サイドストーリー

信頼できる友。
 ――そこは、茶色の世界だった。
 風が、ゴウゴウと唸りを上げて砂を巻き上げていた。
 そこは、砂嵐の中の砂漠だった。
 そして、砂の世界だった――。

 ゴオォォォオオォ……。
 砂嵐は一向に収まる気配は無い。
  ゴオォォォオオォ……キン! ……ガキン!!
 風の音に何か金属音が響く。
 ゴオォォ……ブゥゥン!! ガキン!! タタタタタ!! ォォオオ……。
 時折、連続的な閃光や何かの影が砂の合間から見える。
 風の中に、砂嵐の奥に何かがいる。
 ……イイィィィ……タタタタタ!! ガガガガガ!! ヴゥゥン!! ガシン!! ブシュイイィィ。
 激しい音が砂の風に混じり聞こえる、どうやら2体の何かが戦っているようだ。
 次の瞬間、砂嵐の中に月が現れる。
 蒼い三日月が一瞬、砂の世界に確かに現れた。
「……ちっ、すかしたか。ここが砂嵐の中やなかったら、今ので決めれたんやけど……」
 計器類の光だけの狭い空間の中で男が呟く。
 暗い空間に、光を反射した綺麗な二重の双眸が浮かぶ。その眼が見つめる先には、メインカメラの映す茶色の世界が広がっている。
 その中央少し左側に赤いカーソルがあった。
 次の瞬間、そのカーソルの先の砂嵐の中から連続的な、あるいは一本の線のようにも見える光の集団が現れる。
 その光は軽く弧を描き、画面の左に消えた。
 画面の左隅には何かのゲージがあり、半分の位置から少しずつ減ってゆく。
 次に画面右隅で閃光が走り、画面の中央をとおりカーソルの中へ消える。
 画面右に”HIT”の文字が点滅した。またもカーソルの先から光の集団が現れ、左に走ってゆく。
 1つの計器に482Kmと表示されていた。
 かなりのGがかかっているはずだが、その双眸は歪むことはなかった。
 

 砂嵐は一向に収まる気配が無い。そして、その中で繰り広げられる戦いも。
「オオォォォオオ!! ハァ!!」
 蒼い月が咆哮とともに現れるがまたも空を切る。
 そして、すぐさま月の現れた場所へ一本の線にも見える光の集団が向かう。
 しかし、その光も空を切る。
 その光景は、夜空にも似ていた。月が現れては、流れ星のような光が現れる。
「……ちっ! なかなかすばしっこいやんけ」
 ブースターをめいっぱい吹かしながら、男は呟く。
 そして、マシンガンを連射する。敵機が細かく移動をしているためか、その弾は花火のように散らばる。
 画面右に”HIT”の文字は現れない。
 と、カーソルの先の砂嵐の中から今度は、光ではなく巨大な鉄の塊が現れる。全身に迷彩模様が施され、
 逆間接の足をしたそれは、カンガルーを想像させる。それは凄まじいスピードで接近し、
 すれ違いざまに、右腕のライフルから凶弾を叩き付けた。
「つぅ……オーバードブーストで特効かけてくるとは、やるやんけ!」
 すぐさま男はTB(ターンブースト)を発動し、機体を反転する。急激な回転に少し、顔を歪ませながらも構わず、
 通り過ぎた機体に向けマシンガンを撃つ。画面右に”HIT”の文字が現れた。
「まだやで!」
 男はブーストを吹かしマシンガンを乱射しながら接近を試みる。だが、マシンガンは当たったものの、ブレードは空を切る。
 敵機はまたもOB(オーバードブースト)を発動し、砂の中に消えた。
「お互い、高機動戦闘型か……」
 男の眼に何かが宿った。
「ピピピ! ヒャッヒャッヒャ♪ やるじゃねぇか♪ こんなに楽しいのは久ぶりだぁへへへっ♪
 だぁ〜が、この砂嵐の中じゃあ俺様にかなう奴はいねぇ!!ざ、残念だ、だだだだぁたなぁヒャヒャヒャ♪」
 スピーカーから甲高い声がした。
「……下卑た声出しやがって、エライ癇に障るわ……。つーかイカレとるわこいつ……」
 男は呆れながら声を漏らす。だが、その顔は目には何かが宿っているものの、少しばかり強張っていた。
 砂嵐の向こうから、ライフルの弾が飛んでくる。1発目を右にかわし一瞬止まったところに2発目が当たり、
 すぐさま3発目が飛んできたが、上空に飛んで避ける。
 画面左上にある”AP”と書かれた数字が6782で止まった。
「ちっ……こいつの装甲でライフル喰らうんはキツイな」
 男は上空で体制を整え、レーダーで敵機を探す。だが、レーダーには何も映らない。
「……あれ? アカン!! レーダーぶっ壊れとる!」
 その時通信が入り、スピーカーから女の声が響いた。
「ピピピ! ジン! その砂は特殊なもののようで、磁気嵐を引き起こすみたい! レーダーが回復するまでしばらくかかりそうよ!
 注意して!!」
 ジンと呼ばれた男の顔が引き攣った。
「アホ!! 何でそれはよ言わんのや! お前それでホンマにオペレーターか!」
「仕方ないでしょ!! 今分かったんだから! とに……分注……て! ……える? ……っと!通信……応答……ジン!!」
「おい! どうした!? おいエレナ!! ……通信障害か、こりゃレーダーも回復しそうにないな」
 そう呟きながらも、ジンは少しの期待を胸にもう一度レーダーを見た。そこには何も映っていなかった。
「……くそっ! 駄目や、カンペキにイカレとる」
 ジンはレーダーの回復を諦め、ロックオンで敵機を探そうと辺りを見渡す。上空にいても視界は悪いままだった。
 次の瞬間、光の集団がジンの機体を襲った。
「ピピピ! ヒャヒャヒャ♪ 的中ゥ!」
 光の集団を放った男から通信が入る。
「な!? どこや!? つーか何でお前は俺の居場所が分かるんや!? しかも通信? 磁気嵐収まったんか?」
「そ〜れが収まっちゃぁいなんだなぁ! 至近距離ならこの磁気嵐でも通信可能なんだぁ。ヒャヒャヒャ♪ 
 つまり、てめぇは俺様の居場所が分からな〜い♪」
「アホか! なんで俺に分からへんのにお前に分かるんや!!」
「へっへ〜♪ 俺様のACには特殊な改造がしてあってこの磁気嵐の中でもレーダーがつつつ使えるんだぁなぁ♪ 
 つゥゥゥまりィ〜、ここここの砂嵐の中で俺様にかなう奴はいねぇのっさぁ〜♪ ヒャヒャヒャ♪」
「お前のその自信はそのためか。せやけどな、俺もここでくたばるわけにはいかへんのや!!」
「ケケケ♪ 無駄無駄ァ。く〜らえ♪」
 光の集団が容赦なくジンの機体を叩く。ジンは慌てて機体を上下左右にメチャクチャに動かし回避しようとする。
「そっちかぁ! 見つけたでぇ!!」
 光の飛んできた方向に、TBで向きを変えてジンが叫んだ。
 ロックオンカーソルが赤く表示される。そこから光の集団が向かってくる。ジンはそれを左にかわす。
 ――が、すぐさまそれを負うように光が向かってくる。ジンはそれを今度は上昇してかわし、マシンガンを連射した。
 マシンガンの弾は敵機に当たったが、光は尚もジンを襲う。ジンは右に回避行動をとるが間に合わず、その光を何発も喰らった。
「っつう……。なら、俺もチェインガンや!!」
 ジンは叫びながら手元のスイッチを押す。ジンの機体の右肩後ろにある黒い筒状のものがスイングし、
 右肩に担ぐような状態で前方に伸びた。そして、その先端が連続的に光り、高速で弾丸が発射された。
 それは一本の光の線にも見え、相手から同じように伸びる線の先に向かっていった。
「ぐえ! ななな何でてめぇは上空で移動しながらチェインガンがううう撃てるんだぁ!? 構えが必要じゃないのかかかぁ!?」
「さぁな、俺も良く分からへん。この機体を手に入れたときからこうやったからな。さあ、動ける俺と動けないお前、
 どっちが有利かな? 覚悟せぇや!!」
 ACは本来、キャノン系武器の発射時は姿勢制御のために構え状態に入る。構え状態に入ると移動は不可能となる。
 しかし、例外がある。タンク型や四脚型と呼ばれる脚部パーツは、通常状態で十分な姿勢制御が出来るため、構えを必要としない。
 しかも、飛行中にキャノン系武器を使用できるのはタンク型に限定される。
 だが、通常構えを必要とする脚部でも、ある特殊な方法で地上はおろか飛行中でも構えを必要とせずにキャノン系武器を撃つことができる。
 そう、ジンのACにはその特殊なものが埋め込まれていた。しかし、それはジンが行なったものではない。
 ジンがそのACを受け継いだとき"それ"は既にACの中に存在していた。それ故に、ジンは"それ"の真の恐ろしさを知らない。
 知る必要もなかった。
 だが、彼はやがて知ることになる。"それ"がなんなのか、どれほど恐ろしい存在なのかを――


 砂嵐の中の戦況は逆転しつつあった。レーダーが使えないため、しばしば敵機を見失うジンだったが、
 そのつど冷静に飛んでくる弾丸を目印に敵を発見し、攻撃を仕掛けていた。
 その間、ジンのACは一度も地上に降りず、常に上空を飛び回っていた。
