サイドストーリー

Underground Party 9話 セクション614の決戦・前編
Title:本拠地防衛
成功報酬:50000C
クレストが、我々の本拠地に対する進攻作戦を開始したとの情報を得た。
既に一部の部隊は進撃を開始している模様で、我々の配置していた監視用の拠点の幾つかが通信を絶っている。
更に、我々の偵察機は後続の部隊を確認している。300機以上のMTとACで構成された大部隊だ。
航空部隊の存在が確認されていないのが、唯一我々に有利と思われる点だ。
だが、それを差し引いても敵の戦力は我々の倍以上だ。
無論、我々も全力で迎撃に当たるが、この戦力の差は如何ともし難い。
キサラギに支援を要請したが、部隊が戦闘開始前に到着するのは時間的に見て不可能だ。
だが、我々はクレストに黙って滅ぼされる訳にはいかない。
多数のレイヴンを雇って、クレストを迎え撃つ。
報酬は弾む、何としても我々の本拠地を防衛してくれ。


このメールを受けたレイヴン達は、様々な理由でこの依頼を承諾した。
ある者は、クレストへの反感で。
ある者は、自らの活躍出来る戦場を求めて。
ある者は、ユニオンの理想に賛同して。
ある者は、高額の報酬に魅せられて。
それぞれの理由を胸に、20名のレイヴンが集まった。

では、その顔触れを紹介しよう。
まず、集まった鴉の中で最もランクの高いのが、A-3ロイヤルミスト。
滅多に依頼を受けない彼だが、その実力はAランカーの名に恥じぬもので、戦場で出会ったものは自らの死を覚悟するという。
次に、B-4"戦乙女"ワルキューレとB-5"紅い神槍"シェリル=ユーン。
タッグアリーナ3位の実力を持つこの2人は、ユニオン寄りのレイヴンとしては最も有名だ。
Cランクでは、まずC-4ブレーメン・C-6ストリートエネミー。
ブレーメンとストリートエネミーは、報酬次第でどんな依頼も受けるレイヴンとして知られている。
更に2人、C-14パーティプレイとC-15サンダーハウスが依頼を受けている。
そしてDランク。
D-4ゼブ・D-7ハードエッジ・D-8ネクス・D-11スウィートスウィーパー・D-15フィクサーの5名がこの依頼を受けた。
Eランクは8名。
E-1パイロン・E-4スネークヘッド・E-6ルクス・E-9レジーナ・E-11アップルボーイ・E-19ダックス・E-23ノーマル・E-25バーティア。
以上、20名がこの依頼を受けたレイヴン達である。
子供でも名前を知っているような有名所から、最近売り出し中の新人まで様々だ。
彼等20名に任された任務は、ユニオン本拠地の防衛。
ユニオンの部隊は、MT120機・戦闘ヘリ40機・その他固定砲台や装甲車、自走砲などだ。
このままでは確実に敗北は免れないが、キサラギの部隊が来るまで持ち堪えれば、勝算はある。
緒戦は全力でクレストの部隊を迎撃し、キサラギからの援軍を待って敵を包囲殲滅する。
これが、ユニオン側の立てた作戦だった。



「テン・コマンドメンツよりインソムニア、間も無く目標の砲台に到着する」
「了解した、一気に片付けるとしよう」

ゴオ、とOBが唸りを上げ、2機のACが一気に加速する。
戦いの火蓋が、切って落とされた。



「こちら第4防衛拠点、敵大部隊の接近を確認しました・・・な、AC!?」

09:12、固定砲台"グラウルG"5基とステルスMT"フリューク"1個小隊で構成された第4防衛拠点は通信を絶った。
恐らく、敵ACの奇襲を受けて壊滅したのだろう。

