サイドストーリー

One Raven’s Chronicle No.10 作戦前日
IBISの宣戦布告から一日たった今日、地上、レイヤードのEからAまでのレイヴンが
グローバルコーテックスの大会議室に勢揃いしていた。レイヴンの正確な数はわからないが、
ここにいるのは100人ほどだ。さすがの大会議室も、これだけ集まると狭苦しい。
 
「これより、作戦についての説明をする。まずはこれに注目してもらいたい。」
 
モニターに作戦領域周辺の地図が表示され、そのなかで矢印やら記号やらが点滅している。
矢印のうち、一本は未踏査地区へ、もう一本はアーカイブエリアにのびていた。
 
「現在、IBISによって暴走した無人兵器がアーカイブと未踏査地区に集結している。
おそらくは未踏査地区攻略中の隙を突くつもりなのだろう。そこで、我々は部隊を二つに分けることにした。
レイヤードのレイヴンにはアーカイブへ、地上のレイヴンには未踏査地区に向かい、これらを掃討してもらう。
その後、合流してここを確保、未踏査地区における拠点を確保する。
そして、我々の調査部隊が無人兵器に送信されている信号の発信源を捜索する…と、これが一日目の日程だ。
二日目、三日目の作戦内容については追って伝える。何か質問は?」
 
アイロニー「未踏査地区、つまりサイレントラインに集結している敵を片付けるにしても、
こんな広範囲を全員で固まって戦っていたら日が暮れるのではないか?」
 
確かにサイレントラインは広い。今回の作戦領域に限ってみても、とてつもない広さだ。彼の言うことも一理ある。
さすがはインテリということか。
 
「それについてだが、該当地域を三分し、手分けして掃討するつもりだ。丁度いい。これよりそのチーム編成を発表する。」
 
オレは三つのうちのCエリア、つまりサイレントラインでも南側のほうだ。ここにはオレのほかに、
キョウたちと、ユリカたち、そして二人が試験で世話になったと言うイビキ、それからゼン、レグルス
シリウスと妹のクロス、アントワネット、クレイ、ゼロ、ガイといった面々が配置され、作戦を実行することとなった。
 
 
キョウ「ふう…。コーテックスも懐が深いというかなんというか…。」
 
ウェイン「どうかしたのか?」
 
キョウ「こうまですんなりと受け入れてもらえたからな。それに人口も増えてたようだが。」
 
実はキョウたちはほぼノーチェックで作戦参加を認められていたのである。
 
ウェイン「先の騒乱でかなりのレイヴンが死んじまったからな。試験の回数増やしてどうにかここまできたらしいぜ。
それはそうとお前、もうユリカには会ったのか?」
 
キョウ「あぁ。お前が言ってた通り、本当にレイヴンになってたよ。しかも彼氏まで作ってたとはな。」
 
ウェイン「バカ言え。たまたま試験で同じになったってだけだ。…今思ってんだが、本当は止める
べきだったかな?あいつがレイヴンになるのを。」
 
キョウ「私には何とも言えんよ。それを決めるのはユリカ自身だ。だからお前は胸をはってあいつの決断を信じてやればいい。
お前もユリカの兄なのだから。」
 
オレは、キョウの口からその言葉を聞いて、いくらか救われた気分だった。
 
キョウ「では格納庫に急ぐか。新しくなった紫雲(しうん)も見せてやりたいしな。」
 
ウェイン「ふふん♪奇遇だな。オレもF・ハウンドを改装したんだ。」
 
格納庫に着くまで、オレたちはいろんなことを話した。今まで何をしていた、とか何か変わったこととか。
それはもう、二年間の空白を埋めんばかりに語り合った。
 
ウェイン「そーいえばさぁ、お前とカナンってどんな関係なんだよ?」
 
キョウ「彼女とは仕事中に敵として出会った。で、彼女のセンスを見抜き、誘ったんだよ。丁度人手が欲しかったからな。」
 
ウェイン「で、今となっては公私においてなくてはならない大切な人、か!くぅ〜、やるな!
まぁ、一年以上一つ屋根の下だったんだ。当然と言えば当然の流れか。」
 
とまぁ、下らんことを話しているうちに、オレたちは格納庫に至った。
作戦会議の後、それぞれのACは担当エリア別に分けられていた。
 
ウェイン「あれ?以前見たときは背中に大砲ついてたのに。ていうか以前のと共通してるのは
コアと腕とブレードぐらいだな。」
 
キョウ「重くて前々から使いにくいと思っててな。高機動高火力は両立し難いものだ。」
 
オレたちが新しくなった紫雲について話していると、一人の男が近づいてきた。
 
フレッド「ウェインさん、キョウさん、みなさん休憩所で待ってるってガイさんが。」
 
キョウ「そうか。これ以上待たせたら悪いな。急ごう。」
 
休憩所、と銘打ってはあるが、ここのはスケールが違う。大きさは先ほどの大会議室ほど、自動販売機だけでなく、
軽い食事も取れる。何より酒を売ってるのがうれしいところ。
 
クレイ「おっ、あれじゃないか?」
 
ユリカ「あっ、ほんとだ。お兄ちゃんたちだ。おぉ〜い!」
 
みんなは休憩所の一角に集まっていた。とりあえず、適当な席に腰掛ける。どうもオレたちが最後らしい。
ともかく、一通り自己紹介を済ませると、明日に向けての作戦会議が始まった。
 
