サイドストーリー

Underground Party 7話 〜トレネの炎〜
Title:都市占領部隊排除
我が社が管轄しているトレネシティに対し、クレストのものと思われる部隊が侵入した。
レイヴンを含む相応の部隊で迎撃に当たっているが、我が社の施設のある都市中心部が制圧された。
現地へ増援に向かい、これを排除してもらいたい。
警備部隊の大部分が現在キサラギと合同で訓練を行っており、その情報を得ての行動だと思われる。
侵攻部隊はACを含むかなりの戦力を持っているが、このような卑劣な行動を、決して許すわけにはいかない。
なお、レイヴンを含む一部の部隊は未だ健在だ。また、こちらから僚機も派遣する。
彼らと協力して作戦にあたってくれ。
その為、報酬は撃破数に応じて支払うこととする。
それでは、宜しく頼む。



「・・・はふ・・・何か、ツラそうだなあ・・・」

蒼い髪を後ろで纏めた若い女性がコンピュータに向かってぼやいた。
彼女の名を、リーズ=シェフィールドという。
リーズのオペレータ、セリア=サーネットが回してきた依頼がこれだ。
新参のEランカーに回される依頼にしては、少々難度が高いようにも思える。
見れば、僚機としてつけられたレイヴンも、つい先日ランカーに昇格したばかりのようだ。
要するに、これはミラージュの試しなのだろう。
恐らく、最初に雇ったレイヴンのみでも、任務は完遂出来なくもないのだろう。
そこに、新参の私達を増援として投入する。
腐ってもランカーだ、悪くともそこそこの戦力にはなるだろうから、ミラージュの残存部隊の被害も減る。
ついでに、私達の実力も確かめられて、ミラージュにとっては一石二鳥というわけだ。

「・・・好きじゃないな、こういうの」

呟いて、デスク脇に置いたカップを取り、紅茶を啜る。
とはいえ、折角セリアが回してくれた依頼だ。
ちゃんと受けなくてはなるまい。
そう思って、リーズは依頼受諾の返事を送る。
この手の依頼では、受諾=即出撃となる。
幸いリーズの住居はコーテックスのガレージからそう遠くない。
セリアが既にコーテックスへと連絡をしているだろうから、ガレージに着いた頃には出撃準備は整っているだろう。
カップに残っていた紅茶を飲み干して、リーズは席を立つ。

「よし、行くか!」

と、リーズ――レイヴン『ブルーローズ』は、愛機『ブロージット』の元へ向かうべく、家を出た。


ビーンバック社製軽自動車『ライト』――通称"豆"、これがリーズの車だ。
4人が乗るのが精一杯の小さい車だが、足回りは抜群で瞬発力があり、小回りが利く。
以前は市街のそこここで見掛けたが、最近では新型モデルに押されて、その愛嬌のある丸っこい姿を余り見なくなった気がする。
レイヴンとなり、ランカーと呼ばれるまでになった今、これより良い車など幾らでも買える。
彼女が20発もチェインガンを無駄撃ちすれば、それだけで最高クラスの高級車が1台買えてしまうのだ。
だが、彼女は車を買い換える気は無い。
何というか、この車と自分は相性がいい気がするのだ。
私かこの車のどちらかが壊れるまで、私はこの車に乗り続けるだろう。
ハンドルを握りながらそんな事を考えていると、ポケットの携帯電話が鳴り響いた。
目の前の信号が丁度良く赤になったので、手に取って通話ボタンを押す。

「はい、こちらシェフィールド〜」
「セリアです。リーズ、今どちらですか?」

自らの担当のオペレータからだった。

「ん?えーっと、あと2分ほどでガレージに着くけど?」

信号が青に変わり、アクセルを踏み込む。
軽い振動と共に、クイッと豆は加速する。
静粛さも、この車の特徴である。

「既にACは輸送機に積み込んだそうなので、直接飛行場へと向かってください」

トレネシティまでは、輸送機で移動するらしい。
緊急を要する依頼だから、当然といえば当然か。
直接飛行場へ乗り付ければ、ガレージから飛行場へ移動する時間が節約出来るというわけだ。

