サイドストーリー

Underground Party 10話 セクション614の決戦・後編
Title:爆撃機撃墜
レイヴン、緊急の依頼だ。
現在我々は、ユニオンの拠点に対する大規模な作戦を実行中だ。
だが、我々に敵対しユニオンに与するキサラギの航空部隊が、敵増援として発進したことが確認されている。
これが戦場に到着すれば、我々の部隊は苦戦を免れないだろう。
無論、最後に勝利するのは我々だが、余り大きな被害を出すわけにはいかない。
こちらの選んだ僚機と共に出撃し、敵航空部隊を迎撃してほしい。
護衛の戦闘機には構わなくて良い、大型爆撃機は全て撃墜してくれ。
それが任務達成の最低条件だ。


コーテクッスの開催するアリーナ付属のガレージ。
戦闘後に機体の調整をしていると、ACのコンピュータにいきなり依頼が回されてきたのだ。

「ええ〜、今から・・・?ついさっきまで戦ってたのに・・・」

ACの通信機を使い、オペレータへと抗議する。
アリーナで一戦終えた後なのだ、それは抗議もしたくなる。

「すぐに出撃可能なレイヴンは、貴女の他は数名だけです。既に依頼は受諾してありますから、迅速に輸送機へ機体を搬入して下さい」
「うぅ〜・・・」


それが、1時間ほど前の話だ。
そして今、彼女――レイヴン『紗輝』はキサラギ航空部隊の上方500mから降下を開始していた。

「きゃ〜!?」

楽しんでいるのか怯えているのか、よく判らない声を発して、紗輝は眼下のキサラギの部隊に向けて落下していく。
その声を聞いて、共に降下を開始したレイヴン『ノア』は内心で溜息を吐いた。

――"災厄の姫君"というからどんな化け物かと思ったら、単なるお嬢ちゃんじゃないか――

期待して損した、という奴である。
だが、それはすぐに裏切られる事となる。
ノアは、その目で"災厄の姫君"の戦闘を見届けることとなる。


どすん、と鈍い音を立てて、紗輝の機『ディザスタープリンセス』が大型爆撃機"グランドロック"の上に飛び降りる。
ディザスタープリンセスはアリーナ仕様のままでの慌ただしい出撃の為、肩にはグレネードが装備されたままで、過積載状態だ。
その為か、ディザスタープリンセスの飛び降りた部分が少し凹んだが、グランドロックにとってその程度では損傷にもならない。

「スカイフィッシュよりディザスタープリンセス、いっちょ派手にやってやろう!」

そう叫んで、ノアは一番手近な戦闘機の編隊に向けて小型ロケットを連射する。
そのうちの1発が命中し、主翼をもぎ取られた"ガスホーク"は錐揉みしながら墜落してゆく。

「行けえ!」

シュパッという音を立てて、スカイフィッシュの肩からミサイルが発射される。
爆雷を投下する特殊なそのミサイルは、輸送機の前方で炸裂した。
その爆雷の雨の中に突っ込んだ輸送機は、数発を被弾して編隊から僅かに外れる。

「こちらマザーグース9!被弾した!速度低下――先に行け!」
「了解――マザーグース9、幸運を祈る!」

段々と編隊から外れたその輸送機に向けて、ノアは左腕のグレネードを叩き込む。
直撃を受けた輸送機は、あちこちから黒煙を噴き出し、コントロールを失って降下していった。
その光景を見て、紗輝が感嘆の声を上げる。

「わあ、凄いなあ・・・紗輝も頑張らなくちゃ・・・」

と、そこへ戦闘機の放ったミサイルが突っ込んでくる。

「きゃあっ!?」

グランドロックに当たる可能性もあると言うのに、軽率な攻撃である。
――だが、それが紗輝の中の『何か』を呼び起こした。
ぶわっと噴き出した紫色のもやが、ディザスタープリンセスを包む。
戦闘機のパイロットが本能的に何かヤバイ、と感じた瞬間。
ディザスタープリンセスの放ったグレネードが、彼の機体を粉々に吹き飛ばした。
驚くべきことに、ディザスタープリンセスは2脚型だというのに、構え態勢を取っていない。
それどころか、積載過多の状態である筈なのに、全く問題がないような素早い動きで空中へと跳んだ。
そして、空中からグレネードカノンをグランドロックのジェットエンジンに向けて叩き込んだ。
炸裂した榴弾は、グランドロックの主エンジン3基を吹き飛ばした。
如何な重装甲のグランドロックと云えど、推進力がなくてはどうしようもない。
機体後部から炎を噴き出しながら、ゆっくりと高度を下げていった。

