サイドストーリー

Underground Party 6話 〜爆炎の宴〜
「よし、警備システムの停止を確認した・・・各機進入を開始してくれ」

ユニオンの通信士の指示が耳に入る。
戦闘モードを起動して、待機地点から機体を移動させる。
開放されたゲートから進入すると、滞った空気の感触が機体越しに伝わってきた。
確かに警備システムは働いていない、ルクスはしっかりと仕事をしたようだ。
今頃、ルクスは一息つきながら進入地点へと向かっている事だろう。
シェリルがその様子を想像して軽く笑みを浮かべていると、早速最初の指示が飛んできた。

「スレイプニル、まずはE06の敵を片付けてくれ」
「了解」

マップを表示し、指定された部屋へと急行する。
扉を開けると、逆脚MT"モア"と戦闘メカ"ウィーザル"2機がシェリルの視界に入った。

「な・・・敵っ!?」

スレイプニルの突然の侵入に驚き、思考が一時中断したのか動きの止まる敵機に、シェリルは1発だけ発砲する。
ドン、と飛び散った散弾が、戦闘メカ2機を纏めて炎に包み込んだ。
勿論、こうなるように射角を計算してのことだ。
残ったMTがようやく我に返ったか、砲塔をスレイプニルへと向けようとするが、それも遅い。
最安価MTの機動力では、スレイプニルを正面に捕らえる事すら出来なかった。

「Moonlightの威力、試させて貰うぞ」

呟いて、背後より一刺し。
刹那、ドォンとMTは弾けとんだ。

「なっ・・・!?」

神に針を刺す様にMTを貫通し、どうやらMTに搭載されていた弾薬を誘爆させたらしい。
機体への影響は無かったが、シェリルの背筋に少々冷たいものが流れた。
感嘆と呆れの入り混じった呟きを漏らしつつ、通信士へと報告を入れる。

「どういう出力だ、これは・・・スレイプニル、E06クリア」
「了解、スレイプニル。次はE11へ向かってくれ」




「スレイプニル、次はE23だ」

オープンにしている回線から、ユニオンの通信士が飛ばしている指示が聞こえてくる。
流石は"紅い神槍"だ、随分と進行している。

「こちらカイザー、N27クリア」

またも通信が飛び込んでくる。ロイヤルミストが更に1フロアを片付けたらしい。
マップを開くと、各機の進行状況が表示される。
――そして、待ち受けるクレストのACも表示されている。
それらの接触までは、あと僅か。
もうすぐだ、もうすぐ・・・。

「遅い、W38へ急げ!」

通信士の声がコクピット内に響く。
鬱陶しい。だが、もう少しの我慢だ。
むかつきを抑えながら、指定された場所へと機体を向かわせる。
と、ゲートの向こうでは既に戦闘音が響いている。
よし、もういい・・・やってしまおう。
ゲートを開いて部屋に突入すると、女の声が通信機から流れてきた。

「味方か!?」

クレスト側のAC2機を含む部隊と戦闘中らしく、助かった、というような声色だ。
見れば、辺りには高級MT"ギボン"やガードメカの残骸が幾つも転がっている。
如何なBランカーとはいえ、AC2機とMT部隊を同時に相手にすれば多少は疲弊するということだろう。
この部屋には、ビーム砲台も設置してあった筈だ。
『敵AC、ランカーACと確認。D-14ヴァリアント及びE-21ブロージットです。』
ACの戦術コンピュータが、その機の名前を告げた。
機械的な音声が鬱陶しく耳に残った。