「敵は中央を突破。5分で押し寄せてくるぞ!総員戦闘配置!」

展開している全部隊に、緊張が走った。
空中管制機の高性能レーダーとリンクされた各機のレーダーには、既に真っ赤な輝点の大群が映し出されていた。

「駄目だ、敵が多すぎて広域レーダーは役に立たん!各機レーダーレンジを中距離に調整しろ!」

その声が終わるか終わらないかのうちに、戦闘は開始された。
広域レーダーで大まかな敵位置を掴んだ砲兵が、射撃を開始したのだ。

「どう撃っても連中に当たるぞ!各個連続射撃!!」

轟音と共に、後方に展開した砲兵隊の放った榴弾が次々にクレストのMTや戦車を吹き飛ばす。
クレスト側の砲撃部隊は、湿原と密林に足を取られ、攻撃位置への進出が遅れていたのだ。
だが、その一方的な砲撃もすぐに終わる。
遂に、双方の部隊が激突したのだ。
この状況では、下手に砲撃をすると味方を巻き込む恐れがある。
砲兵隊は、空中管制機からの細かなデータを受信しての精密砲撃に切り替えた。



「行けぇーーー!」

クレスト側のスクータムの一斉射撃を受けて、ユニオンの左翼前線のクアドルペットやモアが次々と炎上する。

「GOGOGO!進めぇー!」

その攻撃で隊列が乱れたところに、"Last Supper"1個小隊が突入する。
後ろには、ギボンの中隊が遅れまいと追従する。

「敵、L13地点を突破!撃て!」

だが、そこにユニオンの砲兵の放った榴弾が次々と落下し、突進の足を止める。
その砲兵弾幕によって進撃を躊躇った”Last Supper”とギボンの部隊。

「足が止まった!突っ込むぞ!」

そこにバトルフィールド・ヴァルナー・レイスの3機が突入し、一気に乱戦となる。
バトルフィールドが空中から放ったLIC-10の直撃を浴びて、"Lust Supper"の1機がコアの半分を蒸発させて崩れ落ちた。

「AC1機撃墜!!」



右翼戦域では戦闘ヘリ"ターバニット"の編隊に援護された戦車隊が反撃に出た。
だが、目前に展開したスクータムのバズーカに直撃され、次々に吹き飛ばされる。

「懐に潜り込め!スクータムとて至近距離の砲撃には耐えられん!」

ターバニットが機銃を乱射し、スクータムの注意を上に逸らす。
その隙に至近距離に突入した何両かの戦車が、戦車砲の零距離射撃を浴びせ撃破する。
中には、車体上部に装備された機銃をも乱射している勇敢な戦車兵も居る。
だが、急行してきた"Lust Supper"の小隊により、生き残っていた何両かの戦車は10秒と保たずに鉄クズへと変わる。

「くそっ!」

味方の惨状を見たターバニットのパイロットが、逆上してACに向けて急降下する。
そのパイロットは全ての兵装を乱射し、その内の何発かはACに命中し、肩のレーダーユニットを吹き飛ばした。
だが、やはり無謀な行為だった。
別のACが発射したミサイルに、上部のローターを打ち砕かれて、ターバニットは浮力を失った。
しかし、まだ推進用のジェットエンジンは生きている。

「うおおおおおっ!」

炎上しながらも、正面のACに体当たりを掛けようと機体を無理やりに制御するパイロット。
が、横から襲ってきたマシンガンの弾丸にコクピットを直撃され、勇敢なパイロットは挽き肉の塊へと姿を変えた。



ストリートエネミーが敵影を求めて疾走していると、突如ロックオン警告が響いた。

「ちい!」

一瞬前にスタティックマンの居た場所にマシンガンの一連射が浴びせられ、熱帯植物の蔓が弾け散る。
即座にライフルを2連射して反撃したが、手応えはない。
それどころか、何時の間に移動したか、右手から小型ロケットがやにわに浴びせかけられた。
敵はマシンガンだ、接近されては分が悪い。
そう判断して、ストリートエネミーは距離を取ろうとOBを発動する。
と、後ろでもOBの閃光が煌めき、スタティックマンを追撃してきた。
あちらのほうが機動性が高いらしく、いつの間にか敵と並走する形になっていた。
ふと、敵ACのパイロットが呟いた言葉が耳に入った。

