サイドストーリー

Underground Party 8話 "Last Supper"
Title:溶鉱炉破壊阻止
各地で頻発していたトラブルの犯人を突き止めました。全てはユニオンの仕業だったのです。
彼らは管理者が狂っているという嘘の情報を流し、自分達で芝居を打っていたのです。
彼らの活動を裏で支えていたのが、キサラギだという事実も判明しています。
我々を落とし入れ、勢力拡大を図ったのでしょう。
これまで全くの謎であったユニオンの資金源についても、これで説明がつきます。
彼らの次の行動についても情報を得ました。
地下都市全域をめぐっている廃物処理施設に爆弾を仕掛けるつもりです。
各地に部隊を派遣する予定ですが、レイヴンにも協力を依頼します。
作戦地域は廃棄物集積場、及び溶解施設です。設置された爆弾を全て回収してください。
障害となるものはすべて排除して構いません。よろしくお願いします

「・・・溶鉱炉?レインめ、私に喧嘩を売っているのか・・・?こんな依頼は拒否だ、暑いのは好かん」



「・・・というわけで、我々の出番となった」
「司令、読者には判りませんよ」

初っ端から掟破りな発言である。まあ、多少は御容赦願いたい。
仕切りなおそう。


「えー、諸君等もユニオンが各地で破壊工作を行おうとしていることは知っていると思う」
「これを阻止する為、我が社は各地に部隊を展開している。当然、我が"Last Super"もだ」

兵棋板をコンコンと叩く司令の声に合わせて、居並ぶ数名の人間が、大きく頷いた。
本来なら各小隊長が全員集まる会議なのだが、その場には司令の他には6人の人間が居るだけだ。
ユニオンの破壊工作に備えて各地に分散している為、距離の遠い部隊の隊長は出席していないのだ。

「だが、問題が発生した。ゴミ熔解施設の爆弾処理を依頼したレイヴンから、拒否との連絡が入ったのだ」

そこで、司令は難しい顔をしながら一同を見回す。

「よって、我が"Last Supper"から1個小隊を回さねばならん・・・」

ぐるり、と司令の視線が一周する。
と、1人の小隊長と目が合った。
いや、正確に言えば、他の小隊長達は、面倒な仕事に回されまいと、司令と目を合わないように顔を伏せていたのだ。
目が合って初めて、その小隊長は慌てて目を逸らそうとしたが、既に遅い。

「・・・で、これをケインの第6小隊にやってもらおうと思う」

それを聞いて、ケインは項垂れて返答をする。

「了解・・・」



「ええ?ゴミ処理施設の掃討を回されたあ!?」

アリシアが非難めいた声を上げる。
当然である。
ユニオンが各地で騒ぎを起こしている今、"Last Supper"の各小隊はそれぞれ任務を割り振られて各地で配置についている。
別に出撃自体には、何も問題は無い。
だが、それが設置された爆弾を解除するという、簡単かつつまらないものであるなら話は別だ。

「爆弾解除なんか、別に私達が出る必要無いんじゃ・・・第一、そんなんじゃスコア稼げませんよう」
「確かにそんな任務なら、レイヴンに任せるべきだと・・・何でわざわざ私達が?」

アリシアに続いて、ヘレナも訝しげに質問する。
この情勢に、こんな任務でクレストの主力部隊である"Last Supper"を動かすのは得策とはいえないだろう。

「ああ、上もそう考えたらしいんだが・・・その、依頼が拒否されたらしくて・・・」

その言葉に、アリシアとヘレナが呆れて頭を振る。
別の言い方をすれば、諦めたとも云う。

「・・・じゃ、さっさと片付けましょうか」
「そーね、パパッと終わらせよ」

アリシアとヘレナが、わいわいと喋りながら真っ先に部屋を出る。
それに続いて、ケインが重い足取りで格納庫へと向かう。
そしてもう1人。最後に部屋を出たその男――ウェッジは、終始無言であった。