「こっちはもう弾が切れる、一緒に片付けてくれ!」

肩のスラッグガンでガードメカを吹き飛ばしたそのタンク型ACから通信が入る。
呑気にこちらに背を向けているそいつに、照準を合わせる。

「ああ、”一緒に片付けて”やるとも」
「・・・え?」




「ここまで・・・なのか・・・?」

途切れ途切れに呟かれたそんな声の直後、一瞬だけ爆発音が響いた。

「・・・識別信号消滅!フラッグの撃破を確認!及び、スクリーミングアニマル通信途絶!」

その通信に、常に冷静なワルキューレにも動揺が走った。
それは、たった今発射した銃弾が敵を抉る事なく壁に弾痕を刻んだ事からも見て取れる。

「・・・フライングフィックスがか!?」

シェリルの驚愕する声が通信機から響く。
フライングフィックスは、B-6という高ランクだ。
そうそうのことで殺られる筈がない。
ということは、奴らに遭遇したのか。
クレストの誇る、AC部隊"Last Supper"。
ワルキューレ自身も、以前シェリルの僚機として出撃した際交戦し、脚部と補助ブースタを損傷し、止む無く撤退したことがある。
"Last Supper"なら、フライングフィックスがやられたとしてもおかしくは、ない。

「通信士!フラッグを墜としたのは?"Last Supper"なの?」

ワルキューレの問いに、通信士はやや躊躇して答える。

「いえ・・・D-14ヴァリアント及びE-21ブロージットを含む部隊との交戦中です」

それは――おかしい。
フライングフィックスが、Dランカー程度を相手にしたところで、墜とされるとは思えない。
詳しい状況は判らないが、ランカー2機と交戦中だったというのだ。
クレストが何の確信も無く、レイヴンを2人も同フロアに置いておくとは思えない。
ということは、事前に情報が漏れていたということになる。
これだけの作戦だ、情報が漏れること自体はおかしいことではない。
しかし、何処から?
まさか――
嫌な予感が頭をよぎったのと、レーダーに光点が映るのと同時。
それは、通路を曲がった瞬間。

「っ!!!?」




「こちらグナー、"Last Supper"所属ACと交戦中」
「スレイプニルだ。こちらも"Last Supper"の2機に行く手を阻まれている・・・チッ、弾幕が激しく進めそうにない」
「こちらジョーカー、E-23サンライズ及びファイアドレイクを確認したっ!」
「アパシー、C-14イージスと遭遇・・・!」
「レーヴァテインより本部、C-17パルテノンを発見・・・これより戦闘に入る」

内通者によって敵が使用している周波数が判っているため、敵の通信が筒抜けになって聞こえてくる。
先ほど、トップランカーの1人、フライングフィックスの断末魔も聞こえてきた。
と、敵の通信士の声が再び入ってくる。

「カイザー、N32に敵反応だ、片付けてくれ」

――N32。
我々の待機しているフロアだ。
ということは、我々の相手はあのロイヤルミストということか。
――面白い。
奴に我々の実力を教えてやるとしよう。

「ロ、ロイヤルミストが来るぞ、レイヴン・・・!」

MTのパイロットが、情けない声を上げる。

「安心しな、奴はあのゲートを潜った瞬間に鉄クズさ」

四脚ACを駆るジョニーが、MTのパイロットの緊張を解こうと声を掛けた。
あいつの言う通りだ。
このフロアでは、自分達以外にも、6門のラインビーム砲台を始め、MT2個小隊が待ち受けているのだ。
その銃口は、全てが唯一の入り口であるゲートに向けて照準されている。
如何なAランカーといえど、一瞬で炎に包まれて崩れ落ちることだろう。

「うーし、来たみたいだぞぉー」

間延びした声で、逆間接型ACに搭乗しているベンがカイザーの接近を知らせる。
奴は、もうゲート一枚挟んだ向こう側だ。
操縦スティックを握る手にも、力が篭る。
ゲートのランプが、青になって開いた瞬間、全機で攻撃を集中する。
カイザーのスクラップを、自機のキャタピラで踏み潰す様が目に浮かぶようだ。
ごくり、と唾を飲み込んで、モニターに集中する。
トリガーに掛けた指が、軽く震える。

「撃てっ!!」

ガウン!ドウ!ドドドドド!
ゲートが開いた直後、そこに一斉に部屋中からの攻撃が殺到した。
天井のフォーシットLから降り注ぐラインビームの雨。
ギボンとエピオルニスの小隊が放つ、散弾とガトリングガン。
仲間の放った投擲砲とコンテナミサイルの嵐。
そして、自分の撃ったロケットの群れ。
それらは照準した通りに着弾し、もうもうと爆煙と粉塵が立ち昇った。

