サイドストーリー

邂逅
"―――――だ、死神が、レイヤードの奴らが送ってきたんだ。
こんな機体じゃ勝ち目が…!!くそっ、当たれ!!当たれ!!当たれえェェェッ!!!
レイヴンの奴らは何をして―――――”

帝国軍治安部隊MTの残骸より
回収された、ボイスレコーダーより


「レイヤード本部より入電。敵残存勢力43%。
 FLY4、引き続き偵察及び戦力削減を実行を願う。」

それだけであった。
機体のエネルギーは先ほどの戦闘でほぼ底を付き、
マシンガンの斬弾も残り少ないこの状況ではあるが、
皮肉にもそれしきの事で戦いを止める事など出来ない。

ナハトファルターの無限大の継戦能力が、それを許してはくれないのだ。

レーダーで周囲に敵影が無い事を確認すると、俺は手前のコンソールを叩いた。

E.snatch system 起動―――――

ナハトファルターの掲げた左腕から、数本の管が伸びる。

それが、先ほど撃破したACに纏わりつく。
ブレードでコクピットのみを破壊されたそのACは、
ジェネレータは未だ稼動中である。

微弱な振動音が響き、もはや動かぬ鉄の塊と、ナハトファルターが命を繋いだ。


夜蛾が、蜜を吸い始める。


ダイレクトに接続されたジェネレータエネルギーの吸収。

それは、ほんの数秒で終了する。

頂くのは、エネルギーだけではない。
今まで使っていたマシンガンを捨て、そのACが右腕に握ったままのレーザーライフルを拾う。

MWG-XCW/90・残弾数63・FCS適応及びエネルギー供給問題なし。

極限まで高性能化された火器管制システムは、あらゆる武装―――――それがたとえ敵から奪った
物だとしても、優れた適正を示し使いこなす。

先ほどまでの戦闘による緊張が解れると同時に、全身を虚脱感が襲った。

疲れ果てていたのは、機体だけではないということだ。

まだ…  強化が足りないというのか。



胸のポケットから空気圧式の注射器を取り出し、まくった腕に押し当てた。

プシュッと軽い音がして、腕から薬剤が流れ込んでくるのがわかった。
俺は大きく息を吐き出すと、ナハトファルターのスロットルを上げた。

ヴィィィィィィィ……ン

ジェネレータの駆動音が拡大すると共に、俺の意識も覚醒していく。

(そうだ、俺は戦い続けなきゃならないんだ。)
(こいつらを全滅させるまで。)
(そう、覚悟してきたはずだ。)
(止まれない!!)

エネルギー配送管を破壊したACから引き剥がし、機体を跳躍させようとした。

ガクンッッ…

!?

ACの脚が力なく折れ、機体が大きくバランスを崩した。

寸前でブースターを作動させ、
何とか姿勢を保った。俺は、脚部に被弾した事を思い出した。


(たかが一発やそこらで、この調子じゃな…)

得てして、よく出来たものほど壊れやすいものだ。

ナハトファルターの性能の高さの代償として、致命的なまでの繊細でもろいボディ。
強行偵察用として開発され、必要なもの意外は全て削られた。装甲、脱出装置。



心臓がつねに締め付けられるような感覚… 操縦桿を握る手が、微弱に震えているのが解る。

怖いんだ…

ナハトファルターを飛翔させる。

恐怖を感じる強化人間など、半端者もいい所ではないか!!
俺は強化に失敗したのか?

否、

これは俺の弱さだ。

これしきの事、克服できなければ、出撃前の決心は何だったのだ!!


"俺は、彼女を自由にしてみせる"


機体を加速させる。


出撃前、最後の面会が許された日。


"何故なの?私は貴方が生きていてくれるだけでいいのに!!"

彼女は、最後まで俺の身を案じていた。



これが、俺の迷いの原因か。


ならば――――


生きて帰ればいい。


彼女を地下から開放するために。一人にさせないために。

どちらも叶えてみせる。妥協はしない。

俺にはそれができるはずだ。 そのための、強化だ!!



レーダーに映る無数の機影の中に、AC反応を確認。


二機…… いや、一つは認識コード、青。


味方機――――――

"敵残存勢力43%"

そう、俺一機でここまで減らせるわけが無い。

同時に出撃した仲間が居ることを、出撃後初めて意識した。 仲間…


次の瞬間、望遠モニターに写ったものは、旋回上昇するナハトファルターの機影と、

それをぎりぎりで掠めた青白い閃光。

ビーム? 

まるで誘蛾灯のように、美しい輝きを夜空に残したそれは、データを照合するまでもなく

ナハトファルターを一撃で破壊するものであると認識させた。

そして、ナハトファルターを追って上昇する、敵機。

重装備のACである。

まだ微かに粒子を放つのは、そのACが手にしたあまりにも巨大な銃。

黒光りするシールド、背中のミサイルらしきコンテナ。

十字架に似たヘッドパーツ―――――


それとあいまって、そのACは異様な威圧感を放っている。



俺には、巨大な砲台を備えた要塞に見えた。
作者:ヴォルカヌスさん