サイドストーリー

Underground Party 2話 〜巴戦〜
Title:ミラージュ部隊強襲
成功報酬:40000C
送信者:ユニオン
先程、アヴァロンヒルにてミラージュの部隊が集結中であることが確認された。
アヴァロンヒルにキサラギの新技術のサンプルを乗せた輸送機が墜落したとの情報がある。
恐らく、それを狙っての作戦行動だろう。
依頼内容は、敵部隊の全滅と新技術のサンプルの強奪だ。
どのような新技術かは判らないが、我々の目的の為に役立つものであることは間違いないだろう。
クレストも、あの"Lust Supper"を向かわせたようだ。
こちらは相手をする必要は無いが、撃破すればその分の追加報酬は約束しよう。
それでは、検討を祈る。

着信した依頼メールを読み、暫し考えを纏める。
ミラージュの部隊のみであれば問題ない。それならば自分1人でカタがつく。
しかし、クレストの"Lust Supper"は中々の強敵だ。
あまり僚機は頼まない主義だが、そうも言っていられないだろう。
キーボードを叩いて、ユニオンの推薦する僚機リストを開く。
今回出れるのは・・・ワルキューレに、フライングフィックス。パーティプレイとトラファルガーか。
・・・そうだな、同じユニオン寄りの女レイヴンのワルキューレかフライングフィックスにしようか。
報酬は高いが、彼女等なら何の心配もないだろう。
・・・よし、今回はワルキューレに頼もう。フライングフィックスには、先日アリーナで勝利したばかりだ。
こちらは良くとも、向こうは余り気分の良いものではないかもしれないし。
考えを纏めると、再びキーを叩いてワルキューレに僚機依頼を出しておく。
さて、これで準備は整った。後はガレージに行って出撃するだけ・・・。
と、コートに袖を通して玄関から出て、鍵を閉めた。
「あ、シェリル。今から任務?」
隣のドアが開き、優男的な外見をした男が顔を出した。
この男の名はルクス。数週間前、ある場所での任務で拾った・・・まあ、拾ったでいいか・・・男だ。
・・・勘違いするなよ。別に私がそういう趣味ってわけじゃないからな。
・・・そう、あんな場所に居たことに興味を覚えて、依頼主にも報告せずに連れ帰ったのだ。
で、私の住んでいるマンションに、もう一部屋借りて住まわせているわけだ。
「ああ、そうだが・・・」
と、その時だ。私の頭に、1つ面白い考えが浮かんだ。
「・・・ルクス、確かお前が発見された時、ACに乗ってたと言ったな?」
突然の質問に、ルクスは訝しげに答えた。
「ん、ああ・・・俺は覚えてないけど、そうだったらしいね」
「よし、決まりだ。ルクス、ちょっと付き合え」
腕を掴んで、エレベータに引きずり込む。
「え?シェリルみたいな美人のお誘いなら大歓迎だけど、これから任務なんじゃないのか?」
ふざけて言うルクスに、私は笑みを浮かべて言ってやった。
「だから、その任務に付き合え」
「はぁ!?」
と、ルクスが大声を上げた。
狭い鉄の箱の中で、その声が反響する。
・・・耳が痛い。
「エレベータ内で大声を出すな、非常識だぞ?」
何が気に入らなかったのか、ルクスは更に声を張り上げる。
「ちょっと待て!任務に付き合えってどういうことだ!?」
それぐらい分かって欲しいものだ。
・・・いや、この場合は分かっていても敢えて聞いているのだろうが。
「勿論、一緒に出撃しろという意味だ。・・・ああ、ワルキューレも居るから、残念ながら2人きりというわけではないが」
言って、クククッと喉の奥で笑う。
と、エレベータが地下駐車場に着く。
愛車に向かいつつ、まだ口をパクパクさせているルクスに声を掛ける。
「ああ、当然だが金は私が出してやる、ガレージに着くまでに構成を考えろよ」
それで我に返ったのか、後ろから小走りでルクスが追ってきた。
「そういう問題じゃない!俺はレイヴン登録もしてないんだぞ!?それを・・・」
ドアを開けながら、それに答えてやる。
「大丈夫だ、レイヴンでなくともACに乗っているものは大勢居るぞ」
運転席に乗り込み、ドアを思い切り閉める。
「いきなり乗ったって、戦えるはずが・・・」
助手席に乗り込んだルクスに、小型のツールを投げる。
「それで機体をシュミレーション出来る。決めたら送信を押せ。5分で着くから、急げよ」
キーを差込み、ぐいと捻る。
エンジンが掛かり、唸り声と振動が走る。
「おい、俺は行くなんて一言も・・・!」
・・・その割りに乗り込んでるじゃないか。
「ほら、私のような美人の誘いは大歓迎なんだろう?まあ、遠慮するんじゃない」
絶句するルクスの肩を、ポンと叩いて、ニヤリと笑みを浮かべる。
「戦場でデートなんてお断りだぁぁぁぁぁぁ!!」