「はははっ!やった、やったぞ!」
「ロイヤルミストを仕留めた!」
「これで、俺ら"ノーロック・キャッツ"の株も上がるぜっ!」


・・・繰り返そう。
発射された大量の弾、それら全ては狙い通りに着弾した。
――そう、開き切ったゲート近辺の、既に何も居ない床と壁へと。

「うぁぁっ!?」
「た、助けてくれレイヴ・・・!」

爆音。
視界の利かない煙の中、次々と味方MTが撃破されている。
――馬鹿な!!
奴は・・・カイザーは、どうやってあの猛攻撃の中を生き延びたんだ!?
くそ!!煙で何も見えない!!
あの音はジョニーのベアキャットの投擲砲か!?

「うあっ!!」

直後、仲間の悲鳴と爆音が響く。
既にMT部隊は全滅したようだ。

「ジョ、ジョニーがやられたっ!?」

この視界ゼロの状況では、ロック兵装を1つも持たない自分達に、カイザーを捉える術はない。
――そうだ!レーダー・・・!正面!!
向かいにはベンの機・・・挟み撃ちに出来る!

「ベン!挟み撃ちにするぞ!」
「OK!ジョニーの敵討ちだ、マイク!」

カイザーを挟んで向こう側に居るはずのベンから、威勢の良い返答が返ってきた。
恐らくベンは、火炎放射機を放ちつつ、パイルバンカーでの一撃必殺を狙って突っ込むだろう。
俺は、肩の大型ロケットと左腕部のナパームロケットを同時に叩き込んでやる。
上手くいけば、俺のロケットで動きを止めた隙に、ベンがコンテナミサイルを直撃させるかもしれない。
もっとも、ベンのパイルバンカーが当たれば、ACの装甲など豆腐に釘を打つように貫通するのだが。

「行くぞ!!」

機動性に優れるとはいえないタンク型だが、OBを発動させれば話は別だ。
グン、という衝撃とともに、吐き気を催すGが身体に掛かる。
こんなものを、平気な顔で連発させるトップランカーという連中は、それこそ化け物だ。


――そう、彼ら"ノーロック・キャッツ"が相手にしているのは、紛れも無くその化け物だった。


「うおおおおおおおおぉぉっ!!」

殆ど利かない視界の中、モニターにゆらりとACらしき黒い影が映る。
OBの強烈なGによって、雄叫びを上げつつも、マイクはそれを確認する。

「カイザーァァァァァ!!!」

この距離なら外さない!!
必中の距離で放たれたロケット。
それは、確かに命中した。
ベンの駆るワイルドキャットへと。
ドゴ、と大型ロケットはワイルドキャットの頭部を吹き飛ばし、ナパームロケットが機を炎に包んだ。
だが、ベンは焼死する直前に、攻撃動作を終えていた。
マイクが、目の前の影がワイルドキャットだと気付いた時。
燃え盛る機から自らに向けて突き出される、仲間が必殺と誇っていたパイルバンカーの矛先が目の前にあった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ドン・・・と。
鈍い音が、機体内に反響する。
マイクが数秒前に思っていた通り。
パイルバンカーは、ACの前面装甲を意にも介さずに貫通した。


「カイザー、N32クリア」

ロイヤルミストはそれだけを告げると、次のフロアへと向かうべく機を前進させる。
が、通信士からの返答は、次の目標フロアを告げるものではなかった。

「全機へ!作戦は中止だ!すぐに引き返せ!本隊が襲撃を受けている!至急迎撃に向かってくれ!」

狙いはユニオンの本隊か。
クレストも中々やるようだが・・・。
と、先ほど撃破した、3機のACの残骸に一瞥をくれて、嘲笑する。

「俺を足止めしようとは、考えが甘かったな」




「第6小隊が突入したぞ!各機、敵ACを生かして帰すな!」

"Last Supper"第12小隊長、アレクセイ=ゴドロフが叫んだ。
彼の駆るAC『ゲートキーパー』は、僚機『グリーンマイル』と共に、"紅い神槍"を10分以上も柱の影に釘付けにしているのだ。
時折飛び出すスレイプニルからレーザーキャノンやミサイルが放たれるが、防御を最優先した彼の機体には然程ダメージはない。
"紅い神槍"の本領は、接近してのブレード戦だ。
だが、ゲートキーパーとグリーンマイルの主兵装は、ガトリングやチェインガン、マシンガンといったものだ。
そして、2機とも重装甲のタンク型、グリーンマイルに至っては、ライフル並みの威力を持つEOまで付いている始末だ。
幾ら”紅い神槍”と云えど、この弾幕相手では接近はおろか、正面に出ることすら出来ない。
彼らは射撃によってスレイプニルを障害物の後ろに追い込み、そこから動けなくしているのだ。