「フェニックス2、爆発炎上を確認!」

編隊から脱落していったグランドロックが、爆弾に引火したのか大爆発を起こしたのだ。

「くそ!僅か一撃でグランドロックが堕とされただと――!」

ドン!
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、爆発音が響いた。
前方を飛行していたもう1機のグランドロックに、ACが接近したと思った瞬間だった。
グランドロックの下部を通過する際、ディザスタープリンセスがブレードでグランドロックの主翼を切断したのだ。
正確に燃料タンクの位置を切り裂かれたグランドロックは、爆発を起こして一気に墜落していった。

「なっ!?」

しかも、300は離れていたはずのグランドロック3号機をたった今撃墜した筈のディザスタープリンセス。
それが、隊長機のコクピットの正面に、その昆虫の複眼を連想させる4つの眼――カメラを持つ頭部を覗かせていたのだ。

「うあ・・・あああああっ!?」

副操縦士が、パクパクと口を空けて悲鳴を上げて失神した。
この航空部隊の指揮官は、その副操縦士の様子に、顔を上げた。
眼に入ったものはMWGG-XCG/20――驚異的な破壊力を誇る、プラズマライフルの銃口だった。
それは、一瞬の後に彼ら全員が死ぬという絶対的な通告だ。
なるほど、副操縦士が失神するのも無理はないだろう。
その奇妙な納得が、指揮官の最後の思考となった。
それは、パシュウ!という何処か間の抜けた音が響いた瞬間であった。


「何だあ、ありゃあ・・・」

ノアは呆れたような声を漏らす。
紗輝のディザスタープリンセスは、瞬く間にグランドロック3機を撃墜してしまったのだ。
空中からキャノンを発射するということ自体は、普通ではないが上位ランカーなどでは数人の例がある。
だが、2機目を落とした時のブレード・・・ノアは確かに見た。そのブレードは、紫色に輝いていたのだ。
刀身が紫色のブレードなど、このレイヤードには存在しない。

「しかも・・・いつまで飛んでやがるんだ?」

そう、最初に足場にしたグランドロックを跳び立ってからというもの、ディザスタープリンセスはどの輸送機の上にも乗っていない。
ずっと空中での機動を続けているのだ。
スカイフィッシュの滞空時間も、重量にしては大分長い方だが、それはブースタ効率と電池の愛称を持つパーツを装備しているからだ。
パシュウ
再び加速されたプラズマ粒子の群れが吐き出され、輸送機の胴体を射抜き爆発させる。
スカイフィッシュもプラズマライフルは装備しているが、それはEN消費と威力を落としたバージョンである。
そちらのEN消費ですら、空中戦で使用するには電池の力を借りなければならない。
プラズマライフルは、プラズマを発生させ発射する為に加速するという複雑な兵器の為に、大量のENを消費するのだ。
地上での発射にも少々の問題が出るほどに、MWGG-XCG/20のEN消費は莫大なのだ。
だが、自在に飛び回るディザスタープリンセスは、そんなことはこのレイヤードの外だと言わんばかりにそれを発射していく。
その光弾が空気を焦がす度に、1機の輸送機が火球に包まれていく。

「確かに、化けモンだよ・・・」

ノアが呟く間にも、グレネードとブレードを受けて輸送機と戦闘機が同時に墜落する。
呆然としていたノアだが、ある1つの事に気付く。

「――げ、やばい!」

いつの間にか――そう、ノアも気付かぬ内に、足場にしていた輸送機が炎に包まれているではないか。
しかも悪いことに、編隊では一番低い高度を飛んでいた機体だった為、既に随分と戦闘領域から離れつつある。

「届くか――!?」

残った電池を全て使用し、必死に上の輸送機へと昇ろうとするノア。
だが、もうちょっとという所でコンデンサのENが全て尽きた。
足場の無い空中でチャージングが開始されれば、後は地上まで重力に任せて落ちるだけである。

「そ、そげなーーー!?」

ノアの方言な叫びを残して、スカイフィッシュは戦闘領域を離脱していった。


「くそ!グライダーを切り離せ!」

護衛戦闘機の奮闘も空しく、残る輸送機は僅か6機。
このままでは全滅も有り得ると判断した1機の機長が、降下部隊だけでも地上に降ろそうと曳航するグライダーの切り離しを命じた。
それを見て、残る5機も次々に曳航索を切断する。
搭載しているMT部隊は、流石にこの高度で投下するわけにはいかない。
ACならともかく、MTの強度では着地の衝撃で行動不能になってしまうだろう。