「オーケー、セリア。じゃあ切るわ、私運転の方はそんなに得意じゃないの」
「ええ、運転中の携帯電話は危険ですからね。それでは、後で」

冗談だと思ったのか、電話の向こうでセリアがクスクスと笑っているのが聞こえてリーズは憮然とする。
ACの操縦と車の運転とはまた別物なのだ。
――別に、運転の苦手なレイヴンが居たっておかしくはないじゃない。
心の中で文句を言って、リーズは携帯電話をポケットへとしまった。
リーズが一瞬手元に下ろしていた視線を上げると、カーブが既に目の前に迫っていたりしたのだった。



「こちらはレーヴァテインだ。ブロージット、宜しく頼むよ」

レーダーを見る限り、付近に降下したらしい僚機から通信が入る。
輸送機が敵の高機動型MT"ブルーオスプリー"の襲撃を受け、目標の市街中心部まで辿り着く前に降下する羽目になってしまったのだ。
降下する際に確認したが、ここから北にもう少し進んだ辺りが戦場になっているらしい。
本来なら私達は、敵の展開する市街中心に降下して、不意を突く予定だったのだが。

「宜しく、レーヴァテイン」

声を聞く限り、私より少し上の男性のようだ。
輸送機の中でセリアに聞いたが、このルクスというレイヴンは、経歴が一切謎ということらしいが、腕は良いとのことだ。
何でも先日のクレストのデータバンク襲撃事件で、クレストに雇われていたCランカーのOXを撃破したのが彼だとか。

「ブロージット、俺は西側から戦場に向かう」

要するに、それは私に東側から向かえということだ。
超軽量級のレーヴァテインは速く、レーダーの光点がどんどんと先に進んでゆく。
まあ、あちらのデータを見る限り、通常のブースト速度では200km/hもの差があるのだから当然といえば当然か。

「遅れちゃいけないね」

呟いて、スティックを一回深く押し込むと、衝撃に備えて腹に力を込める。
ドン、という音。OBが発動され一気に機体が加速された。
体中の血が背中に集まるような感覚と共に、身体がシートに押し付けられる。
レーダーを見れば、赤と緑の光点が入り乱れる戦場がぐんぐんと近づいて来る。
OBは流石に速い。
だが、エネルギー消費も身体に掛かる負担も莫大なものだ。
エネルギーゲージが半分くらいまで減ったところでOBを解除し、あとは軽くブーストを吹かして、余剰推力が機体を運ぶに任せる。
既に機体は戦場へと突入している。
しかし、OBを一度発動しただけなのに、どっと疲れが溜まった。
それでも、このブロージットのOBなど楽な方だという。
最速クラスのACになると、戦闘重量でも重量級のOB並みの速度のブースト機動を行うらしい。
それがOBともなれば、800km/h台の速度を叩き出すとか・・・。
私くらいでは、そんなOBのGなど受けたら、失神してしまうのではないだろうか。
そんな思考を遮って、戦闘中のレイヴンから通信が入った。

「増援のレイヴンか。まあ、協力するとしようか」

戦闘中だというのに、大分クールな声だ。
何処かで聞いたこともあるような気がするが、思い出せない。

「そういえば・・・戦闘中のレイヴンって、どんなACに乗ってるの?」

ふと気になった疑問をセリアへと尋ねる。
同時に出撃するルクスばかりを気にしていて、そちらの方は全く聞いていない。

「待ってくださいね、今モニターに出します」

数秒後、ACの構成とレイヴンの簡単な説明がサブモニターに表示される。
それを見て、私は驚いた。

「ファ、ファナティック様!?」
「ブルーローズ・・・貴女、まさか・・・」

その、様というところにセリアが目敏く・・・いや、この場合耳敏くか?とにかく、反応して呆れた声を漏らした。
セリアが思った通り、私はファナティックFCの一員である。
ちなみに、会員NOは18695だったりする。
レイヴンになったのも、殆どファナティック様に憧れてのようなものだ。

「一緒にお仕事が出来るなんて・・・レイヴンになって良かったわ・・・」
「レイヴン、トリップしている所悪いが、敵だ!」

私の妄想を遮って、近くの重装MT"スクータムD"のパイロットが叫ぶ。
ハッと気付けば、上空からブルーオスプリー2機が、大型機銃を連射しながら急降下してくる。
スクータムDのパイロットは、それを巨大な盾で防いでバズーカで反撃しているが、当たらない。