「あら?もう一機来るとは聞いてなかったけれど・・・」
と、ワルキューレから通信が入る。
「ああ、すまんな。急に決まったもので、連絡する時間が無かった」
ふぅ、と溜息が聞こえる。別に、そんなに溜息を付くほどのことでもあるまいに。
「まあ、良いけど・・・後で事情は聞かせてもらうわよ」
ま、コーデックスに登録もされてないACを連れてくれば、そういう反応が自然だろうか。
「で、シェリル?そちらの方のお名前は?」
と、私が口を開く前に、ルクスが答えた。
「あ、俺はルクスだ。宜しく、ワルキューレ」
「宜しく、長い付き合いになることを祈ってるわ」

・・・っと、そろそろ作戦開始時刻か。
「よし、そろそろ行くぞ。これより定例通り通信は機体名で行う。2人とも、自由にやってくれ」
「・・・シェリル、ルクスの機体名は?」
「・・・私に聞かれても困る」
・・・機体名など全く忘れていたというのは、秘密だ。
まあ、ルクスが何と答えるか、私も多少楽しみではある。
「そうだな・・・"レーヴァテイン"・・・そう、レーヴァテインだ、宜しく」
・・・ふむ。
「宜しく、レーヴァテイン。こちらはグナーよ」
「レーヴァテイン、か。お前にしては良いセンスだな。・・・では、行くぞ!」


「オペレータ!どういうことだっ!?」
ブレーメンが叫ぶ。
キサラギの機密物資輸送機が墜落したとの情報を得て出撃したが、そこには何も無く罠だと判断された。
その罠から出撃した部隊を護衛してほしい、とのミラージュの依頼を受けて出撃したのはいい。
万全を、と思い、2人揃っての連携では定評のある、ツインヘッド姉弟を僚機として雇ったのもいい。
だが。
「ACが3機も・・・"戦乙女"と"紅い神槍"が居るなど聞いていないっ!」
ブレーメン達が到着した時には、既にミラージュの部隊は7割方が撃破されていたのだ。
そして、それを行ったと思われる部隊――B-4"戦乙女"ワルキューレ、B-5"紅い神槍"シェリル=ユーン。
他に、コーデックスには登録されていないACが1機。ショットガンと分裂擲弾銃装備の黒い機体だ。
謎の機体はともかく、あの2機であれば、例えMTを100機持ってきても、ようやく追い返せるか否か、といったところだろう。
「本気でミラージュ部隊を殲滅する気できたようですね。撃破すれば、追加報酬は弾むとのことです」
ブレーメンは乾いた唾を飲み込む。
――自分達で、例え1機でも落とせるのか?
――1機?そうだ!あの未登録の機なら・・・!
「マルチボックスより、ツインヘッドへ。あの黒い機体に攻撃を集中して撃破しよう。そうすれば、3対2だ!」
「・・・了解」