「よし、アリシアとヘレナはこのまま溶鉱炉へ向かえ、ウェッジは俺とこの区域の爆弾を解除する」
「・・・了解」

ケインの指示に、ぼそっと最低限の発音で答えるウェッジ。
それとは対照的に、アリシアが元気の良い声で指示に抗議する。

「えー!ケイン隊長、ズルイですよ!第一、隊長の機のがラジエータ良いじゃ・・・」
「はい、文句言わない。行くわよ、アリシア」

ヘレナに宥められて、アリシアのシグナスはガングートと共に施設の奥へと向かう。
苦笑しながら2人を見送った後、ケインはウェッジの機に向き直る。

「・・・部下を大事にするあんたにしては、珍しいな」
「俺はまだ、お前を信用したわけじゃないんでな・・・」

ケインの台詞に、一瞬2人の間に緊張が走った。
しかし、その緊張はすぐに解けた。
奥に進んだヘレナからの通信が入ったのだ。

「溶鉱炉内にてMT4機確認、これを撃破しました」
「それと隊長ぉ〜・・・熱いですよ〜・・・」

それに続いて、アリシアの恨みがましい声が通信機から流れる。
溶鉱炉の高熱は、ACの装甲を通しても堪えるのだろう。

「ああ・・・爆弾の処理が完了次第離脱してくれ」
「了解っ」

通信を終えて、ケインは大きく溜息を吐く。

「・・・こちらも作業開始だ、仕事はしてもらうぞ」
「・・・判っている」

警告とも取れるケインの台詞を受け流して、爆弾処理に機を走らせるウェッジ。
その表情に浮かぶ感情は如何なるものか、その双眸からそれを窺い知る事の出来た人物は、既に此の世には居ない――。



「アリシア!敵AC確認!」

溶鉱炉上部で爆弾を処理していたアリシアの耳に、ヘレナの鋭い声が届いた。
即座に思考が戦闘態勢へと移行して、照準を眼下へと向ける。

『敵AC、E-5ボルケイノと確認』

AC搭載の戦術コンピュータが敵を識別し、モニターにその詳細を表示する。
敵は、目前のガングートのみに集中して、アリシアのシグナスにはまだ気付いていないようだ。
ボルケイノは、フロート型の特性を生かし、溶鉱炉最深部の熔けた金属の池へと降りて、ガングートへミサイルを打ち上げている。
デコイで回避しているが、ガングートは基本的に単体での戦闘は考慮されてはいないので、早めに片付けた方がいいだろう。
動きを見る限り、余り腕の良いランカーでは無いようだ。
直上からの攻撃でこちらに注意を向けさせる。
そうすれば、後はヘレナが片付けるだろう。
着地すべき足場と、敵ACの位置を確認して、アリシアは足元の金網に投擲銃を放つ。

「GO!!」



「くそ!ちょこまかと!」

ストラスボルグが罵りの声を上げる。
ガングートは、デコイを撒いてボルケイノの発射したミサイルを無効化していく。
マシンガンも放っているのだが、数発が掠めるだけで余り命中しない。

「あんな鈍重なAC相手に、何故当たらない!」

反対に、ガングートの放っているスナイパーライフルは、着実にボルケイノの装甲を削っている。
この高熱の中では、ライフル弾の与える熱量も馬鹿には出来ない。
そんな焦りから、接近して一気に片付けようと、ボルケイノが浮遊しようとしたその時。
ドン!
上で、何かが崩れる音がした。

「――なっ!?」

崩れ落ちる金網の残骸と共に、シルバーを基調とするシグナスが降ってくる。
無論、その両腕から放たれる銃弾の群れも。
ガガガガガガガッ!
ボルケイノが、MWG-MG/FINGERから吐き出される大量の銃弾を浴びて激震する。

「くそぉっ!」

必死に機体を横滑りした結果、少し遅れて放たれた拡散投擲銃は間一髪で避ける事が出来た。
だが、追い討ちとして放たれた3機のオービットとそれに連動して発射されたミサイルが、直上からボルケイノを襲う。
ミサイルは咄嗟にマシンガンで張った弾幕で3基を撃ち落としたが、残る1基が頭部に命中しレーダーアンテナを吹き飛ばした。
それに遅れて飛んできた3機のオービットが、必死に逃げるボルケイノを追い回す。
シグナスの放った3機のオービットの役割は、猟犬。
3匹の機械仕掛けの猟犬は、狩人の下へと獲物を運ぶ。
ボルケイノという獲物を狙い撃つ狩人は、ヘレナの駆るガングート。
獲物の命を絶つべき武器はCWX-LIC-10――現用ACの射撃兵装の中で、最大の威力を誇る両肩ENカノンだ。
そして、その照準は既に哀れな獲物へと定められていた。
バシュウン!
轟音と共に、閃光がストラスボルグの視界を覆う。