 これもACに埋め込まれた"それ"の力によって強化されたブースターとエネルギー回復力の賜物だった。
 これにより、テクニック、機体性能では相手を上回ることになり、ジンが相手より劣るものは砂嵐への対処法だけとなった。
 しかし、それは一番厄介なものだった。
 突如ジンは敵機を見失う、カーソルが凄まじいスピードで画面下に消えたのだ。
「ちっ、またOBか……」
 ジンは敵機を探し、闇雲に動いた。と、背後からライフルの弾が飛んできて、脚部に当たり機体が少しバランスを崩す。
「くっ、そっちか!」
 ジンはTBで急旋回をした。だが、ロックオンカーソルは現れなかった。
「!? ……なっ、どこや!?」
 と、今度はチェインガンの連射が右腕を襲い、装甲が少し弾け飛んだ。
「今度は右か!」
 すぐさま攻撃のあった方向にマシンガンを向ける、右腕が甲高い叫びを上げた。だが、すでに何もいなかった。
「ちっ! 奴め、考えたな。OBでロックを外し、攻撃。そして、ロックされる前にOBで移動する。俺は攻撃出来へんゆーことか!」
 そう言ってる間にも、見えない敵から凶弾が放たれ装甲を吹き飛ばした。
「……やべぇ、こりゃまいったわ。逃げるしかあらへん」
 そう言いながら、ジンは機体を上下左右前後に先程よりも不規則に動かした。そこにチェインガンの連射が飛ぶ、
 だが、そのすべてが役目を果たせずに上空に消えた。
 敵のチェインガンは確実に、ロックオンされた目標に向かって飛来した――そう、ただ目標に向かって。
 チェインガンはセカンドロック――相手の動きを予想し、その先に撃つ為のもの――を行なうために、
 ある程度の時間、相手をロックし続けなければならない。しかし、ジンはその前に反撃をしてくる。
 故に男はセカンドロックを行なわずに撃っていた。否、それしか方法がなかった。
 その為、不規則に動くジンの機体に攻撃が届くことはなかった。
 しかし、狂ってはいるものの男もレイヴンのはしくれだ。すぐさま、ライフルによる攻撃に切り替えた。
 ライフルならばセカンドロックが最初から出来る、さらにそれなりの弾速があるため命中率は格段に上がる。
「ヒャヒャヒャ♪ 死ね死ねぇ!!」
「………」
 ジンは、回避に専念していた。今、仮に先程のように弾の飛来する方向から敵の居場所を予測しても、もうそこには敵はいない。
 逆に、攻撃に転じようとする隙を突いて攻撃されるだろう。
 幸い、回避できない攻撃でもないので、今はまだ攻撃をせず、機会をうかがうことにし、ただ待った。
 その機会というのが弾切れなのか、または別のものなのかは彼にも分からなかった。
 もしかしたら、彼が待っているのは機会ではなく、閃きなのかも知れない。それもまた、彼にも分からなかった。
「………」
「ハヒャヒャヒャヒャァ! どーしたァ!! こここ恐くて声も出ないかぁ♪ あ〜?」
「……………」
「ななな何とかいえぇぇぁあ!!」
「………」
 男の挑発も、ジンの耳には入っていなかった。――否、スピーカーを通じて確かに耳には届いている。
 しかし、それは右から左へ流れるように通り過ぎるだけだった。脳内にはまったく残ることもなかった。
 ジンにはただ、ノイズにしか聞こえていなかった。それほどまでにジンは集中していた。
 額から頬を伝い、顎から汗が一滴落ちたが、彼の手はそれを拭おうともせずにレバーを握ったまま。
 その瞳も光を宿したまま画面を真っ直ぐに見つめていた。一瞬でも手を放せば、一瞬でも目を放せば動きは止まり、確実に攻撃される。
 しかし、そんな緊張の中、呼吸は恐ろしいほど静かで、安定していた。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇ!!」
 ライフルの弾は色々な方向から飛来した。ジンにはそれが何処から飛んでくるのか把握できないため、
 何処からの攻撃も避けられるように不規則に動くしかなかった。しかし、それで避けきれるほど、ライフルは甘くはない。
「ぐっ!!」
 突如、激しい振動がジンを襲う。
 ガン!  ガン!
 一瞬止まったところに続けざまに2発もらった。いつのまにかAPは5500程になっていた。
『まだや、まだ大丈夫。ただ――待つのみ!!』
 次の瞬間、ジンのACのコア後部のハッチが開き、ピンク色の光が漏れ出す。
 その光が突如爆発し、吹き飛ばされるようにジンのACが高速で右に移動した。
 ジンが緊急移動用ブースター、通称オーバードブーストを発動したのだ。
 右に高速移動した後、ジンはすぐさまOBを切り、惰性と降下で左旋回をしながら右に移動し、円を描くように回った。
 その間に、OBで消費したエネルギーは回復し、通常ブースターでジンは再び上昇する。
 その時、画面右側に赤いカーソルが現れた。瞬時にジンは反応し、トリガーにかかる指に力が入った。が、トリガーは引かなかった。
『まだ、時期やない……』
 赤いカーソルが現れた時、同時に画面上に”LOOKING”の文字が表示されていた。ジンはそれに気付いていた。
 ジンはブースターを切り、上昇する力を絶った。上昇する力と重力が吊り合い、機体が一瞬静止し、すぐさま落下を始めた。
 その頭上、先程静止した場所へライフルの弾が飛来した。
 そして、またもや敵は画面から消えた。
『来る、必ず来るはずや。何かが起こる。絶対や!!』
 ――その時だった。
「ジジ……ガ………える?ジジジ……応答し……ジン!!」
 聞きなれた、しかしずっとずっと、久しく聞いていなかった気のする声がスピーカーから漏れる。
「ジン!! 応答しなさい! ジン!! 聞こえないの? ジン!!」
 暗いコックピットの中、計器類の光に照らされたジンの口元が少し緩んだ。
「……フッ、デカイ声出さんでもしっかり聞こえてるわ。なんや久々やなぁエレナ」
「よかった……、聞こえるのね。ジン、気象庁からのデータによるとその磁気嵐、収まりつつあるらしいわよ」
「あぁ、通信出来るのが何よりの証拠や。コレを待ってたわ、一気に決めるでぇ〜!!」
 ジンのレバーを握る手に力が入る、その目に宿る光が一段と強くなる、この時の為に溜めていた力が溢れ出す。勝利を手にするために。
「待ってたって、まさか追い込まれていたの?」
「ああ? 別に」
 そっけない返事で済ます。今、彼のボルテージは最高潮に達し、後は力を爆発させるその一瞬を待つのみだった。やがて変化が訪れた。
 砂嵐の勢いが、少しおさまった。
 相変わらず砂の世界ではあったが幾分、視界は広がった。そのおかげで、弾丸の来る方向が少しばかり分かるようになった。
 それはジンにとって、避けるのに充分な視界だった。
「もう少し……。もう少しや」
 やがて、辺りがうっすらと明るくなり、上空にぼんやりと太陽が現れた。今まで砂に遮られていた陽光が砂の間を縫ってうっすらと、
 しかし力強く砂の世界に差し込んだ。
「あと少し、あと少しや。来い、さぁ来い!!」
 飛来する弾丸を上昇しながら一気にかわし、ジンは叫んだ。そして、その叫びに呼応するよ
うにレーダーに黄色い三角形のマークが表示された。
「終わりだァァ!!」
 ジンはTBを発動、ロックオンカーソルが表示されるのとほぼ同時にチェインガンを放つ。
 まさに迅速。さらにタイミングも絶妙だった。男は絶対に攻撃されないと思っていた。
 男のACにはこの砂嵐で計器がイカレないよう調整がしてあるのでジンの居場所が手にとるように分かっていたが、
 それ故に、砂嵐がおさまりつつあることに気付かなかった。
 男がトリガーに指を掛けた瞬間、砂嵐が切れ、自分に向かってくる無数の光の球と、その先にいる蒼いACが見えた。
 男は驚いた、その為動くことができず無数の弾丸をきれいにくらった。
「!! くぇ!」
 男は我に返りOBを発動し凶弾の雨から逃げる。その時通信が入った。
「さて、頼りの砂嵐がおさまってもうたで? どうするきや?」
「……。その機体、さっきからの滞空能力。キキキィ、キィサァマ!  ジン!?〈スカイランサー〉のジン!」
「……へぇ、俺も随分有名になったもんやな」
 ジンの口元が緩む。ジンはすでに勝利を確信していた。
「う、う、うわぁぁアアァァ!!!!」
 男はジンのAC〈スカイランサー〉に向かいライフルを乱射する。しかし、失っていた機能を取り戻したスカイランサーは、
 その名の通りに砂嵐の失せた青く、高い空を縦横無尽に飛び、その弾丸をすべてかわした。
「あ……うぁ……あ、これが……〈蒼い疾風〉スカイランサー……ウエェェオォァァア!!」
「……その耳を劈く狂った叫びを聞くのも最後や!!」 
 チェインガンを乱射しながら発狂する男にジンは最後を告げる。
 そして、チェインガンをいとも簡単に避けるスカイランサーの背中から、ピンク色の光が漏れだす!  