「全機高度を下げろ!このまま強行着陸するぞ!」

木々の乱立するジャングル地帯での強行着陸など、殆ど自爆行為にも等しい。
だが、このままユニオンの飛行場へと辿り着ける可能性は、既に皆無に等しかった。

アルバ湿原上空、高度1200の空は"災厄の姫君"の暴れまわる狩場となっていた――



「うあああ!」
「駄目だ、堕ちる!!」
「マザーグース5、気を付けろ!上だ!」

先程から、ユニオンの指令部には重い空気が満ちていた。
キサラギの部隊の通信を傍受してみれば、こんな具合である。

「何だ!一体何が起きているんだ!?」

1人の幹部がデスクを叩いて苛立った声を上げる。
だが、それに答えられるものはこの場にはいない。

そんな司令部の状況など知らぬ前線の部隊は、増援の接近で最高潮に達した士気のままに、怒涛の反撃を続けていた。
クレストの部隊は数・性能ともに勝っている筈だが、そのユニオンの勢いに押しまくられていた。
一度崩れた戦線を立て直すというのは、容易な事ではないのだ。
混乱して散弾を乱射するギボンに、エピオルニスの放ったミサイルが直撃して行動不能にする。
射撃しつつ後退するスクータムの部隊に榴弾が降り注ぎ、次々に吹き飛んでいく。
味方の敗走を止めようとユニオン部隊に突入した"Last Supper"のACが、カバルリーのENキャノンの集中砲火を受けて撃破される。
そんな絵に描いたような敗走だった。
が、そんな中。

「――ワルキューレ!止まれ!」
「・・・どうしたの?」

シェリルは無言で、スレイプニルのショットガンでそれを指した。

「――!?」

それを見たワルキューレも息を呑む。
D-7ハードエッジのAC『リバイバル』。
だが、そのレイヴンは既にこの世に居ないことが一目で見て取れた。
コアに、大穴が開いていたのである。

「――エグザイル――?」

呆然と、ワルキューレが呟く。
その名は、全てのレイヴン・MT乗りの恐怖の的だった。
戦場を渡り歩き、目に付いた機は全て破壊する。
そして、その全てが例外なくコクピット部分に風穴を開けられているという――。
戦場には付き物の、一種の怪談や都市伝説の類のようなものだと思っている人間も居る位である。
だが、その残骸は目の前に存在した。
2人の間を、冷たい風が吹き抜けた――

「スレイプニルよりグナー・・・構わず前進しよう」
「・・・そうね」

遭遇したら、その時はその時だ。
目の前に居ないものを恐れても仕方が無い。
そう割り切って、2人はクレストの後陣へと突入していった。


「司令ッ!敵ACが突入してきました!"紅い神槍"と"戦乙女"・・・うあああっ!?」

爆音と共に、"Last Supper"第1小隊の1機が通信途絶した。
2機の連携攻撃を受けて、抵抗する間もなく撃破されてしまったのだ。

「おのれ・・・!ミラルダ、ボース、援護しろ!迎撃するぞ!」
「了解!」

ゴールドマンの通信を受けて、2機が司令機の付近に展開する。
ミラルダの『トウェレブズナイト』と、ボースの『シールドット』だ。
レーダーにグナーとスレイプニルの接近を確認し、シールドットがカスタム化されたEX・左腕のENシールドを展開する。
通常のものより、遥かに範囲が広く、分厚いEN障壁がシールドットを囲む。
ゆっくりとゴールドマンの『メシアン』の前に出たシールドットに、グナーからのスナイパーライフルが次々と命中する。
だが、その弾丸はEN障壁に阻まれて速度が減少し、シールドットの装甲には傷一つつかないではないか。
と、トウェレブズナイトに向けて横合いからミサイルが1発放たれたが、ミラルダはデコイを発射して、それを意にも介さない。

「そこかっ!?」

バシュッと音を立てて、2発の垂直発射ハイアクトミサイルと、4発の連動ミサイルが木々の間を縫って発射される。
トウェレブズナイトの放ったミサイルは、グナーに向けて襲い掛かった。
だが、ワルキューレは冷静にステルスを起動して、上空へと飛び上がる。
目標を見失ったミサイルが、燃料が尽きて空しく自爆した。
グナーが空へ上がった直後、シェリルはOBを展開する。
恒例の"グングニール"である。
それを阻止しようと、トウェレブズナイトがグレネードとバズーカを放つが、シェリルは機を巧みに蛇行させてそれをことごとく回避する。
援護に入らせまいと、上空のグナーがロケットの雨をシールドットに打ち下ろす。
流石にロケットの攻撃力を全て吸収することは出来ず、少しづつシールドットの装甲にダメージが蓄積される。

