サイドストーリー

One Raven’s Chronicle No.7.5 邂逅
試験官「…であるからして、君たちはこれより輸送機で各地の試験会場で…。」
 
「…ねぇねぇ、キミの名前は?」
 
グローバルコーテックスにある会議室。そこで候補生たちは試験の説明を受けていた。富のため、
名声のため、復讐のため、はたまた殺し合いを楽しむため―。老若男女、思惑はそれぞれだが、現時点
での目的は唯一つ、合格の二文字である。
 
「あ、僕はフレッドといいますけど…。あなたは?」
 
フレッドと答えた男―いや、男の子というべきか―がいきなり話し掛けられ、驚いたように言う。
 
「あたしはユリカって言うの。よろしくね♪」
 
フレッド「あ、はいこちらこそ。」
 
試験官「こらそこッ。受験番号5番と43番!おしゃべりは試験が終わってからにしろ。…あ〜、これは
長年試験官を務めている私からの忠告だ。人の話を聞けない奴は早死するぞ。特に君たち二人は
気をつけることだ。」
 
二人はこのとき、その言葉の意味を深く考えていなかった。が、この忠告が単なる忠告に終わらない
ことを、試験会場で思い知ることになる…。
 
試験官「お、もう時間だ。では、君たちの健闘を祈る。」
 
 
候補生を乗せた輸送機がそれぞれの目的地へ向けて飛び立つ。基本的にレイヴン試験は会場を公表しない。
試験荒らしを防ぐためだが、これがなかなか厄介な代物である。どこに飛ばされるかわからないからだ。大概は
トレネシティ、アダンシティなどの市街地であるが、運が悪いとジャングルやアーカイブエリアに飛ばされてしまう。
特にアーカイブエリアは、その特殊な条件から合格者がまだ一人も出ていない難所中の難所だった。
 
フレッド「ね、ねぇユリカさん。」
 
ユリカ「ユリカでいいわよ。で、なぁに?」
 
フレッド「あのさ、最近出るらしいよ、試験荒らし。」
 
ユリカ「試験荒らし?何それ?」
 
その名の通り、レイヴン試験に乱入して妨害するんだ。ここ数年で被害が増大しているらしいよ。」
 
ユリカ「ふ〜ん、ま、そんなの出てきてもあたしとフレッド君でチョチョイのチョイよ!」
 
試験官「目標地点に到達、これより試験を開始する。順次降下しろ。」
 
二人が降り立ったのは、よりによってあのアーカイブエリアだった。不幸中の幸いか、磁気嵐はおきていない
が、砂嵐によってただでさえ悪い視界がさらに悪くなっていた。
 
フレッド「………。」
 
ユリカ「あたしたち…、よっぽど運がいいみたい…。」
 
非情な現実を前に、二人は呆然とする。と、そこに試験官から通信が入る。
 
試験官「説明するまでも無いと思うが、一応内容を説明する。君たちにはここに潜伏しているテロリスト共を掃討
してもらう。敵戦力はMT数機と戦車数台だ。試験荒らしについては既に手を打ってあるので、君たちは試験に
集中して構わない。なお、今回は極めて視界が悪く、他の会場より不利なので、特別にオペレーターをつける。
オペレーターの声は神の声だ。指示には素直に従うように。以上だ。」
 
モニターから立派な髭を生やした試験官の顔が消え、茶髪にショートカット、眼鏡をかけた活発そうな女性が映し
出される。どうやら彼女がオペレーターらしい。」
 
メリル「お二人とも初めまして、今回お二人のオペレーティングを担当します、メリル=レイグルズと申します。
よろしくお願いします。では早速ですが作戦を開始しましょう。」
 
二人は一斉に移動を始める。試験に使用される機体はどれを取っても最低水準のものばかりである。
ジェネレーターまわりもその例に漏れず、ちょっとブースターをふかすとすぐ息切れしてしまう有様だ。
 