「ランドルフ、射撃しつつ距離を詰めるぞ」
「了解だ、アレクセイ」

ランドルフとは、コンビを組んで既に久しい。
クレストに雇われる以前からだから、もう10年近い付き合いだ、阿吽の呼吸と言っても良い。
腕は奴の方が上なのに、自分が小隊長になったのは、ランドルフが「面倒なのはおめーに任す」だか何だか言ったからだったか。
まあ、確かに面倒ではある。
ランドルフに、こういう纏め役は向いていないのは、相棒の自分が一番知っている。
心の中で苦笑しつつ、他の2人に通信を開く。

「ローランド、そっちはどうなっている?」
「ローランドです。"戦乙女"は撤退に移りました、一応追撃はしますが・・・追いつけないと思います」

と、これも第6小隊結成時からの部下から通信が返ってくる。
ローランドのAC『ブレイクタワー』も防御重視のタンク型・・・というより、第6小隊の機は全てそうなのだが。
ブレイクタワーの兵装は、拡散する弾のものが殆どで、近づいてくる敵を抑えるには良いが、逃げる敵を相手にするには向かない。

「了解。ローランド、お前はC00付近に向かって動力炉の警戒に当たれ。フォール、そっちは?」
「こちらイージス、もう少しで敵ACを撃破可能だ」

C-14フォール。"フォール・ザ・ウォール"の異名を持つレイヴンで、先日クレストの専属となり、この第12小隊に配属された。
彼の相手は、D-10イエローボートの駆るアパシー。
2脚にキャノン、バズーカ、高出力ブレードと豪華装備だが、重量過多で動きが鈍いACだ。
本来なら力押しでもっと早く勝負は付くのだろうが、恐らくバズーカを恐れて慎重に戦闘しているのだろう。
その辺りの判断力は、流石にCランカーと言える。

「判った、フォール。片付いたら、ローランドと合流してくれ」

2人を動力炉の防衛に回す。
ロイヤルミストの駆るカイザーが、早くも足止めを突破したと先程通信が入ったからだ。
恐らくカイザーもユニオン本隊の救援に向かうと思われるが、不測の事態ということもある。
更に言ってしまえば、どうせタンク型ACの機動力ではあちらには間に合わないのだから。

「こ、こちらパルテノン・・・助け・・・!!」

思考を遮って突然飛び込んできた通信が、爆音とノイズで途切れる。
・・・どういうことだ。
パルテノンが相手にしていたACは、ランキング外のレイヴンの筈だ。
パルテノンのOXと云えば、"鉄の闘牛"だか何だかとの2つ名を持った、そこそこ名の知られたレイヴンの筈だ。

「・・・ふん」

そこまで考えて、アレクセイは自嘲を含んだ嘲りを漏らした。


――所詮、アリーナはアリーナ。見世物と本物の戦場とは違うということだ。
同様に。
――企業の飼い犬など、あの自由な鴉達とは比べるべくもないのだ。


そんな言葉を打ち消すように、マシンガンを撃ち放つ。

「"紅い神槍"・・・片付けさせて貰うっ!」




「・・・やれやれ、この状況で退却しろとはまた面倒なコトを言ってくれる」

スレイプニルの前方400mには、"Last Supper"のタンクACが2機。
連射兵器でこちらの動きを制限しながら、ゆっくりと距離を詰めてくる。
こちらに退却命令が出た途端、随分と積極的になったものだ。
やはり、こちらの情報は向こうに筒抜けということのようだ。
ちょくちょくミサイルやレーザーキャノンを浴びせてはいるものの、あの重装甲相手だ、余り効果が出ているとは思えない。
かといって、得意のブレード戦を仕掛けようと接近すれば、強力な火線の十字砲火によって、即座に撃破されるだろう。
退却しようと背を向けても、向こうは嵩にかかって全火力を浴びせてくるだろう。
とはいえ、このまま何もしなければ同じことだ。
「参ったね、全く」
す、と火の点いていない煙草を咥えて、暫し瞑目する。
その頭の中では、様々な思考が次々と流れては消えてゆく。


