サイドストーリー

One Raven’s Chronicle No.9 真意そして真相
旧中枢―。先の騒乱で管理者が破壊されてからは、訪れるものも無く、うち棄てられていた。
もっとも、つい最近までは各企業がこぞって調査団を派遣していた。しかし、管理者自体の
損壊が激しく、有力な情報が得られなかったため、以後調査はされていない。
そして、ここの存在は忘れ去られていた。
 
キョウ「しかし、あれから二年が経つというのに、未だにはっきりと思い出せるな。あの日のことが。」
 
カナン「親友との再会はお嫌ですか?」
 
無人であるはずの旧中枢。その一画に、二機のACと、その傍らに二人の男女がいた。
一人は22,3の銀髪の男。もう一人は見事な黒髪を肩まで伸ばした女。歳は21,2だろうか。
 
キョウ「ふっ、意地悪だなカナンは。嫌ではない。怖いのさ。」
 
カナン「怖い?」
 
不思議そうに聞き返す。
 
キョウ「私は友を捨て、妹をも捨てた男だ。それが管理者の意思とはいえ…、な。
 
カナン「でも、あなたの意志でもあった、そうでしょう。そうでなければあの時、私はあなたの誘いを受け入れなかったでしょうし、
今日まで戦い続けられなかったでしょう。私は、あなたを信じます。たとえ、あなたの親友が疑おうとも。」
 
 
 
ウェイン「しかし、いつ来ても気が滅入るな、ここは。」
 
オレは、緊急と偽ってACを持ち出していた。もちろん、バレたらタダではすまない。
メリルはオレがこうすることを予想し、ごまかしてくれているかもしれない。が、それは希望的観測の域を出ない。
 
ウェイン「さて、誰が呼んだか知らねぇが。」
 
幸い、エレベーターは生きていた。だが、一分としないうちに異変が起きた。
 
ガクン
 
ウェイン「はぁ!?なんで止まるんだよ!?」
 
急にエレベーターが止まったことにも驚かされたが、最も驚いたのは次の瞬間だった。チェインガンの火線が目の前を横切る。
 
「何だ貴様。ここで何をしている。」
 
上から降ってきたフロートACのパイロット、サイプレスが問う。
 
ウェイン「オレは急いでるんだ。邪魔をするな狂信者。」
 
こいつが何故ここにいるのか、一瞬疑問に思ったが、問い掛ける暇はないし、その気も無い。ただ、邪魔立てするのなら倒すのみ。
 
サイプレス「ん?貴様、ウェイン=レッドハットだな?これは天佑というべきか。管理者に対する数々の冒涜行為、ここで贖わせてやる!!」
 
次の瞬間、テン・コマンドメンツが斬りかかってきた。
 
ウェイン「邪魔するなと言ったはずだ。」
 
オレはすかさず左腕の肘にライフル弾をぶつける。案の定そこは脆く、弾け飛んだ腕から伸びたブレードが床に突き刺さった。
そして、体勢を立て直される前に頭部を撃ち抜き、メインカメラを破壊。盲目のACを葬るのは難しくない。
サイプレスはなおも抵抗し、機体を滅茶苦茶に動かしたが、なんのことは無い。
撃破が少し遅れた程度だった。
 
 
 
同時刻「管理者」前
 
「おかしい。いつもならこの時間にサイプレスからの定時連絡あるんだが。」
 
「管理者」の下に至る通路。さながら巨大な神殿を思わせるそこに、門番よろしく立つ二人の巨人。
否、巨人ではない。ACだ。オーリーの駆るムーンサルトと、ゴールドブリットの駆るクローバーナイト。
 
オーリー「おい、ちょっと様子見てこいよ。………聞いてんのか!?」
 
思わず語気が荒くなる。それでもゴールドブリットは沈黙を保ち続けている。もともと寡黙な男だが、
さすがに様子がおかしい。不審に思い、彼の方に目をやる。
 
オーリー「!! な、何が、一体何が!?まさかサイプレスもこいつに…!」
 
彼の目に映ったもの。それはコクピットを貫かれ、見るも無残なACと、白い布にエメラルドを散りばめたようなAC。
すると横合いからもう一機、彼の目線を遮るように躍り出る。
アンテナのような独特な頭を持つそれが月光を突きたてたとき、彼の意識はこの世から消失した。
 