「司令官の首、頂くぞっ!」

シェリルが叫び、距離100でレーザーカノンを発射した――。



「万物の決定者、管理者よ・・・我に力を!」

中破したテン・コマンドメンツのコクピットの中で、サイプレスは管理者への祈りを捧げた。
カイザーを数時間に渡って引き付け、遂には弾切れで撤退させるに至ったサイプレスだが、機体は既にAPが3分の1近い状態だった。
攻撃を殆どせず、回避することだけに集中してすらこの状況だ。
一時撤退しようとしたサイプレスだが、後退中に2機のACと遭遇してしまったのだ。

「D-4ゼーレとD-8ヴァレリアッタか・・・Bランカーの実力を甘く見るなよ・・・!」

奇しくも、3機のACは皆フロート型であった。


ドドドドド、とテン・コマンドメンツのチェインガンが火を噴く。

「わあ、冗談じゃな〜いよ!」

緊張感というものに欠ける声を発しながら、ゼブはテン・コマンドメンツに背を向けたまま、機体をスライドさせて射線を外す。
水面に幾つもの水柱が並び、ゼーレの脇を抜けていった。
その間にも、ゼーレの後部に浮遊するEOからの光弾が、テン・コマンドメンツに向けて放たれている。
だが、サイプレスは必要最低限の機体操作で、その光弾をギリギリで避けてゆく。
流石はBランカー、2人との戦闘開始から10分以上が経っているにも関わらず、未だに1発の被弾も許していない。
EOを放ちながら逃げ回っているように見えるゼーレだが、ゼブにはきちんとした目標がある。
先程、ネクスのヴァレリアッタが前方へと先回りしていくのを確認している。
待ち伏せするヴァレリアッタの元へテン・コマンドメンツを運び、2機で一気に攻撃しようという考えだ。
しかし、サイプレスはそれを読んでいる。
テン・コマンドメンツのレーダーでも、ヴァレリアッタの行動は確認していたのだ。

「やっぱ、上手〜いね!」

ゼブが右に行こうとすれば右側に、左に行こうとすれば左側にチェインガンの一連射が浴びせられる。
ゼーレの機体の僅かな挙動を見て取って、即座に反応しているのだろう。
進行方向を制限して、ゼーレをヴァレリアッタの居る方向へと向かわせないようにしているのだ。
しかも、その内の数発づつは確実にゼーレの装甲に弾痕を穿っているのだ。
このままでは、ゼーレが堕ちるのは時間の問題であった。

「チッ、こっちから行くぞ!」

いつまで経っても来ないゼーレに業を煮やしたか、ネクスがOBを起動してロケットを連射しながら一気に近付いてくる。
テン・コマンドメンツの横合いから接近したヴァレリアッタが、ゼーレから引き剥がそうとマシンガンの弾幕を張って牽制する。
流石にサイプレスも、ゼーレの追撃を諦めて機体をスライドさせた。

「ありがと〜うねっ!」

ゼーレは、一旦テン・コマンドメンツから距離を取って、再び攻撃を掛けようと旋回する。
だが、ゼーレがテン・コマンドメンツに照準を定める前に、テン・コマンドメンツはヴァレリアッタに急接近していた。
離脱しようとするヴァレリアッタに、ハンドガンが容赦なく打ち込まれ、反動で足を止める。

「さっきの一撃で決めるべきだったな!」

ヴン、とテン・コマンドメンツのブレードが唸る。
この距離では回避は不可能、ならばいっそ――

「らぁっ!」
「何・・・!?」

避けきれないと悟ったネクスは、咄嗟にヴァレリアッタをテン・コマンドメンツに激突するほどまでに接近させたのだ。
ヴァレリアッタの胴を袈裟に切り下ろす筈だったブレードは、ヴァレリアッタの左腕を肩口から切り落としたに留まった。
大抵の攻撃というものは、その間合いを外してしまえば致命的なダメージには至らないのである。

「食らいなっ!」
「畜生がっ!」

密着した状態で、互いが発砲した。
銃口を押し付けあっているのだ、当たらないほうがおかしい。
ガガガガガガッと両者の機体が着弾の衝撃で振動した。
ネクスが撃ったマシンガンは、サイプレスが咄嗟に盾にしたテン・コマンドメンツの左腕を打ち砕き、ブレードを鉄屑へと変える。
そしてサイプレスの放ったチェインガンは、銃口の目の前にあったヴァレリアッタの頭部と肩部レーダーを粉砕した。