 その光は極限まで膨らみ、風船が破裂するかのように一気に爆発した。
 極限まで強化された機動性を持つスカイランサーのOBは、神速と呼ぶに相応しかった。
 スカイランサーは男のACの頭上を飛び越え、その視界から消えた。
「ピピピ! 終わりや、月の味に酔い痴れな」
 ジンから通信が入り、男はレーダーを見る。『左!』男が思いACを動かしたと同時に、その方向の砂が爆発した。
 その爆発した砂の中から、ピンク色のエネルギーの塊をまるで羽のように背中に広げたスカイランサーが弾丸のように突っ込んできた。
 男はチェインガンを撃った、だがスカイランサーはその弾を飛び越え、怯むことなく前進した。
 しかし、自分に真っ直ぐに近付いてくるものほど当てやすい的はない。
 チェインガンの軌道はすぐさま補正され、スカイランサーに凶弾の雨が降り注ぐ。
 だが、それで倒れるほどACの装甲は脆くない。スカイランサーはかまわず接近して左手を振る。
 昼間の砂漠に蒼い月が躍った。AC最強ブレート〈MOONLIGHT〉その光はACの頭を飛ばし、チェインガンごと右腕を吹き飛ばした。
《防御力低下。機体損傷率が限界点を越えました。システムを強制停止します。》
 耳に残る警告音と共に音声が流れコックピット内が暗くなる。右下辺りで点滅する緑色の光以外の光が消えた。
 砂漠を縄張りとしていたACが砂漠に膝をついた。
《作戦終了。システム通常モードに移行――》
 コンピュータの音声が言い終わる前に、ジンはコックピットを開ける。砂漠の乾いた風が汗だくの顔に心地よく吹いた。
 その髪は銀髪――というより白髪に近い――で細く、真っ直ぐに風になびいている。目は二重で、綺麗な碧眼だ。
 右の耳に太陰太極図の形をしたピアスを着けていた。襟元の広い長袖のシャツを着て、Gパンを履き、
 黒く太いベルトに少し短めの刀を差していた。鞘も鍔も柄も黒く、鍔は四角い形をしていて穴はなかった。
 ジンは猫のように軽やかに跳び、目の前で膝をついているACのコア部分に下りる。ボタンを押してハッチを開いた。
 降り注ぐ太陽の灼熱の光と先の戦いのせいで、異常な熱を帯びた外壁を掴む手に容赦ない熱が伝わる。
 コックピット内を覗き込むように、開いたハッチの上に乗る。コックピットの中にはトレッドヘアーの細身の男がいた。
 顔にはくまがあり、その病気的な細身とくま、さらに腕に見える無数の針の後からジンはその男が薬物中毒者だと見抜く。
 そして、警戒心を強めて相手に気付かれないようにゆっくりと左手を刀に伸ばす。
 薬物中毒者は時折、異常な行動を取る。その予想も出来ない不規則な行動が戦いにおいてかなりの危険因子になることをジンは知っていた。
 男はしばらく呆けた顔で固まっていたが、突然下卑た笑い声を漏らすとジンに拳銃を向け、
「ヒャヒャハヒャヒャヒャァ! 銃も持たずに乗り込んでくるとはバッカじゃねぇのかぁ!?」
 と余裕の色を顔に出して叫び、3発撃った。
 それと同時に、ジンの目の前で火花が3回散った。いつのまにか、ジンの右手にはあまり反りのない刀が鈍く光を反射しながら握られていた。
 その右腕を除けば、ジンは先ほどからまったく動いていなかった。
「フヘェ!?」
 怠けた声を出し男は一瞬呆気に取られたが、すぐさま拳銃を乱射した。
 その一瞬前にジンの右腕が消え、規則的な発砲音と同時に金属音と火花が熾った。
 男の顔から余裕の色が消え、変わりに恐怖の色に染まる頃、発砲音が途絶え、拳銃のスライドが後退したまま止まり、
 カチ カチ とハンマーの打ちつける音だけが響いた。
「だ、だ、だ、弾丸をぉぉ、すべて、て、てぇ、はじ、はじ……オオォォァァァ!!」
 男は拳銃をジンに向かって投げる、ジンがそれをかわしたのと同時にコンバットナイフを抜き、ジンに突撃した。
 ドン! という衝撃が男に走った。その衝撃から男は敵を貫いたことを確信する。
 その顔にまた、笑みが宿り、勝利の笑いを漏らそうとしたが、何故だか声が出ない。変わりに何か熱い液体が喉の奥からあふれ出てくる、
 男はそこで初めて異変に気付いた。
 敵を貫いたはずなのに、その目に映るのは青い空と砂の世界、そして目の前の蒼いACのみ、貫いたはずの敵の姿がなかった。
『おかしい、何故目の前に敵がいない……? 確かに刺した衝撃はあったのに……何故イナイ?間違イナク刺シタノニ、
 ソノ証拠ニ、オレサマノテカラハチガシタタッテイル……二』
 その時、後ろから声が聞こえた。
「そんなちゃちいナイフでかなうと思ってたんか?」
 ジンは男の視線、銃口の向き、トリガーに掛かる指から弾道とタイミングを完璧に見切り、最小の動きで刀を動かし、
 その弾道上に刀身を斜めに向けていた。この至近距離からならば、
 いくら拳銃とはいえ真横に当てれば刀身をおるくらいの威力は持ち合わせている。
 真正面からぶつからずに、少し力の逃げ道を作ることによって、弾丸を弾くのではなく、受け流していた。 
  その常人離れした芸当も、ジンには朝飯前だった。
 冷静に1マガジン分の弾丸を受け流しながら、ジンは相手が次にどんな行動に出るか考えていた。
 だが、以外に普通な行動を示す相手に、少し驚いて――というよりもがっかりして――
 しかし冷静に飛んできた拳銃を、首だけ曲げて避けた。そして、コンバットナイフを抜き突っ込んでくる相手に哀れみの視線を送り、
 その突撃を左足を軸にして半身になりつつ避け、右手に光る刀を相手の突撃の力を利用してその体へと刺しこんだ。
 刀から、皮膚を裂き、筋肉の筋の間を通り、骨と擦れながら目的の臓器を貫く感触が右手に伝わってきた。
 血が刃を伝い鍔先から眼下数mに広がる砂の中へ消えていく、砂は吸血鬼のごとく血を吸い、血溜まりはできなかった。
 ジンと男の姿は外から見れば、倒れそうな男をジンが片手一本で支えてる様に見えたが、
 唯一違うのは男の背中から刀身を紅く染めた刀が突き出ていることだった。
 ジンが横から自分の腕に持たれている男を見ると、その顔に不気味な笑みを浮かべている。
 さっきのように下卑た笑い声を出そうとしているようだが、その口からは空気の漏れる音しかでてない。
 ただ、そのかわりにドス黒い血がその口から砂の中へ滴り落ちている。傷口と口からかなりの量が流れているはずだが、
 砂の上に血溜まりができることはなかった。
 やがて、男の顔に疑問の色が浮かぶ。やっとおかしいことに気付いたような顔を見て、ジンは人を見る時の顔ではなく、
 何か知能の低いケダモノを見るような顔で男に呟いた。
「そんなちゃちいナイフでかなうと思ってたんか?」
 ジンは刀を持っていた手を捻る。それにつられて男に刺さった刀身も回転し、串刺しにしていた臓器を完全に破壊し、
 その機能を永遠に絶った。
 先程よりも多くの血が口と傷口から漏れた。ジンは男を支えていた腕をゆっくりと降ろす。
 男の身体は自身の重みに任せ、下に向けられた刀から抜けて、砂の上にうつ伏せの状態で落ちた。
 砂が傷口と口から容赦なく血を吸い、見開かれた目から水分を奪った。その目にはもう既に光が無く、ただ虚空を見ていた――。


 ジンはコックピットに入り手際よくコンソールを叩いていた。
「あった! これか。エレナ、目的のデータを入手」
 そばに置いた携帯用通信機に向かって事務的な口調で喋る。
「お疲れ様、ジン。……敵パイロットは?」
「……殺した。今ごろ砂に血ぃ吸われてミイラになってるんとちゃうか?」
 いつもの感じで応えたが若干トーンが落ちている。
「そう……。ジン、今に輸送機が到着するわ、その前にもう一仕事。そのACは念のため破壊して」
「はいよぉ、貰うもん貰ってからな」
「何か言った?」
「べ、別に何も言ってへんで」
「そう、じゃ頑張って」
 額に冷や汗を浮かべながらジンは通信を切る。そして、レバーを握りボタンを押した。