 
 
ウェイン「あ〜ぁ全く、呼び出したんならエレベーターくらい直しとけってんだ!」
 
テン・コマンドメンツを撃破して五分、エレベーターは一向に動く気配がない。
退屈しのぎに、常に携帯しているゲーム機片手に愚痴った。当然だがそれで再び動き出すわけが無い。
 
ウェイン「…少々荒療治だが…。これでどうだ!!」
 
そう言うや否や、オレはACの右足で床を思いっきり踏みつけた。古来より伝わる、ショック療法と言うものだ。
不思議なことは起こるもので、今までピクリともしなかったエレベーターが、再び音を立てて動き出したではないか。
 
そしてオレは「管理者」へと足を運んだ。誰がオレをここに呼びつけたか、大体の察しはついている。
しかしそれも、彼が生きていることが前提だ。仮に生きていて、オレを呼び出したにしても、感動の再会とはいくまい。
あの日から二年、それぞれ全く違う道を進み、全く違うものを見てきた。オレはレイヴンとしてものを見、その過程で、
物事はまず疑ってかからねばならないことを学んだ。いつかユリカに、「あいつが生きてることを信じてやろう。」
と言うようなことを言ったときも、内心では疑っていた。今でも心の奥底に彼を疑うオレがいる。
そんな自分に心底嫌悪した。オレは親友さえ信用できない。罪の意識にも似た暗い感情が、
もしかすると彼を疑った日からつきまとっていて、それが悪夢を見せているのかもしれない。
 
ウェイン「オレは…、オレたちはもう、戻れないのか?」
 
自問した。だが、自問に答えが返ってくるわけがない。眼前には荒れ果てた風景が広がっている。
柱は倒れ、MTともACともつかぬ機械の残骸が散乱し、かつての壮麗さは微塵も感じられない。
栄枯盛衰。諸行無常。真っ先に浮かんだ言葉がそれだ。
 
「よく来てくれた。話がしたい。こっちに来てくれ。」
 
間違えようのない、懐かしい声が聞こえる。そして、管理者の下、ACごしに対面する。
 
キョウ「二年ぶりだな…。ウェイン。」
 
ウェイン「ああ。ったく心配させやがって。ユリカがお前を捜ためにレイヴンになったんだぞ?
ま、生きてて何よりだ。んで、そちらは?」
 
カナン「私はカナン=ヴァレンシアと言います。キョウ、積もる話もおありでしょうが…。」
 
カナンと言うこの女性は、言葉こそ丁寧であったが、その随所に露骨な警戒心が盛り込まれていた。
 
キョウ「あぁ、すまん。では本題に入る。」
 
すると、どこかで聞いたような声が割り込んできた。
 
「それについては私が説明します。…お久しぶりですね。」
 
ウェイン「か、管理…者?なぜ?確かにあのとき…。」
 
頭がこんがらがってきた。オレは確かに管理者をこの手で破壊したはずだ。
だが、管理者はオレの疑問を予想していたように即答した。
 
管理者「確かに私はあなたに破壊されました。これは紛れもない事実です。ですが、あなたがここへ来たとき、
二人に私の全データのバックアップを取っておいてもらったわけです。
私の役割はまだ、終わってはいないのですから…。」
 
キョウ「役割?そういえば以前私の前に現れた、IBISと名乗る者もそのようなことを…。
管理者、彼の言う役割とは何なんだ?」
 
管理者はしばし沈黙した。説明せずに済ませる方法を探しているのだろうか。が、それはできないと悟ったか、意を決して答え始めた。
 
管理者「私と彼に課せられた役割は基本的に同じです。私たちが与えられた使命、それは、
『人類を管理し、ある程度の数になったら試練を課し、再び地上に住まわせるべきか見定めよ。』
…と言う内容です。
 