「このおっ!」

肩のチェインガンを展開して、一気に連射する。
ドドドドドドドッ!と重い銃声が響き、その火線に突っ込んだ1機が、右主翼を吹っ飛ばされて錐揉み回転をしつつ墜落する。
もう1機は上空を一航過した後、旋回して機体下部のビームキャノンを発射する態勢になりながら降下してくる。
ブルーオスプリーは、高機動と高火力を両立させるべく開発された飛行MTだ。
だが、そのビームキャノンを発射する際には射撃体勢を取らねばならず、その間は飛行出来ないという問題があった。
その為、空中で発射姿勢を取りつつ降下、着陸直後に発射、再び急いで飛行態勢に戻るという戦法が確立されている。
判っているものに当たってあげるほど、私は間抜けでもお人好しでもない。
こちらもブーストジャンプで同高度まで飛び上がると、左腕のバズーカを叩き込んで吹き飛ばした。

「流石だな、レイヴン!」

スクータムDのパイロットが賛辞を送ってくる。
直後、私は横合いからマシンガンの連射をマトモに受けて、機体が激震した。

「!?」

慌てて弾の飛んできた方向に機体を向けるが、何も居ない。
おかしい、確かに弾はこっちから・・・!?
ザン、と。
目の前に飛び込んできたのは黒い四脚AC『レッドアイ』。
何も無いところにブレードを突き立てている・・・?
そう思った直後、そのブレードの先端辺りの風景が歪み、ゆらりとスパークを散らしたMTの姿が現れた。

「え・・・!?」
「ステルス型だ、精々気を付ける事だ」

ドン、と爆発するMT。
どうやら、私はファナティック様に助けられたらしい。

「あ、ありがとうございます!」

礼を述べる暇も無く、レッドアイは再び戦闘の只中に戻ってゆく。
ふん、とファナティックの声が聞こえたような気もするが、どうだったのだろう。
・・・まあいい、今は仕事をしないと。
先ほど大型機銃を受けたスクータムも、既に戦闘を再開している。
あれだけの損傷を受けても戦えるのは、流石は重装型といったところだろう。

「よおし、手近なのは・・・」

レーダーを見れば、緑色の光点は7個。赤も10個程度だが、上空の敵機を示す青い光点も同じくらいある。
単純に数だけ見れば、敵は倍以上だ。
レーダーで捕らえた敵に一気にブーストで接近すると、戦闘ヘリ"ターバニット"だと判る。

「ええい、面倒くさい!」

叫ぶと、低空飛行して機銃を連射してくるターバニットに飛び掛り、バズーカの砲身で殴りつける。
グシャ、とコクピットが潰れ、そのターバニットは地面に落ちて爆発する。
と、モニターの端で味方のスクータムが崩れ落ちたのが目に入った。
見れば、自機のマシンガンの発射炎か何かの所為か、ゆらりとステルスMTが2機姿を現した

「喰らえっ!」

即座にチェインガンを構えると、2機目掛けて一気に掃射する。
どうやら装甲の方は余り硬くないらしく、その連射で2機とも撃破することが出来た。
ドン!と背後で爆音が響いた。
慌てて機体を向けると、ブルーオスプリーの残骸と、その後ろでバズーカを構えるスクータムの姿があった。

「レイヴン、混戦でキャノンを撃つ時は壁を背にするといい」

先程のパイロットの声だ。
どうやらACと共に戦うのにも大分慣れているらしい。
助けられたのとアドバイスを受けたのとで、素直にお礼が口に出る。

「ありがとう、助かったわ」
「お互い様さ。それよりレイヴン、中央のビル付近へ向かってくれ、味方レイヴンが敵ACと戦闘中らしい」



「黒い奴、以前より疾くなってやがる!」

カーティスが、レーヴァテインにマシンガンを放ちながら驚きの声を上げる。
厄介な相手に遭遇したものだ。
本来なら、こんな奴の相手などせずにさっさと離脱したいところだ。