「お前か・・・」

ストリートエネミーは、その声に聞き覚えがあった。

「な・・・クライゼンか!?」
「これも仕事だ、悪く思うな!」



「右300にランカーACタワーオブウインド確認!セニア、カーティス、行け!」

ウラノスがフリュークを切り捨てながら叫ぶ。
それに答えて、ディヴァイドとカース・オブ・カオスが一気にタワーオブウインドに突っ込んでいく。
カース・オブ・カオスが弾幕を張りパイロンの得意とする空中戦に持ち込ませないように牽制する。
その隙に、ディヴァイドがアサルトロケットを乱射しつつOBで接近する。
パイロンが気付いたときには、既にディヴァイドはタワーオブウインドの背後に回っていた――。
ディヴァイドのブレードが輝き、タワーオブウインドの背面装甲を切り裂いた。
逃げようとするタワーオブウインドだが、セニアはたった今自分が切り裂いた装甲の裂け目にグレネードを叩き込んだのだ。
装甲内部でグレネードが爆発しては堪らない、タワーオブウインドの上半身が吹き飛んで辺りに散らばった。



既に戦闘開始後1時間半が経過しているが、未だに戦線を突破できない。
数で勝っている為、少しづつ押してはいる。
やはり、敵のレイヴンの存在が大きい。
各戦線からの報告では、ロイヤルミストのカイザーも確認されたとのことだ。
無論、ユニオンが主力と頼む"戦乙女"と"紅い神槍"も同様だ。
この3機が、目下のところ最大の障壁となっている。
現時点では、サイプレスのテン・コマンドメンツが奮戦してカイザーを抑えてくれている。
だが、中央の第7小隊では、"戦乙女"のウィークポイントへの正確な狙撃で1機が沈黙させられている。
左翼でも、"紅い神槍"に遭遇した第4小隊では、撃破1及び中破1の被害を受けている。
クライゼンは、敵ACに遭遇との連絡を最後にその後全く連絡がない。
落とされたわけではないようなので、恐らくこちらもレイヴンを1機抑え込んでいるのだろう。
しかし、右翼の損害が酷い。
敵は右翼にレイヴンを集中して投入しているらしく、第8小隊長機を含む3機が撃墜されていた。
無論、こちらも戦果を上げている。
MT及び戦闘車両は40機前後を撃破、レイヴンのACも数機を撃破している。
D-11ヴァルナー・E-4ゲートウェイ・E-19インゴットの撃破が現時点では報告されている。
と、そこに更に戦果を加える通信が飛び込んできた。

「こちら第13小隊ディヴァイド、タワーオブウインド撃破!」

敵レイヴンは、残り16機となった。
しかし、予想以上に被害が出ている。

「キサラギの航空部隊もそろそろ戦場に到達する・・・まずいな」

本社からの通信では、グランドロック3機・輸送機15機及び護衛戦闘機50機以上という有力な部隊だ。
しかも、グランドロックと輸送機はグライダーを牽引しているらしい。
陸上部隊の増援はともかく、グランドロックの爆撃能力は脅威だ。
下手をすれば、戦線が総崩れになる可能性もある。
と、そこに通信が入る。

「司令、本社より通信!レイヴン3名が増援に来るそうです!そのうち2名をキサラギ部隊迎撃に向かわせたとのことです!」
「向かったレイヴンは誰だ――そうか、よし!キサラギに備えていた部隊を前線に回せ!」



「喰らえっ!」

バーティアの叫びと共に、"Last Supper"第6小隊のガングートに向けて、フルロックしたミサイルを発射される。
8発のミサイルが白煙を曳いて、ガングートへと襲い掛かるが、ヘレナが撒いたデコイに全て引き寄せられる。
ミサイルが駄目なら右手の小型グレネードを叩き込んでやる。
そう考えて兵装をチェンジしたバーティアだが、アグルファイのFCSは何故かガングートをロックしない。

「こんな時に故障か!くそっ!」

実はガングートがステルスを起動していたのだが、経験不足のバーティアにはそれが判らなかった。
悔し紛れに左腕のバーストハンドガンを放つが、ロックもされていない弾丸は空しく木々を砕くのみに終わった。
群生する植物に紛れて見えなくなったガングートを追おうと、バーティアがブーストを吹かした時。

「はい、そこまでっ!」
「のわっ!?」

女の声と共に、目の前に3つのロケットが着弾したのだ。
慌ててサイトを上に回した瞬間、肩のミサイルポッドがマシンガンに射抜かれ爆発した。
ヘレナからの通信を受けたアリシアのシグナスが、戦闘に割り込んできたのだ。
ミサイルを失ったが、バーティアの闘志は衰えない。