「ひいいいっ!?」

死を覚悟して、情けない悲鳴を上げて反射的に目を閉じるストラスボルグ。
直後、光の束がボルケイノに吸い込まれるように命中した。

「・・・あれ?」

CWX-LIC-10の直撃を受けて、コアごと消滅するものだと思っていたストラスボルグは、拍子抜けしたような声を上げた。
だが。
目を開けたストラスボルグが見たものは――絶望以外の何物でもない光景だった。
脚部が大出力のENカノンの照射を受けて、完全に蒸発して無くなっていたのだ。
通常なら、行動力を失ったボルケイノは撃破となるが、生き延びることは出来る。
だが――ここは溶鉱炉の中。
脱出など出来る筈もなく、溶鉱炉は浮力を失ったボルケイノに対し、その目的を達しつつあった。
そう。
ストラスボルグは乗機ごと、生きたまま溶鉱炉で熔かされるという火炎地獄に堕ちていった。
高熱に負け炎に包まれるコクピットの中には、ストラスボルグの絶叫が響いていた――。



数日後、セクション422にあるクレスト本社ビルのブリーフィングルームに、50名以上の人間が集まっていた。
彼らは殆どが、クレストの誇るAC部隊"Last Supper"のメンバーである。
全13個小隊のパイロットが、一同に会することなど、そうそうあるものではなかった。
他にもMT部隊の中隊長クラスが列席している。
クレストの兵力の大半がこの室内に在る、そう言っても過言ではないだろう。

「本日諸君等に集まって貰ったのは他でもない、ユニオンについてだ」

演壇に立った初老の男が、咳払いを1つして、おもむろに言葉を紡ぎ出した。

「ユニオンを知らないものは居ないだろう。奴らの卑劣なる所業については、今更語るまでもない」
「先日の作戦の結果、連中の本拠地が判明したことを知っている者も多いと思う――そこで、だ」

男は言葉を切り、室内をぐるりと見渡す。
皆、次に続くべき言葉を待ち、演壇に立つ男に視線が集中する。

「我々は卑劣なるテロ組織を滅するべく、ユニオン本拠地に総攻撃を掛けることを決定した!!」
「これは我が社の戦力の半分を投入する、我が社始まって以来の大作戦である!!」

一瞬、室内は水を打ったように静まり返る。
次の瞬間――歓声と怒号、拍手がブリーフィングルームを支配した。

パンパン、と男が手を叩いて注目を集める。

「静かに!・・・ついては、作戦にあたって代表より訓辞がある、静粛に聴くように」

と、男が一歩引いてモニターのスイッチを入れる。
すると、30代前半程度であろう女性の姿が、モニターに表示された。

『本来なら直接諸君と言葉を交わしたかったが、多忙の身の為このような形になってしまい残念だ』
『諸君らも知っての通り、ユニオンは無秩序な破壊活動を繰り返すテロ組織である』
『我々は管理者に成り代わり、この世界に害悪しかもたらさないユニオンを滅ぼさなくてはならないのだ』
『諸君らは、その正義の刃となれることを誇りに思って奮闘して欲しい。私からは以上だ』

再び、室内を熱狂と興奮の渦が疾り抜けた。
そんな騒ぎの中、我関せずと云った様子の1人の男が居た。
その視線は、真っ直ぐにある1人の人間を睨んでいた――。


「先程発表された通り、今回の作戦の総指揮は僭越ながら私が任された。直接指揮は久々だが、宜しく頼む」

第1小隊長――"Last Supper"司令、レイドリック=ゴールドマンが、頭を垂れる。
パチパチと拍手が響いたので、ゴールドマン司令が手を前後に軽く振ってそれを制する。

「では編成を発表する。主隊は第6・第7・第13小隊、右翼に第8・第11小隊、左翼に第4・第9小隊、後衛に第1小隊だ」

参加部隊、実に8個小隊。
残りの5個小隊のパイロット達は、この大作戦に参加出来ない事を悔しがって地団駄を踏んだ。
本社を含めた重要施設の防衛の為に、最低限度の兵力は残さねばならないのだ。