「ラスティア!まだ作業は終わらないのか!?」

レッドアイを相手にしているウラノスが叫ぶ。
彼ら"Last Supper"第13小隊は、新任の小隊長の着任を受けて、早速ここトレネシティへと出撃命令を受けた。
キサラギに潜り込んでいるスパイの報告で、現在警備部隊の大半がキサラギと合同で訓練中との情報を得た為だ。
任務は、トレネシティ警備部隊の排除と、ミラージュの施設からのデータ奪取及び施設の破壊。
新型ステルスMT"フリューク"1個小隊、ブルーオスプリー・ターバニット各3個小隊と共に、このトレネシティへと強襲を掛けた。
敵の警備部隊は、スクータムD2個小隊、モア3個小隊、その他少数の戦闘車両程度しか残っていなかった。
ヘリの天敵である戦闘機隊やSAMなどの対空兵器は全て出払っていたのだ。
それもあり、市街中心部まで景気良く進攻していったのだが、程なく敵にレイヴンが現れたのだ。
C-3ファナティックの駆るレッドアイである。
Cランク上位ともなると、その実力はBランカーと余り変わらないものになってくる。
それを証明するように、ターバニット1個小隊の援護を受けて迎撃に向かった小隊長が墜とされ、ヘリの小隊も瞬く間に全滅した、
更に、そこへ敵の増援がやってきた。
レイヴンが2機・・・両方とも新人とはいえ、一応はランカーである。
ラスティアの搭乗するリディアは、施設内へと突入してデータ奪取の作業中の為、現在ACの数では2対3で負けている。
フリーのACを1機作ってしまう形になり、その為に被害数が急増している。

「終わりました!これより爆弾を設置して脱出します!」
「よし!ブルーオスプリー及びターバニットは戦闘中止、退却しろ!無駄な犠牲は出すな!」

ウラノスの指示に、各所で戦闘中だった強襲部隊の生き残りが、次々に戦闘領域外に離脱していく。
既にフリューク隊は4機とも全滅している。
レーダーを見る限り、生き残りは5機のみらしい。
と、ウラノスの視界が、離脱中のターバニットが被弾し、炎上して墜落するのが映った。
見れば、シティの警備部隊の生き残りだろうモアが、長い銃身をそちらに向けている。
逃げる者を撃つという行為に、ウラノスはカッと怒りを燃やした。

「下衆がっ!」

レッドアイの攻撃を切り抜けて、一気にそのモアに接近する。
接近されて初めて気付いたパイロットだが、既に遅い。
ウーランの両腕が唸りを上げ、装甲など無きに等しいモアを3つに切り飛ばした。
その直後、ロックオン警告が表示される。
正面から突っ込んでくる重量二脚・・・レッドアイではない、新手だ。
ACの戦術コンピュータが、その敵の機体名を告げる。
E-20ブロージット。マシンガン、バズーカ、チェインガン、小型ミサイルを装備した重量級だ。
マシンガンを小刻みに連射してくるのは、牽制も兼ねているのだろう。
恐らく本命はバズーカだ、その手には乗らない。

「狙いは良い・・・が、照準がまだ甘い・・・!」

こちらを狙ったバズーカは、ビルの一角を無駄に砕くだけで終わる。
それを読んでいたウラノスが、一気に上空へと機体を浮かせたからだ。
――このまま背後に回って、斬る!
ブロージットの上を飛び越そうとしたウーランの機体に、ドゴッと振動が走る。

「何だと・・・!?」

見れば、何時の間にそこに上がったのか、近くのビルの屋上に、バズーカを構えたMTが居る。
ブロージットに気を取られていた隙に、接近を許していたらしい。

「・・・くっ!」

バズーカを受けた衝撃で、機体がバランスを崩して落下する。
眼下のブロージットは、既に膝をつき、チェインガンを発射する態勢になっている・・・!
この体勢からでは回避は出来ない・・・相討ち覚悟でこのまま斬り下ろすッ!
左腕を盾のように構え、自由落下に任せるままにブロージット目掛けて降下する。
ドドドドドドドッ!
回転する銃身から吐き出される弾が、次々に命中し、犠牲にした左腕を単なる鉄クズへと変える。
腕を引き千切った銃弾の群れは、コアにも醜い弾痕を幾つも刻んでいく。