「邪魔しやがって!失せやがれ!」

使えなくなった連動ミサイルをパージして、一気にラッシュを掛ける。
バーストハンドガンの連射で牽制し、そこにグレネードを叩き込む。
並みのACならそれで撃破出来る、見事な攻撃だ。
だが、アリシアもクレストの誇る"Last Supper"の一員、そう簡単にはいかなかった。
グレネードが至近距離で爆発し、シグナスの装甲を焼く。

「新人程度にやられるわけにはいかないのっ!」

そう言い残して、シグナスが機を木々の密集する辺りに後退する。

「なめやがって!ふざけんなぁ!」

怒り狂うバーティアは、ぐんぐん離れていくシグナスに向かってありったけの弾を撃ち込みながら追跡する。
そして視界が晴れた瞬間――目の前に機雷が幾つも浮遊していた。
ドゴ!ドオ!
移動する機雷の1つに接触し、周囲の機雷も一気に誘爆し、機体温度が一気に上昇する。

「うがあああ!」

――と、目の前に先程までの相手、ガングートが着地したではないか。

「そっちから来るとはいい度胸だ!死ねぇぇ!」

だが、アグルファイはバーティアの期待には答えなかった。
カチッ、というトリガーを引く音だけが、コクピットに響いた。

「弾切れ!?し、しまった!!」

残弾を確認しなかった己の迂闊さを呪い、離脱しようと機体を巡らせる――が、それを見逃すほどヘレナは甘くも優しくもなかった。
ガングートの両肩に装備された、LIC-10が閃光を放った。
ジャンプしていたアグルファイの脚部がブースターごと蒸発し、アグルファイの上半身は地面に叩きつけられた。
幸いジャングルの柔らかい土だった為、バーティアは無事で脱出することが出来た。



「ヴェンス!そっちはどうなってる!?」

マシンガンを連射しながら、ケインが第7小隊長のヴェンスを呼び出す。

「・・・"戦乙女"の狙撃で行動不能が1機。他の機も残弾が半分を切っている」
「こっちは一応全機健在だが・・・残弾は似たようなもんだ」
「そうか・・・第13小隊は何処だ?」
「大分深く進んでるらしいが、正確な位置は判らん」

普段は無口で取っ付き難いヴェンスだが、こういう時は必要なこと以外は言わないので助かる。
ふとそんなことを考えたが、その思考はヴェンスの声に遮られた。

「・・・合流して第13小隊を追おう、1点に集中すれば敵を突破できる・・・」
「OK、ポイントD12付近で合流しよう!」


数分後、第6小隊と第7小隊の7機のACが集合していた。

「本部へ!第6・第7小隊は第13小隊の空けた穴に続き突破口を開く!後続の部隊を送れ!」

6機のACはそれぞれ距離50を空けて展開し、全速で進撃を開始した。
途中、エピオルニスや装甲車の部隊と遭遇したが、AC7機を集中した突進を止めれるはずも無く蹴散らされた。
その部隊が戦線を立て直そうとしたところへ、スクータムとギボンの混成中隊が突入し、統制の取れていない部隊を壊滅させる。


この中央部での急激な戦線の変化は、ユニオン側にも伝わっていた。

「こちら司令部!敵がM区域より中央突破を試みている!ACと交戦中以外の機は急行してくれ!」

その通信に最初に反応したのは、シェリルだった。

「チッ・・・ワルキューレ!行くぞ!」
「了解、遅れないでね!」

ドン、と衝撃と共に2機はOBを発動させ、一気に指定されたポイントへと向かう。
その両機とも、目立った損傷は無い。
去った2機を呆然と見送って、クレスト側のMTパイロットが呟いた。

「た、助かった・・・?」



「敵反のッ・・・うぁ!?」

最も右を進んでいた第7小隊の1機が、レーダーに敵を捉えるなり、いきなりレーザーキャノンの射撃を受けた。
その直後、木立の中から突如飛び出してきたスレイプニルのブレードに貫かれて、煙を噴き出して沈黙した。
その姿を見た瞬間、ウェッジのスクリーミングアニマルが飛び出した。

