サイドストーリー

気にしない、気にしない。
よお、よく来たな。
まあ、そこに座ってくれや。

…悪いな、こんなレストランなんかに呼び出しちまって。
実はお前にいろいろと聞いて欲しいことがあってよ。
……なに意外そうな顔してんだよ。
ああ、別にお前の事を話してもらう必要はないぜ?
聞いてもあんまり意味がないんでね。
…ん、ああ、あまり気にしないでくれ。
まあ何だ、実際に「人」で会うのは初めてみたいなモンだから、
自己紹介をさせてもらうぜ?トップランカーさん。
メビウスリングだ、よろしく頼む。

ん?何でお前の話「だけ」を聞かなきゃならないのかって?
何だよ、お前も身の上話をしたいのか?
……まあ、最後まで聞いてくれりゃあいいよ。
そんなにカタイ話にゃさせねえから、肩の力を抜いてくれ。
ほれ、タバコでも吸うか?
………ああ悪ぃ悪ぃ、火ィ忘れてたわ。
そらよ。
……さて、そろそろいいかい?


「さて、そうだなあ……まずはポピュラーなトコ、家族から行くか。」


俺はガキの頃、俺、親父、お袋、姉貴の4人で暮らしていた。
そん時から俺はなんにも興味のもてない、いけ好かないガキでな。
ん〜、そうだな、別に金持ちってわけでもない、それに貧乏でもねぇし。
いたってフツーの家族でフツーの家に住んでいたよ。面白みがなくて悪ぃが。
…おっと、別にこんなことは必要ないな。ま、話を続けるぜ。
いつの事だったっけ……ああそうだ、俺が13の頃だったっけな。
俺と姉貴は8年違いだから……20?
え?21?ごめんな、俺計算ヘタすぎるから…。
……おいおい、んな顔するなよ…。
んじゃ、話し続けますか。
でまあ、その姉貴が21の頃なんだけどよ。
俺、13だろ?なんつーか…そろそろいろんなことに興味を持つ時期だろ?
し、ししゃ、ししゃ……え〜と…。
……そう、「シシュンキ」だ。
なんつーか、おもむろに姉貴の部屋のドア、開けちまったんだよ。
そん時の姉貴、下着姿で部屋ん中うろついててさ。
そしたら姉貴、笑顔で正拳ぶちかましやがった…。
しかしまあ、そん時の姉貴の姿が妙に頭に残ってしょうがねぇんだ。
ま、んなこと「ざら」だろ?お前にだってあるだろ?
……また話がそれちまったな。じゃ、さっさと話しちまうぜ?
それで俺は、生まれて初めて「興味」を持ったのさ。
随分と歪んじゃいるが、俺はこれが「興味」ってものか、と何だか嬉しくなってな。
そうして、しばらく時間が経っていったんだ。
どれぐらいかな……2、3週間ぐらいだろうか?
まあ、いつもの事なんだが……姉貴が深夜になっても帰ってこなかったんだ。
つっても姉貴は結構しっかりしてて、遊んでても勉強はしっかりやってるから
家族の信用はなかなかデカかったんだ。こんなことぐらいなら大目に見てた。
「結果が返ってくるから」なんて、お袋がバカみたいに言ってたのをよく覚えてる。
…ああ、俺の姉貴大学生ね?医療機器の勉強してたみたいでな。
んで、いつものように両親は家のドアの鍵をかけずに、就寝したんだ。
……でもな。
次の日、入口の鍵がかかってなかったんだよ。
いつもは深夜帰ってきて、家のドアの鍵をかけて自分の部屋へ向かうはずなんだ。
それで、姉貴の部屋へ行ってみたんだよ。
…案の定だ。
鍵をかけ忘れて寝てた。
………。
………。
………だったら、よかったんだがな。
それで、どんどん時間が過ぎていった。
大学が始まる時間。
家族が昼食を取る時間。
姉貴が大学から帰ってくる時間。
家族が夕食を取る時間。
最初は、両親も帰ってくるだろう、遊びすぎているのだろう、
帰ったら、思いっきり叱ってやろう。などと言っていた。
しかし、時間が経つにつれ、親も心配がつのっていった。
そして、とうとう深夜の時間になってしまった。
俺ら家族はリビングに集まって、ソファに座っていた。
みんながみんな、下を向いて一言も喋らなかった。
親の心配も、頂点に達していたようだった。
…で、その時に一本の電話が来たんだ。
トゥルルルルルルル……ってな。
電話が鳴ったと思った途端に、すぐさま親父がガバッと立って、
リビングの端っこにある電話のところまでかなりの速さで歩いていったんだよ。
電話に出るなりなんなり、突然叫びだしたんだ。
お前、一体どこ行ってたんだ、とか突然大声出してな。
…ま、大声はそれ以降出さなかったよ。
「出なかった」って言った方が正しいかな?
その後、親父は「はい」って言葉を定期的に発声してたよ。
…しばらくして、受話器を落とした。
俺ら家族は、親父に車で連れられて、古ぼけた使われてない工場へ行った。
そこには警察がいっぱいいて、テレビでよく見たテープが入口に張り巡らされていた。
親父はなにやら警察としばらく話した後、テープの中へ入るように指示された。
しばらく歩いたら……何があったと思う?
…そう、姉貴がいたんだよ。
ぶっ倒れてた。
服は、何も着ていなかった。
…いや、破られていた。
顔は、人間がボーっとしたような顔のまま、死人になっていた。
体のあちこちに、何だか白いようなものがあちこちに付いていた。
…そう。
姉貴は昨日の夜から今日にかけて、誰かに拉致されてここに連れられ、
ありとあらゆる恥辱をうけて、最終的に、
ぶっ殺された。