「おおおおおっ!」

気合一閃。
ザン、と叩き付けた右腕のブレードは、重量級のブロージットの右肩に半ばまで食い込んだ。
レッドアイとの戦闘での被弾で、出力が少々落ちていたのか。
肩から腕を切り落としてやるつもりだったのだが。

「離れて!」

その声に鋭敏に反応し、ウラノスは機体を即座に飛び退かせる。
既に立ち上がっていたブロージットも、飛んでくる火球に気付き、ブーストジャンプで回避する。
ドォン!と爆音が響き、2機の中間でグレネードが炸裂した。
ミラージュのビルの出入り口で、リディアがグレネードキャノンを構えていた。
なおもウーランに仕掛けようとするブロージットに、リディアがスナイパーライフルを連射して牽制を掛ける。

「爆発まで時間がありません!ウラノスさん、カーティスさん、離脱してください!」


「ンなコト言ったって・・・よぉっ!」

追加弾倉をパージして何とか機動性を同等に保っているが、技量の差は如何ともし難い。
先程からカーティスが交戦している黒い奴――レーヴァテインは、とても先日アリーナに登録されたばかりとは思えない動きだ。
以前に遭遇した時とは武装が多少変更され、両腕にショットガン、そして肩の小型ロケットという兵装になっていた。
速度は同程度の筈なのに、レーヴァテインは縦横無尽に飛び回り、カース・オブ・カオスの死角を突いては強烈な一撃を見舞ってきた。
両腕のショットガンから至近距離で繰り出される散弾の群れは、容赦なくカース・オブ・カオスの装甲を疲弊させてゆく。
こんな敵に背後を向けて離脱するなど、恐ろしくて出来たものではない。
OBで離脱しようにも、カース・オブ・カオスとレーヴァテインのコアは同じCCL-01-NERで、OBの出力は同じだ。

「クソッタレが・・・!」

タラララララッと両腕のマシンガンを斉射するが、レーヴァテインには当たらず、ミラージュのビルの窓ガラスを砕く。
ぱらぱらと、光るガラス片が飛び散るのを見て、カーティスの頭に何かが閃いた。
上を見れば、お誂え向きのものがあるではないか。

「その手があるか・・・ラスティアちゃん、聞こえるか?」

数瞬後に、ラスティアが焦った声で応答した。

「カーティスさん!急がないと爆弾が・・・!」
「俺の真上の通路にグレネード叩っ込んでくれ!撃ったらすぐに領域から脱出していい!」

無論、あちらも戦闘中だろうが、これしかない。
キャノンを構える隙を、敵が見逃してくれるとは思えないが、やってもらうしかない。

「ラスティア!俺がレッドアイとブロージットを引き付ける、その隙に撃て!」

その言葉と共に、片腕のウーランが、ブロージットに背を向けてリディアと戦闘中のレッドアイに向けて突撃する。
ブロージットがウーランの背面を狙ってバズーカを放つが、それを紙一重で避けたウーランは、レッドアイにロケットを撃つ。
不意を突かれて被弾を許したレッドアイだが、すぐに目標を切り替えてウーランの目前へスラッグガンをバラ撒く。
広範囲に拡散するスラッグガンを避けきれず、ウーランが数発を被弾して揺れる。
止む無くウラノスはOBを発動して、一気に離脱する。
――構えるリディアにとっては、その短時間だけで十分すぎるほどだった。
ゴウ!と唸りを上げて、榴弾が砲身から飛び出していく。
発射前にOBのチャージを開始していたリディアは、ブロージットとレッドアイのマシンガンの火線を置き去りに、悠々と離脱に成功する。



「これで終わりっ!」

レーヴァテインが、正面のカース・オブ・カオスに向けて急接近する。
既にあちこちからスパークを散らして崩壊寸前のカース・オブ・カオス。
度重なる被弾で疲弊している装甲は、これ以上の攻撃に耐えられないだろう。
が。

グワッ!ドドドドドド!!