「"紅い神槍"ッ!!」

だが、1機突出したスクリーミングアニマルに、ロケットの雨が降り注いだ。

「うああああ!」

ロケットを大量に被弾して、炎を纏いつつもスレイプニルに向かって突進するスクリーミングアニマル。
姉の仇という、その1つの事柄のみがウェッジの頭を支配していたのだ。
その執念とも言える復讐心がスクリーミングアニマルを動かしているといっても過言ではなかった。
――が、その盲目的なまでのシェリルへ向けられた怒りは、遂に果たされることが無かった。
ザン・・・
ロケットを打ち下ろしていたグナーが、そのまま降下の勢いを借りて、ブレードを脳天唐竹割りの如く叩きつけたのだ。
その落下の衝撃を全て載せた斬撃は、見事にスクリーミングアニマルの肩口からコアを断ち切った。

「姉・・・さん・・・」

機体が爆発するまでの刹那。
ウェッジの脳裏に最後に浮かんだのは、レイヴンになるずっと前、何処かの公園で遊んだ日々――優しかった姉の笑顔だった。


「ヴェンス隊長!また新手です!!」

第7小隊のバウトが、焦った声で叫んだ。
スレイプニルとグナーの2機にストップを掛けられたのが拙かった。
攻めあぐねている所に、何処にこれだけ生き残っていたのかと思うほどに、ユニオン側のレイヴンが集まってきたのだ。
まず、D-15アインハンダーが増援に向かってきた。
次に、C-15バトルフィールドがエネルギーカノンを放ちながら介入してきた。
そして更に今、E-6レーヴァテイン・E-9エキドナ・E-11エスペランザの同期生トリオが"Last Supper"の5機の前に現れた。

「こちらアリシア、残弾がもう殆ど・・・!」
「・・・ケイン、完全に囲まれる前に撤退するぞ」

最初は7対2だった筈の戦闘が、既に5対7と逆転されている。

「判った!俺とヴェンスで食い止める、その間に皆離脱しろ!」

だが、そうは問屋が卸さなかった。
撤退しようとするシグナス・ガングート・ボーンクラッシュの退路に、アインハンダーとバトルフィールドが立ち塞がった。
"Last Supper"の2個小隊は、今や袋の鼠も同然だった。

「逃がさんぞ・・・死ね!」

フィクサーが叫び、ハンドガンとミサイルの連携攻撃が3機に襲い掛かる。
サンダーハウスも、ライフルで牽制して隙あらばLIC-10を放とうと狙っている。
撤退の時間を稼ごうと奮戦するヴェンスとケインも、5機相手の戦いで次々に被弾する。
ヴェンスの乗機『イクス』に、エスペランザの放った垂直ミサイルの群れが直上から降り注ぐ。
デコイを撒いてそれを回避したイクスに、エキドナのグレネードライフルが掠め、近接信管によって至近距離で爆発する。
重量級のイクスは爆風程度では損傷は受けないが、巻き上げられた土煙で視界が塞がる。
その隙を突いて、スレイプニルが斬りかかる。

「ヴェンス!!」

間一髪、ケインの声に反応したヴェンスは辛うじて直撃を避けたが、左肩のトリプルロケットが貫かれた。
が、ケインがそちらに気を取られた隙に、レーヴァテインが突破した。

「しまった!」

即座に追おうとするタウロスの装甲に、グナーのスナイパーライフルが警告のように着弾する。
こんな優勢な敵に背を向けるわけにはいかない、ケインはそう判断した。
ケインがレーヴァテインを追えば、1機で残されたイクスはたちまち撃破されてしまうだろう・・・。


「うああああっ!!」

背後からの急襲を受けて、遂にボーンクラッシュが炎を噴き出した。
装甲の薄い脚部に、ショットガンの零距離射撃を受けたのだ。

「くっ・・・このままじゃ・・・!」

全滅――そんな単語がアリシアの頭に浮かんだ。
それを振り払おうと必死に戦うが、シグナスの残弾は残り僅かだ。
元々弾の少ないガングートの方は、もっと状況が酷いだろう。
このままでは、本当に全滅する。
そう思ったとき、ヘレナから通信が入る。