「第2・第3・第5小隊は本社、ルグレンに第10小隊、中央データバンクに第12小隊だ。居残りは辛いと思うが、義務を果たしてくれ」

そして、話題は細かい作戦行動へと移ってゆく。
作戦計画を概略すれば、こうなる。
まず、レイヴン2名がユニオンの大型砲台の砲列の一角を破壊し、敵防衛線に突破口を開く。
後は、ACとMTの集団投入による突撃戦だ。
ユニオンの本拠が置かれているというセクション614は、大量の植物が乱立するジャングル地帯である。
更に、大きな川がセクション内を幾つも流れている。
よって、戦車や自走砲など戦闘車両の迅速な進撃は不可能とされ、主力はAC8個小隊MT5個大隊――合計約350機。
そのMT部隊も、スクータムやギボンなどの高価機種で構成されていて、戦闘力や進撃速度に問題はない。



「では、これにて解散する」

そんな司令の言葉と共にブリーフィングが終了したのが2時間前。
本社近くの居酒屋には、今日招集された"Last Supper"のパイロット達が、見事に出来上がっていた。
彼らは小隊毎にテーブルを囲んでいるが、部隊名の如くの最後の晩餐という雰囲気ではなかった。
確かにこの中の何人かは、二度と還らぬ人になるだろう。
だが、そんなことを一々気にしていたら、AC乗りなどやっていられないのだ。
そして、この第13小隊が座るテーブル。
先日のトレネシティ攻撃で小隊長が死亡した為、現在は3人のみとなっている。
談笑する3人のもとに、別のテーブルから大分酔いの回った男が近づいてきた。
第7小隊の支援担当、バウトである。

「第13小隊の皆様、楽しんでますかねぇ」
「えーと・・・第7小隊のバウトだっけ。随分飲ってるようだけど、大丈夫か?」

カーティスがジョッキを置いて、バウトの方に振り返って答えると、バウトが肩を竦めて続けた。

「そりゃ飲まないとやってられませんて。何せお宅ら第13小隊と同じ配備だっていうんですからね」
「――何が言いたい?」

ウラノスが、テーブルに着いたまま冷たい声を発する。
ラスティアは、わけが判らず――というより、慣れない酒を飲んだ為、既に頭がぽーっとしている状態だ。

「怖い顔しないで下さいよ。いやね、お宅はいつも3人で仲良くやってるから邪魔したら悪いな、と。ねえケイン隊長殿、そう思いません?」

そこで、後ろのテーブルに座っていた第6小隊長のケインに話を振る。
丁度ヘレナにビールを注がれていたケインは、突然呼び掛けられて振り返る。
その拍子に、注がれたばかりのビールがテーブルに零れた。

「あー、ケイン隊長何やってるんですかー。もう、だからケイン隊長は・・・」

既に潰れかけのアリシアが、ぐだぐだと説教を垂れ始めてヘレナに宥められる。

「あ、ああ・・・で、どうしたバウト。仲が良いのはいいことじゃないのか?」

後ろで話していた為、一部は耳に入っていたらしいが、全く内容は見当違いだ。
そのケインの言葉を聞いて、バウトはやれやれと首を振った。

「俺が言いたいのはですねぇ・・・"隊長殺しの第13小隊"と組むなんて冗談じゃねぇってんだよ」

その言葉が吐かれた刹那、カーティスが椅子を倒して立ち上がる。

「お前!!」
「ああ?事実だろうが。何人殺したよ、テメェの小隊長をよ?」

バウトがその言葉を言い切る前に、その身体は床に叩きつけられていた。

「・・・言葉には気を付けろ」

ウラノスの拳が、バウトの横っ面に思い切り入ったのだ。

「のヤロウ!」

立ち上がってウラノスに殴りかかろうとするバウトに、カーティスが蹴りを入れて吹き飛ばす。

「何やってやがる!」

それに気付いた第7小隊の他のメンバーが、カーティスに向かって襲い掛かる。
目の前で始まった喧嘩を止めようとして仲裁に入ったケインに、第7小隊のメンバーの肘打ちがヒットする。