――正面の2機を撃破して退却する。
否、それでは時間が掛かり過ぎる。
ユニオンの部隊はおろか、退路が封じられる可能性がある。
――片方のみに攻撃を集中し、敵の動揺に乗じて退却。
それも否。
連中の機体は重装甲、この距離からでは1機に集中したとしても難しい。
――ブレードで撃破。
否、奴らとて素人ではない。
この狭いフロアで、"紅い神槍"をブレードレンジに近づけるという愚を犯すとは思えない。
――この際、無視をして撤退。
否。ゲートを開ける際には、どうしても連中に背後を向けなくてはならない。
スレイプニルの背面装甲では、連中の火線を耐えられない。
――ならば攻撃して隙を作り、その間に退却。
否だ。
ミサイルはデコイ及び迎撃機銃で墜とされる。
レーザーキャノンは連中の重装甲に阻まれてさしたる効果も無いだろう。


「つまるところ、手詰まりか」

が、言葉とは裏腹に、その顔には笑みが浮かんでいる。
この危険な状況も、シェリルに取っては心地の良い刺激でしかない。
強敵との命のやり取りを心から楽しむ――シェリルは、そんな根っからのレイヴンだった。
ゴトン、と音を立ててミサイルポッドが地面に落ち、今まで鳴り響いていた重量過多の警告音が止まる。
煙草を胸のポケットに差し、操縦スティックを握り締める。


「ここから先は、腕次第というわけだ――行くぞ!」




ゴウ、と後方の『ガングート』からの砲撃がユニオンのMTを何機も巻き込んで薙ぎ倒す。
CWX-LIC-10――ACに備えて余り放つ訳にはいかないが、毎度ながら凄い威力である。

「ナイス、ヘレナ!」

歓声を上げたのは、『シグナス』に搭乗するアリシア=コールライトだ。
その彼女も、大量のMTや戦闘メカで構成されるユニオンの部隊の間を乱舞して、次々と炎に包んでゆく。
オービットの放つ光条や、右手の特殊マシンガンの派手な発砲炎によって闇に浮かぶ彼女の機。
それは、見る者に華麗な舞いを想起させる異様な美しさがある。
だが、それが紡ぐ曲は、炎と死の輪舞だ。

「こちらファイアドレイク!もう保ちそうに無い!」
「ち・・・ACが戻ってくる前に片付けるぞっ!」

施設内のACの通信を受けて、『タウロス』に搭乗する"Last Supper"第6小隊長ケイン=ナウミが喝を飛ばす。
ミサイルとロケット、マシンガンにブレードという中量級の機体を駆り、OBで敵中を縦横無尽に疾り抜ける。
それに遅れて、ケヴィン=ダーナスの『ラン・ボー』がブースターを全開にして続く。
OB機能の無い上に重量級のラン・ボーは、タウロスに比べれば大分ゆっくりと進行していく。
タウロスが撃ち漏らした敵機を、ラン・ボーが両手のアサルトライフルで撃破していく。
ダダダッとアサルトライフルが唸る度、1機のMTが動きを止める。
ラン・ボーの後背部に浮遊するイクシードオービットから、KARASAWAに匹敵すると云われる威力のエネルギー弾が放たれる。
ミラージュのMTが、また1機吹き飛んだ。
ミラージュとユニオンの部隊の迎撃に出た第6小隊は、概ねその任務を達成しつつある。
後方に位置していたミラージュの部隊にまず襲い掛かり、そのままの勢いでユニオンの部隊へと突入した。
不意を突かれたミラージュ隊はほぼ壊走し、既に残敵掃討の様相を呈している。
隊列を整える時間のあったユニオン側は、ミラージュに比べれば多少はマシだが、それも時間の問題だった。
ヘレナ=サンクラウンの乗るガングートの砲撃で、一瞬開いた隊列の穴にアリシアのシグナスが飛び込んだのだ。
隊長機をガングートのENスナイパーライフルの狙撃で失った後は、シグナスに良いように蹂躙されるのみだった。