「アリシア・・・先に行きなさい!」

アリシアは、ヘレナが何を言っているのか、一瞬理解できなかった。
確かに身軽なシグナス1機なら、離脱することは出来る。
だが。

「何言ってるの!?ヘレナを置いて逃げれるわけないでしょ!?」
「全滅するよりはいいわ!私が引き付けるから、早く!」

反論するアリシアに、ヘレナが有無を言わせぬ剣幕で捲くし立てる。

「嫌!友達を見捨てるなんて、出来ない・・・!」

それでも、アリシアは断った。
例え勝つ見込みが無くとも、この親友となら共に最後まで戦って死ぬ。
――それが、いつの日かアリシアが心に刻んだ誓い。

「馬鹿!2人で死んでどうするのよ!あなただけでも生きて!」

ヘレナは、それでも親友に離脱を勧めた。
例え自分が死ぬとしても、この親友だけには生きていて欲しい。
――それが、いつの日かヘレナが心に刻んだ誓い。

それは、相反する2人の願い。
絶望的な戦場で、気紛れな女神はどちらの願いを聞き遂げるのか。
――答えは、まだ出ない。



高度1200を飛行する、キサラギの航空部隊。

「こちらマザーグース7、上空に敵輸送機2機を確認した」
「こちらフェニックス1、了解した。グレムリン、攻撃に向かってくれ」

輸送機からの敵発見の報告を受けて、グランドロック1号機・・・この航空部隊の指揮官が護衛の戦闘機部隊の1中隊に指示を出した。

「グレムリン1了解、行くぞ野郎共!」
「了解!」

翼を振って急上昇した隊長機に続いて、11機の戦闘機が上空に駆け上がる。
だが、それと入れ替わるように、輸送機から1機づつACが飛び出した。
敵の2番機は、ACを投下すると即座に旋回して離脱を図る。
既に中身の無い機に用は無いとばかりに、グレムリン中隊は未だ直進を続ける輸送機に狙いを定める。

「堕ちろっ!」

――彼らがミサイルを放とうとしたその時、輸送機の中から放たれた榴弾が、編隊の中央で炸裂した。
破片を浴びた4機が空中分解して墜落し、他の機も爆風で姿勢を崩す。
そして、爆風に煽られて狙いが狂ったミサイルで同士討ちが発生する。
更に、空中衝突まで起きる始末だ。
勿論、何発かのミサイルは輸送機に命中したが、その程度ではコーテックスの輸送機は堕ちはしない。

「たかが1発で、8機も・・・!?グレムリン中隊、戦闘続行不能!帰投する!」

辛うじて墜落を免れた4機も、そこかしこに警告ランプが点灯していて、第2撃を掛けるどころの騒ぎではない。
だが、反転した彼らは幸せだったかもしれない。
この大航空部隊が壊滅するところを見ずに済んだのだから。



「うおっ!?」

サンダーハウスは、突如自機を襲った衝撃に驚愕の声を上げた。
これはグレネードライフルだ、しかし何処から――
だが、サンダーハウスがその答えを知ることは無かった。
爆風に紛れてOBで接近したウーランのブレードにコクピットを斬り抜かれ、一瞬で塵も残さず蒸発したからだ。
無論、そのグレネードを放ったのはセニアのディヴァイドだ。

「っ!?」

予想外の敵増援に一瞬気を取られたフィクサー。
それが命取りだった。
その隙を逃さず、ヘレナが最後のLIC-10をアインハンダーに叩き込む。
既に満身創痍だったガングートだが、その主砲ともいうべきLIC-10はまだ生きていたのだ。
最後の言葉を発する暇も無く、フィクサーは愛機と共にセクション614の地で散った。


「またお前かよ・・・つくづく縁があるな、黒い奴――!」

左腕が中ほどから千切れているカース・オブ・カオスに鞭打って、カーティスは残った右腕のマシンガンを連射する。
カーティスがルクスと遭遇するのは、これで3度目だ。
前2回とも接近戦に持ち込まれて苦戦を強いられたカーティスは、中距離からの射撃に専念することにした。
今回は、包囲された第6・第7小隊の残存機の離脱の支援だ。
無理に相手のペースに付き合う必要など無い。

「第13小隊ね――助かったわ!離脱の援護をお願い!」

第6小隊のシグナスとガングートが、2機並んで後方へと離脱していく。
中破したガングートを守るように寄り添うシグナスの姿が、カーティスの視界に僅かに映った。
戦いの女神は、2人の願いを考え得る限り最善の形で、裏切ったのだ。
2機の離脱を知ったヴェンスとケインも、即座にOBを起動して離脱に移る。
この機を逃しては、脱出するチャンスは無い。