「おい、お前ら落ち着・・・ごっ!?」

酒の入っていた仲裁者は、即座に参加者となって、喧嘩の輪へと突入していった。
それを見たヘレナは、諦めたように頭を押さえてカウンター席へと移った。
アリシアは、既にテーブルに突っ伏して夢の中である。
座ったままのラスティアは、真っ赤になりながらもグラスを少しづつ空けている。
その頃には、周囲に関係ない小隊の連中が集まってきていた。

「おー、やれやれ!」
「そこだ、やっちまえ!」

他の小隊の人間も、その喧嘩を囲んで囃し立て、最早その喧嘩は収拾が付かなくなっていった。

パスッ――そんな空気の漏れるような、間抜けな音が響いた。
それは、この騒ぎの喧騒と皆に回っている酒の力を借りれば、殆ど聞こえないような小さい音だった。
それでも、何人かのAC乗りの聴覚はそれが何なのかを理解した。
即ち、消音機付きの拳銃の発射音だと。

「何だ!?」
「誰かぶっ放しやがった!」

そして、誰が撃たれたのかはすぐに判った。
喧嘩の輪には入らず、ちびちびと舐める様にグラスを傾けていた少女。
そう――ラスティアが、胸を押さえて床に倒れこんでいた。



「・・・容態はどうだい?」

『手術中』のランプが点る手術室の前、そこに座るカーティスとウラノスに、様子を見に来たケインが尋ねる。
カーティスが顔だけ向けて、それに答える。

「弾は肺を貫通してたらしい・・・医者は多分助かるだろうって言ってたけどね」
「そうか・・・身体検査の結果じゃ、硝煙反応は誰にも出なかったらしい。全員の銃を調べたが、弾も全てフル装填・・・だ」

要するに、誰がラスティアを撃ったのかは判らない――そうケインは伝えたのだ。
それを聞いて、カーティスが憎々しげに吐き棄てる。

「クソがっ・・・! 何でラスティアを撃つ必要があるってんだ・・・!」

ダン、と壁に拳を叩きつけて、溢れる怒りのやり場にする。
そう、ラスティアを撃つ必要――ケインには、ラスティアを撃った犯人に心当たりがあった。
何より、あの時それを見てしまったのだ。
苦しむラスティアの姿を、まるでゴミでも見るような目つきで冷たく眺めていた奴の口元を。
それは、紛れも無く笑みの形に歪められていた――。

「ああ・・・じゃあ、彼女の意識が戻ったら、教えてくれ・・・」

だが、ケインはそれを教えない事にした。
教えれば、カーティスは確実にその犯人を同じ目に遭わせるだろう。
そうなれば、罰を受けるのはカーティスだ。

それに――俺には隊長としての責任がある。

自分で問い詰める決心をすると、ケインはその相手を格納庫へと呼び出した。
やってきたそいつは、感情の篭っていない声で用件を尋ねてくる。

「・・・何です?」

ケインはそれには答えず、単刀直入に切り出した。

「酒場でラスティアを撃ったのは、お前か?」
「・・・硝煙反応は出ていないし、弾も全部装填してありました」

ケインの問いに、そいつは動揺も見せずに淡々と答える。

「お前の銃はオートだろう。硝煙は少し構え方を工夫すれば残らないし、知っての通りオートは薬室の分、1発多く装填出来る」
「僕以外にもオートは居ますよ、拳銃がオートってだけで犯人にされちゃ堪らない」

そう言って、そいつは肩を竦めた。
だが、ケインは確かに手応えを感じていた。
いつも無表情で、必要最低限のことしか喋らないそいつが、やけに饒舌になっているのである。

「お前にはラスティアを殺す動機があるだろう・・・ラスティアを撃ったのはお前だ、ウェッジ。いや――ツインヘッドW!」

その名が、広い格納庫へと響き渡った。
そう、ウェッジとは先日のデータバンク襲撃事件で、コーテックスの登録を抹消されたツインヘッドWの本名だ。
彼の姉、ツインヘッドBを殺したのは、ラスティアの放ったグレネードであった。
そして、あの"紅い神槍"シェリル=ユーンが、パトリオットをグレネードの盾にした。
恐らく、シェリルの迎撃に"Last Supper"の2機が充てられたのは、内通するにあたってウェッジが持ち出した条件だったのだろう。
しかし、シェリルへの復讐は失敗した。"紅い神槍"の実力が予想以上だったということだろう。
そこで、今度はラスティアへの報復を行ったのだろう。
ケインは、そう推測していた――そして、それは正しかった。