「くそっ!」

頭部を失って大半の機能がイカれたヴァレリアッタに、少し距離を取ったテン・コマンドメンツが止めを刺そうとチェインガンを展開する。
そこに、マシンガンとライフルの銃弾が飛び込んできた。

「忘れて貰っちゃ困る〜よ!」

サイプレスは舌打ちして、機体を巡らせる。
ヴァレリアッタに止めを刺しそこなった以上、無駄な戦闘は回避すべきと判断したのか。
OBの光が煌めき、テン・コマンドメンツは何処かへ消えていった。

「サンキュー、助かったぜ」
「うん、お互い様だ〜よ」

頭部を破壊されたヴァレリアッタは、作戦領域外への離脱を開始する旨を司令部へと告げ、OBを発動して飛び去る。
多少被弾しているものの未だ健在なゼーレは、ユニオンの反撃を支援すべく、木々の間を滑るように移動していった。



「うらっ」

一挙に飛び出たミサイルの群れが、敗走するスクータムに次々に命中し、何度も爆発の閃光が輝く。
6発ものミサイルを受けたスクータムは、大破して沼のような湿地へと崩れ落ちる。

「よし、次だ――」

そう呟いて機体を移動させようとした時、ノーマルの耳が何かを捉えた。

――Sanctus, Sanctus, Sanctus, Dominus Deus Sabaoth.
(聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、万軍の天主)

「ん・・・何だ?」

気になって、ノーマルは機体を音の聞こえるほうへと向かわせた。
少しづつ、音は大きくなっている。
どうやら、誰かが何かを歌っているようだ。

――Pleni sunt coeli et terra gloria tua. Hosanna in excelsis.
(主の栄光は天と地に満ち満ちてり。天のいと高き所までホザンナ)

「・・・聖歌・・・? まさか!?」

そうと気付いた時には、遅かった。
単機でクレスト部隊を追撃していたノーマルの前に、その機体は現れた。
C-2エヴァンジェリン――"死招く聖者"クイックシフトの乗機である。

「う・・・うわああああっ!!」

バシュッ!バシュッ!バシュッ!
パニックに陥ったノーマルは、ミサイルの残り全てを斉射すると、エヴァンジェリンに背を向けて逃走を開始した。
レイスから放たれたミサイルは、計18発。
だが、ミサイル単体で放たれた攻撃など、クイックシフトには通用しない。
ミサイルが着弾する直前に、エヴァンジェリンはOBによって急加速し、ミサイルの群れを置き去りにした。

「・・・逃げ切ったか・・・?くそ、冗談じゃない!」

一息を吐いたノーマル。
だが、その背後には忍び寄るように1つの影が近付いていた。

――Pie Jesu, Domine, dona eis requiem, sempiternam. Amen.
(慈悲深き主イエズスよ、彼等に安らぎを与え給え、永遠の安らぎを。アーメン)

「え・・・」

ノーマルは、すぐ近くから聞こえたその声に、振り返ろうとした。
――ドオン
砲声が、太陽の陰り始めたジャングルに響いた。


「私は、こんなことをいつまで続けるのかしらね・・・ねえ、×××××――?」

そして、クイックシフトは再び聖歌を口ずさむ。

――Kyrie eleison, Christe eleison, Kyrie eleison――
(主よ、憐れみ給え キリストよ、憐れみ給え 主よ、憐れみ給え――)


「こちら、エスペランザ――2人共、来てくれ」

アップルボーイからの通信に、何事かと機体を巡らせるレジーナとルクス。
エスペランザの立っている前方に、それはあった。
そこは、数十分前に短い戦闘が行われていた場所。

「な、これは――」
「酷い・・・」

コアに大穴の開いた、レイスの残骸。
そして、2人もアップルボーイと同じ事に思い当たる。
シェリルとワルキューレが、リバイバルの残骸を見て考えた事と全く同じである。
レイスのコアに開いた黒い穴は、さながら黄泉の国へと通ずるという洞窟のように、深く暗く口を開いていた――。


ユニオン部隊の間に、"死神"エグザイルが居るのでは、という情報が広まっていった、丁度その頃。
1人のレイヴンが、戦場へと向けて機を急がせていた。
レイヴンの名は、ノア。
先程、キサラギの航空部隊を攻撃中に落下し、戦場からは大分西へ離れたアルバ湿原へと降下してしまったレイヴンだ。
キサラギの部隊が向かった方向が戦場だろうと、輸送機の向かっていた方向へ機を走らせ続けている。