「逃がすか!」

追おうとアップルボーイがOBをチャージする。
だが、発動する直前にウーランとディヴァイドからのロケットが襲い、慌ててそれを回避する。

「もう追いつけん、諦めろ」

シェリルが冷静に判断して、それをアップルボーイに告げる。
悔しそうな顔をするアップルボーイだが、次の通信を聞いて照れくさそうな顔に変わる。

「進行を防いだのだから良いのよ。それより、貴方達大分腕を上げたわね、驚いたわ」

以前も言ったが、アップルボーイはワルキューレのファンである。
憧れの”戦乙女”に褒め言葉を頂いて、純情な青年は天にも昇る心地であった。
が、そこにレジーナの怒声が飛ぶ。

「AB、何デレデレしてるのよ!早くルクスの援護に行くよ!」
「あ、ああ・・・待ってくれよ」

慌ててエキドナの後を追うエスペランザを見て、シェリルはククッと笑いを漏らした。

「ワルキューレ、お前も随分な人気じゃないか」
「そんなつもりは無いんだけれど・・・」

困ったように言うワルキューレに、シェリルが笑いを噛み殺しながら続ける。

「あって困るものでも無いさ・・・もっとも、ファナティックくらいになると同情したくなるがね」

はあ、とワルキューレが溜息を吐く。
会員数万人を数えるファンクラブがあるというファナティック。
そんなことになったら、レイヴンを廃業しようかしら――などと、少し本気で考えるワルキューレだった。


『レーダーにキサラギの援軍を確認した!!皆、今までよく耐えてくれた!両翼の部隊から前進を開始しろ!』

生き残っていた全部隊から、歓声が上がった。
待ちに待った増援である。
士気は一気にハネ上がり、猛烈な勢いでユニオンの部隊が突進を開始した。

「・・・さて、私達も行くとするか?」

シェリルの問いに、ワルキューレが答える。

「そうね、弾薬もまだあるし――」
「狙いは敵の指揮官――でどうだ」

シェリルが不敵な笑みを浮かべる。
ワルキューレも、表情を引き締めて頷く。

「了解よ、それじゃあ――」

作戦開始時には東にあった太陽を模した光源が、南の空高く昇っている。
ユニオンの反撃が、今始まろうとしていた。











前条です、1話じゃ収まらないんで続きますー。
何か大分ランカーが落ちてますが、細かいことを気にするのは止めです、ええ。
引き続き哀戦士をBGMでお楽しみ下さい(ぉ
でもガンダム知らない人も居るんだろうナア・・・まあ、知ってる人は聴きながらニヤリとして下さひ・・・w




AC及びキャラ設定

PL:ヴェンス
"Last Supper"第7小隊長。
無口で大柄な男で、必要の無いことは滅多に喋らない。
遠距離ではミサイルを放ち牽制し、接近戦へと相手を誘導する。
近距離から一気に仕掛けるラッシュは、寡黙な仮面に隠れた激情を感じさせる。
AC:イクス
頭:MHD-MX/RACHIS
コア:MCH-MX/GROA
腕部:CAM-01-MHL
脚部:MLH-MX/VOLAR
ブースター:CBT-FLEET
FCS:PLS-SRA02
ジェネレータ:CGP-ROZ
ラジエータ:RMR-ICICLE
インサイド:MWI-DD/10
エクステンション:MWEM-R/30
右肩武器:CWM-S60-10
左肩武器:MWR-TM/30
右手武器:CWG-MG-500
左手武器:MWG-MGL/300
オプション:
 S-SCR    E/SCR    S/STAB   ECMP     L/TRN    
 M/AW     CLPU     
ASMコード:MeKgLXZ6Z0q14peWa2
メギナさんより提供です。
レイヴンとの記述がなかったので、"Last Supper"にて起用させて頂きました。