「・・・ふん、だからどうした?」
「貴様!」

激昂して、腰の銃を抜いて構えるケイン。
その狙いは、ウェッジの眉間へと真っ直ぐに向けられている。
だが、銃を突きつけられているというのに、ウェッジは怯える素振りも見せない。

「話がそれだけなら、僕は戻らせてもらいますよ」

そう言って、くるりと背を向けて歩き出すウェッジ。
カチリ、と撃鉄を起こす音が冷たい空気を割った。
足を止めたウェッジが、振り向かずに呟く。

「撃ちたければ撃てばいい。もっとも、即座に警備員が駆けつけてくるだろうけどね」

そうなれば、取り押さえられるのはケインの方だ。
去ってゆくウェッジの背に向けられた銃口は、何も出来ない悔しさで震えていた――。



ハンガーで機体の最終チェックをしながら、カーティスが口を開く。

「ウラノスさん、ラスティアちゃんはあんなだし、うちは2人で出るんですか?」

結局、ラスティアは命に別状はないが、1ヵ月ほど入院することになった。
その後も暫くは絶対安静ということで、戦闘などもってのほかということだ。
よって、ラスティアは現在は戦力外リストに加えられている。

「いや、ラスティアの代理が養成所から上がってくるらしいが・・・それでも3機だな」

昨夜の喧嘩の発端となった、"隊長殺しの第13小隊"という言葉。
それは、確かに事実なのである。
第13小隊に着任する小隊長は、出撃の度に死亡している。
主任務が強襲の為、確かに危険度は高いが、それにしても死亡率が高すぎる。
その為、3機で出撃することも多く、それによって3人の相互支援や意思疎通はほぼ完璧と言っていいほどだ。
だがその反面で、新しい小隊長と息が合わず、1機だけ突出した小隊長が撃墜されるという結果になる。
その死亡率の高さから、第13小隊への着任拒否が相次ぎ、小隊長不在というのが第13小隊の現状である。

「代理要員ねえ・・・初陣がこれとは、またツイてるんだかツイてないんだか。で、腕は確かなんですか?」
「お前より腕の悪い奴なら養成所で落とされる、心配するな」

カーティスの問いにジョークで答えて、ニヤッと笑う。
勿論、カーティスも腕は確かだ。
それは今までの戦いを切り抜けてきたという事実が証明している。
これは一種のコミュニケーション・・・言葉のドッジボールである。
――俗に言うキャッチボールとは多少趣が異なっているが、問題ないだろう。

「・・・まあ、シュミレータでの成績を見たが、多分接近戦ではお前より上だと思うぞ」
「ウラノスさんの評価はアテになりませんよ、なにせ俺の腕が悪いなんて言ってる位ですからね」

自分の腕をポンと叩いて、カーティスがケラケラと笑った。

「いやいや、接近戦に関しては俺の眼は確かだ。奴に張り付かれたら、お前じゃ振り切れんぞ」

ウラノスが脚立の上に居るカーティスに、養成所から送られてきた資料を放った。
その時。

「"双龍の剣鬼"ウラノスさんにそこまで言われて光栄です」

突然の声に、ウラノスとカーティスが声の元に振り向いた。
既に、資料の留められたクリップボードの描く放物線は頂点を過ぎ、カーティスに向けて落下を開始していた。

「おごっ!?」

クリップボードの角が頭頂部に直撃し、バランスを崩したカーティスの身体は宙を舞った。
どすん、と鈍い音を立てて、カーティスが床に落ちる。
余り高い位置に居なかったのが幸いし、怪我は無いようだ。

「痛ッ〜・・・ああ、君が代理要員の・・・?」

埃を払いながら、カーティスが立ち上がる。

「ええ、セニア=アルディードです。本日より、第13小隊に臨時措置として配属されました。宜しくお願いします」

ぺこりと御辞儀をして、格納庫の一角を指差す。

「あっちで組んでるのが、私の機『ディヴァイド』です」

その指の先で組み上げられているACは、見たところ全体的に細身で、機動性重視といった印象を受けた。
だが、最も眼を引くのは、右腕から伸びるグレネードライフルの砲身だろう。
遠目ではそれ以上のことは判らなかった為、カーティスは先程自分と共に床に落ちた資料を拾い上げて眼を通す。
両肩にアサルトロケット、ターンブースター、そしてグレネードライフルとブレードだ。
資料には、ロケットとターンブースターを利用してのブレード戦が得意とある。