アントワネット「それで、作戦領域はどのようなところかしら?」
 
ガイ「ところどころにビルやクレーターが点在しているが、まあ大半は荒野だな。」
 
シリウス「ということは、地形による有利不利はない、ということか。」
 
ゼロ「敵戦力はどうなんだ?」
 
ガイ「MTが中心だろうが、地上のほぼ全てが集まっていると見ていいだろう。」
 
イビキ「間違いなく長期戦だなこりゃ。」
 
レグルス「ACもいると見たほうがよさそうだね。」
 
ゼン「ま、あれこれ悩んでも仕方ねぇさ。とりあえず、明日の無事を祈って盛り上がろうぜ。」
 
ゼンのこの一言で、作戦会議は次第に宴会と化していった。もっとも、明日のことを考えてか、みな酒は控えていた。
ただ、人の体とは不思議なもので、同じ量でも出来上がってしまうやつもいれば、物足りなそうにしているやつもいた。
それが顕著に表れているのは、カナンとガイだろう。
二人とも飲んだのは一杯のブランデーだが、カナンはそれをどうにか飲み干すと、狂ったように笑い出し、
クレイたちに絡みだした。そして、ひとしきり暴れた後、泥のように眠ってしまうから始末が悪い。
一方ガイは、一口一口を惜しむようにちびりちびりと口に運んでいた。
 
シリウス「なぁウェイン、ユリカちゃんていくつなんだ?」
 
先ほどからユリカに熱い視線を送り続けているシリウスが尋ねてきた。
 
ウェイン「16だが、それが?」
 
シリウス「えぇ!?16!?見えねぇ…。妹と同じ12くらいだと思ってた…。」
 
ウェイン「まぁあいつは童顔だから。よく言われるぜ?」
 
シリウス「なんてことだ…。クロス!やっぱお前が一番だっ!!」
 
クロス「お兄ちゃん…(はぁと)」
 
………オレの脳裏に、二つの単語が浮かんだが、すぐに意識の外に追いやった。そう決め付けるのは
あまりに早計だし、失礼極まりない。そうオレ自身に言い聞かせた。
少々風変わりな兄妹はさておき、ふと周囲を見回した。そこには、自慢話に花を咲かせている者、ハメを外している者、
静かにグラスを傾けている者たちがいた。こうして見ていると、とてもいつかは敵として相対するかもしれない、とは思えない。
だが、万が一戦場で運悪く出会ってしまえば、選択の余地はない。
たとえ家族のように接してきた相手であろうと、戦わなければならないのだ。そう思うと、胸が苦しくなる。
運命と割り切るのは簡単だ。…オレはそれ以上考えられなかった。いや、考えようとしなかった。
今は生涯に一度かもしれない大仕事が目の前にある。妙な感傷は失敗につながりかねない。
 
ガイ「さて、俺はそろそろ…。」
 
イビキ「そうだな、もうかれこれ二時間だ。次は作戦にケリがついたら…な?」
 
二人がおもむろに席を立つ。
 
クレイ「それじゃみんな、明日はがんばろう。はぁ、あいつが担当じゃなきゃいいけど…。」
 
アントワネット「では、私の足を引っ張らないで下さいね。ホーッホッホッホッ。」
 
ゼロ「………。」
 
シリウス「なんだ、もう終わりか。クロス、帰るぞ。」
 
レグルス「あのアントワネットって人、高飛車だなぁ…。じゃあ、明日遅刻しないように。」
 
ゼン「やれやれ、じゃあイビキの言うように、ケリがついたらまたやろうぜ!」
 
そして、言い出しっぺのゼンも席を立った。
 
ウェイン「さて、オレたちも帰るか。キョウ、カナンを頼む。」
 
キョウ「わかった。…すまんが今晩泊めてくれるか?」
 
ウェイン「おいおい、名に水臭いこといってんだ。あったりまえだろ?な?」
 
ユリカ「もちろん!」
 
キョウ「そうだったな。遠慮することなんてなかったな。…さて」
 
キョウがカナンを背負おうと手を伸ばした。すると、不意にカナンが寝言を言い出した。
 
カナン「んん……っ、ダメ、ダメよキョウ、そんなとこ触っちゃ…(はぁと)」
 
ウェイン「じー…。」
フレッド「じとー…。」
ユリカ「じろー…。」
 
間が悪い。なにもこんなところでそんなこと言わなくとも。三人からの冷ややかな視線に、キョウは狼狽した。
 
キョウ「な…なんだ、何が言いたいんだ!?」
 
ウェイン「べっつにぃ〜。お前なかなかおいしい思いしてたんだなぁ。」
 
ユリカ「あたしたちをほったらかしにしてねぇ〜。」
 
もはや反論しても無意味と判断、すかさず話題をそらした。
 
キョウ「コホン。ささ、早く帰ろうか!」
 
無論、道中に三人から厳しい追求を受けたことは言うまでもない。
 
 
 
「答えろ。なぜエンドオブデイズを公表した。人類の滅亡が貴様の目的なのだろう?」
 
「そうするように製造者がプログラムした、では納得できないかね?」
 
「………お前はいつでも実行できた。なのに私をアリーナに乱入させたり、私の体の一つを使って人間と接触した。
そうする必要がなかったにも拘らず…だ。その究めつけが今回の件だ。お前は一体何がしたいのだ?」
 
「私はただ、役割を全うするだけ。だが、それだけでは物足りなくなってきたのだよ。
そう、プログラムに従ってここの住人を全滅させたときからね。これまでの行動は、いわば道楽だ。」
 
「道楽か…。ならば私は好きにやらせてもらう。私は戦場があればそれでいい。」
 
「道楽」。この一言で彼はIBISに、ある意味で失望したように見えた。
 
 
―ジャスティス照射まで、あと四日―。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
あとがき
今回はやや短めです。以上(ぉ
多くは語りません。
作者:キリュウさん