PL:バーティア E-25
アリーナに登録されたばかりの新人レイヴン。
攻撃力の高い武装を持つが、まだ操縦には未熟なところが見受けられる。
感情が爆発すると乱射を開始し、弾切れを起こすこともしばしば。
AC:アグルファイ
頭:CHD-SKYEYE
コア:MCM-MI/008
腕部:CAL-66-MACH
脚部:CLM-02-SNSK
ブースター:CBT-FLEET
FCS:PLS-SRA02
ジェネレータ:CGP-ROZ
ラジエータ:RMR-ICICLE
インサイド:MWI-DD/10
エクステンション:MWEM-R/24
右肩武器:CWM-S60-10
左肩武器:CRU-A102
右手武器:CWGG-GRS-30
左手武器:MWG-HGBL-90
オプション:
 S-SCR    E/SCR    S/STAB   L-AXL    LFCS++   
 L/TRN    M/AW     CLPU     
ASMコード:I8y6LXZ6YWthK$cWa2
同じくメギナさんより提供。
なるべく新人っぽさを出てればなあ、と。
撃破されていますが、きっちり生存していますので御安心ください。


PL:ゼブ  D-4
高速で走り回り、相手を撹乱しつつマシンガンとライフルで徐々に相手を追い詰める戦法を得意とする。
相手の攻撃が激しくなると背を向けて逃走するが、背を向けたままで相手の攻撃を回避し、EOで的確な射撃を浴びせる。
派手さは無いが、玄人好みの戦い方をするテクニシャンだが、本人は楽天家で勝敗に余り興味は無いという。
AC:ゼーレ
頭:CHD-SKYEYE
コア:MCM-MX/002
腕部:MAL-RE/HADRO
脚部:MLR-MM/PETAL
ブースター:None
FCS:VREX-WS-1
ジェネレータ:CGP-ROZ
ラジエータ:RMR-SA44
インサイド:None
エクステンション:None
右肩武器:None
左肩武器:None
右手武器:MWG-MG/800
左手武器:MWG-SRFL/70
オプション:
 S-SCR    E/SCR    S/STAB   LFCS++   L/TRN    
 EO-LAP   
ASMコード:I4rg0XXW0001OhYW21
ZEROさんより提供。
今回は名前だけですが、次はちゃんと戦闘して頂きますよー。


PL:ネクス D-8
女性人気が高いレイヴン。人気だけではなく、腕もそれなりにある。
追加装甲で敵の反撃を防ぎ、フロートの機動力で一気に接近してマシンガンとロケットを至近距離から浴びせる戦いを得意とする。
だが装甲は大分薄いため、強引に攻められると脆い一面もある。
AC:ヴァレリアッタ
頭:MHD-MM/004
コア:MCL-SS/RAY
腕部:CAL-44-EAS
脚部:CLR-01-SCUD
ブースター:None
FCS:PLS-SRA02
ジェネレータ:CGP-ROZ
ラジエータ:RMR-ICICLE
インサイド:MWI-DD/10
エクステンション:CSS-IA-64S
右肩武器:MWR-AR/602
左肩武器:CRU-A10
右手武器:CWG-MG-500
左手武器:CLB-LS-1551
オプション:
 S-SCR    E/SCR    S/STAB   L-AXL    LFCS++   
 L/TRN    M/AW     
ASMコード:GObk1XZ6geNX47cWW1
メギナさんより提供のフロート。
同じく名前しか出ていませんが、まあ次を見ていろっ!(ぉ


PL:ノーマル E-23
死霊という大仰な機体名の割には、ミサイルにライフル、レーダーと余り特徴の無い重量機体。
戦い方も基本通りの戦法で、どんな相手にもある程度対応出来るオールラウンド型。
だがその代わりに突出した能力がなく、機体性能を生かしきれずに平均的な戦いしか出来ない。
本人は、レイヴンネームの通り至って普通の面白みの無い男だという。
AC:レイス
頭:CHD-MISTEYE
コア:MCM-MI/008
腕部:MAL-RE/HADRO
脚部:CLB-33-NMU
ブースター:MBT-OX/002
FCS:PLS-SRA02
ジェネレータ:CGP-ROZ
ラジエータ:RMR-ICICLE
インサイド:MWI-DD/20
エクステンション:MWEM-R/36
右肩武器:MWM-DM24/1
左肩武器:MRL-RE/111
右手武器:MWG-RF/300
左手武器:MWG-SRFL/70
オプション:
 S-SCR    E/SCR    S/STAB   L-AXL    LFCS++   
 L/TRN    M/AW     CLPU     
ASMコード:U8qyDXZ742duOhcWa0
レイヴン試験不合格者さんからの提供でふ。
こちらも今回は名前だけですが、次で戦闘シーン有りです。
作者:前条さん