「お、レーダーに反応・・・ドンピシャか?・・・それにしちゃ、味方の姿が見えないな・・・」

少し疑問に思いつつ、反応のあった箇所へと機体を向かわせる。
密生していた茂みを抜け、湿地へと飛び出したノアは、目を疑った。
靄で霞む湿原の景色の向こうに、この自然とは不釣合いな大きな建造物が薄っすらと見えたのだ。

「・・・参ったな、エラい大当たりだ・・・」

ノアの報告を元に、クレストの予備部隊――進撃が遅れていた機甲部隊が、アルバ湿原へと突進を開始した。



「緊急事態だ!カバルリーと航空部隊、手の空いているレイヴンは全速で基地へと向かえ!敵ACに基地を発見された!!」

現時点で戦場に残っているレイヴンは、8名。
B-4ワルキューレ・B-5シェリル・C-4ブレーメン・C-6ストリートエネミー・D-4ゼブ・E-6ルクス・E-9レジーナ・E-11アップルボーイだ。
A-3ロイヤルミスト及びC-14パーティプレイは、弾薬切れに付き撤退。
D-8ネクスが頭部損失により戦闘続行不能の為、離脱。
その他9名は、脱出に成功したE-25バーティアを除いて全員死亡が確認されている。

「チ・・・!レーヴァテインより、エキドナ・エスペランザ両機へ!」

ルクスの声に、2人が応答する。

「判ってる!基地でしょ!」
「けど、間に合うのか――!?」
「間に合わせる!OB最大出力でかませ!」

前線へと移動中だった3機は、方向を転換すると次々にOBで急加速する。
3機は疾風と化して、西へと疾る。



「アタマの癖に、中々やるっ!」

シェリルが叫び、スレイプニルを再び跳躍させる。
グナーの援護の中、長射程のHALBERDを発振させ、もう何度目か判らない程の斬撃を繰り出す。
だが、それも飛び込んできたシールドットに阻まれ、そこへメシアンとトゥエレブズナイトからの射撃が襲う。
味方を巻き込むという予想外の攻撃に、一瞬動きが鈍るスレイプニルだが、それをギリギリで避けて距離を取る。
ライフル弾と投擲弾が直撃した筈のシールドットだが、何事も無かったかのようにスレイプニルへと接近する。
シールドットから放たれた地上魚雷がスレイプニルに迫るが、それをグナーが苦も無く撃ち抜いて爆発させた。

「――コレだからカスタム機はっ!」

グレネードを空中から放ってきたトゥエレブズナイトに、シェリルが回避機動を行いながら苛立った声を上げる。
キャノンの空中発射と異常な防御力のシールド。
そして、敵指揮官の予想を上回る技術。
だが、本来なら2対3のこの状況にその要素が加わったとしても、シェリルとワルキューレの実力ならば左程問題は無い。
戦いが長引いているのは、多分に2機の状態にある。
それまで全く戦闘に参加していなかった"Last Supper"第1小隊の3機は、機体もパイロットも殆ど完全な状態だった。
だが、シェリルとワルキューレの2人は違う。
9時過ぎに戦闘が開始されて以来、これまで6時間近く縦横無尽に戦い続けているのだ。
スレイプニルは既にミサイルもレーザーキャノンもパージし、ショットガンの残弾も10発を切っている。
グナーも、2基のロケットの片方は撃ち尽くし、もう1基も数発しか残っていない。
更に、幾ら2人がトップランカーとは云え、戦闘機動をそれだけの長時間続けていれば疲労も溜まる。
それが2機の戦闘力を低下させ、大分苦戦している要因となっている。



ふと、レーヴァテインが足を止め、旋回する。
それに気付いたアップルボーイは、レーヴァテインの前方に1機のACを確認する。

「テン・コマンドメンツ――?」
「そんなの構わないで、早く!」

レジーナが2人を急かす。
だが、レーヴァテインは動かない。

「――先に行ってくれ」

ルクスは、どうにかその言葉を搾り出した。

「・・・そうか、判った――貸しにしておくよ」

アップルボーイが、一瞬の沈黙の後に答えた。
それに対し、レジーナが抗議しようと声を上げる。

「は!?あんたまで何言ってるの・・・!」
「いいから!・・・行こう、レジーナ」

普段は大人しいアップルボーイの剣幕に、レジーナは動揺してついエスペランザに従って機を動かした。
アップルボーイは、ルクスの声に含まれた異常さに気付いたのだろう。
激情を必死に抑えている、そんな声色だった。