「うわっ!?」

轟音と共に、大量の瓦礫が目前に降ってくる。
慌ててルクスが急制動を掛けた為、レーヴァテインがその破壊の滝の只中に突っ込むことは避けられた。
軽装甲のレーヴァテインでは、こんな大きな破片を喰らっては装甲が保たない。
流れ弾だろう、とルクスが思っていたグレネードが、直上のビルの通路に直撃し、破壊した結果だ。
ルクスが一瞬怯んだその隙に、カース・オブ・カオスはOBで一気に飛翔する。
ルクスは濛々と立ち込める粉塵の中、OBのプラズマ推進の光に向けてショットガンを連射したが、取り逃がしたようだった。

「くそ・・・やりやがったな・・・!」

もう一撃で撃破出来たのだが。
そんな思いから、ついつい罵声が口を吐いて出た。
すると、ミラージュのMTから作戦終了の通信が入る。

「全敵勢力の離脱を確認。レイヴン、感謝する」

レーダーでは確認していたが、"Last Supper"相手によくMTが生き残れたものだ。
重装型の肩書きは伊達じゃないということだろうか。

「作戦終了です、お疲れ様でしたっ」
「お、そか。エマちゃん、今日もサンキュッ」

・・・若いオペレータに労いの言葉を掛けられて、先程までの怒りも何処へやら、である。
まあ、切り替えが早いのは良いことだろう。
そんなルクスに呆れたか、ファナティックも自らのオペレータへと帰投の報告を入れようと通信を開いた。

「まあ、あんなものか・・・レッドアイ、これより帰還・・・」

と、その時。
カッ!という光と共に、何かが弾けた。
ファナティックの鍛えられた動体視力には、ビルが内側から膨らんでいくように見えた。
刹那のうちにそれが爆発だと判ったのは、レイヴンとしての経験から来る勘だったのかもしれない。

「全機、離脱しろ――ッ!!」

ファナティックが声の限りに絶叫するのと、トレネシティ中央部に聳え立つ巨大複合ビルの基部が吹き飛ぶのとは同時だった。







前条です。
またまた登場、第13小隊。
今回は小隊長の設定すらありませんが、まあ今回も戦死致しました。
そしてもう片方の主役は前回登場のレイヴン、ブルーローズです。
自分で付けておきながら本名が気に入ったので、ちょっと活躍して貰いました。
ちなみに裏設定ですが、第13小隊が奪取したデータというのは、ユニオンに関するデータです。
そこからユニオンの定期輸送路を割り出し、データカプセル回収へ流れる予定です。
もうすぐユニオン襲撃です、祭りでーす。









AC・キャラ設定。

PL:ブルーローズ  E-16
本名リーズ=シェフィールド (Reese=Sheffield) 21歳
同期の誰かさんとは違い、バランスの取れた重量級のACを操る。
まだ荒削りながら、その戦いには才能の片鱗を感じる。
将来の上位進出が予想される注目株。
AC:ブロージット (Brosit)
頭:CHD-MISTEYE
コア:MCH-MX/GROA
腕部:CAH-22-NIX
脚部:MLH-MX/VOLAR
ブースター:CBT-01-UN8
FCS:AOX-F/ST-6
ジェネレータ:CGP-ROZ
ラジエータ:RMR-ICICLE
インサイド:MWI-DD/20
エクステンション:MWEM-R/24
右肩武器:CWC-CNG-300
左肩武器:MWM-S42/6
右手武器:CWG-MG-500
左手武器:CWG-BZL-40
オプション:
 S-SCR    E/SCR    S/STAB   LFCS++   L/TRN    
ASMコード:Uf0gaHZ72fGH53YW01


PL:ルクス  E-14
アリーナ参戦以来、現在まで連勝を続けている。
素性が一切謎に包まれているレイヴン。
その驚異的な戦闘能力から、死んだレイヴンの生まれ変わりでは、等と噂される。
「影の薄い副主人公ですが・・・何か文句でも?」
AC:レーヴァテイン
頭:CHD-SKYEYE
コア:CCL-01-NER
腕部:CAL-44-EAS
脚部:CLL-SECTOR
ブースター:CBT-FLEET
FCS:VREX-WS-1
ジェネレータ:CGP-ROZ
ラジエータ:RMR-SA44
インサイド:None
エクステンション:None
右肩武器:CWR-S30
左肩武器:None
右手武器:CWG-GS-56
左手武器:MWG-GSL/72
オプション:
 S-SCR    E/SCR    S/STAB   LFCS++   L/TRN    
ASMコード:IGaWKXXW06G2XBYW02
作者:前条さん