 ドスン! と音を立ててACの右腕からライフルが落ち、しばらくして左腕のブレードも落ちた。
 ジンはコックピットから出る際内部を見渡して何か置いてないか探した。しかし、見つけたのは3本の注射器とクスリだけだった。
 ジンは軽々と自分のACに飛び移り、コックピットまで戻った。入ろうとしてふと、下を見る。
 薬で痩せこけた死体は本当にミイラのようだった。1秒も絶たないうちに見るのを止めコックピットに入った。
 ACの戦闘モードを起動する。ライフルとブレードを持ちゆっくりと後退し、
 50m程離れてマシンガンを開けたままのコックピットに向けて撃った。コアの内部を破壊されたACはすぐさま炎の塊となり、
 男の死体へと崩れ落ちた。
「敵機の破壊を終了した。これで、全ての作戦を終了する。エレナ、輸送機はあとどれっくらいでくるん?」
「あと5分も掛からないはずよ」
「あい、了解。さて、キースのほうはどうなっとるかな? おい、キース聞こえるか?」
「ジジ……ジ。おう、ジンかそっちも終わったのか?」
「当然。その様子だとお前も終わっとるみたいやな」
「モチ! 今は輸送機待ちながらコーヒー飲んでる。知り合ったAC乗りと一緒にな」
「AC乗りって……敵か?」
「最初はそうだったんだけどな。話してみるとこれがなかなかいいおっちゃ……じゃなくてヤツでな」
「まあ、仲いいのはええんやけど。またローズが怒るとちゃうんか?」
「作戦領域内でコーヒーブレイクをした時点で怒られたさ。別にどーてことないっしょ。
 にしても……輸送機おっせぇなぁ。ローズも勝手に手配するんだったらちゃんとしたのよこせっての」
「なんや、どれくらい遅れてんのや?」
「もう15分は過ぎてる」
 キースは呆れ気味に答えた。
「なんかあったんかな?」
「さぁな。っと通信が入った、ローズからだ」
 突然の通信にキースはジンの方の回線を切るのを忘れたのか、ジンの方にも会話は聞こえた。
「キース!! そちらに向かっていた輸送機が正体不明の航空部隊に撃墜されました! 大型機5機! 小型機約30機! 
 そっちに真っ直ぐ向かっています!!」
「!? 輸送機が? ……一体何のために? 輸送機には武装はほとんど無いんだぞ?」
「おそらく目的は――あなた達です。いえ、正確にはあなたです。輸送機を破壊したのはあなた達を逃げられないようにするためです」
 ローズが答える。
「逃げたヤツラが応援でも呼びやがったかぁ!? 上等ゥ!! 返り討ちにしてやんぜ」
「無理です! あなたのACには弾がもう残ってはいないでしょう!? 直ちにその領域を離脱してください」
「ローズ、それは出来ないぜ。逃げるなんてまっぴらゴメンだ。大丈夫、弾が無くてもオレが戦えることくらい知ってるだろ?」
「ですが! 大型機相手に無謀すぎます!」
「マックはどうなる!! マック一人ならオレのACに乗せていけるがマックのACまでは持っていけねぇ!
 ダチの大切な相棒を捨てて、シッポ巻いて逃げるなんてオレは嫌だね。幸いEO(イクシード・オービット)もある。勝算はあるさ」
「ですが! EO程度の武器では……」
「適わないってか? どのみち、輸送機無しじゃ離脱するにもたかが知れてる、見つかるのも時間の問題。
 なら、下手に動くよりなんかありそうなこの施設で武器を探して迎え撃った方がいい。
 それに、あんなのがいたら依頼人も迂闊に近寄れないし、下手すると作戦失敗と見なされるぜ? 
 さあローズちゃん、何か言い返せるカイ?」
 勝率を無視した正論が飛ぶ。
「う……、わ、分かりました。では、これより作戦を開始します。作戦内容、施設及びマックスター機の防衛。
 作戦成功条件、接近中の敵航空部隊の全滅ないしは撤退。敵戦力は大型戦闘機が5機、小型戦闘機が約30機。
 現在約マッハ2.5で接近中。武装や所属等、詳しいことは以前不明。エンカウントまで予想では後10分!!キース……頑張って」
「ああ、ガッテン承知だ!! オレを信じろ! まあ、お前は次の輸送機でも用意しといてくれ」
「あ〜、キース。燃えてるトコ遮るようで悪いんやけど」
 先程からずっと通信を聞いていたジンが口を開いた。
「ジン!? あ! 回線繋ぎっぱだった。聞こえてたか……で、なんでぇ?」
「輸送機ならあるで? しかも、スカイランサーのオマケ付きで」
「は!?」
「いやな、お前のいるところと俺のいるところって結構近いんや。で、俺の輸送機がもうすぐ到着するから
 なんならそっちに向かってやろうかと思ってな。そのほうが早いし、助けに入れる。聞いたで、おまえ弾数残ってないんやろ?」
 最後の方は少し心配そうに言う。
「あ〜、全然ダイジョブさ。輸送機だけで十分――」
「ジン!! 近いってどのくらいですか?」
 焦ったような声でローズがジンに聞く。
「ちょ、ローズ!」
「ん〜、多分時間で言うと輸送機で30分ほどや」
「キース! ジンに応援を頼みましょう!! 30分で合流できるなら隠れていれば何とかなるかもしれません! 
 これほど頼りになる応援はありません。ジン、お願いできますか?」
 突然浮かんだ名案を告げる。この二人のコンビネーションの凄さは知っている。この二人が組めば勝てる見込みは十二分にあった。
「ローズ!! 勝手なことしてんじゃねぇ!! オレ一人でも十分だ!! ジン! 引き受けるんじゃねぇぞ」
「……ローズちゃん、そーゆうことや。悪いけど本人が嫌がってるんだ、引き受けるわけにはいかん」
 キースの剣幕にジンはあっさり断る。
「な!? ジン! あなたはキースの親友でしょう!? どうして……」
「――親友だからや。キースのすべてを知っているわけやないが、性格や、実力はよう分かっとるつもりや。
 確かに楽勝な状況やないが、必ず成功させてくれる。そう信じてる。親友の間に出来る信頼ってやつや」
 そうローズに告げるジンの声には淀みがまったく無かった。それはジンがキースに向ける信頼の度合いを示していた。
「……信頼……ですか。分かりました、その言葉を信じます。キース、作戦に変更はありません。帰りの輸送機はジンに任せます」
 ジンの言葉に、渋々ながらも納得した様子でローズは言う。
 キースがレイヴンになった時からオペレーターとしてキースを見てきたローズもまた、彼に信頼をおいているのだった。
「よっしゃ! そうこなくっちゃ♪ さっすがローズ――」
「キース、かならず……かならず帰って来てください」
「……ローズ」
「敵とのコーヒーブレイクに、勝手に通信を切ったこと、忘れていませんから。帰還してちゃんと処分を受けてもらいますから、
 必ず帰還してください」
「か、帰る気なくすって。……へへへ♪ んじゃ、〈レジェンドガンナー〉行くぜ!!」
 すっかり忘れていたことを言われ、苦笑いを浮かべながらキースはコックピットの画面を軽く叩いた。
「くっくっく! そういうことやエレナ、聞いとったか? 俺は輸送機が到着次第キースの所へ向かう」
 キースの焦りように思わず笑いをこらえて、ジンは自身のオペレーターに通信を入れる。
「しっかり聞いてたわ。全然問題ナシ。もうすぐ輸送機が到着するから、そっちからちゃんと連絡入れときなさいよ」
「了解」
「ピピピ! ……ジン、聞こえてるか?」
 突然、キースから通信が入る。その声は、少し思いつめた感じだった。
「ああ、どうしたキース?」
「すまない。別にお前がウザったいわけじゃない。お前の実力は知っているし、これほど心強い味方は無い。
 でも、やっぱりオレの受けた依頼だから、おまえに手ぇ貸してもらうのはその……」
 言いにくそうに口ごもる。親友でも、なかなか素直に言うのは恥ずかしいものだ。そう思いながらジンは、微笑みながら、
 しかしそっけない感じでキースに言った。
「なんや、そんなことかいな。……分かっとるよ。全然気にしてへん。迎えいくまでにしっかり片付けとけよ」
「……おう、まかせとけって。しっかり迎え頼むぞ。……やっぱおまえは信頼できる友だよ」