「くっ・・・こいつ、手強い!」
ツインヘッドBが、焦りの声を上げる。
パトリオットとスクリーミングアニマルの連携に加え、マルチボックスもかなりの量のミサイルを放っている。
それにも関わらず、その黒い機体には未だ目立った損傷は見られない。
「なんて動きだ・・・!」
マルチボックスのミサイルと同時に放った分裂ミサイルを苦もなく回避され、ツインヘッドWが驚く。
予想外だった。
ブレーメンの作戦では、早期に黒い機体を撃破し、3対2の長期戦に持ち込んでじわじわと押していく考えだった。
だが、実際には黒い機体は恐ろしいまでの回避能力と、至近距離からの散弾による高攻撃力を見せ付けていた。
更に、グナーの上空からの狙撃とスレイプニルの突進を阻むために、マルチボックスはそちらにもミサイルを放たなければならない。
「・・・畜生・・・!」
と、その時だ。オペレータから通信が入った。
「大型輸送機の飛来を確認!・・・AC、4機降下!識別信号より、クレストの"Lust Supper"と思われます!!」
舞い降りたのは、天使か悪魔か。
「"Lust Supper"・・・!ミラージュもクレストも偽情報に踊らされやがって!!」
図らず、この場にレイヤードの3大勢力の部隊が一同に会したのである。


「第13小隊、これより降下する!ブラック・ロウ、出る!」
新任の小隊長が、やや上擦った声で号令を掛ける。
大丈夫だろうか、ウラノスとカーティスの脳裏に嫌な予感がよぎった。
これが3度目の出撃になるラスティアは、幾らか落ち着いているようだ。
「ウーラン、続きます」
「カース・オブ・カオス、降下!」
「リディア、行きます!」
降下中、ラスティアが不思議そうに声を上げた。
「情報より敵部隊が少ない・・・?」
OPパーツによる調整で、小隊内で最もレーダー範囲の広いリディアだからこそだ。
「データリンクを繋ぐ・・・確かに妙だな、それに幾つかACらしき反応も・・・既に何処かの勢力に襲撃されているのか?」
ウラノスが呟く。
「どうします、小隊長。この分だと戦闘の真っ只中に割り込むことになりそうですよ」
「小隊長殿、だ。当然、全機撃破して機密物資を強奪する」
チッ、とカーティスが舌打ちする。
状況も把握出来ないのか・・・と、ウラノスも心の中で溜息をつく。
「ですが、スニード隊長。ACの反応が5機も・・・」
「黙れ、作戦は私が決める。着地後、散開して各個に敵を殲滅しろ!」
高圧的なスニードに、ラスティアもそれ以上は言わずに押し黙る。
地上よりの高度1200・・・リディアが地上の敵機にスナイパーライフルを放つ。
当たらなくとも、着地時を狙われないように、との牽制にはなる。
・・・だが、敵は地上からではなく、上から襲ってきた。
「うっ!?」
降下中の4機に向けて、何発もの小型ロケットが上空から撃ち降ろされ、そのうちの1発がブラック・ロウに命中した。
「上空にACの反応!?さっきは無かったのに!?」
回避行動を取りながら、ラスティアが驚いて叫ぶ。
「どこを見ていたんだ!?お陰で私が被弾・・・!」
そのスニードの嫌味を遮って、ウラノスの緊張した声が響く。
「・・・あれはグナーです、小隊長!恐らくステルスを掛けながら我々より上に!」
グナー、"戦乙女"B-4ワルキューレの愛機だ。
アリーナでの活躍と、本人の持つ柔らかな美貌もあって、一般人ですら知らない者は殆ど居ないほどの、超有名ACだ。
「参ったね・・・俺、彼女のファンなんですけどね。サイン下さい、ってワケにはいかないよなぁ・・・」
カーティスのふざけた通信に、スニードが怒りをぶちまける。
「馬鹿な事を言っている暇があればどうにかしろ!」
それを無視して、カーティスはOBを起動する。
見れば、スニードを除いた3人は、皆OBを起動している。
もう高度が無いため、着地時を狙われないように、ということだ。
ドン、と同時にOBが発動して、3機はある程度の距離を保って散開する。
ブーストも吹かさず、そのまま着地したブラック・ロウは衝撃で硬直し、そこに当然のように両側からの攻撃が集中した。
まず上空のグナーの狙撃が頭部のアンテナを吹き飛ばし、横合いからのマルチボックスのミサイルがコア左側に直撃した。
「ぐっ・・・畜生!」
が、それで終わりではなかった。
スニードが顔を上げてモニタを見ると、そこにはOBで突進してくる、ライトブルーの4脚AC。
その左腕は、乾いた血のように赤くペイントされていた。