……ま、昔の話だ。なんだ?いきなりダークすぎたか?
おい、タバコの灰、落ちそうだぜ?ほら、灰皿。
…はい、はい、はいっと。ああ、もう短ぇな、そのタバコ。
ほらよ、もう一本。
………と、OKかい?
え?両親はどうなったか?
あー……ま、一応生きてるぜ。
2人とも、あれから精神がイカレちまって、もうダメだけどね。
お袋は一日中下向いていて、微動だにしない。
親父はいつも薄笑いを浮かべてて、電話が鳴ると狂ったように泣きまわりやがる。
ま、「イノチ」は無事だよ、2人とも。
介護してやんねえのかって?ああ、その気はないね。
俺ぁこんな性格だからな。
……おっと、まだ話は終わってないぜ?
ヘコんでる場合じゃねえよ。イヤだろうが、もう少し付き合ってくんねえか?


「…ありゃあ、高校の時だったかな…?」


既に両親がイカレちまってて、俺は家で一人暮らしだった。
金は両親のを使ってる。ぶっちゃけた話、マジで不自由がなかった。
そして両親は、精神科の病院でゴタイソーな生活してたね。
俺は姉貴の死については、驚くほどすんなり受け入れててな。
まあ、ガキだったからっつうのもあったかもしれんが、
いかんせん前から家族というものに興味がなくてね。
ひどい人間と思うかもしれないが、俺にとって姉貴の死は
美人の隣のお姉さんが殺されたのよりちょっと深いぐらいだった。
興味がないからね、悲しみもそんなもんだったな。
…で、勉強もこれといって面白くはない。
「人間付き合い」ってぇのも全くだ。まるで興味がない。
「ともだちひゃくにん」とか言ってる小学生がうらやましかったな、あらゆる意味でね。
……とまあ、相変わらず高校生活を「楽しんでた」ワケですよ。
しかしだ、なんつーか、ほんの些細なことでちょっと変わったんだ。
学校帰りに中途半端に腹が減って、何か食いたくてしょうがなかったんだ。
でまあ、ふらふらと歩いていたら、すぐにレストランが見つかったのよ。
幸い定職でも食えるような金は持ってたから、迷わず入った。
中は結構小奇麗で、壁はタイル張り、テーブルは木で出来ていて、
その上からニスみたいなのが塗ってあって、天井についている黄色い明かりが反射してた。
…入口のすぐ左には、手作りみたいな女の子の人形が吊られてたっけ。
俺はとりあえずテキトーに席についたんだ。
すばやくウェイトレスのねーちゃんが来て、水とメニューをテーブルに置き、
帰り際に業務的な言葉を残して帰っていってな。
水を飲みに来た訳じゃねえから、すぐにメニューを開いたのよ。
で、俺はでっかいカレーの写真にすぐさま目がいったんだ。
何だか、そん時そのカレーがクソうまく見えて、迷わずそれを頼もうと決めたんだよ。
別にジュースは飲む気がしなかったから、すぐにメニューを閉じて
ウェイトレスのねーちゃんを呼んだ。
……どうも気に食わないんだが、何でカレー頼んだだけなのに頼んだモン繰り返すんだ?
それしか頼んでねーんだから、いちいち俺が頼んだモンもう一回繰り返さなくても
いいじゃねぇかよ、なあ?
暗算できねーけど、そこまでバカじゃねえよ。なあ?
おおっと、そうだな、話を戻そうか。
ま、5分か10分ぐらいぼーっとテキトーなこと考えてたら、カレーが来たのよ。
ん〜、なんつーか、そん時のカレーがホントにうまくてなあ。
カレーなんて俺も作れるし、よく食ってんのに、何だかうまかったよ。
で、すぐに食い終わっちまった。さほど量が多いわけでもなかったっつーのもあるが、
よっぽどそのカレーがうまかったんだろうな。マジで早かった。
で、特にもうレストランなんかに用なんぞねえから、すぐにレジへ向かったんだ。
値段は……そうそう、俺メニュー見たときに値段全く見てなかったから、