「それはお互い様や」
「へへっ、じゃあ後で」
「ほなな」
 通信を切った二人の顔には、不安の色はまったく無かった。


「さてと、あーこちらスカイランサー。輸送機のパイロット応答願う」
「ジ…ジジ……こちら輸送機、ジンなにかあったのか?」
 スピーカーからジンの聞きなれた声が響いた。
「あれ? なんや、おっちゃんかいな」
「何だとは何だ。迎えがいらないようだなぁ」
 おっちゃんと呼ばれた男は、あからさまに機嫌を損ねたような声で言った。
「あー!! ウソウソ! ターイームー。 おっちゃんいけずやなぁ♪」
 冗談と知りながら、ジンは弁解をする。
「分かったよ。しょうがねぇから迎え行ってやるよ。で、なんのようだい?」
「ああ、それなんやけど……ちっとキースの迎えに行きたいんやけど」
「……!? キースに何かあったのか?」
 男は先程、グローバルコーテックス格納庫でキースの帰還の為に離陸していった輸送機を見ている。
 それなのにキースの迎えに行くということは、何らかの理由で輸送機がキースを回収できないことを意味する。
 さらに、グローバルコーテックスに代わりの輸送機を要請せずに、わざわざ相棒でもあるジンに迎えを頼むということは
 キースに何か問題が発生したことを意味する。男は瞬時に緊急事態を悟った。
「……さっき実は――」
 ジンは、先程の通信の内容を男に告げた。
「なるほど、了解した。最高速でキースの元へ向かうぞ!!」
 男のはりきる声を聞いて、ジンはバツの悪そうな声で言う。
「いや、おっちゃん。出来るだけ低燃費で頼む。ACを3体乗せて帰るんや、途中でガス欠になったら元も子もあらへん」
「だが、キースが危険なんだろ? 早く行って加勢せんと……」
「だれが危険やて? キースなら大丈夫や。それよりも、あいつら連れて帰るって約束したんや。それ守られへんのやったら行く意味無いで」
「……分かった。信じていいんだな?」
「モチ! だからな、おっちゃん1つ提案があるんや」
「? なんだ? 乗りかかった舟だ、なんでもやってやるぞ」
「サンキュー! あんな、おっちゃんにはここを止まらずに通り過ぎてもらう」
「ああ!? なんだって? それじゃあおまえは……?」
「モチロン乗るさ、空中でな」
「空中ってお前……なんだってそんなことを?」
「着陸して、離陸するんじゃ燃料をムダに使うことになる。これからもう2機乗せなきゃいけへんのや、ケチれるもんはケチらんと」
「確かにそうだが……大丈夫なのか?」
 輸送機に空中で乗り込むなど、男は聞いた事も見た事も無かった。
「モチ! 俺の機体名を忘れたんか? 〈スカイランサー〉やで?」
 その声には不思議と成功できそうに思える何かが宿っていた。
「ああ、そうだったな。お前を信じよう。で、具体的に俺は何をすればいい?」
「おっちゃんが近づいてきたら、俺が上空で待機する。おっちゃんは俺の側を滑空して通り過ぎてくれるだけでええ」
「具体的にはどれっ位滑空するんだ?」
「約5分。それで、俺が乗れるくらいの速度まで落ちるはずや」
「っておい! もう滑空に入らなきゃいけんじゃないか!!」
「え!? お、おいもうそんな近くまで来とんのかいな」
 ジンは驚きそして、先程のエレナとの会話を思い出した。
『せや、さっき5分も掛からないって言っとったわ』
「おっちゃん、後どれくらいで着くんや?」
「まて! 今、滑空状態に入り減速してきてるから詳しい計算は出来ん! だが、4分も無い!!」
「なんやてぇ!? あーもうしゃーない! こうなったらやったるわ!!」
『少しでも距離稼がんとアカン! 離れるか』
《システム戦闘モードを起動します》
 ガシン! ガシン! キュィィィイイ……
 戦闘モードを起動したスカイランサーの背中からすぐさま、ピンク色の光が漏れ出す。
「くっそ! ライフルとブレードは諦めたるわドチクショウ!!」
「ピピピ! こらぁジン! また敵の武器かっぱろうとしてたわね!?」
 OBを発動した直後、通信が入る。
「あ! エレナ聞こえてたんか! 俺はただ、砂に埋もれて錆びるよりは使ってやろうと思っただけや!」
「あんたねぇ、我田引水にも程があるわよ!! その行為を、世間一般に何ていうか知ってる!?墓荒らしというのよ!? 
 それに、あなたどっちにしろライフルなんて使わないじゃない。これで何回目だと…ブツ!!」
 ジンは勝手に通信を切った。
「ったく! 今は説教受けてるヒマあらへんっちゅーに!」
 スカイランサーは、輸送機と反対方向にOBで移動する。エネルギーが切れ掛かると、ブースターで小刻みにジャンプをしながら移動した。
 しばらくして、コックピット内に警報が鳴り響く。
「作戦領域か。もう作戦は終了しとんのに!! 戦闘モードを起動してると超えられへんか……。おっちゃん今何処や?」
「もう後1分で着く、そろそろ見える頃だろう」
「あ〜確認した、ほな行くでぇ〜!!」
 先程来た方向の上空に、小さな黒い点が見えた。それは少しずつ大きくなり、やがて輸送機だと分かるほどに大きくなった。
 ジンは黒い点を確認した直後、エネルギーが回復するのを待って上空に飛んだ。細かくブースターを噴かすことにより、
 半分ほどエネルギーを残して目的の高度へ到達した。
 輸送機は、目の前まで迫っていた。ジンはブースターで後退し、高度とタイミングを合わせ
 る。警報の間隔が短くなる。
「おっりゃぁあ!!」
《領域を離脱しました。作戦を……》ガン!
「うっさいボケェ! 作戦なんてとっくの昔に終了しとるわ!」
 表示画面を叩き、無理やり音声を止めた。
「しかし、本当に乗っちまうとは……ヤレヤレ、恐れ入ったよ。大丈夫か?」
「ああ、まあ俺は大丈夫なんやけど、こんなところにいて空気抵抗大丈夫?」
「……飛ぶ分には問題ないが……省エネにはあまりいいとは言えんな」
「やっぱりか、よし! 中に入る。おっちゃんハッチ空けてくれ」
「おい、この状況で中に入るってんのか!? いくらなんでも無謀すぎるぞ!?」
 ジンのむちゃくちゃな発言に、男は思わず取り乱した。
「大丈夫やて、パッと飛んでOB発動してパッとはいりゃええんやから」
「っておい、戦闘モード起動しなきゃOB使えないだろう……」
 男の言うとおり、緊急移動用ブースターであるOB及び、武器は戦闘モード起動時しか使用できなかった。
「あー!! わっすれてた! 作戦領域出ちまったから戦闘モード起動出きへんのやった!!」
「……そんなこと忘れるんじゃないわよまったく……。世話が焼けるんだから」
「なんやエレナ! こっちは今取り込み中や!」
「アンタねぇ……オペレーターにそんな口聞いていいの? 戦闘モード起動できなくなるわよ?」
 エレナの不可解な言動に、ジンの頭にクエッションマークが浮かぶ。
「どうゆう意味や?」
「つまり、緊急時の為に特別にその輸送機周辺を作戦領域に設定するのよ。そうすれば、輸送機の周りなら戦闘モードを起動出来るのよ。」
「な!? そんなこと出来るんか!?」
「アンタねぇ……そのACはグローバルコーテックスに登録されていて、事実上GCに管理されてるようなものなの。
 作戦の成功条件や、作戦に必要なデータ……要は作戦領域や制限時間。
 これらはGCを出る際、端末からACのコンピューターにインプットしているの」
 ジンの頭のクエッションマークが少しずつ取れてきた。
「つまり、作戦領域を付けるのもGCなら外すのもGCってことやな」
「そう、だから作戦領域をその輸送機周辺に設定したデータをGCのコンピューターから
 この回線を使ってスカイランサーに送信して、データを書き換えれば……」
 ジンのクエッションマークが完全に取れた。
「戦闘モードが起動出来てOBが使えるゆうことか!!」
「そーゆうこと、よく出来ました。で、なにか言うことは?」
「……エレナ様スイマセンでしたぁ!! 後でなんかオゴったるからデータを送信してくれ!!」