ユリカ「も〜!ちっともスピードが出ないじゃない!!」
 
彼女はコンソールを叩きつけた。と、そのはずみでOBが起動してしまった。
 
ユリカ「え?え?なになに?ッきゃああぁぁぁぁ〜!!!」
 
フレッド「あ、ちょっ…待ってよユリカ!」
 
彼は追いかけようとしたが、超高速で飛んでいく彼女に追いつくわけが無く、あっという間に視界から消えてしまった。
 
 
テロリスト「お、おいあれ…、ACじゃないか?」
 
テロリスト「なんだと、ここがバレたのか!?ちくしょう!!こうなったらダメもとで応戦するしかあるめぇ!!」
 
その頃…。
 
ユリカ「あぁ〜もう、止まったと思ったらこんどは動けなくなるなんてぇ…。フレッドぉ、どこなのぉ…。」
 
彼女のACはチャージングの陥り、ろくに動けなくなっていた。周囲を見渡してもフレッドの姿は見えず、レーダーにも
何も映らない。
 
 
フレッド「見つからないなぁ…。無事だといいけど…。」
 
メリル「大丈夫ですよ。まだビーコンは消えてませんから、彼女は生きてます。」
 
フレッド「ん…。レーダーに緑色の点が…。あぁ〜ッ!!周り中に赤い点がある!!ユ、ユリカがか、か、囲まれてる!?
ど、どうしよう!?」
 
メリル「落ち着いてください!!ACはそう簡単にはやられません。今取るべき行動くらいわかるでしょう?」
 
フレッド「は…はい!!」
 
メリルに一喝され、あわてて救援に向かう。彼女はそれを面白おかしく見ていた。
 
メリル「仮にもレイヴンがオペレーターにしかられるなんてねー。ウェインは新人の頃どうだったのかな?」
 
 
そして時を遡ること五分…。
 
ユリカ「あーん、フレッド早くきてよぉ〜!」
 
チャージングで動けないユリカは泣きそうになっていた。砂嵐は収まるどころか激しさを増し、1m先も見えず、レーダーにも
まだ何も映らない。彼女は世界で独りきりになってしまったような錯覚に陥っていた。
 
テロリスト「おいあのAC、ピクリとも動いてねぇぞ。」
 
テロリスト「こんな砂嵐ン中でも動きがわかるなんてな。さすがはAC用だな。」
 
テロリスト「しかもそんじょそこらのじゃあねぇ。熱源探知機能までついてるから磁気嵐だろうがステルスだろうが怖くないって
なもんだ。全くスポンサー様々だぜ。そろそろおっ始めるぞ!お前ら散開だ!」
 
