サイドストーリー

Underground Party 0話 〜廃墟の住人〜
簡単な任務だった。
クレストも、何故こんな任務にわざわざ俺を指名したのだろうか。
幾ら重要物資とはいえ、Bランクのレイヴンに回すほどの任務でもあるまい。
まさか、海上という理由だけで俺を指名したわけでもないだろうに。

そんな事を考えつつ、彼――サイプレスは、帰路へと着いた。
物資の回収を終えたクレストの部隊が、ミラージュ部隊に襲撃され、先行した1機を残して壊滅したのは、彼が帰還してからのことだった。

この物語は、その後数ヶ月の時間を経て、ようやく動き出す。




Underground Party


0話 〜廃墟の住人〜


Title:封鎖地区侵入者排除
報酬:22000C


特にすることも無かった私は、内容も確認せずに契約することにした。
この報酬の金額では、わざわざ装備を変更するほどのこともないと踏んでのことだ。
オペレータに連絡を入れ、ガレージへ向かうため、身支度を整えて駐車場へと降りる。
鮮やかな赤のスポーツカー。悪趣味という者も居るが、これが私――シェリル=ユーンの愛車だ。
チューンしてあるこいつのパワーならば、コーデックスのガレージまで5分程度で到着することも出来る。
――その場合、幾つの交通規則を破ることになるかは知ったことではないが。
木目調のハンドルを握り、革のシートに身体を預けて、アクセルを軽く踏む。
徐行して地下駐車場を出ると、眩しい光が目を刺した。
・・・しかし、それは人工の光だ。もっとも、自然の光などというものを見たことがある人間が居るかは疑問だが。
そう、ここは多層地下都市レイヤード。何もかもが管理者の手によって決定される、予定調和の世界。
・・・ま、しかし例外というものは何処にだって存在する。
それが私達のような人種――何者にも縛られず、自らの意思で行動を決定する、鋼鉄の棺桶を駆る濡れ羽色の烏達。
人は私達を、レイヴンと呼ぶ。


「さて・・・これはどういう事だ?オペレータ?」
つい先日、地殻変動で閉鎖されたはずのセクション513。
だが、そこには地殻変動の跡など全く見られず、殆ど正常な都市セクションにしか見えなかった。
「私にも判りません・・・異常なんて何処にも・・・ここは、一体・・・?」
しかし、異常があろうが無かろうが、敵は構わず攻撃を仕掛けてくる。
パワードスーツを装備した重装機動歩兵と、支援の戦車の混成部隊か。
恐らく、偵察部隊なのだろう。
戦闘を行うつもりなら、せめて戦車がこの倍は欲しいところだ。
だが、攻撃してくる以上は仕方が無い。
「ま、ACが出てくるとは思っては居なかったのだろうが・・・」
黙々と敵部隊を殲滅しつつ、奥へと進む。