ちょっと気になってたんだよな。
高えのか?とか思ってたら、見事に予想を裏切ってくれたぜ。
かなり、安かった。
……え?具体的に?
………。
………。
……え〜と。
悪ぃ、覚えてないわ。
いやでも、随分と安かったぜ?あれ。
……まあこの際、具体的な値段なんぞ関係ないんだけど。
あー、なんだ。それで…そうそう、それからそのレストランが気に入っちゃってさあ。
毎日、学校の売店のメシ少なく食って、帰りにそのレストランに寄ることにしたのよ。
……毎日っつっても、5日しかもたなかったけどね。
そのレストラン、どうなったと思う?
…ま、話してやるよ。
6日目なんだけど、何故かその日は休みだったんだよ。
入口に「臨時休業」とかいう張り紙が張ってあってな。
せっかく小腹すかせて来たってぇのに…。
しゃあねぇから、その日は家の近くのコンビニによって、軽いもん買って、すぐ帰った。
何買ったかは……まあ、悪ぃけど毎度のごとく覚えてねえなあ。
で、次の日だ。
何だか異常に早く起きちまってなあ、その日は。
別に家でやることねぇし、朝飯食わずに学生服に着替えて家を出たんだ。
したら、突然腹が鳴りやがって。
それで、あのレストランに行こうと思ったんだよ。
まさかやってねえよなあ、とか思いながらそこ行ったら、案の定。
………。
………。
………だと、思ったんだけどねえ。
確かにドアの張り紙には「臨時休業」とは書いてあったんだ。
……いや、おかしいだろ?
「開店前」とか「CLOSED」とかならわかるぜ?
「臨時」って、おかしくないか?
…そう、昨日のままなんだよ。
しかも、ドアの隙間から明かりが微妙にもれてるんだよ。
そう、あの黄色い明かり。
「電気はついてる」ってこった。
そこで俺はおもむろに、ドアノブをひねってみたんだよ。
…「ガチャ」って音がしたね。
鍵、あいてんだよ。
その扉をゆっくりと押して、そ〜っと中へ入ってみた。
……何でそ〜っと入ったりしたのかは、何だかわかんねえや。
「そうしなきゃならない」ような気がしてたまらなかった。
そうしたら、何だか臭うんだよなぁ、何の臭いか知らねえけど。
ま、とりあえず俺は店を見渡してみたんだ。
カウンター越しに料理場が見えんだけど、誰も見えないんだよ。
テーブルにゃ、もちろん誰も座っていないし。
入口のすぐそばにある人形も、そのままだった。
……違うんだよ。
そのままじゃ、なかったんだよ。
まあ確かに「人」の「形」はしてたぜ?
当たり前だ。
……それは「人」そのものだったんだからな。
口から、血ィ流してた。
しかもその顔、よく見たら昨日のウェイトレスのねーちゃんなんだよ。
だが、おかしいんだ。
「女の子」の人形だぜ?
体系が明らかに違うんだよ、おかしいんだよ。
で、俺はおそるおそる「人形が着ていた」服の袖をまくってみた。
…正直、ぞっとしたわ。
腕が、手首から肘にかけてが、切り取られてた。
二の腕に手がついていやがんの。
両腕がそうなってたんだ。
で、俺はその服のスカートもめくってみた。
今度は、ふとももが切り取られてた。
すっかり、息するのも忘れちまったよ。
……そうしたら、今度はなんか「音」が聞こえてきたんだよ。
なんだか…ズルズル、ズルズル、って音がな。
どうやら、料理場のほうから聞こえてきたんだ。
本当なら逃げたいところなんだが、なんつーか、気になってしょうがなくてよ、
カウンター越しに、ちょっと中をのぞいてみたんだ。
…音の正体が、わかったよ。
……喰ってんだよ、人肉。
奥に男が座り込んでてさあ。
ジュルジュル、ジュルジュルって音立てながらさあ。
で、その隣には腕と足を切り取られてる人が8、9人転がってんだよ。
そしたら、その男、突然叫びだしたんだ。
「すぺありぶだあ」