「幾らこっちが損傷しているとはいえ、1機で戦うつもりか?」
「――戦い、ね」

決着は、刹那の間に着いた。
サイプレスが、レーヴァテインが消えた――そう思った瞬間。
ドン!ドン!
ほぼ同時に銃声が響き、テン・コマンドメンツの機体が震えた。

「何だとッ!?」

――右肩・左肩兵装大破。
一瞬で、テン・コマンドメンツの主力武装が奪われたのだ。
まだ右腕にはハンドガンが残っているが、それはブレードへの繋げる為の武器で、単体では大した威力は無い。

「くっ!」

離脱しようと、サイプレスはOBを展開する。
だが、それも無駄に終わる。
ドン!
容赦無く放たれた散弾が、展開されたOB機構を打ち砕いたのだ。

「――下手な真似はしないでくれ。俺の聞きたい事に答えれば、逃がしてやる」

逃がしてやる――それは、用が済めば殺す価値も無いということ。
しかも、その声は異様な迫力を持ち、重いプレッシャーを掛けてくる。
サイプレスは、スティックを握る自分の手が震えている事に気付いた。
――Bランクの自分が、たかだかEランクのレイヴンに、恐怖を感じているだと?
普通のレイヴンなら、ここまでプライドを傷付けられれば、激怒して何らかの行動を起こすだろう。
だが、サイプレスは耐えた。
口の中に鉄錆の味が広がるほど、強く歯を噛み締めて、その屈辱に耐えた。
生き残って、いつか恥をそそげばいい。
そう自分に言い聞かせ、ともすれば一挙に爆発しそうになる感情を押し込めた。

「――半年ほど前、海での任務があったろう」

――海だけでは判らない。
フロート型ACを駆っている性質上、水上での依頼が優先的に回ってくるのだ。

「海岸に何かの施設があって、海上施設が見える何処かの湾」
「――ああ、アビア湾か。確かにあそこでの依頼はあった、それがどうした?」

サイプレスが聞き返す。

「その時の依頼内容は――?」
「重要物資の護衛――ACの残骸のようだったが、見たこともないパーツばかりだったな」

そこでサイプレスは言葉を切って、少し考えてから言葉を続ける。

「クレストの試作機だったんだろうな。・・・だがミラージュからこの間発売されたKARASAWAとMOONLIGHTに似ていたような――」
「――他に何かないのか?どんなことでもいいから、思い出してくれ――!」

懇願するようなルクスの声に、サイプレスは疑問を覚えたが、ある1つの事を思い出す。

「・・・ああ、そうだ。確かクレストの連中がパイロットを回収してた筈だ、そいつを探せばもっと詳しい事が――」

思い出したその事実を、サイプレスが口に出した瞬間、ルクスが叫んだ。


「そのパイロットは、俺なんだよっ!!」










どーも、前条です。
募集したAC&レイヴン総登場編です〜(ぉ
引き続き哀・戦士をBGMでどうぞ(しつこい
次でこの戦闘終わるかな・・・w
余談ですが、最初ディザスタープリンセスがOBを使用してました(滅
気付いて修正しましたけど・・・大分焦りましたん・・・w






PL:紗輝 D-1
"災厄の姫君"と呼ばれるレイヴン。
プラズマライフルを愛用し、アリーナでは高火力を生かした短期決戦を展開する。
彼女が今までに戦ったACは、1機の例外も無く跡形を留めぬほどに破壊されているが、奇跡的に死者や重傷者は出ていない。
ミッションでもその戦闘力は存分に発揮され、破壊・殲滅などのミッションを主に受ける。
『突然トップランカー級の動きになる』『機体から紫の靄が出ていた』等と謎の多いレイヴンだが、本人は可愛らしい少女そのものである。
AC:ディザスタープリンセス
頭:MHD-MM/003
コア:MCM-MX/002
腕部:CAM-11-SOL
脚部:MLL-MX/EDGE
ブースター:CBT-FLEET
FCS:VREX-WS-1
ジェネレータ:CGP-ROZ
ラジエータ:RMR-SA44
インサイド:None
エクステンション:KWEL-SILENT
右肩武器:None
左肩武器:CWC-GNL-15
右手武器:MWGG-XCG/20
左手武器:CLB-LS-2551
オプション:
 S-SCR    E/SCR    S/STAB   LFCS++   SP/E++   
 EO-LAP   
ASMコード:448QKXXW7W5iOFY420
かなめ姫様からの提供。
大分驚いたのは内緒であります。