「素人が!"Lust Supper"の名が泣くぞ!」
OBで突進しつつ、距離100まで接近したところで、肩のレーザーキャノンを放つスレイプニル。
この距離で放たれたレーザーキャノンを、未だ硬直しているブラック・ロウに回避できるはずもなく直撃し、コア前面の装甲を削り取る。
そして、OB状態のままブレードを発動させると、そのまま突撃する。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
スニードが悲鳴を上げ、3発同時ロケットを連射する。
数発が機体右側に命中し、肩のミサイルポッドが吹き飛び、右腕の装甲が砕けて内部機構が露出する。
「――遅い!」
だが、OBで十分に速度を得たスレイプニルを止めるには、その程度の衝撃では足りなかった。
次の瞬間、OBの速度を十分に乗せて突き出された真紅の光槍は、ブラック・ロウのコアを貫き、背後まで串刺しにしていた。
スニードは自らの未熟を悔やむ間もなく、コクピットごと貫かれ蒸発した。

「ちっ・・・アレが"紅い神槍"の"グングニール"か・・・!降下して30秒も立ってないってのに・・・!」
カーティスが、突っ込んできたグレイボアを蜂の巣にしながら毒づく。
"グングニール"とは、シェリルがアリーナで多用する連続攻撃のことだ。
OBでの突撃から、至近距離でのレーザーキャノン、そして長射程のブレードでの突きと、密着してのショットガン。
速度エネルギーを十分に稼いだ状態で、体当たりのように突き込まれるブレードは、ほぼ確実に敵ACを屠るのだ。
なお、シェリルと対戦したランカーのうち、3人がコクピット直撃を受け、試合中に事故死している。
アリーナ用に威力を落とした武装でさえ、死者が出るのだ。
実戦での恐ろしさは、たった今見たばかりだった。
「それにしても、どうなってるんでしょう・・・?あちらも味方同士というわけではなさそうですけど」
ラスティアが、レーヴァテインに襲い掛かるツインヘッドの2機を見て訝しがる。
受けた指令は、集結しているミラージュの部隊を撃破することだった。
だが、実際にはミラージュの部隊はほぼ壊滅し、戦闘中のAC部隊が2つ。
「・・・ミラージュとキサラギの雇ったレイヴンだろうな・・・」
ウラノスが呟き、オペレータへと通信を入れた。
「こちら第13小隊。目標の敵部隊はほぼ全滅している模様だが、小隊長戦死だ。指示を頼む」
「状況を説明せよ」
「到着時、ミラージュ及びキサラギの雇ったと思われるレイヴンが計6機交戦中。小隊長は着地時の隙を突かれて撃破された」
「ちなみに、B-4・B-5・C-4・E-1・E-6とコーデックス非登録機を確認、ランカーばっかだな。トップランカーも2人・・・どうするんだ?」
通信機の向こうで、幾らかの会話と少々の沈黙が流れた。
「・・・可能な限り敵に打撃を与えて撤退しろ、幸運を祈る」
それを聞いて、カーティスがやれやれと溜め息をつく。
「・・・ま、やってみますか・・・!」


「・・・くっ・・・流石は"Lust Supper"ね・・・!」
高度を取り、スクリーミングアニマルを狙撃しようとしたグナーを、逆にリディアがレーザーキャノンで狙撃し、右肩のロケットが吹き飛ぶ。
ワルキューレは体勢を立て直しつつ、返礼とばかりに構えを取っているリディアを狙撃するが、左腕のシールドで防がれる。
着地すると、マルチボックスの放ったミサイルが迫ってきたが、それは後ろに跳んで難なく避ける。
パトリオットと戦っているレーヴァテインの横合いから、カース・オブ・カオスが両腕から銃弾をばら撒いて突進する。
そこに気を取られたレーヴァテインに、ウーランが切り掛かろうとするが、スレイプニルがレーザーキャノンを放ち牽制する。
それを避けて隙の出来たウーランにパトリオットがパルスライフルを連射し、数発が命中しウーランの装甲を焼く。
そのままパトリオットは斬りかかろうとしたが、リディアの放ったグレネードが直撃し、右腕が吹き飛ばされた。
「あっ!?」
反動で吹き飛んだパトリオットに、スレイプニルがOBで突っ込んでくる。
阻止しようとマルチボックスがミサイルを連射するが、スレイプニルのバラ撒いたデコイに全て引き寄せられる。
一直線に突っ込むスレイプニルを狙おうとウーランが横合いから突進するが、ショットガンで弾幕を張るスレイプニルに近づけない。
硬直が解け、回避しようとするパトリオットに、上空に上がったグナーからロケットの雨が降り注ぎ、動きを制限する。
上空のグナーに向けてリディアがグレネードを2連射したが、グナーはそれを高度を下げて回避する。
「甘いっ!」
が、それを予測していたカース・オブ・カオスの打ち上げた弾幕に飛び込み、補助ブースタと脚部を損傷して地面に降りる。
着地したグナーはスレイプニルにミサイルを放つマルチボックスを狙撃しつつ、ゆっくりと後退する。
「こちらグナー、補助ブースタ1機損傷、脚部中破・・・射撃しつつ離脱する」