…店長、だったみたいだな。
6日目に、息子が交通事故で突然死んじまったらしい。
いつもいつも店の経営で、ストレスが溜まっているところにそういう事件が来たんだと。
ま、納得できるっちゃあ納得できるよな?
…タバコ吸うかい?
いらねえってか。
……なあ、そろそろわかってきたんじゃねえの?
何で俺に、こんなに突然異常なことが起こるかが。
俺が何のためにあんたを呼んだのかが。
……何?
いままでで、恋をしたことがあるか?って?
あるさ。
ありゃあ高3ぐらいだったかな?
クラス1の美人とか噂されてた女がいてなあ、
ま、廊下ですれ違ったら、やっぱキレイだったわ。
ちょっと「ヒトメボレ」みたいな感じだったね。
…ああ、そうだよ。
3日後、男子集団にマワされて、その途中で自ら舌噛んで死んだ。
他にもあったなあ。
交差点ですれ違ったすげえカワイイOL集団が、渡り終わった直後に
ダンプカーで全員轢かれた。
家庭訪問に来た若ぇ女の先生、いままで全然意識してなかったんだけど、
なんかおっとりとした天然ボケで、顔も決して悪くなかったから
「いいな」と思ったら突然の心臓発作で即死。
あとそうだなあ、感じ悪ぃメガネかけたクソアマ。
そいつのことを無理矢理気に入って、恋人ぐらいまで関係を進めていったら、
次の日、料理中に誤って手首斬っちまったんだってさ。
それと道端でぶつかってきたヒゲオヤジ、突然キレ出してさあ。
ま、そんとき俺が必死にそいつの長所見つけて、本気で「いいヤツだ」と思った瞬間、
会社のビルから飛び降りたらしいぜ?
それからそうだなあ、運転が下手なせいで料金倍近く取ったタクシーの運転手。
いつも家の前でウンコしてる犬とその飼い主。
態度の悪ぃ売店の店員。
仕事で言やあ、腕の悪ぃ輸送機のパイロット。
まるで役に立たねぇ僚機。
感じの悪ぃ戦いしかしねぇランカーのレイヴン…。
アッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!
いやあ、話がうまく出来すぎてるぜ!ホントによお!!
むかつくヤツを好きになるのは地獄だが、その後で
天国以上の快楽が得られるんだぜ?
ハハハハハ……。
………。
………。
……どうだい?
これで、俺の話は一通り終わりだぜ?
…わかったろ?
俺が何故「興味」を持たないかが。
何であんたをここに呼んだのかが。
残念だよ、久々に俺より腕の立つレイヴンだったのにな……。
だから、せめて話は聞いて欲しかった。
俺とは全然違う戦い方、そして圧倒的な強さ。
初めて、圧倒的な腕の差を見せ付けられて、俺はあんたの打倒に燃えたよ。
……失敗だった。
あんたに「興味」もっちまったんだ…。
実力で、勝ちたかったのにな。
……いや。
違う、断じて違う!!
あんたを殺そうと、俺はあんたに興味を持ったんじゃない!!
せめて死ぬ前に、これだけは信じて欲しい!
あんたに勝とうと、必死に努力した俺があったっていう事を…!!
…何?
何で死ぬか、わかるかって…?
あんたの右を、窓を見てみろよ!!
誰だってわかるだろ!?
あんためがけて、ワゴンが突っ込んでくるのが!!
チキショウ、久々に、純粋に「興味」をもったっていうのに…!!
……ああ、もうだめだ。
あんたにゃ、勝てなかっ……。


『ジジ……臨時ニュースを…ジジ……します……
 今日午前…ジジジ……に…ワゴ……ジジジ…窓からとつげ…ジジ…
 死傷者は…1め……ジジ…彼………トップランカ……ジジ…
 向かいの……メビウスリ………から…ジジ……その時のじょう
 ……ジジジジジ……調査を……彼から…ジジジジジジジジジジジジ…』


『ザアアァァァァァァァァァァァァァァァ―――――――――………。』


『……ブツッ。』


「大丈夫だ。」

「俺もすぐに行く。」

「努力したからな…。」

「そうだ。」


気にしない、気にしない。
どんなことも、気にしない。
そのつもりだった。
でも……。




どんどん実力の上がっていく自分に、興味を持ったからな。
作者:アーヴァニックさん