「うあああああっ!!」

『ファイアドレイク』のレイヴン、フレイムハートの絶叫が響く。
パーティプレイの狙い済ました連装ロケットが直撃し、着弾の隙にブレードを突き立てられたのだ。
止めとばかりに至近距離でトリプルロケットを放ったパーティプレイだが、フレイムハートは既にブレードによって蒸発していた。

「ち、畜生・・・!」

僚機を失ったレイヴン、エアレイドがレーザーライフルを放ちながら、『サンライズ』を後退させる。
倹約家で知られるレイヴンは、これ以上の損害を避けるために逃走に移ったのだ。
恐らく彼の任務は、施設の防衛であって、ジョーカーを撃破することではない。
ここでパーティプレイが追わなければ、無駄な戦闘は挑んでこないだろう。

「ふう・・・絶好調になってきたことだし・・・あちらさんの手伝いに向かうか」

どの道、撤退するには来た道を引き返すよりも、向こうのルートの方が早い。
マップ表示を確認しながら、パーティプレイは自機を横の通路へと滑らせる。
フロート型のジョーカーの機動力ならば、数分と掛からずにあちらに着けるだろう。
そう判断したパーティプレイだが、次のフロアに入った瞬間、それが間違いだったと気付く。
ラインビーム砲台"フォーシットL"6基と浮遊型ガードメカ"ホークモス"が10機。
それだけならとにかく、ジャマーメカ"ノイザムフライ"が居るらしく、通信・レーダー・FCS全てがイカれている。
もっとも・・・

「そんなものが効くか!」

次々に放たれる敵の攻撃を回避していくジョーカーが発射するロケットは、次々にラインビーム砲台を粉微塵にしていく。
ジョーカーには一応中型ミサイルも積んであるが、主力はあくまでも腕と肩のロケット、そしてブレードだ。
FCSに異常が発生したところで、なんら問題はない。
レーダーも、この狭いフロアでは意味を成さない。
天井砲台を全て破壊したパーティプレイは、自機にブレードを発振させて、ガードメカの群れに斬り込んでいった。




「遅かった・・・!」

そのフロアに入った直後、ワルキューレの視界に飛び込んできた光景。
それは、リニアガンとレーザーキャノンで破壊され、地面に膝をついているアパシーだった。
右腕は肩のキャノンごと千切れ落ち、頭部も破損している。
コアにもレーザーキャノンでの融解痕が幾つも見受けられる。
それを行ったであろうAC――イージスは既にその場には居らず、ただ黒煙を上げるACだけがそのフロアに残されていた。

「――・・・生体反応?まさか・・・」

コンソールを操作して、その反応を調べる。
――やはり。
破壊されたアパシーの内部からの反応だ。
ACが撃破されても、レイヴンが生存しているというケースは珍しくは無い。
要は、コクピットへの損害が無ければレイヴン自身の生命には問題は無いのだ。
まあ、水没して救助が間に合わず酸素が切れ窒息死したり、高熱によって蒸し焼きになったりする場合もあるが。
もっとも、レイヴンが生存していたとしても、このような敵地では帰還は覚束ない。
一応、撃破されたACのレイヴンに危害を加えることはコーテックスより禁止されてはいる。
だが、自軍を蹂躙したACのパイロットを、兵が素直に帰すわけがないのだ。
そのような規定など、見ているものが居なければ何の拘束にもならない。
通信が生きていれば、コーテックスに生存の通信を行うので、殺されるということは無いだろうが・・・。
確かアパシーのレイヴン、イエローボートは若い女性だった筈だ。
そのようなレイヴンが、捕虜になればどんな仕打ちを受けるかなど、想像に難くない。
舌打ちして、ワルキューレはアパシーへと通信を送る。
その舌打ちは、下衆な男達へ向けられたものか、はたまた戦場で他人の心配をしている彼女自身の甘さへと向けられたのか。