その攻防に前後して、グナーのロケット弾で隙の出来たパトリオットに、スレイプニルが迫る。
ブラック・ロウを葬った時のように、距離100でレーザーキャノンを発射するスレイプニル。
「きゃああっ!?」
必死に機体を回避させるが、間に合わないことを悟り、死を覚悟して目を瞑るツインヘッドB。
だが、その長槍の穂先の如きレーザーキャノンは、パトリオットには届かなかった。
レーヴァテインの放つ嵐のような攻撃を回避していたスクリーミングアニマルが、パトリオットの目前で射線に飛び込んだのだ。
狙って行ったのか、回避中に偶然そうなったのかは判らないが、スクリーミングアニマルはシールドを展開してそれを防いだ。
突然目の前に飛び込んできたスクリーミングアニマルに驚きつつも、即座に目標を変更してブレードを発動するスレイプニル。
だが、突くには距離が足りない。そう判断したシェリルは、スクリーミングアニマルの目前でブレードを振り上げた。
ザン、とスクリーミングアニマルの左前脚と左腕が宙に舞う。
止めを刺そうと振り上げたブレードを袈裟に振り下ろすが、跳び退いたスクリーミングアニマルの装甲を削るに留まる。
「チッ、逃したか・・・!」
舌打ちするシェリルだが、次の瞬間スクリーミングアニマルと同じ状況になる。
スクリーミングアニマルの後ろに居たパトリオットが即座に斬り掛かったのだ。
が、それは右腕を咄嗟に盾にしたスレイプニルの右腕を、ショットガンごと両断するに留まった。
カウンターで突き出されたスレイプニルのブレードが、パトリオットのコアと脚部の接合部を貫く。
と、動きの止まった2機に向けて、リディアがグレネードを連射する。
焦って回避しようとするパトリオットだが、スレイプニルに掴まれて逃げ切れない。
シェリルは捕まえたパトリオットを、迫ってくるグレネードと自機との間に挟んだ。
シェリルの意図を悟ったツインヘッドBだが、軽量のパトリオットではスレイプニルを振り解けない。
「きゃあぁぁぁぁっ!!」
ドォン!ドゥ!ゴゥン!
轟音を立てて、2機の周囲に次々とグレネードが着弾し、派手な土煙を上げた。
「姉さんっ!?」
土煙が晴れたあとには、装甲の薄い後部にグレネードを何発も受けたパトリオット――いや、パトリオットだったものが転がっていた。
残っていたのは、ひしゃげた脚部と、黒焦げのコアのみだった。
「ちくしょぉぉぉぉっ!!」
腕と足が一本足りないにも関らず、ツインヘッドWはOBを起動させてリディアへと突進する。
「よくもっ!」
残っていた4連ミサイルを突進しつつ連続発射する。
既に立ち上がっていたリディアだが、大量のミサイルを回避しきれず、次々に被弾する。
間接部に直撃を受けた右腕が肩から脱落し、リディアの武装は残弾が3発のグレネードのみとなる。
尚も突進するスクリーミングアニマルの前に、ウーランが立ちはだかったが、マルチボックスからのミサイルを受けてそれを回避する。
が、カース・オブ・カオスがスクリーミングアニマルの進路上に弾幕を張ると、流石にツインヘッドWもそれを回避して後退する。
「スクリーミングアニマル!その損傷では保たない!俺も残弾が少ない、退こう!」
ミサイルを連続発射してスクリーミングアニマルを援護するブレーメンの通信に、罵声を上げながら機を離脱させるツインヘッドW。
「畜生!畜生!くそぉぉっ・・・!!」