ウェイン「胸クソ悪ぃ話だな。あんたらを創った奴ぁ神サマ気取りかよ。」
 
それがオレの正直な感想だ。人が人に試練を課すなど、思い上がりでしかない。
そう思うと、人の思い上がりに付き合わされた管理者が気の毒に思えないこともない。
 
管理者「製造者の真意は今となっては闇の中です。話を戻しましょう。私が任せれたレイヤードの住民は、
私を破壊することで試練を乗り越えました。しかし…。」
 
カナン「IBISの管理するレイヤードはそうはいかなかった…、ということですね?」
 
管理者「ええ…。その結果、IBISのレイヤードは滅亡、今は完全に無人のはずです。
そして、人類が地上に進出したことを知った彼は、最終行程である、オペレーション・エンドオブデイズを実行に移そうとしています。」
 
キョウ「そのオペレーション・エンドオブデイズとは何なんだ?」
 
管理者「人類が地上からレイヤードへの移住を余儀なくされた、大破壊は知っていますね?
それの直接の原因である最終兵器『ジャスティス』によって全てを破壊すること…。
それがオペレーション・エンドオブデイズの全容です。そして、あなたが私を破壊していなければ、それは私の役割となっていました。」
 
オレは言葉を失った。管理者と言うのはただレイヤードを管理し、ある日急に暴走して人類を滅ぼそうとした、
としか考えていなかったのだから無理もない。
 
ウェイン「ところで二年前、オレたちに何があった?普通なら死んでるはずだったんだ。なのに傷一つなかった。
どう考えたっておかしいだろう。答えてもらおうか、管理者…!」
 
しばし沈黙した後、オレは一番の疑問をぶつけた。
 
管理者「…あのとき、私はあなたたちを回収させ、治療を行い、機体を修復しました。全ては私自身の破壊のために。
治療と修理が完了した後、あなたを元の場所に戻し、彼にはユニオンとのパイプ役として残ってもらいました。
ユニオンから中枢侵入の依頼がきたでしょう?実は、あれはあなたにしか配信されていません。
そして…、私の思惑通り、あなたは力をつけ、わたしが与えたINTNSIFYを行使して私を、破壊しました…。」
 
ウェイン「全てはあんたの掌の上…か。ったく恐れ入るぜ。自身の最期まで計算ずくだったなんてな。
じゃあ、つい先日実働部隊らしきACに襲われたんだが、それもあんたの差し金かい?」
 
先日とは不審者を排除していたときのことだ。メリルにも調査してもらったが、実働部隊のACであること以上のことはわからず、
以降現れることもなかったので、半ば放置していた。それに関して、意外な答えが返ってきた。
 
キョウ「あぁ、あれか。あれは私がやったんだ。ブランク長かったからな。いい練習相手だっただろう?」
 
カナン「あのあと私がこってりとしぼりましたけどね。最後の一機だったのにって。」
 
オチが絶妙なタイミングで付け加えられた。
 
ウェイン「じゃあナインボールとあのオカマ野郎もお前か?」
 
キョウ「いや、ライヤーは私だが、ナインボールはIBISだな。奴らは密接なつながりがあるようだ。」
 
ウェイン「なぜ言い切れる?」
 
キョウ「奴がナインボールの姿で現れたからだ。奴もまた、管理者だからな。そのくらいの芸当は朝飯前なんだろう。
そしてあのとき、奴は一週間後にエンドオブデイズを大々的に公表するとか言っていた。
奴は人類に挑戦状を叩きつけるつもりだ。」
 
カナン「かなりの自信家ですね。」
 
カナンがあきれたように言う。
 
管理者「とにかく、エンドオブデイズが成功すれば、地表の七割が焦土と化し、地下もただではすまないでしょう。
IBISを止めてください。もはや私の管理下を離れたとはいえ、無為に滅ぼさせるわけには…」
 
その言葉は聞き捨てならなかった。そこにある欺瞞に気づかぬほど鈍くはない。
 
ウェイン「待った。あんときは試練と称して滅ぼそうとしておきながら、今回は救いたいだと?
神サマ気取りが作ったプログラムに従って人類もてあそぶのが管理者の仕事ってか?冗談じゃねぇ!!IBIS止める?
大いに結構。あんたらでやってくれ。」
 
