AC3SL PW 第2話
「対戦者、サイプレスの勝利です。システム、終了します」
模擬戦が出来るシミュレーション機から降りると、隣のシミュレーション機に乗っていた男、サイプレスが降りてきた。
「バースト、お前が前に俺に勝った時は4連勝ぐらいだったよな。今まで28連勝って、誰相手にやってたんだ?」
「他の相手? 大体がアリーナでB・Cランクを維持している奴らだな。アリーナ勝利のために、練習相手になって欲しいみたいでな」
「そいつら相手にこれだけの連勝か……。流石だな」
サイプレスは驚きを見せるように、肩をすくめている。
「シミュレーターと実戦では全然違うさ」
「それなら、今度僚機として来てもらって、実戦での動きを見せてもらおうかな?」
「ああ、依頼してくれれば出るさ。まあ、あまりにも報酬が安かったら断るかもしれないが……」
「大丈夫だ。お前に依頼すると言えば、クレストは報酬を出すさ」
「そうだといいがな……」
「問題ないさ。おっ、そろそろあいつが来る頃か……」
「あいつ……?」
「ああ、頼まれてな。今、トレーニングルームで鍛えさせてるところだ……って、そっちも約束があるんじゃないのか?」
「そうだって。もう約束の時間までそんなに無いな。じゃあな」
「また頼む」
その声を聞きながら、シミュレーションルームから出て行こうとすると、すれ違い様に10代らしき青年が入って来た。
「やっときたか。よし、これから模擬戦だ」
「わかりました!」
こんな声が背中から聞こえてきたから、おそらく今すれ違ったのがサイプレスが鍛えているというレイヴンだろう。
そんな事を考えながら、待ち合わせの約束をしている喫茶店へと急いだ。
喫茶店に着くと、待ち合わせ相手のレインはもう先に来て待っていた。
「悪かった、待たせたようだな」
「いえ、一息つけたのでちょうど良かったです」
テーブルの上には空になった皿と、半分ほど空けられたグラスがあった。
注文を取るためにやって来たウエイトレスにコーヒーを頼むと、レインが報告書を渡してきた。
「コレが前回襲撃してきたACに関する報告書です」
渡された報告書に目を通す。
そこには、ある程度予想していた事が書いてあった。
「やはり、あの2機はレインが言った通りの機体だったようだな」
「はい、あの時現れた機体は管理者時代のアリーナランカーである、フレアとバックブレイカーが乗っていた機体ですね。
ただ、パイロットは2人ではないことは確かですね、既にどちらも死亡していますから」
「そうだな。報告書に書いてあるが、コックピットを調べてみると、どうやら無人機だったらしいと」
「爆薬が仕掛けてあったらしく、それによって大半が粉々になってしまっていたので調査は少々苦労しましたが、
遺体もなく、最近話題になりつつあるAIシステムの機械があったので、無人機の可能性が高いとの調査班からの報告です」
あの時感じた違和感はどうやら正しかったらしい。
機体の過度な爆発に、AIによる無人機というおまけ付きで……。
「レイヴンを企業に斡旋しているグローバルコーテックスのレイヴン試験に乱入させるとは、かなり過激な売り込みのようだな」
「そうですね、今回の事でどの企業もかなりの関心を持ったみたいです。AI無人機が実用化されればレイヴンも危ないですね」
「ああ、その可能性は高いな。コスト面であちらが勝てば、レイヴンなんて雇う必要はなくなるからな」
「これからかなり大変になるかもしれませんね……」
「ああ、そうだな……」
少々空気が重くなりかけたところに、上手い具合にコーヒーが運ばれて来る。
それに乗じて話を変えようと、レインがこちらが頼んでいたもう1つの事について話し出した。
「頼まれていた試験生の2番機についての報告も、その報告書の最後の方にありますよ」
「もうそっちの調査が終わったのか。済まないな……」
「粉々になった奴に比べれば簡単ですよ。本名は、レイヴンへの直接攻撃を考えたセキュリティー維持の為無理ですけど、
登録名がボールド、AC名はブラッドストームです。アリーナでは、昨日までにコバルトブルーまで倒していますね」
「ミサイラー相手に、初期に支給された機体にちょっと改良加えた位じゃ、ちょっときつくないか?」
「それが、大量の資金と購入制限が解除解除されている事によって、試験後すぐに機体の組み直しをしています。
機体については次のページに記載されているはずですよ」
次のページを見ると、ブラッドストームの全体像の写真と機体構成が載せられていた。
色は、黒と灰色による迷彩色でカメラアイ等の部分が赤く光っている。
機体構成は中量2脚で、コアはミラージュ製の中量OBで、ターンブースターを装備している。
武装は、両腕とも56発ショットガンになっていて、右肩に30発小型ロケット、左肩に40発小型ミサイルが載っている。
「両腕ショットガンにターンブースターとはかなり接近戦を重視した機体のようだな」
「ええ。今までの試合も、OBによる急速接近から死角に回り込んでのショットガンによるゼロ距離射撃で全て倒しています。
あっ、一応1番機の方も調べておきましたよ。最後のページです。現在最下位にいる登録名リトルベア、機体名ダブルウイングです」
最後のページには、確かにリトルベアについての情報も載っていた。
「そっちの方まで調べていたとは……」
「いえいえ、お礼はここでの代金ってことで。それでは、仕事があるので失礼しますね」
彼女はそう言って伝票をこちらに渡すと、喫茶店から出ていった。
伝票を見てみると、そこには自分が頼んだ物の他に、ミルクティーとケーキが注文されている。
「そのためにか。まあ、コース料理を奢らされるよりはマシか……」
しばらくそこで時間を潰した後、支払いを済ませて帰宅した。
作者:キャップさん
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