「……フフッ♪ もう送ってあるわよ。とっくにね」
「ハイ?」
 エレナの意味深な笑いに、ジンの頭にまたクエッションマークが浮かぶ。
「もう既にあなたはキース君の作戦に回収班として入ってるの、要は共同作戦ね。作戦内容はレジェンドガンナー、
 及びマックスター機の回収。作戦の成功条件は、キース君の作戦が成功したことを確認後、2機を乗せてGCまで、帰還すること。
 つまり、輸送機が途中でガス欠になんてなったら作戦失敗って事。作戦を成功させるために最善を尽くさなきゃいけないのに、
 私の勝手な行動で作戦を妨げて失敗したりなんかしたら、それこそ責任問題よ。何より、キース君やローズさんに迷惑が掛かるわ。
 だから、さっきとっくに終わらしたわ」
「な!? エレナてめぇ! ダマしたな!?」
「あんたが悪いのよ。そのことを知らせようとしたら拒否するような言動をするから」
「あ、あれはだなぁ!」
「あ〜もう! いいから早くやんなさいよ!! それとも何? さっき勝手に通信切ったこと上に報告されたいの!?」
「ぐっ……分かったわ。せやけど……覚えとけよワレェ!」
「ハイハイ……。まったく、第354地区語ってどうしてこう荒っぽいのかしら」
 地下都市〈レイヤード〉は広い、故に地区によってさまざまな言語が存在する。それらの言語は〈地区語〉と呼ばれていた。
 数年前、管理者の破壊によって人々が地上に進出した時、
〈地区〉は〈国〉となった。その際、〈地区語〉から〈外国語〉に呼び名を変えようという声が上がったが
 未だに〈外国語〉は普及しておらず〈地区語〉と呼ぶ人がほとんどである。
「あっ! てめぇ地区語バカにしやがったな!? ええか? 第354地区語はやなぁ――」
「いいから!! さっさと作戦を遂行しなさい!!」
 スピーカーが破壊されそうなほどの怒鳴り声の前に、ジンは何も出来なくなった。
「……くっ! お、おっちゃん、とりあえずハッチを開けてくれ」
「了解!!」
 輸送機の後ろのハッチがゆっくりと開く。スカイランサーは輸送機の上で、進行方向を向いて立っていた。
《システム、戦闘モードを起動します。》その背中からピンク色の光が漏れ出す。
「いっくでぇ!!」
 ジンの咆哮と共に、スカイランサーはブースターを使わずにジャンプした。落ちてくる間に輸送機は前方へ、
 全開にされたハッチが見えた。その瞬間背中の光が爆発し、スカイランサーは恐ろしいほどの加速力で前に打ち出された。
 だが、輸送機のスピードは速く、少しずつしか距離を縮められない。
「っく、後もうちょいや」
 画面の左端のエネルギーゲージが半分を切り、やがてレットゾーンに突入する。コックピット内に警報が鳴り響いた。
「いっけぇぇええ!!」
 ビビ!! ビー! ビー! ビー! エネルギーが尽き、回復に入ったことを告げる警報がコックピットに響く。
 ジンの眼下には、砂漠が広がっていた。
「……あ、あっぶねぇ……輸送機って以外に速いんやなぁ……」
 スカイランサーの足は、空を彷徨っていた。前を見れば輸送機の中が丸見えだった。
 スカイランサーの左手が、輸送機の格納口の上のところをしっかりと掴んでいた。
「おいジン! 早く乗り込め。長いことハッチ開けてると飛行に影響する!」
「ワリィ、無理や。今充電モードに入っとる」
「はぁ!? 今お前何処に……ま、まさか落ちたとか!?」
「縁起でもないこというもんやないで! 左手一本、粘ってます。ま、粘ってんのは俺やのーてスカイランサーやけどな」
 あたかも自分は何もやってないように言ったジンだが、実際は左手が離れないようにビミョウな操作で機体を安定させていた。
「よっし♪ 溜まった!! ほなっ! いっくでぇ〜♪」
 エネルギーが回復したのを確認すると、ジンは普通のブースターを吹かし、難なく輸送機に乗り込んだ。
「よし、乗り込んだ。おっちゃんハッチを閉めてくれ」
「お、おし。じゃあ、省エネで行くぞ。いいんだな?」
 男は、最後の確認をした。
「ああ、それでかまへん。さってと、キースはどうなっとっかな?」
「ジジ…ジ……甘いぜぇ♪ ほらよっと! よし! あと4つ!! マック砲撃だ!!」
「おうよ! ったく、外壁の固定砲台を一人で扱うのはほねだぜ」
「EO射出!! ほらほら、泣き言言ってるヒマあったらジャンジャンぶっ放す!! さっきの武器碗の連射みたいにさぁ」
「無茶言うんじゃねぇ!! つーか元はといえばお前が俺のACの頭ぶっ壊すからこんなことになったんだろうが!!」
「……お、おっしゃぁ! ガツガツいくじぇ!」
「ごまかすんじゃねぇ!!」
 プツッ! ジンは通信を切った。
「……ま、大丈夫やろ。にしても……なかなかいい感じやったな。うかうかしてっと相棒の椅子取られてまうかな?」
 笑みを浮かべながら呟くジンの顔には、キースがやられる不安も、相棒の椅子を取られる不安もまったく無かった。


「あ〜来た来た! ずいぶんとゆっくりだなぁ。オレがてこずってるトコに現れて、おいしいとこ持ってく気だったなぁ?」
 待ちくたびれたのか、キースの文句が飛ぶ。
「いや、おそらくガスをケチって来たんだろう。寄り道をしてAC3機も乗せて帰るとなると、
 いくら余裕を持って積んであってもギリギリだろうからな」
「……マック、詳しいな。さては昔、輸送機のパイロットだったろ?」
「アホか……常識だろ」
「アホって言ったな!? やるかぁ〜?」
「おう! AC戦では負けたが、力比べなら負けないぜぇ?」
「ジ…ジジ……あ〜こちらジン。お二人はん無事か?」
「「ちょっと黙ってろ!! 今取り込み注だ!!」」
 いきなり二人に怒鳴られたジンの額に、血管が浮かぶ。
「なんやぁ!! せっかく迎え来てやったのに上等じゃワレェ!! ああ分かった!! 二人仲良く歩いて帰るんやなぁ!!」
 第354地区語爆発。怒鳴った時の迫力は、全地区語中ブッチギリトップだ。
「だ、第354地区語!! こ、こえぇ……」
「す、すまんジン。頼むから乗せてくれ」
 その迫力に、二人のボルテージは一気に下がった。
「分かればいいんや。その様子ならもう片付けたみたいやな。じゃ、帰還するでぇ」
「はいよ♪」
「よ……よろしく頼む」
 ガシン! ガシン! ゴゴゥゥン!
「レジェンドガンナー固定完了」
「レッドテンペスト固定完了」
 キースとマックスターは輸送機に乗り込んだ。因みに頭の取れたマックの〈レッドテンペスト〉は、ジンとキースが運び込んだ。
「よし、皆乗り込んだな? これより帰還する!! しかしキース、まさか本当にやっちまうとはな。おそれいったぜ」
「お!? その声はおっちゃんか? いやぁ、それほどでもねぇよ♪ こんなん豆腐ハンバーグくれぇ簡単よ」
「はっはっは! そうか!!」
「……なぁ、えっと……」
 マックがジンに何か言いたそうに話し掛けた。
「ああ、俺の名か? ジンや、よろしゅう」
「ああ、俺はマックスターだ。で、……ジン。今キースは何だと?」
「ん? ああ、気にしないでやってくれ。あいつにとっちゃあ〈豆腐ハンバーグ〉を作るくらい簡単な仕事だったって意味や。
 あいつは無類の豆腐好きやからな」
「そ、そうか」
 しかし、いくらなんでもそれは変じゃないか?と思いながらも、まあそれも一興かと無理やり納得したマックだった。


「――これは、新しく買ったほうが早いですね」
「なに!?」
 メカニックの突然の発言にマックは怪訝な顔をした。
 ここはグローバルコーテックスのガレージだ。大勢のメカニックが様々なタイプのACを整備していた。
「えっと、マックスターさんのACはですね。まず、左碗部の損傷、EOの大破、それに頭部の大破。
 これらが目に見えて酷い損傷です。で、左碗部は修理可能です。EOは大破しましたがコアは大した損傷も見られないので
 これもEOの交換のみで大丈夫です。ただ、問題は頭部で……これは修理するよりも買い替えた方が早いと思いますよ? 
