サイドストーリー

挑戦
オレがここに来てから、二年たった。
この世界の事情はだいたいわかった。とにかく、俺はただの一般人らしい。
らしい、ってのはオレが記憶喪失だからだ。もちろん記憶はまだ戻らない。
だから、何も知らなかった。
今は、病院からオレを引き取ってくれた『レイス』って人物の家に住んでいる。
その人にはとても感謝してる。オレの世話でも何でもやってくれてるんだ。
そうそう、オレの名前は『ランディ』。
・・・らしい。

「ランディ、そろそろ言おうと思ってたんだが」
「何だよレイス、言ってみな」
「ほんと態度でかいよな、お前。・・・いいか?お前は昔レイヴンだったんだ。
結構有名だったんだが、二年前に連絡が取れなくなってな。アリーナにも参加してたんだが、除名だ。
アリーナ通の俺がいうんだから間違いない」
二年前に・・・ね。
別に驚くことではない。オレは記憶喪失なんだから。
つーかお前アリーナ通どころかB−1だろーが。
「で、何しろっての?」
だいたい想像はつくけど。
「カムバックする気はないか?」
やっぱりね。
「なし。その前にACの操作なんかできねーよ」
オレは即答した。
「いや、それなら大丈夫だ。なんたって昔のお前はB−3だった」
ほう。オレがB−3だったとは。
「昔のことは関係ないと思うんですけど」
「う・・・だが、お前には才能があるはずだ・・・多分」
その多分ってのは何ですかあ?
「そ、そんなこと言うなよ・・・どーせ暇なんだろ?」
・・・確かに。
オレは暇だった。毎日、レイスと出かけたり会話したりの繰り返し。
それに、レイスには世話になってるからな。恩返しぐらいしてやるか。
「わかったわかった。やってみるよ」
レイスの目が見開いた。
「ほ、本当か?あの頑固なお前が・・・?」
頑固とは失礼な。

一応、オレにレイヴンの資格はあるらしい。
一体いつ手に入れたんだ?
早速ガレージに行ってみると、そこにはちゃんとACがあった。
あるものがオレの目に入り、思わず聞いてみた。
「・・・オレ、こんなでっかい銃を使ってたのか?」
白く、長く、太い銃が装備されていた。
「ああ、KARASAWAっていうんだ。かなり強力なんだぞ」
「ふーん」
確かに、言われてみれば強そうだ。
「だが、上級用のパーツが多い。取り変えてやろうか?」
いや、いい。
オレは首を横に振った。
ただ・・・
「色が嫌だ」
そのACは真っ赤だった。
何となく、その色のままACに乗っては呪われそうな気がしたからだ。
「じゃぁ、何色がいい?」
そうだな・・・。
「青」
「そうか」
・・・そういえば、このACは何て名前なんだろうか。
「このAC、名前は?」
レイスは少し表情がこわばったが、
「・・・忘れたな。今ここで考えろ。お前のACなんだぜ?」
と言った。
「そんなこといわれてもねぇ・・・」
さっきのレイスの表情が気になるが、聞かないでおいた。
・・・う〜ん。
・・・あ。そういえば入院中に読んだ小説でいい名前があったぞ。
確か・・・
「『ロゼリア』」
「は?」
「ロゼリア」
「女みたいな名前だな。・・・誰だ?」
「・・・それは、教えない」

ACテストのMT戦で、オレは無傷で完璧な勝利を手にした。
自分でも、驚いている。
カンってやつだな。
どうやらオレは本当にレイヴンだったらしい。
「す、すげぇぞ!総合評価はパーフェクトだ!」
レイスが歓喜の叫びを上げた。
ここまで完璧ならそれも当然だろ。
「ま、こんなものさ。君を追い抜く日も近いだろう」
ちょっと調子にのった。
「けっ、できるもんならやってみな」
レイスも、調子にのった。
「ところで・・・明日からはアリーナに参戦だな・・・最下位から」
「すぐに上位に上がってやるよ」
自信は満々だ。
「油断するなよ、相手はMTじゃなくてACだからな」
「だぁいじょぉぶだって、余裕さ。ヨ・ユ・ウ」
「負けちまえ」
「何だよ、裏切るのか?」
「ジョークだよ、バカ」
「バカァ?」
「ああ、バカだ。お前は」
・・・そして、オレ達は笑い合った。