「ミラージュ側のACが撤退したか・・・」
シェリルは呟いて、自機の状態をチェックする。
右腕全損、肩のミサイルポッドもブラック・ロウを葬った際に失っている。
残りの武装は残弾8発のレーザーキャノンと、左腕のHALBERDのみだ。
しかも、直撃こそ受けなかったとはいえ、至近距離でのグレネードの爆発を連続して受けた為、レーダーが故障していた。
・・・だが、シェリルは不適に笑みを浮かべて呟く。
「"Lust Supper"は残り3機だが・・・SAMURAIの奴以外は残弾もさほどあるまい・・・」
その表情に、焦りの色は全く見られない。むしろ、この状況を楽しんでいるかのようだ。
「ルクス、残弾はどれだけある?」
「ショットガンが12発、擲弾銃が4発・・・ギリギリ1機いけるかどうか、だね」
それを聞いて、シェリルが笑い声を上げる。
「くくくっ・・・頼もしいじゃないか。では悪いが、あのSAMURAIの奴を暫く抑えてくれ。残りの2機は私が引き受けた」
そう言うなり、OBを起動して、今回3度目となる"グングニール"の突進を開始した。

「チッ、まだ来やがるのか・・・ウラノスさん、こっちは弾がもう50発ほどしかないぞ」
「私も・・・あとはグレネードが3発だけです・・・」
OBで突っ込んでくるレーヴァテインとスレイプニルを見て、2人が残弾を告げる。
接近戦では構えを取る余裕など無いため、実質リディアは既に弾切れといってもよい。
ウラノスは一瞬考えて、2人に答える。
「俺が抑えてる間に離脱しろ。十分離れたら、グレネードをバラ撒いてくれ。その隙に俺も離脱する。口答えは無しだ、行け!」
有無を言わさぬ口調に、2機は即座に反転してOBを起動する。
ウラノスは、両腕のブレードを発振させると、それを頭部の前で十字にクロスさせて、突進してくる2機の前に立ちはだかった。
「さあ・・・来い!」
一瞬の交差。
至近距離から発射されたスレイプニルのレーザーキャノンが、ウラノスの頭部を直撃し、完全に粉砕する。
横一文字に振りぬいた右腕のブレードは、レーヴァテインのショットガンのグリップを切り裂き、それを地に落とした。
袈裟に振り下ろした左腕のブレードは、スレイプニルのレーザーキャノンを半ばから切り落とした。
その代償に、レーヴァテインの放った擲弾銃が右脚に命中し、膝を吹き飛ばした。
スレイプニルの突き出したブレードは、コアを逸れて左腕に直撃し、それをぼろ屑のように引き千切った。
止めを刺そうと急旋回するレーヴァテインとスレイプニルに、突如としてグレネードとマシンガンが襲い掛かる。
スレイプニルの左腕をマシンガンが捉え、銃弾が内部のエネルギーパイプを切断した。
「ちっ・・・!退くぞ、ルクス!!」
レーザーキャノンを失い、エネルギーパイプを切断されてブレードも使用不能になったシェリルが叫ぶ。
レーヴァテインも、擲弾銃の残弾は3発のみだ。
それを連射して出来た一瞬の隙に、2人はOBを起動して一気に離脱を図る。
もっとも、第13小隊とて追える状態ではない。
ラスティアとカーティスは、ウラノスを助ける為、残っていた弾を全て撃ち放ったのだ。
「・・・馬鹿野郎、何で戻ってきた」
憮然とした声で言うウラノスに、カーティスが笑いながら告げる。
「そりゃ、ウラノスさん1人だけに格好良いとこ持ってかせるワケには行きませんからね」
「そうですよ、私達仲間じゃないですか」
ラスティアも明るい声で答える。
「・・・ま、そうだな・・・ラスティア、輸送機を呼んでくれ。俺の機は帰投出来そうにない」
苦笑いの混じったウラノスの声に、ラスティアが元気よく答える。
「はい!判りました!」