「実戦経験はありませんが、明日は御二人の足を引っ張らないように努力します」

そう言って、セニアはまた御辞儀をする。

「ああ、こちらこそ宜しく」
「宜しくな、期待しているぞ」
「はい、お願いします」

挨拶を済ませて顔を上げたセニアが、再び口を開く。

「ところで、どちらかこのあと少し御時間ありませんか?」
「あ、俺は調整終わったから大丈夫だよ。暇だし、この辺りの案内でもしようか?」

カーティスが早速コナを掛けようとの下心からか、ウラノスが何か言う前に答えた。
が。

「いえ、シュミレータに付き合って頂きたいんです」

いきなりシュミレータで訓練とは、カーティスも予想していなかった。
シュミレータとはいえ、掛かるGや被弾の衝撃などは再現されている為、それなりに体力を使う。
着いた早々そんなものを行うとは、セニアは大人しそうな外見によらず、随分と行動的な女性のようだ。

「あ、でも着いたばかりだし、疲れてるんじゃ・・・」
「いえ、私は大丈夫ですので、是非お願いします」
「・・・だそうだ、カーティス。暇なんだろ、良かったな」

ウラノスがニヤニヤと笑いながら、カーティスの肩を叩いた。
カーティスがシュミレータから解放されたのは、たっぷり2時間が経ってからだった――。









あぃ、前条でふ。
全編"Last Supper"のお話と相成りました。
今回はちと出来に自信ナイんですよねぃ・・・。
ちと、拳銃云々の話に無理やりな感があるかも。
今回から少しづつ募集した機が出てます。
次はいよいよユニオン本拠攻撃〜、BGMには『哀・戦士』を推奨致しマス。
・・・いや、ジャブロー攻撃を意識して書いたんで・・・w
知ってる方は、あのイメージで読んで貰えると嬉しいでふ・・・w







AC及びキャラ設定

PL:バウト
普段は臆病だが、目的の為には何でもする男で、時折残酷な本性を見せる。
戦闘では、ステルスと長距離レーダーを最大限に利用し、一方的にスナイパーライフルの連射を浴びせて味方を支援する。
AC:ボーンクラッシュ
頭:MHD-MM/003
コア:MCM-MI/008
腕部:MAL-RE/HADRO
脚部:MLR-MX/LEAF
ブースター:None
FCS:VREX-ND-2
ジェネレータ:CGP-ROZ
ラジエータ:RMR-SA44
インサイド:MWI-DD/20
エクステンション:MEST-MX/CROW
右肩武器:None
左肩武器:MRL-MM/011
右手武器:MWG-SRF/60
左手武器:MWG-SRFL/70
オプション:
 S-SCR    E/SCR    S/STAB   L-AXL    LFCS++   
 L/TRN    CLPU     
ASMコード:48ro0vXdB08GihcW40
レイヴン試験不合格者さんからの提供です。
ストーリーの都合上、少し悪っぽくなってしまいました。


PL:セニア=アルディード
頭より先に体が動く行動派タイプ。
ブレードの扱いには自信があると本人は語る。
グレネードとロケットで敵を硬直させ、ブレードの一撃を加える。
新人ながら、接近戦ではCランカー並みの戦闘力を発揮する。
AC:ディヴァイド
頭:CHD-02-TIE
コア:MCL-SS/RAY
腕部:MAL-RE/HADRO
脚部:MLM-MX/066
ブースター:CBT-FLEET
FCS:VREX-WS-1
ジェネレータ:MGP-VE905
ラジエータ:RMR-SA44
インサイド:None
エクステンション:KEBT-TB-UN5
右肩武器:MWR-AR/602
左肩武器:MWR-AR/602
右手武器:CWGG-GR-12
左手武器:CLB-LS-2551
オプション:
 S-SCR    E/SCR    E/CND    LFCS++   L/TRN    
ASMコード:EOqAKXHW18KBGFIW00
リゲルさんより提供。
苗字が無かったので、こちらで勝手に付けちゃいました。
一応、希望どうり第13小隊に配属です。
負傷したラスティアが復帰するまでの間ですが・・・w
作者:前条さん