「では、期待の新人ランディの登場です!」
・・・今、このアナウンサーは何ていった?
『新人』?
どういうことだ?オレは昔B−3だってレイスが言ったはずだ。
普通なら再起戦とかカムバックとか言うんじゃないのか?
「・・・レイス君?これはどーゆーことかな?新人たぁ誰のことかね?」
オペレーターになっているレイスに聞いてみた。
「・・・あれ嘘だ。お前はミッション成功率100%ってことで有名だったんだ。
アリーナには不参加。まぁ、何とかなるんじゃないの?」
平然とスピーカーは喋った。
・・・レイス、て、てめえ・・・!
「対する相手は・・・アデュー!」
・・・おっと敵さんがやって来なすった。そいつの装備は、貧弱だ。
「ランディ、集中しろ!」
レイス・・・覚えてろよ。
「レディ・・・」
悪いけど、勝たせてもらうよ。
「ゴーッ!」
「オラオラオラオラオラァ!」
開始と同時にアデューがライフルを乱射してきた。
まだお互いに一歩も動いてないのに、当たるわけがない。
オレは静止したまま、アデューに話しかけた。
「バカかお前。もうちっと近づけよ」
といいながらオレが接近する。
アデューの放つ弾丸はあらぬ方向へと飛んで行く。
多分ロックしてないんだろう。
ロゼリアはダブルロックオンを完了し、KARASAWAを構え、撃つ。
一発でアデューの左腕に直撃し、粉砕した。
「何の何のぉ!その程度じゃこのアデュー様は倒せんぞぉ!」
アデューはライフルを乱射し続けるだけ。
ほんとにバカだな、こいつは。
もう一発KARASAWAを撃つ。
今度はライフルを弾き飛ばした。
「あ・・・」
お前の負けだよ、雑魚野郎。
「・・・ふっ、今お前はこの俺が戦意喪失したと思っただろう!?」
何だよ、違うのか?
「はっはっはっはぁ!くらいやがれぇ!」
そしてアデューは驚くべき行動に出た。
スカイダンサーのミサイル迎撃装置をロゼリアに向けて連射してきたのだ。
不意打ちを受けたオレは、もろにそれに被弾してしまった。
だが・・・
「・・・何だこれ?全然ダメージ受けてねぇぞ?」
そう、いくら撃っても所詮迎撃装置。ミサイルを破壊する程度の攻撃力しか持っていないのだ。
「あれ?」
アデュー自身も呆然としている。
「バカが・・・せめてそれを改造してりゃこのオレを苦戦させることもできたかも知れないのにな!」
「まるでお前は絶対に勝つ、って口調だな」
レイスが久しぶりに喋った。
「・・・うるせぇな」
とにかくバカを倒すとするか。
ロゼリアはスカイダンサーに急接近し、迎撃装置を掴んだ。
「な、何をする!」
「お前もうるせぇよ」
今の言葉はアデューにとっては意味不明だったろう。
そしてそのまま迎撃装置をへし折った。
「さすがにもう武器はねぇだろ」
だが、少し警戒心は残っている。
バカってやつは何するかわからないからな。
「ランディ選手の勝利です!」
アナウンサーが言うと、客席から歓声が上がった。
「よくやったな」
レイスがいった。
「余裕だ・・・それよりレイス、オレに何かいうことはないのか?・・・ないならいいけど」
声に怒気を絡ませて言った。
「・・・すみません」
謝罪をさせた。

「何で嘘ついたんだよ?」
控え室で聞いてみた。
ちなみにオレは今日、あと三試合する予定だ。
どーせ下位だし。
「いや、自信をつけさせる為にだな・・・」
それなら『お前はミッション成功率100%なんだ』っていってても良かったんじゃないのか?
「・・・もういいよ、暇つぶしになるし」
「そ、そうか」
レイスは一応反省しているようだ。
「ランディ様、ランディ様。二試合目が始まりますので、アリーナに入場して下さい」
唐突に館内放送が告げた。
「ま、瞬殺してくるよ」
「気を付けてな」
レイスは第一試合の時には言わなかった言葉を口にした。
「余裕さ」
オレはこの単語を何度口にしたのだろうか。
結局、三試合ともすべて圧勝だった。

「お前もついにB−2か。次は俺とだな」
あれから一ヶ月、オレは毎日アリーナランカー達に挑戦し続け、無敗でB−2に辿り着くことができた。
「ああ・・・そうだな。だがよ、オレは前から一つやってみたいことがあったんだ」
「なんだ?」
少し勿体をつけ、
「EXアリーナで・・・お前と組みたい」
「何だよ突然?別にいいけど?」
・・・ふっ、バカめ。まんまとひっかかりやがった。お前の次のアリーナ対戦相手は誰だと思っている?このオレだぞ?
EXアリーナでお前の実力を見極めさせてもらうぞ。
そしてお前の弱点を見抜き、B−1の座を奪い取る。
これも作戦の内だ、悪く思うな。
「じゃぁレイス、明日やらないか?」
「俺はいつでもいいんだが・・・俺と組むとチェーンインパクト&ビルバオからだぞ?いいのか?」
その二人とは戦ったことがある。特に問題はない。
「リーダーはランクが上ということで俺な」
「いいよ」
どーぞどーぞ。構いませんよ。
・・・さて、どれ程の実力なのかな。