前条でふ。
今回は『ミラージュ部隊強襲』がベースですが・・・そういえば中央研究所防衛より前の任務でしたねぇ・・・(汗
・・・まあ、いいか(ぇ
またも出演の第13小隊、そしてまたも死亡の小隊長殿。
そしてルクス君とシェリルさんが再登場っ!
更にワルキューレさんも登場です。ええ、声がイイのでクレスト施設制圧とデータバンク進入は何度も(滅
ルクス君の過去はそのうち外伝で書きますです。
それでは、また〜


キャラクター・AC設定

シェリル=ユーン (Sheryl=Yune) 25歳
0話よりの間、フライングフィックスに勝利し、ランキングB-5にランクアップ。
レイヴンネームを持たず、本名で登録している変わり者。
“紅い神槍”の通り名を持つ。リーチの長いハルバードと、OBからの突きを多用するその戦法より。
関係は無いが、未婚。美人だが、性格はあまり宜しくない。
25歳にしては言動があまり若くない。しかし、そのことを指摘した者はことごとく×××になる。

AC:スレイプニル (Sleipnir)
頭:CHD-SKYEYE
コア:MCM-MI/008
腕部:MAL-RE/REX
脚部:CLF-DS-SEV
ブースター:CBT-FLEET
FCS:VREX-WS-1
ジェネレータ:CGP-ROZ
ラジエータ:RMR-SA44
インサイド:MWI-DD/10
エクステンション:CWEM-R10
右肩武器:CWM-S40-1
左肩武器:MWC-LQ/15
右手武器:CWG-GS-56
左手武器:MLB-HALBERD
オプション:
 S-SCR    E/SCR    S/STAB   L/TRN    E-LAP    
 SP/E++   CLPU     
ASMコード:I8j8KXXcaWMIWVWi40


ルクス (Lux) 年齢不詳
20代前半と思われる、金髪碧眼の青年。
閉鎖区画セクション513にて、シェリルに保護されるが、何故そのようなところに居たかは不明。
記憶を失っているが、それを感じさせない軽い性格。
彼の過去は・・・実は××の××××で××××です(ぇ

AC:レーヴァテイン (Laevatain)
頭:CHD-SKYEYE
コア:CCL-01-NER
腕部:CAL-44-EAS
脚部:CLL-SECTOR
ブースター:CBT-FLEET
FCS:VREX-WS-1
ジェネレータ:MGP-VE905
ラジエータ:RMR-SA44
インサイド:None
エクステンション:None
右肩武器:None
左肩武器:None
右手武器:CWG-GS-56
左手武器:KWG-HZL50
オプション:
 S-SCR    E/SCR    S/STAB   LFCS++   L/TRN    
ASMコード:IGaWKXHW0002XJYW01



ポール=スニード(小隊長2号)  21歳
クレストの士官養成コースを出たばかりの男。単なる端役。

AC:ブラック・ロウ (Black Low)
頭:CHD-09-OXI
コア:CCL-01-NER
腕部:CAW-SDBZ-108
脚部:CLB-SOLID
ブースター:CBT-FLEET
FCS:VREX-WS-1
ジェネレータ:CGP-ROZ
ラジエータ:RIX-CR10
インサイド:None
エクステンション:None
右肩武器:CWR-HECTO
左肩武器:MWR-TM/60
右手武器:None
左手武器:None
オプション:
 S-SCR    E/SCR    S/STAB   LFCS++   L/TRN    
ASMコード:WHquKXWW08pu03YW00








































オマケ

コーデックスのガレージは、コーデックス本社の地下にある。
基本的にランク順に埋まっていき、ランカーは最大で1人3機分のハンガーを使用できることになっている。
さて、ここは03ガレージ。ランキングB-4〜B-6のランカーの使用するガレージである。
ちなみに、このガレージは華の03ガレージと呼ばれ、03ガレージの整備員は、コーデックスのメカニック内で現在一番人気である。
その理由をお教えしよう。