カナン「貴様ぁっ!!」
 
コクピットにショットガンが向けられる。オレも遅れることなくライフルを向け、続けた。
 
ウェイン「悪ぃなキョウ。この二年間、お互い見てきたものが違いすぎたようだ。」
 
キョウ「ウェイン…どうしても駄目なのか?」
 
ウェイン「…奴が本当に公表すれば、間違いなくコーテックスや企業が動くだろう。この件、オレはレイヴンとして行動させてもらう。
お前らもそうしたらどうだ?これっぽっちの戦力じゃ、返り討ちは火を見るより明らかだ。
フリーだってことにしとけば、あまり怪しまれないと思うがな。どちらがいいか、お前には判るはずだ。」
 
オレはOBを起動し、その場を後にした。
 
 
 
そして五日後…。
 
職員「ですから!電波ジャックですよ電波ジャック!!全回線が乗っ取られているんです!!」
 
局長「ええい!なんなのだこれは!!他企業の謀略か!?」
 
ミラージュ経営のテレビ局を、職員たちがあわただしく動き回っている。だが、番組の打ち合わせではない。
突如、全回線が何者かに乗っ取られそれによるクレームの処理と原因の究明に追われているのだ。
しかも、この怪現象はクレスト側でも発生しており、地上、レイヤードを問わず、ありとあらゆる通信手段が使用不能となっていた。
オレが住んでるとこも例外ではない。
 
ウェイン「おい、お前ら起きろ!大変なことになってるぞ!!」
 
ユリカ「もぉ〜、どうしたってのよこんな朝早くからぁ〜。」
フレッド「何かあったんですかぁ〜?」
 
今、オレの家は三人で暮らしている。ユリカが、コンビを組んでいるから一緒に住まなきゃ行けないなどと言い張って聞かないため、
不本意ながら泊めてやっているのだ。
 
ウェイン「テレビが映らねぇんだ。さっきから砂嵐しか映りゃしねぇ。」
 
フレッド「ホントだ。何かトラブルでもあったんでしょうかね?」
 
「じゃなきゃこうはならんだろーが!!」とツッコもうとした矢先、砂嵐の音が止み、かわりに
ボイスチェンジャーをかけた声が聞こえてきた。
 
「………レ…ヤード、そして地上…住人諸君、まずはこのような無礼な方法でメッセージを伝えることを詫びよう。
私は『サイレントライン』にある、『もう一つのレイヤード』の管理者…。今日は諸君にあるテストを課す事を伝えるべく、
こうしている。まずはこれを見ていただきたい。」
 
画面が砂嵐から漆黒の空間に切り替わる。そこにはとてつもなく大きな「壁」が映っていた。
カメラがズームアウトすると、その「壁」の正体が徐々に明らかになる。そこに映っていたのは、
やはりとてつもなく大きな、「筒」だった。オレにはそれがなんなのか、すぐにわかった。
 
「これの名は『ジャスティス』。かつて地上に存在した文明に終焉を与えた最終兵器だ。
諸君のテストが不合格という結果だった場合、これが降り注ぐことになる。
ではテストの内容を説明しよう。明日から四日間、衛星砲による砲撃を停止する。
その間に私が管理するレイヤードを探し出し、管理者である私を破壊すればいい。
簡単だろう?要は四日以内に目標を破壊すればいいだけのことなのだから。
そこで、諸君に本気になってもらうため、AIを用いた施設、及び兵器全てを使用不能にさせてもらう。
私は「人」にテストしているのであって、「人形」にテストしているのではない。
では、諸君の健闘を祈る。」
 
画面は再び砂嵐になった。テレビ局はこぞってこの怪現象についての特番を放送した。
もっとも、どこも大同小異、的外れな推論その1その2といったところだ。
 
一方、その日のうちにグローバルコーテックスに対策本部が設置されたことは言うまでもない。
 
 
 
 
 
 
 
 
あとがき
おそらく、今回一番説明的セリフが多い
と思う。今回の主旨が説明ですから仕方
のないことですが。
作者:キリュウさん