 実はですね、ショップに最近出た新パーツがあるんですが……」
「ああ、まってくれ。あんた勘違いしてるようだが、俺はレイヴンじゃない。フリーのAC乗りってやつだ。
 グローバルコーテックスに登録されてないACをここで修理するわけにはいかないだろう?」
 カタログを開いて楽しそうに新パーツの説明をしようとしたメカニックに、マックが申し訳なさそうに告げた。
「……? ああ、そういうことですか。全然構いませんよ。レイヴンの任務中に救出されたACやMTは、
 特別にGCのガレージで修理してもいいことになってるんです。まあ、ここも商売ですから当然お金は取ります。
 ですから一応、本人が御希望の場合のみ修理をすることになってますけど」
 メカニックがマックの問いに丁寧に答えたが、マックの頭にある疑問が浮かんだ。
『任務中に救出された? 俺はキースと戦闘をして負けて、連れてこられたんだぞ? ……ははぁそういうことか。
 キースのヤツ、俺を任務中に救出したということにしたんだな。へっ、世話になりっぱなしだな』
 実際にはキースではなく、ローズの計らいだった。
「マックスターさん?」
 考え事をしてるようなマックを怪訝に思ったメカニックが声を掛けた。
「あ、ああ。そういうことならやってくれるとありがたいが……値段が心配でな」
 マックは適当なことを言ってごまかした。
「ああ、そのことでお悩みでしたか。大丈夫ですよ、ここはGCの〈整備科〉という部署所属なので
 一応上からちゃんと給料支給されてるんですよ。だから、手数料が掛からないっていうか取っちゃいけないことになってるんで、
 そこら辺の整備工場よりは安いと思いますよ。マックスターさんの場合だと――」
 その頃キースとジンは、隣同士に置かれた自機の前のブリッチの上にいた。
 下を見るとマックがなにやらメカニックと話し込んでいるのが見えた。
「あれ? マックなんか考え込んでるな。どーしたんだろ?」
 難しそうな顔をしているマックを見てキースが呟く。
「お前がボッコボッコに破壊したせいで、修理に手間取ってんのとちゃうか?」
 悪戯っぽく笑いながらジンが言った。
「オ、オ、オ、オレはそんな派手に壊してねぇぞ!?」
「わっからへんでぇ? なんてったってお前の武器はあのKARA――」
「こっらぁ! おまえらぁ、余所見ばっかしてっと修理せんぞ!! まったく……」
 近くにいた初老の男が怒鳴り、キセルをくわえた口から煙が漏れる。
「ワリィワリィ整備長のおっちゃん♪ ちゃんと聞くからさぁ。な? な?」
 キースが謝る。その時、下からマックの大声が聞こえた。
「な!? なんだって!? ……いやいや!! 安くて驚いてるんだ! 勿論頼む!! ……ああ!」
「「……プッ! くっくっく♪」」
 マックの驚いた声を聞いて、二人は思わず吹き出していた。
「フン! 分かればいいんじゃ。まったく……ってなにがぁおかしいんじゃぁ!!」
 反省の色を見せずに笑ってる二人を見て、整備長はまた怒鳴り声を上げた。
「わああぁ! ちゃうんやおっちゃん誤解や! スマンかった! 今度地酒持って来てやるさかい、許してぇな! な? 堪忍や」
「ったく、今回は許してやるわい」
『『ホッ……』』
 二人は胸を撫で下ろした。
「しかし……ジン、おまえさん一体何をしたんじゃ? 右腕じゃが、かなり酷くやられてる。
 装備してるマシンガンも、あと2.3発くらえば大破してたじゃろう。右側から予期しない攻撃を受けない限り、こうはならんはずじゃ。
おまえさんが敵を見失うとは珍しい」
 整備長は、軽く見ただけで攻撃された状況を見抜いた。だが、ジンは特に驚いた様子も無く答える。
「ああ、ちーと磁気嵐におうてな。レーダーきけへん状況で、相手が磁気嵐用のカスタマイズしとったもんやから思いのほかてこずってな」
「まあ、それはいいんじゃが問題は左手だ。中指と薬指が大破、シャフトも曲がっちまっとる。
 どんな戦い方したらこうなるのか……見てみたいもんじゃわい。あとは……まあ大したこと無いじゃろう」
「左手か……な、直るんか?」
 ジンが心配そうに聞いた。
「小僧ぅ、ワシを誰だとおもっとるんじゃ? この道48年。2本の腕だけでGCの整備長まで上り詰めた大ベテランじゃぞ?
 そこいらの若造が直せんくてもワシなら直せる!!」
「「おお〜♪ よ! おっちゃんさすが♪」」
 キースとジンの黄色い声(?)が飛ぶ。
「あのぉ〜、これくらい僕だって直せますよ……」
 横にいたキース達と同世代くらいの男が呟いた。
「むっ! じゃあおまえやってみろ! いいか、どうなっても知らんからな!!」
 明らかに機嫌を悪くして整備長は男に言った。
「どうなってもって……これくらいではどうにもなりようが無いと思いますが……まあ、任された以上全力でやらせてもらいますよ」
「そ、それよりおっちゃん! オレのレジェンドガンナーはどんな感じだ?『ジン、頼む!』」
 やばい空気に気付き、キースは話題を変えようと整備長に話し掛けつつ、ジンに目で合図を送った。
「『おう、任せとき!』な、なあ。あんさん見ない顔やけど?」
 キースの意図を察したジンは、同年代くらいの男に話し掛けた。
「ええ、この間整備長の元に就くことになった者です。GCは8年目ですね。整備長に就く前は、整備B班の班長の補佐をやってました」
 GCのガレージは広い。メカニックの人数は総勢200人以上にもなる。それ故に、メカニックをいくつかの班に分けていて、
 それぞれの班には班長がいる。そして、その班長の上に立つのが整備長だ。
「あ〜それで知らへんのか。整備長はな、普段はメッチャ人情熱うてエエ人なんやけど、結構ガンコでなぁ。
 若いヤツに”それっくらい出来る”って言われんのがメッチャ嫌いやねん。しかも根に持つタイプや。気ィつけぇや」
 ジンは以前、整備長を怒らして1週間程ACの修理をしてもらえなかったことがあった。
「……い、以後気をつけます。忠告ありがとうございました」
「ええってええって、俺等はおっちゃんのお気に入りやからこれからも色々と顔会わせることになりそうやからな」
「そうですか。じゃあ、頑張って直さないと」
「おう! よろしく頼むでぇ」
「おいジン。オレとお前とマックは至急、第3会議室に来いってさ」
「はぁ? なんのようやろ?」
「さぁ? 行ってみれば分かるだろ。おーい! マック! ちょっと来てくれぃ」
 キースは下にいるマックを呼び寄せた。
「ところでキース。お前のACはええんか?」
「どーやら大したことは無いらしいからすぐ直せるってよ」
「さよか」
 そんな会話をしてるうちにマックが上がってきた。
「じゃ、行くか。一体なんなんだか」


「お? あれ、ローズとエレナとちゃうか?」
 第3会議室に向かう途中の廊下で、ジンは少し先のところで壁に寄りかかりこっちを見ている二人の女性を指差して言った。
「おお、そうだそうだ」
 後から付いてきたキースが言う。
「やあやあお二人さんお揃いで、どうかしたのかい?」
 キースが楽天的な声で話し掛けた。
「あのねぇ……どうかしなきゃあなた達をこんなところで待っていません」
「おいおいローズ、そりゃないだろ? 一体どーしたんだよ?」
 ローズと呼ばれた女性は黒くて真っ直ぐな髪を綺麗に伸ばし、その後ろの方を結わっていて、大人びた容姿をしていた。
 ローズはキースのまったく状況の分かってないような素振りに、深くため息をついた。
「はぁぁ……キース君何にも分かってないのね。そりゃ、ローズさんも怒りたくなるよ」
 隣にいた女性が言った。
「はぁ? エレナちゃんまで分けわかんないっつーの! なんなのさ?」
 エレナと呼ばれた女性は少し低い背に、肩の上くらいの長さの髪は色の薄い茶色、活発的な感じのする女性だった。
 エレナはダメだこりゃ。というような顔をしてキースに告げた。
「今から、上に今回のことを報告しに行くのよ。だから、あなた達を待ってたのよ」
「は〜ん、そーいうことか」
「つまり、俺らがおエライはんの前で下手なこと言わへんように今から打ち合わせしようゆうことか」
 キースとジンが言う。
「そ、よく分かってるじゃない」
 エレナが何でもないように言った。
「あの〜だな。盛り上がってるとこ悪いんだが……」
 マックが初めて会話に割り込んできた。
「ああ、何だマック?」
 正直マックの存在を忘れていたキースが言った。
「そ、そちらの方は一体誰なんだ?」
 マックの指差す方には女性が二人立っていたが、マックの目には黒髪の女性しか映っていなかった。
「こっちがローズ、オレのオペレーターだ」
 キースが言う。
「こっちはエレナ、俺のオペレーターや」
 ジンも続けて言った。
「ローズ、エレナちゃん。こいつがマックスターだ、って分かってるだろうけど」
 キースが二人にマックを紹介する。
「マックスターさん、ACの方は修理できましたか? キースが救出したということにしてあるので
 GCでやってもらえると思うのですが……?」
 ローズが心配そうに言った。
「へ!? そうなの? いつのまにオレがマックを救出したことになってるの?」