「とっ・・・!」
ビルの地下駐車場から飛び出してきた戦車の放った主砲を、間一髪で回避する。
探索中だった部隊がやってきたのだろう、レーダーに光点が幾つも増える。
しかし、幾ら集まったところで私の敵ではない。
数分で敵増援を掃討し、一息をつく。
だが・・・この程度か?幾らなんでも、簡単に行き過ぎる――
「レイヴン、ランカーACブラッククロスを確認しました、撃破してください」
オペレータの声と前後して、遠くでエレベータの降りてくる音がする。
ブラッククロス・・・ドロールか。このような入り組んだ場所では厄介だが・・・まあ、問題は無い。
新たな光点へと向かって、機体を急がせる。
「よし、この角を曲がれば・・・っと、得意の地雷か、ということは・・・」
足元にばら撒かれている地雷を飛び越えて、その広場に進入しようとすると、案の定マシンガンの連射が向かってくる。
しかし、それを予測していた私にとっては何の問題もない。
機を横滑りさせて回避すると、広場の角に居たブラッククロス目掛けて肩のレーザーキャノンを叩き込む。
近距離で放たれたレーザーキャノンは見事にブラッククロスのコアを捕らえる。
硬直するブラッククロス目掛けて、ブレードを突き込もうとするが、猫だましのように目の前で地雷を投射され、退かざるを得ない。
「ふ・・・腐ってもランカーということか・・・」
だが、まあ。
「・・・貴様如きが、私から逃げられるわけがなかろう?」
ショットガンで牽制しつつ、奴に通信を送る。
すると案の定、というか何というか・・・一瞬、奴の動きが鈍る。
そして、そこを見逃すほど私は甘くは無い。
一瞬で間合いを詰め、まるで体当たりをするかのように、ブレードを奥深くまで突き入れる。
背中からブレードの先端が覗いたのを確認して、ブレードを解除してブラッククロスから離れる。
コアの中央を貫いたのだ、中のパイロットなど、既に跡形も無いだろう。
「しかし・・・ランカーまで雇ってくるとなると・・・ん?」
私は、有り得ないものを見た気がした。
最初は、幽霊か何かかと思ったくらいだ。
モニターの隅のビル、その窓からこちらを見つめる人影があったのだ。
「・・・オペレータ、通信機器の調子が悪い・・・」
それだけ言うと、通信関係の全ての機器を停止させた。
それと、戦闘メモリーを記録している装置もだ。
「・・・これでいい・・・さて、どうするかな」
レーダーを操作して、ここら一帯をくまなくスキャンする。
・・・よし、敵影0。
機をそのビルの前に移動させると、システムを通常モードに移行させて、コクピットのハッチを開く。
「・・・全く、我ながら正気の沙汰とは思えんな」
苦笑しつつ、慎重に地面に降りる。
こういう時は、機高の低い4脚は便利だ。
・・・まあ、普通は任務中にACから降りるなど有り得ないのだが。
地面に降りると、上から覗き込んでくる人影に向かって、手振りで降りて来いと合図をする。
パッと見た感じでは、若い男のようだったが・・・。
と、階段を駆け下りる音が聞こえてきた。
自分のACの駆動音の他を除けば、全くの静寂といっていいこの空間に、その音はよく響いた。
「あんた誰だ!?あいつらの仲間じゃ・・・」
開口一番に叫ぶ男の眉間に、拳銃を突き付けて黙らせる。
「聞くのは全て私からだ。まず、お前は誰だ?名前と、所属を言え」
多少の恫喝を含めながら、男に質問する。
「知らないね。名前は・・・確か、ルクスとか・・・そう、聞いた」
・・・ふむ?
「・・・自分の名前も判らないのか?」
「・・・ああ、記憶喪失でね。・・・なあ、いい加減その物騒なものを降ろしてくれないか?」
が、私は銃口を向けたまま、次の質問を口にする。
「次の質問だ。こんなところで、何をしていた?」
「変な連中に連れてこられたんだ。管理者の決定だとか何とか言ってたが、あの連中は何なんだ?」
・・・管理者・・・クレストか?妙な話になってきたな・・・。
しかし、見たところ特に妙なところは無いが・・・。
「質問は私からだ、と言ったはずだな。では次だ。ここに来る前で覚えていることを全て話せ」
「ここに来る前ったって・・・3ヶ月くらい前にここに連れてこられたけど、その前の記憶なんて殆ど・・・」
3ヶ月前・・・ね。これはこれで重要な情報だな。
「何でもいい。言ってみろ」
そう言うと、ルクスと名乗った男は暫く考えた様子を見せてから、口を開いた。
「・・・気がつくと海岸に倒れてたんだ。で、爆発音がしたんで沖の方を見たんだ。そしたら、見たこともないMTや戦闘機が沢山でさ」
「暫く戦闘を見てたんだが、ACのが圧倒的だったね。フロートで、かなりいい腕だったな。あ、んでいきなりヘリが着陸してさ」
「降りてきた奴に見つかってね。色々質問された挙句、何か大騒ぎされてここに直行さ。・・・ああ、確か俺もあんたみたいな服着てたな」
パイロットスーツを着ていたということは・・・まあ、ACか戦闘機のパイロットという線が妥当か。
・・・フロートで腕の良い・・・サイプレスと・・・あのエグザイル、引退したはずだがホヅミも中々の手練だ。
他は、それなりに実力のある連中も居るが、かなり腕の良い・・・とまではいくまい。
「ふむ・・・それだけか?」
と、そいつは少し俯いて呟いた。
「・・・女の顔と・・・青い地球・・・それと、一面の炎・・・」
・・・女と炎はまあ、判るとして・・・地球・・・?
聞き慣れない単語に、記憶の糸を辿ってその単語の持つ意味を思い出す。
このレイヤードと、その外の世界をひっくるめて指す言葉だったか。
しかし、その色を知っているということは・・・。

・・・面白い。

「よし、ルクスだったな。最後の質問だ」


「ここから出たいか?」









初めまして、前条です。
0話・・・というかプロローグです。
少しづつ書いていきますので、気長にお付き合い下さいませ。



キャラクター・AC設定

シェリル=ユーン 25歳 B-6
通称"紅い神槍"。
長射程のHALBERDをオプションとEN伝達率の高い腕部で強化して、高威力の突きを多用するその姿より。
レイヴンネームを使用せず、本名で登録している変わり者。

AC:スレイプニル
頭:CHD-SKYEYE
コア:MCM-MI/008
腕部:MAL-RE/REX
脚部:CLF-DS-SEV
ブースター:CBT-FLEET
FCS:VREX-WS-1
ジェネレータ:CGP-ROZ
ラジエータ:RMR-SA44
インサイド:MWI-DD/10
エクステンション:CWEM-R10
右肩武器:CWM-S40-1
左肩武器:MWC-LQ/15
右手武器:CWG-GS-56
左手武器:MLB-HALBERD
オプション:
 S-SCR    E/SCR    S/STAB   L/TRN    E-LAP    
 SP/E++   CLPU     
ASMコード:I8j8KXXcaWMIWVWi40
作者:前条さん