今、グナーとスレイプニル・・・それとレーヴァテイン、こいつはどうでもいい・・・が帰還した。
プシュ、と音を立てて、各機のコクピットが開く。
「お疲れ様です、ワルキューレさん!シェリルさん!どうぞ!」
若い整備員が、タオルを持って機を降りた2人に近付く。
もう1人のパイロットは、完全に無視である。合掌。
「え、ええ・・・いつもありがとう」
「すまんな」
と、ワルキューレとシェリルがタオルを受け取って答える。

・・・何?普通の光景にしか思えないって?
・・・ふむ、それでは判りやすく。

タオルで顔に浮かんだ汗を拭って、伸びをするワルキューレ。
「ふぅー・・・」
伸びをすれば当然、身体が押し出されるわけで。
ただでさえ身体に密着しているパイロットスーツに、ワルキューレのしなやかな身体のラインがくっきりと浮かんだ。
光沢のあるパイロットスーツに、胸や腿の付け根などが押し出されて強調される。
細い腰もさることながら、僅かにへその凹みまでが浮かんでいるのだ。
「おおっ!」
整備員の間から声が上がる。悲しき男の性である。
しかし、整備員が声を上げるのも無理はない。
ワルキューレ22歳(ぉ)の若い肉体は、細いながらもバランスが取れていて、その名の通り、戦乙女もかくや、と言わんばかりだ。
「さあ、さっさとシャワーでも浴びにいくか」
と、声を掛けたシェリルも、中々のものだ。
25歳のその肢体は、まだまだ張りを失ってはおらず、それでいて熟れた果実のように男を誘う妖艶さがある。
パイロットスーツの上からでも判るほどの豊満な胸に、柔らかそうな太腿と肉付きの良い尻。
ついでに咥え煙草(ぁ
一部前屈みになっている整備員達を後に、2人はシャワールームへと去っていった。

「・・・あー、気持ちいい・・・!」
濛々と立ち込める湯煙の中、ノズルを見上げるようにして、全身に湯を浴びるワルキューレ。
絹のように滑らかな肌に湯滴が当たり、玉になって弾ける。
白磁の如く白い肌が、うっすらと赤みを帯びている。
「やはり任務の後はこれだな・・・」
と、私も髪を流しながら呟く。
暫く2人とも、無言でシャワーを浴び続けた。
「・・・で、シェリル?ルクスって・・・?」
ワルキューレの問いに、とぼけた顔で答えてやる。
「気になるか?何なら紹介してやっても・・・」
「そういうことじゃなくて・・・一体何なの?トップランカー並みの動きだったじゃない、あれ・・・」
ふむ、と少し考え込んでから、答える。
「まあ、何というか・・・1ヶ月ほど前に拾った」
ガン、と音が響いた。見れば、ワルキューレが手持ち式のノズルを取り落としたようだ。
「ひ、拾った・・・?」
「ああ、任務中にな。で、今は私が飼っている」
ドッ、と再びノズルを落としたようで、今度はそれが足に直撃したらしい。
・・・それなりに重みのあるノズルだ、痛いだろう。
・・・しかし、ACから降りると本当に普通の女にしか見えないんだが・・・。
「か・・・飼ってるって・・・」
屈み込んで足を押さえつつ、涙目のまま上目遣いでこちらを見るワルキューレ。
・・・ふむ、写真に取りたくなる光景だな、これは。
屈んでいることによる胸の谷間もさることながら、涙目で上目遣いというある意味即死効果のオプション付とは。
・・・いかんいかん、私にはそのケは無いハズだ。
「ああ、奴の生活費は全て私が出してやっている」
「・・・あ、そういう意味か・・・」
その呟きに、私の耳が反応する。
「ほう?どういう意味だと思ってたのかね?」
「え・・・あ、別に・・・」
と、顔を朱に染めて俯くワルキューレ。
・・・これもまた中々・・・どうも、嗜虐心をそそられるものがあるな。
・・・いや・・・だから待て、私。
「・・・まあいい、私はそろそろ出るからな。のぼせないうちに上がることだ」
これ以上は何か自分がヤバそうなので、会話を切り上げて出ることにした。

なお、更衣室を覗こうとしたルクスがシェリルに叩きのめされたのは、また別の話である。




・・・今度こそ終わりです。
いやー・・・すみませんでした(滅
寝不足がいけないんです、ええ(死
作者:前条さん