「アパシー、応答して。アパシー、こちらはグナーよ」

だが、気絶でもしているのかイエローボートからの応答は無い。
頭部の損傷にも関わらず、通信系は生きてはいるようだが・・・。
流石に、いつ敵が出てくるかもしれない状況でACを降りるわけにはいかない。
機体ごと連れ帰るしか無いが、軽量級のグナーでは、2機分の重量を運ぶパワーは余り無い。

「仕方ないわね・・・」

呟くや、ブレードを起動して、アパシーのコアと脚部の接合部に走らせる。
そのまま左腕で、アパシーのコア部分を抱えるようにして持ち上げる。
軽量のグナーは一瞬バランスを崩したが、すぐにオートバランサーが働いて姿勢を正常に戻った。

「このまま敵と出会わなければ良いけれど・・・」

まあ、イエローボートが進んできた道だ。
事前に設置しておくタイプのガードメカや砲台などは無いだろうが・・・。
と、幾つかのフロアを抜けて通路の角を曲がると、レーダーに敵反応が複数表示された。
次のフロアに、敵が居るということだろう。
アパシーのコアを抱えている今は、得意の空中戦は出来ない。
左腕も塞がっている為、ブレードも使用不能だ。

「・・・そう簡単にはいかないわね・・・でも」

「"戦乙女"の名が、伊達じゃないということを教えてあげるわ・・・!」




ガガガガ、と機体に衝撃が走った。

「チッ!!喰らったか!?」

今までAC2機からの火線を紙一重で回避し続けていたシェリルだが、ついに被弾を許してしまった。
何度目かの直撃弾を与え、柱の背後へと隠れようとした刹那だった。
グリーンマイルからのチェインガンを数発コアに喰らったらしい。
余り戦闘継続には問題無いが、このまま回避し続けながら攻撃するにも限度がある。
こちらの攻撃は、確実に当たってはいるが、余り効果が見えてこないのが辛い。

「流石に、"Last Supper"は違う・・・!」

エアテイクや間接などのウィークポイントを狙って発射するのだが、それらは腕などでガードされ、直撃を防がれている。
再びショットガンを発射して牽制するが、ゲートキーパーのEXシールドに防がれた。
既に、スレイプニルの発射したショットガンの弾は50発を超えようとしている。

「・・・全く、レインと主任に感謝だな」

余分にマガジンを積み込んでいなければ、そろそろ弾が切れる頃である。
――しかし、残りの全弾を叩き込んでも、あの重装甲の2機を破壊しきれるかどうかは自信が無い。
弾切れを待ってブレードで仕掛けようにも、相手はかなりの弾数を誇る兵装だ。
第一、弾切れなどを待っている間に退路は塞がれてしまうだろう。