合図とともに、戦車やMTがACを取り囲むように移動する。
 
テロリスト「配置完了だ。しっかしまだ動かねぇなんてな。コイツ、もしかしたらレイヴン候補生じゃないのか?」
 
テロリスト「だとしたら、だ。神は俺たちを見放しちゃあいねぇってことだなぁ。おぉ〜し、お前ら少しずつ距離を詰めていけ。
反撃のスキを与えるんじゃねぇぞ。」
 
重MT、ナースホルンを改造した指揮官機の指揮の下、包囲網を狭めてゆく。その様は、集団で獲物にせまるハイエナに
通じるものがある。
 
ガシャッ ガシャッ ガシャッ…
 
ユリカ「フレッド!?来てくれたのね!!」
 
テロリスト「フレッドォ〜??ヒャハハハハ!!残念だったなお譲ちゃん!」
 
ユリカ「え!そんな!?囲まれてる!?まさかあなたたちが!?」
 
テロリスト「そのまさかだピョ〜ン♪ちゃんとレーダー見なかったからこーなるんだぜぇ?ギコハハハハハ!!」
 
周り中から下劣な笑い声が聞こえる。その中でリーダー格が指示を出す。
 
テロリスト「いいかお前ら!!コクピットは潰すなよ!!女は売れば金になるからなぁ…!!」
 
ロケット弾が四方八方から飛んでくる。
 
テロリスト「ヒャッハァ!!レイヴンもこうなると脆いなぁ!!おい、先にACを行動不能にした奴がこのコにちょっかい
出せるってのはどーだ!?」
 
再び下劣で、さらに不潔な笑い声が充満する。既に機体はかなりのダメージを受けており、限界に近かった。
 
ユリカ「助けて…助けてお兄ちゃん…。」
 
彼女が祈るように呟いた、その時。
 
ドォン
 
突如ミサイルが飛来し、後ろのMTを鉄クズにする。
 
ユリカ「フレッド!!」
 
フレッド「………。」
 
メリル「どうやら間に合いましたね。」
 
フレッドはメリルからの情報を頼りにユリカの居場所を突き止めたのである。そして、彼女に一喝された彼は
ユリカを救うべく、テロリストたちに立ちはだかった。
 
フレッド「………許さない…。」
 
テロリスト「あ〜ん?なんだってぇ〜?」
 
フレッド「か弱い女の子をよってたかって…!絶対許さない!!」
 
テロリスト「ギャハハハハハハ!!きーたかよ!?へへへ、ナイト気取りかぁ?上等だ、たたんじまえ!!」
 
下劣な男たちが、威勢良く迫る。が、彼はさきほどまでの気弱そうな印象と打って変わって強気に立ち回り、
特に接近戦で次々と敵を撃破していく。
 
ユリカ「あたしだって支援くらい!」
 
ユリカも今までのうっぷんを晴らさんばかりの勢いでミサイルを連射する。気がつけば、残るは一機となっていた。
すると態度が一変、急に命乞いをしだした。
 
テロリスト「ヒ、ヒイイイイ!お、お願いします!いいいい命ばかりはぁぁ!!」
 
フレッド「問答無用!!」
ユリカ「問答無用!!」
 
二本のブレードに貫かれ、MTは機能を停止した。と、そこに試験官から通信が入る。
 
試験官「このアーカイブエリアで見事合格したのは君たちが初めてだ。ようこそ新たなるレイヴン。
君たちを歓迎しよう。」
 
フレッド「はは…ははは、僕たち、合格したんだね…。」
 
ユリカ「うん!あたしたちは今からレイヴンなんだね!!」
 
二人は迎えが来るまで、合格の喜びをかみしめていた。後から聞いた話だが、懸念されていた試験荒らしは、
このときのために雇ったレイヴンが撃退していたそうだ。
そして二人は、輸送機の格納庫で生身での再会を果たす。
 
 
ユリカ「フレッド!!」
 
フレッド「え?わぁっ!?」
 
いきなり抱きつかれ、彼の顔が真っ赤になる。
 
ユリカ「怖かった、怖かったよぉ…。あの時フレッドが来てくれなかったら…あたし、あたし…。」
 
フレッド「あの時は…自分でも何がなんだか…。それに君を見つけたときだって、僕は足がすくんで…。
メリルさんが励ましてくれなかったら、きっと僕は動けなかった。」
 
ユリカ「ううん、そんなことない…。フレッドはかっこよかったよ…。」
 
二人の周囲だけ、明らかに空気が違う。二人はいつしか注目の的になっていた。と、その注目の的に、
中年と言うには少々若い男が近づく。
 
「あー…。青春しているところ申し訳ないんだが…。」
 
ユリカ「えっ?…きゃぁ!」
 
二人はようやく自分たちが注目の的になっていることに気づき、二人揃って赤面する。その様子に、男は
笑いをこらえながら続けた。
 
「試験官から伝言だ。コーテックスにはすでに登録されているから、すぐに帰宅してよい、だそうだ。…おっと、
自己紹介が遅れたな。俺の名はネムリ=イビキ。試験荒らしを追い払ったのは俺さ。」
 
ユリカ「そうだったんですか。あっ、あたしはユリカ=サカガミと言います。」
 
フレッド「僕はフレッド=マクスウェルと言います。ありがとうございました。」
 
イビキ「!」
 
フレッド「どうかしたんですか?」
 
イビキ「いや、気にしないでくれ。フレッド君ちょっと…。ゴニョゴニョ…。」
 
ややあって、フレッドが戻ってきた。イビキに何を吹き込まれたのか、真っ赤な顔をしている。
 
ユリカ「どしたの?顔赤いよ?」
 
フレッド「…あ、いやその…やっぱ…だ、ダメだ、言えない…。あっ…。」
 
バタッ
 
ユリカ「??? ち、ちょっ…フレッド!?お〜い!?」
 
何かを言いかけた途端、赤い顔をさらに赤くして、倒れてしまった。あまりのことに、混乱するユリカ。イビキは
何を吹き込んだのか?全ては謎のまま…。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
あとがき
なんというか、伏線的なお話です。
まぁ、生かせるどうかは微妙ですけどね(テヘ
やっぱ悪人は書いてて楽しい!(ぇ
作者:キリュウさん