「ああ、こっちの仕事は終わったよ。ほら」
ランドルが指を指した先には、白と青に粗相された4脚ACが格納庫の一角を占拠していた。
コアはミラージュの中量OBで、インサイドにデコイ10発。
腕には右が500発マシンガン、左が30発の発火投擲銃、肩には左に40発小型ミサイル、右に35発式のレーザー砲を装備している。
「あまり破損してなかったから、そんなに修理費はかからなかったよ」
「そうか。いつも通り、レインに弾薬費と修理費の請求書を送っておいてくれ。遅くても明日には振り込まれているだろう」
「わかった、そうしておく。ほんと、お前は滅多に大きな破損をさせないからから楽でいいよ。
 俺の同期のやつは、担当のレイヴンが毎回ボロボロにしてくるから徹夜ばかりだと嘆いてたよ」
「徹夜ばかりはつらいな。俺もせいぜい壊さないようにするさ」
そんな会話をしながら最終チェックを済ませると、レインから連絡がきた。
「バースト、大変です! 本日、演習場でレイヴン試験が行われていたのですが、そこに予定にない2機のACが襲撃してきました。
試験生の乗る支給されたばかりのACでは、2機のACは明かに手に負えないので、試験官が至急増援を出して欲しいようです。出れますか?」
「わかった! 今、格納庫にいるから輸送機の準備が出来ればすぐに出撃できる! ランドル、すぐに出るぞ!」
「OKだ! しっかりやってこいよ!」
素早くパイロットスーツを着込み、愛機プライオリティーに乗り込んで格納庫の外にて輸送機が来るのを待った。

「レイン、襲撃してきたACについて分かったことはあるか?」
輸送機の中で、レインに襲撃してきたACについての情報を求めた。
「送られてきた映像を元に検索してみましたが、2機共、現在のコーテックスには登録されてない機体のようです。
ただ、両機共、管理者時代にいたレイヴンの乗っていた機体に似ているような気がします。」
「わかった。目的地に着いたようだ。出るぞ、機長!」
機長に輸送機のハッチを開けさし、上空から戦場となっている演習場を見渡した。
戦況が見える。
灰色をした2脚ACに乗る試験生が障害物に隠れて、襲撃してきた2機のACの攻撃をどうにか凌いでる状態のようだ。
ここからでは、襲撃してきたACは、オレンジ色のタンクと黄色の逆関節という事ぐらいしか確認できない。
それぞれの位置取りを確認すると、襲撃している2機のACの後ろ辺りを目標にして、機体を投下させた。

衝撃が起きないようにブースターを吹かせて着地すると、素早く敵ACの特徴を見定めた。
オレンジ色をしたタンクは、コアがミラージュの軽量EOで、エクステンションに強制冷却装置がついている。
武装は、腕には右が160発の対ACライフル、左がブレード、肩にはそれぞれ80発のパルスキャノンが装備されている。
黄色の逆関節の方は、コアがクレストの重量OBで、肩に両肩用の追加弾倉を積んでいる。
武装は、腕が武器腕になっていて、小型と熱量型ミサイルを撃ち分ける事が出来るタイプだった。4発同時発射式の連動ミサイルも積んでいる。
レインが言っていた通り、俺自身も管理者時代に見た覚えがあるような気がした。
「こちらプライオリティー。これより、そちらの援護をする。逆関節の方をこっちで撃破するので、タンクの方を引きつけておいてくれ」
新人と支給されたばかりのACの機動力という事から、ミサイル回避が少々困難であると判断して、このような通信を試験生に入れた。
「りょ、了解しました」
「了解」
試験生から返事があったようだが気にせず、逆関節ACとの距離を詰めながら、ほぼ単発で撃ってくるミサイルを回避する。
どうやらすでに連動ミサイルの方は撃ち切っているようだ。
近接戦で問題ないと判断し、デコイ2個を障害物の陰に射出し、OBを作動させ、一気に距離を詰める。
敵ACは一応回避運動は取っているようだ。
だが、こちらのサイトから逃げられるほどではなく、機体の装甲はこちらの発射するマシンガンと発火投擲によってボロボロになっていった。
そして、敵ACから発射されてくるミサイルは、こちらとは全然別のデコイが浮いている方へ飛んでいくだけだった。。
ほとんど被弾のないまま、トドメとばかりにレーザー砲を発射すると、逆関節ACは破片さえも残さないくらいの爆発を起こし、消滅した。
「……? ちょっと、爆発が大きすぎるな……」
そんな疑問が浮かんだが、もう1機が気になったので、そんな疑問は頭の隅に押しやり、辺りを見回した。
少々遠くの方で戦闘音が聞こえてくる。かなりこちらから引き離したらしい。ここからでは戦況が確認できないので、試験官の方に通信を入れた。
「逆関節ACを撃破、試験生達の状況はどうなっている?」
「さすがだ。ただ、こちらももうすぐ片が付く。1・2番機共に健在だが、特に2番機がかなり優秀だ。だから、もう帰還してもらっても構わない」
「そうか……。だが、一応撃破を確認してから帰還する」
こう答えて通信を切った。
理由は2番機パイロットに興味を少々覚えた事と、さっきの疑問がまだ引っかかっていた為だ。
OBを発動させて一気に戦場となっている方へ機体を移動させようとしたその時、大きな爆発音がした。
どうやら撃破したようだ。
「タンクACの撃破を確認した。すまんが、こちらの輸送機にはもう1機搭載する余裕がない。そちらは独自で帰還してくれ。援護感謝する」
試験官からの通信が入った。
「了解した」
そう答えて、上空を見ると、試験生と試験官を乗せた輸送機が飛び去るところだった。
「予定では2機以上になる予定はないからな。これは仕方がないな……」
1人呟くと、いつもコックピット内に置いてある本を取りだして、レインに通信を入れた。
「レイン、輸送機の手配を頼む」
「わかりました。それまで、いつも通り本でも読んでいて下さい。今回襲撃してきた機体については、調査しておきます」
「ああ。調査が終わったら、報告の方を頼む。後、2番機のパイロットの方についてもだ」
「わかりました。そちらの方も調べておきます。では」
用事は終わったので、通信を切ろうとした。
「……?」
その時、視界の隅で一瞬なにかが動いたような気がした。
だが、改めて辺りを見ても何もなく、プライオリティーのレーダーでも確認できなかった。
「レイン、この辺りにまだ機影はあるか?」
「いえ、あなたの他には遠ざかっていく輸送機ぐらいしかありませんが、何かありましたか?」
「いや……、ならいいんだ。気のせいだったようだな。じゃあ通信切るぞ」
そう言って通信を切ると、本を読みながら輸送機の到着を待ち、帰還した。
作者:キャップさん