「・・・賭けてみるか・・・」

と、床に転がるそれを掴み上げる。
過積載のアラームが再び鳴り出すが、問題はない。
・・・チャンスは、一瞬。

「こちらジョーカー、援護するっ!」

ゲートが開き、味方ACが飛び出してくる。
それに気を取られて、弾幕に一瞬の隙が出来た刹那。

「行けえッ!」

ぶん、とそれを敵ACに向かって放り投げる。
反射的にそれを撃ち落とそうと、ゲートキーパーから撃ち込まれたガトリングガンは、見事に命中した。
――スレイプニルが先刻まで積んでいた、ミサイルポッドへと。
ズン、と爆発が巻き起こる。
残っていた10数本のミサイルが、一度に爆発したのだ。
至近距離でミサイル10数本分の爆発を受けたのだ、幾ら重装甲のACといえど、損害は受ける。
ゲートキーパーのガトリングの給弾ベルトが爆風に耐え切れずに吹き飛んで使い物にならなくなる。
更に、爆風で視界が塞がれた瞬間にシェリルは飛び出し、レーザーキャノンをグリーンマイルの頭部に直撃させる。
頭部の中では最も耐久力のあるMHD-SS/CRUSTだが、キャノンの直撃を受けては堪らない。
メインカメラを含め、前面が殆ど吹き飛んでしまった。
ダッ、と飛び出すスレイプニルに、ゲートキーパーがマシンガンを放とうとするが、ジョーカーのロケットがそれを吹き飛ばした。
視界ゼロのグリーンマイルに対し、シェリルは左腕のMoonlightを横薙ぎに斬り付ける。
人間で言えば腰の部分――コアと脚部の接合部付近に叩き付けられたMoonlightは、容易くグリーンマイルを両断した。
グリーンマイルの上半身が床に転がるが、シェリルはそれを意にも介さずゲートまで駆け抜ける。
兵装を全て失ったゲートキーパーに止めを刺すよりも、離脱の方が優先と判断したらしい。
その意図に気付いたパーティプレイも後に続く。
一応の保険として、ゲートキーパーの僅かに露出しているキャタピラ部にロケットを撃ち込み行動不能にする。

「スレイプニルよりジョーカー!一気に離脱する!」
「了解した!そちらに続く!」




「・・・か!ランドルフ!おい!」

意識が戻ると、目の前にアレクセイのむさ苦しい顔があった。
頭がズキズキと痛むのは、"紅い神槍"に斬り飛ばされて床を転がった際に頭を打ったのだろう。
割れたディスプレイの破片が刺さったのか、額を押さえた手に赤いものが付着した。

「アレクセイか・・・状況は・・・?」

見れば、アレクセイの機体も戦闘が出来る状況ではない事は明白だ。
もっとも、俺が聞きたいのは全体の状況だ。

「一応、レイヴンはフライングフィックス・イエローボートの2機を撃破、ミラージュ及びユニオンの部隊はほぼ殲滅したらしいがな」

戦果はそれだけというわけだ。
“Last Supper”2個小隊以外に、ランカー4名を含むレイヴン8名を投入した割りには、ACの戦果が少ない。
被害は?と目線で先を促す。

「ああ・・・ランク外4人は全滅、ランカーもOXが落ちたな」
「我が隊も俺とお前が大破・・・それに、第6小隊のケヴィンが死んだよ、"紅い神槍"とパーティプレイにやられたらしい」

投入した16機のうち、半分が撃破されたということか。
ユニオンの投入してきたレイヴンが、それだけ腕が良かったということだ。

「事前に情報を得ていてこの結果とはな・・・ああ、奴はどうなるんだろうな」
「ふむ・・・ケヴィンの代わりに第6小隊に入るんじゃないか?」
「ああ、そうかもな・・・」

しかし、この戦闘は勝ったのか負けたのか。
動力炉を破壊し、情報を奪取するというユニオンの意図を挫き、部隊を殲滅したのだ。
戦略的に見れば我々の勝ちと言っていいだろう。
しかし、投入したACのうちの半分――8機ものACが撃破されたのだ、
戦術的に言えば、我々の負けだろう。
もっとも上に取っては、レイヴンが死んだところで報酬を払う必要がなくなるだけの事だろうが。
ふと、アレクセイが尋ねてくる。

「・・・さて、どうする?」

決まってるじゃねえか。
ポケットから煙草の箱を出し、一本口に咥えて火を点け・・・ん?

「・・・なあ、火持ってねえか?」
「俺は吸わんのを知ってるだろう」

・・・生き延びた自分への祝いの煙草は、少々お預けのようだ。

「・・・やれやれ・・・」








前条でふ。
今回は気合入れて書きましたヨー。
所々おかしいのは一気に書いたからだと思われ。
新キャラがガンガン出てるので、設定は別にしてあります。
いえ、AC設定だけで1話分くらいになってるんで・・・(汗
出た直後に御退場願ったキャラも数名居りますが、まあ。
SLで、アリーナに居ないレイヴンがミッションに参加してたので、こういうのもありかな、と。
余談ですが、旧基幹要塞のクラウンシーフ嬢は中々良い声・・・(大ロケ着弾






「ルクスかワルキューレ、ライター無いか・・・?」
「「吸いません」」

ランドルフは、自分を撃墜した相手も同じ状況になっていることなど、知る由もなかった。
作者:前条さん