「キース、あなたねぇ……やっぱり気にしてなかったんですか。いいですか? GCでは救出したACとMTのみ、
 特別に修理を許可しているんです。それ以外では登録されてないAC、MTは搬入すらできません。
 あなたは彼を連れて帰ることにしていましたから、”任務中に救出した”ということにしたんです。
 でなくば敵であったフリーのAC乗りとAC、搬入次第拿捕ということも十分考えられたでしょう」
 ローズが呆れながらも、キースに事細かに説明する。
「やっぱり、キース君知らなかったんだね」
 そのやり取りを見ながら、エレナが言う。
「お、おお、まったくキースときたら少しは考えて――」
「ジン、知らないのに知ったかぶらないの!」
「ちっ! バレとったんかい」
 そんなそれぞれの夫婦漫才の中、一人恋のボルテージが上がっている男がいた。
「な、なんとあの計らいは、あなたによるものでしたかローズさん。そうとは知らず、いやはやなんとお礼を申せばいいか」
 やや緊張した面持ちで、マックがローズに言った。
「いえ、いいんです。気になさらないで下さい。こちらとしても、その方が都合がよかったんですから」
「え!? そうなんですか?」
「ええ、もしあのまま搬入していたら、あなたを拿捕しに来たGCの保安部をキースが射殺――
 しないにしてもそれなりの反抗をしていたでしょうから。そうなればキースは謹慎、
 下手をすればレイヴンを止めることになっていたかもしれません。それだけはなんとしても避けたかったものですから……」
「おお! キースの身を案じてのことでしたか! いやぁ〜まさにオペレーターの鏡ですなぁ!」
『ぜってぇねぇって。オレがそんなことしたら自分にも責任が来ちまうからだって』
 ローズの言葉に、大いに感動して褒め称えるマックの横のキースの心は疑いの色に染まっていた。
「じゃ、そういうことだから、二人ともいい? 私達が説明するから、静かに突っ立ってればいいの。
 何か質問されたら、適当にうまいこと言ってくれればいいから、そういうの得意でしょ?」
 このままでは今に催促のアナウンスが流れると思ったエレナが、話を切って向かうことを促す。
「そうね。じゃあ、行きましょうか。マックスターさんもそれでお願いします」
「ハイ!! 任せてください!!」
「バカ!! 声が大きいわよ!」
「あ、ああすまん」
 エレナに注意されて、やっとエレナのことをマックは認識した。

 数分後――
「――と、いうことで謎の航空部隊との交戦中、偶々近くにいたマックスター氏がキースに加勢。
 その結果敵部隊は撃破したものの、マックスター機の損傷が酷かったため、ジンの輸送機に乗せ、
 GCのガレージにて修理をさせるために共に、帰還させました。報告は以上です」
 広い部屋の中に円を書くように設置された机と、沢山の椅子があり、奥の席に男が一人、横に補佐のような男が一人。
 入り口の方にはローズ、エレナ、キース、ジン、マックが立っていて、ローズが奥の席の男に向かって今回のことを報告していた。
「……なるほど、キース君、ジン君、今の報告に間違いはないかね?」
「ええ、まったく」
「その通りです」
 キースとジンは自信満々に答えた。
「そうか、ではマックスター君」
「は、はい!」
 突然の指名にマックの声が若干上ずった。
「協力誠に感謝する。君の協力がなかったらキースは敗れ、任務は失敗に終わっていたかもしれない。
 そこで今回の成功費から、少しではあるが君にも報酬を与えようと思うがどうだろう?」
「!? えっとそれは……その……」
 突然の提案にマックは戸惑った。実際はマックはキースの助けなどしていない、それどころか最初は敵だったのだ。
「願ってもないご好意、誠に感謝します。……ですが、自分はもらうわけには行きません」
「「「「!?」」」」
 思いも寄らぬマックの言葉にキース達は一斉にマックの方を見る。
「自分は報酬をもらうためにキースに加勢した訳ではないですし、実際あまり助けたとは言えません。
 それどころか逆にここまで輸送機で連れてきてもらったり、ここで修理までしてもらえたりと、助けてもらってばかりです。
 ですから、願ってもないご好意ですが、お気持ちだけ受け取らせてもらいます」
 マックが下手なことを言ってしまうんじゃないかと内心不安だったキース達は、ホッと胸を撫で下ろした。
「……そうですか、そこまでいうなら仕方ないですね。では、謎の航空部隊については後日調査を行ないます。
 何かわかり次第、おって報告しますので、今日はもう下がってよろしい」
「「「「は! 失礼します」」」」
 キース達は部屋を出て、もと来た方向に歩き出した。
「は〜ビビッたビビッた。マックが全部言っちゃうんじゃないかって内心ドキドキだったよ」
 キースが気の抜けた声で言った。
「あっ! 私も思った! おいおい勘弁してよぉ〜って感じだった〜」
 エレナも言った。
「あ〜俺も俺も。このボケ変なこと言う前に斬ったろか〜?ってマジで思ったわ」
「……おい。いくらなんでもそれはないだろう」
 マックが突っ込む。
「ローズさんも、ドッキドキだったでしょ?」
「え? えっと……そんなことあるわけないでしょ。マックさんを信じてたわ」
 エレナの振りに実はハラハラしてたとも言えず、ローズはウソをついた。それに調子をよくした男が一人。
「いやぁ〜! 信じてもらえて光栄です。ローズさん! やっぱりあなたはすばらしい!!」
「ねぇ……マックさんってさぁ、アレ、ローズさんに一目惚れなんじゃないのぉ?」
 エレナがマックとローズに聞こえないように、キースとジンに言う。
「ああ、間違いなくな。まったく、”蓼食う虫も好き好き”とはよく言ったもんだよな♪」
「って、キース、悔しくないんか? もしかしたらローズ取られてまうかもしれんで?」
「あん? 何でそこ行く?」
「えー!? キース君ってローズさんに気があるんじゃないの?」
「そーんなわきゃないだろ!」
「え〜? 怪しい〜?」
「どーこが、よし、報告も終わったし。ジン、メシでも食い行こうじぇ」
「あっ!! こら逃げるなぁ!」
 とっとと行こうとするキースの背中にエレナが叫んだ。
「そうですキース!! 逃げるのは許しませんよ!!」
「「「へ!?」」」
 突然のローズの発言にキース、ジン、エレナは固まった。
『ま、まさかローズさん今の会話聞いてたの』
 エレナの頭にそんな考えが過ぎった直後、ローズは次の言葉を発した。
「作戦領域内での、て……元敵とのコーヒーブレイクに、通信を勝手に切ったこと。忘れているとでもおもったんですか?」
 キースの顔から血の気が引く。
「やっべ! 忘れてた!!」
「はっはっは! ま、観念せぇやキース」
「ジン、あなたもよ。忘れてないわよぉ〜、敵の武器持ち帰ろうとしたことと通信を勝手に切ったこと、
 さらにオペレーターに向かっての暴言〜さぁ! 覚悟しなさい!!」
 ジンの顔から血の気が引いた。
「こ、こうなったらジン!」
「ああ、に! 逃げるでぇ〜!」
「「待ちなさい!!」」
「はいそうですかと待てるかぁ!!」
『『『『『『『まただよ……』』』』』』
 4人を見て通行人が呆れる。そう、GCのなかではこの光景は〈日常〉だった。


 あとがき
 はい、すいません。
 何か変な言葉がありますね。多分読んでて変だと思う人が沢山いそうですがジンの言葉づかいは関西弁ではなく
 第354地区語ってことにしてあるんであしからず。
 因みにその元となっている言葉使いは静岡県民が関西弁を無理やり使った時の喋り方です。
 これでも結構直した方なんですがね。元三重県民の協力によって……。
 にしても……長いですね。4ヶ月くらいちょこちょこ書いてたのですが、どこで区切っていいか分からず、
 気付けばメモ帳で50KBの長編に……。しかも、変なところでダラダラしすぎたり、変なところでバッサリ省いたり……。
 極めつけは最初と中盤で表現のしかたとか書き方が微妙に違ってたり……。前回と書き方(特にカッコの使い方)が全然違ってたり……。
 ならべてみるとすごいですね……。つーわけで、キリがないのでこのへんでカット!!
 あと、この話は第1話の裏話です。これを読んで第2話のマックのメールを見るとそのその意味が分かります。
 これで、一応一区切りついたかなって感じで、次回はちょっと違うのを書いてみたいと思います。目標は10月の半ば頃完成かなぁ。
 あ、そうそう。ジンのスカイランサーは僕のAI機を元に作ってあります。まったく関係無いですが……。
 さらに余談。エレナの言った「我田引水」とは物事を自分の都合のいいように考えたり、進めたりすることを指します。
 その他、意味の分からないこととか疑問とかご意見ご感想、アドバイスにダメだしその他諸々メールにてぶつけてきてもらえると嬉しいです。
 アドレスは hiroguitar_no818@yahoo.co.jp です。お待ちしております。
 では、長くなりましたが最後まで読んでいただいてありがとうございました〜!!

8/11hiroki
作者:hirokiさん