PL:クイックシフト C-2
常に温厚で、アリーナでは相手に怪我を負わせないよう細心の注意を払っている。
しかし殺さねばならない相手に対しては、躊躇無くコアを貫いて撃破するという割り切った性格の持ち主。
戦場でよく聖歌を口ずさんでいるということから、"死招く聖者"と呼ばれている。
AC:エヴァンジェリン
頭:MHD-MM/003
コア:MCL-SS/RAY
腕部:CAL-44-EAS
脚部:MLR-MM/PETAL
ブースター:None
FCS:VREX-WS-1
ジェネレータ:CGP-ROZ
ラジエータ:RMR-SA44
インサイド:None
エクステンション:None
右肩武器:None
左肩武器:None
右手武器:CWGG-GR-12
左手武器:CWGG-GRSL-20
オプション:
 S-SCR    E/SCR    S/STAB   ECMP     LFCS++   
 L/TRN    
ASMコード:4Obg0XXW0003HpgW01
樽(Raul)さんよりの提供。
何かもー設定がツボ入ったので、勝手に通り名付けちゃったりなんだったり。
SSキャラの中ではシェリルに次いでの高ランクになって頂きました。


PL:レイドリック=ゴールドマン
"Last Supper"司令兼第1小隊長。
指揮を執るための高性能レーダーを装備した、実弾防御重視の中量2脚。
初期機体を全体的に強化したような構成となっている。
AC:メシアン
頭:CHD-MISTEYE
コア:MCM-MI/008
腕部:CAM-01-MHL
脚部:CLM-03-SRVT
ブースター:CBT-01-UN8
FCS:AOX-X/WS-3
ジェネレータ:CGP-ROZ
ラジエータ:RIX-CR14
インサイド:MWI-DD/10
エクステンション:MEBT-OX/EB
右肩武器:MWM-S42/6
左肩武器:MRL-SS/SPHERE
右手武器:MWG-RF/220H
左手武器:CLB-LS-2551
オプション:
 S-SCR    E/SCR    S/STAB   ECMP     L-AXL    
 LFCS++   L/TRN    
ASMコード:U8KCafYcWWe0CFkW01


PL:ミラルダ=ラスコー
"Last Supper"第1小隊所属。
レイドリックを的確に補佐し、参謀と副官を兼ねるような位置付けにある。
肩に装備されたグレネードはカスタム化されており、空中での発射も可能となっている。
攻撃力に優れる重量級の機体を操って、レイドリックの剣となる。
AC:トウェレブズナイト
頭:CHD-MISTEYE
コア:MCM-MI/008
腕部:CAM-14-DUSK
脚部:MLH-MX/VOLAR
ブースター:CBT-01-UN8
FCS:PLS-SRA02
ジェネレータ:CGP-ROZ
ラジエータ:RIX-CR14
インサイド:MWI-DD/20
エクステンション:MWEM-R/36
右肩武器:MWM-HAVM24/2
左肩武器:CWC-GNS-15
右手武器:CWG-BZ-30
左手武器:KWG-HZL50
オプション:
 S-SCR    E/SCR    S/STAB   L-AXL    LFCS++   
 L/TRN    M/AW     CLPU     
ASMコード:U8SgbXYd445Y5JcWa3


PL:ボース
犯罪組織を裏切った際に撃たれ、瀕死だったところをレイドリックに助けられた青年。
その為、レイドリックとは絶対の主従関係で結ばれており、レイドリックの為なら命を投げ出すことも厭わない。
EXと腕のENシールドはカスタム化されており、同時起動をすることで通常の数倍の防御力を発揮する。
その防御力は、スナイパーライフルや小型ミサイル程度までなら殆ど無力化することが可能。
だが、大量のエネルギーを使用する為、同時起動時には一切の攻撃が不可能となり、移動速度も半分程度に低下してしまう。
AC:シールドット
頭:MHD-RE/005
コア:MCH-MX/GROA
腕部:MAH-SS/CASK
脚部:CLH-04-SOD
ブースター:CBT-01-UN8
FCS:PLS-SRA02
ジェネレータ:CGP-ROZ
ラジエータ:RMR-ICICLE
インサイド:MWI-MD/40
エクステンション:KES-AEGIS
右肩武器:MRL-MM/011
左肩武器:CWM-GM14-1
右手武器:KWB-MARS
左手武器:KES-ES/MIRROR
オプション:
 S-SCR    E/SCR    S/STAB   L/TRN    E-LAI    
 TQ/ESE   
ASMコード:8fCmbXZ39mXioRWm11
カイルさんより提供の機体です。
カスタム化されたシールドの調整に悩みましたが、まあこのくらいで・・・。
作者:前条さん