「さぁ、EXアリーナ開始です!今日の組み合わせは・・・レイス&ランディvsチェーンインパクト&ビルバオ!」
歓声がわき起こり、オレはそれに応えて手を振っている。
「ぼやっとすんな、ランディ」
「わかってるよ。ところで、レイス」
「何だ」
「予告だ。オレはここから一歩も動かずに勝つ」
その方がお前のAC『ミストルテイン』の動きを見やすいしな。
「勝手にしろ」
レイスは少し呆れている。
敵さん達は、既に戦闘態勢だ。
そこに、チェーンインパクトが話しかけてきた。
「へっへっへ。おめぇらには恨みがあっからな。ぶち殺してやるぜ」
オレ達はもうBランクだから、チェーンインパクトは結構前に倒している。
オレとレイスは、無視する。
「おい、てめぇら!聞いてんのか!?」
聞いてません。
「チェーンインパクト、あなたは血気盛んすぎます。落ち着きなさい。そんなことだから銃弾という資源の無駄遣いを・・・」
ビルバオがなにやら説教をしている。
「あなたはランディさんですね?KARASAWA使いとして有名らしいですが・・・」
説教の矛先をオレに向けてきたか?
「あなたは寛大な人ですね。エネルギーの素晴らしさがわかるなんて・・・
ただ、トリプルロケットはうなずけません。それをはずしてブレードあたりを装備した方が・・・」
うるせぇうるせぇ。
「うん?あなたはレイスさん。1000発マシンガンはやめておいた方がいいですよ!
ただでさえ攻撃力がないのに1000発も撃つなんて・・・そんなものを装備していては酔狂なやつと思われますよ・・・
一体誰がそんな武器を考えたのですかね!?あまりにも無駄です。
あなたもランディさんのようにエネルギー兵器を利用しては・・・」
酔狂はお前だ。
レイスにも説教をしている。
もちろん、無視だ。
「レディ・・・」
うだうだやってる間に戦いが始まる。
「ゴーッ!」
あちらさんが二手に分かれ、ビルバオがオレの方に、チェーンインパクトがレイスの方に行った。
「エネルギー兵器溺愛会に入りませんか?あなたなら歓迎しますよ?そうすればその肩のトリプルロケットを・・・」
まだ言っている。
いや、エネルギー兵器『溺愛』会って・・・やばくねぇか?
レイスはチェーンインパクトと交戦中だ。
華麗に武器腕マシンガンを避わしながらマシンガンを撃ち返し、隙あらば一気に『月光』を叩き込む。
どうやらレイスはブレード主体のレイヴンらしい。
急に衝撃がロゼリアを襲い、機体が少し傾く。
レイスに気を取られてビルバオのことを忘れてた。
「ランディ!」
「大丈夫だ、何とかなる」
「何とかなるってお前・・・」
今の会話の間にビルバオはさらに攻撃を重ねる。
オレは正面の地面に向かってKARASAWAを撃った。
「何やってんだ!」
「てめぇはチェーンインパクトに気を配ってろ」
KARASAWAの砲撃によって地面が陥没し、その強大なエネルギーが四散した。
青いドーム状に広がってゆくそれは、ビルバオの放ったエネルギー弾を全て相殺した。
あっけにとられたビルバオに、さらなる追撃を送り込む。
それは見事に命中し、ビルバオに多大なるダメージを与えた。
「エネルギー兵器にやられるなら本望・・・」
ビルバオが気味の悪いことを言っている。
オレは先程から一歩も動いていない。
レイスは・・・?
ビルバオを警戒しつつ、レイスを探した。
・・・ミストルテインの行動に、オレは開いた口がふさがらなかった。
なんと、レイスは目にも止まらぬ剣戟によってチェーンインパクトの弾丸を全て跳ね返していた。
「こ、小癪な!」
チェーンインパクトの声は驚きを隠せない。
「俺も一歩も動かずに勝てそうだぜ、ランディ」
味な真似をしてくれるじゃねぇか。
そして今、ビルバオが動き出した。
「じゃあオレは一歩も動かずに、トリプルロケットのみで圧勝してやる」
オレは意気込む。
「・・・ほう」
・・・そうさ、オレ達の『戦い』はまだ始まったばかりなのだから。
作者:Mailトンさん